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最終章 先生と透明
(6)
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【小田原駅】
11時05分。
夏音は、来が運ばれた市立病院に行くため、家の最寄り駅から小田原駅まで来ていた。あれから、奏に電話をしても出ることはなく、メッセージを送っても既読にもならず、夏音は不安な気持ちだった。
病院までは、バスで行くのが早いため、夏音はロータリーのバス停でバスの到着を待つことにした。
すると、ロータリー側を向いて並んでいると、背後のビル側から視線を感じた。夏音は咄嗟に振り返ったが、特に怪しい人物は見つからず、再び正面に向き直す時に、背後のビルの影から何か光るものが目に入った。
「…何?」
その光るものは、キラキラと陽光を反射させてるようだった。夏音は、凝視することはせずに、チラチラと気付かれないように、その方向を気にしていた。
「…カメラ?」
夏音は何回かチラ見をする内に、人影も確認でき、カメラをこちらに向けて撮影しているように見えた。夏音は、自分が撮られいるとは考えたくは無かったが、気持ち悪く感じて、待ち列から外れて、ゆっくりとカメラを持った人物に向かって歩き出した。帽子にサングラス、マスクといった、正に怪しい出で立ちをしたその人物は、夏音が近づいてくることに気が付くと、カメラを鞄にしまい、駅に向かって走り出した。
「嘘!私を撮ってたの!?」
夏音は不安になり、とにかく事情を聞きたいと、その人物を追い掛けた。年齢は分からないが、どうやら男性に見えるその人物は、かなりの速さで駅構内へと入っていった。
「すみません!その人痴漢です!!誰か捕まえてぇ!!」
追い付かないと確信した夏音は、意を決して構内に響き渡る声で叫んだ。すると、駅構内はざわめき始め、皆の視線が夏音が指差した逃げる人物に集中した。
痴漢という虚言を叫ばれ、事を大きくしたくなかったその人物は、観念したのか自分から立ち止まり、夏音に振り返った。その隙に、夏音の叫びを聞いていた何人かの男性が、その人物に飛び付き、逃げないように抑え付け、一人が警察に連絡を入れた。
「ちょ、ちょっと!俺は痴漢なんてしてないって!」
流石の事態に、慌てふためく人物の元に、夏音が漸く追い付き、息を切らしながら質問した。
「…ハァハァ、な、何を撮ってたんですか?私のこと撮ってましたよね!?」
夏音の言葉に、抑え付けた男性たちは盗撮かとざわめき始めた。
「…変な写真は撮ってない。…その…仕事だよ、仕事。」
その人物の言葉を理解出来なかった夏音は首を傾げた。
「もう、わかったよ!見せるから!」
その人物は、抑え付けていた男性たちを振り払い、鞄からカメラを取り出し、夏音に手渡した。
夏音がカメラの電源を入れて、撮影した写真を見ると、自分の写真ばかりだった。
「…全部私。あ、これって小島先輩と片倉先輩と公園で話して時の。あ、これは神楽さんを駅で助けた時の。…一体いつから私のこと付けてたんですか?」
夏音の言葉に、周りの男性たちはストーカーだとざわめき始めた。
「ち、違う!ストーカーじゃない!仕事だよ、仕事!」
その人物はそう言うと、立ち上がり帽子、サングラス、マスクを取って、ポケットから名刺を取り出し夏音に渡した。
「北条出版?月刊誌担当記者森末(もりすえ)。…何で記者さんが私を?」
森末が黙り込むと、タイミングよく警察が到着し、近くの交番まで連れていかれることになった。
【交番】
「ふぅん。じゃああなたは痴漢でも盗撮魔でもストーカーでもなく、雑誌の誌面に載せる写真を撮っていたと。」
森末から事情を聞いた警官が話を纏めて質問した。
「そうです。…確かに盗撮に近い形になってしまいましたが、雑誌の記者ってそういう仕事もありまして。」
弁解する森末が、夏音には嘘を付いているようには見えなかった。
「その…私の何を記事にしようと?」
夏音が一番気になっている事を質問した。すると、森末は顔を夏音に近づけ小さな声で答えた。
「…君には特殊な能力があるだろ?」
夏音はドキッとして、特に否定もせずに下を向いた。そのリアクションを見て、森末はクスリと笑った。
「やっぱり本当だったのか。この数日君を見てきたが、何回か色について呟く場面も見てきた。やっぱり他人の感情や命の期限がわかるのか!?」
森末の言葉に、警官たちはポカンとした表情をしていたが、夏音は森末が何故そんなに詳しく知っているのか、恐怖を感じていた。
「あ、あの…何でそれを。」
夏音は森末の言葉の内容を認めたような返しをしてしまったが、何より何故森末がその事を知っているのかを、とにかく知りたかった。すると、森末はニヤリと笑みを浮かべながら答えた。
「聞いたんだよ。君のよく知る人物からね。…ねぇ、頼むから取材させてくれないか?悪いようにはしない。君も有名になって、テレビとか出たくないか?それに…。」
「いいです!!」
夏音は、森末の言葉を途中で遮るように大声を出して立ち上がり、警官たちに一礼して、交番を出ていった。
夏音は、森末の言っていた人物が、直ぐに誰だか分かった気がしていた。
「…お姉ちゃんの馬鹿。」
夏音は、何だか裏切られた気がして、悲しくなり涙を流しながら、早歩きでまた市立病院行きのバス停を目指した。
11時05分。
夏音は、来が運ばれた市立病院に行くため、家の最寄り駅から小田原駅まで来ていた。あれから、奏に電話をしても出ることはなく、メッセージを送っても既読にもならず、夏音は不安な気持ちだった。
病院までは、バスで行くのが早いため、夏音はロータリーのバス停でバスの到着を待つことにした。
すると、ロータリー側を向いて並んでいると、背後のビル側から視線を感じた。夏音は咄嗟に振り返ったが、特に怪しい人物は見つからず、再び正面に向き直す時に、背後のビルの影から何か光るものが目に入った。
「…何?」
その光るものは、キラキラと陽光を反射させてるようだった。夏音は、凝視することはせずに、チラチラと気付かれないように、その方向を気にしていた。
「…カメラ?」
夏音は何回かチラ見をする内に、人影も確認でき、カメラをこちらに向けて撮影しているように見えた。夏音は、自分が撮られいるとは考えたくは無かったが、気持ち悪く感じて、待ち列から外れて、ゆっくりとカメラを持った人物に向かって歩き出した。帽子にサングラス、マスクといった、正に怪しい出で立ちをしたその人物は、夏音が近づいてくることに気が付くと、カメラを鞄にしまい、駅に向かって走り出した。
「嘘!私を撮ってたの!?」
夏音は不安になり、とにかく事情を聞きたいと、その人物を追い掛けた。年齢は分からないが、どうやら男性に見えるその人物は、かなりの速さで駅構内へと入っていった。
「すみません!その人痴漢です!!誰か捕まえてぇ!!」
追い付かないと確信した夏音は、意を決して構内に響き渡る声で叫んだ。すると、駅構内はざわめき始め、皆の視線が夏音が指差した逃げる人物に集中した。
痴漢という虚言を叫ばれ、事を大きくしたくなかったその人物は、観念したのか自分から立ち止まり、夏音に振り返った。その隙に、夏音の叫びを聞いていた何人かの男性が、その人物に飛び付き、逃げないように抑え付け、一人が警察に連絡を入れた。
「ちょ、ちょっと!俺は痴漢なんてしてないって!」
流石の事態に、慌てふためく人物の元に、夏音が漸く追い付き、息を切らしながら質問した。
「…ハァハァ、な、何を撮ってたんですか?私のこと撮ってましたよね!?」
夏音の言葉に、抑え付けた男性たちは盗撮かとざわめき始めた。
「…変な写真は撮ってない。…その…仕事だよ、仕事。」
その人物の言葉を理解出来なかった夏音は首を傾げた。
「もう、わかったよ!見せるから!」
その人物は、抑え付けていた男性たちを振り払い、鞄からカメラを取り出し、夏音に手渡した。
夏音がカメラの電源を入れて、撮影した写真を見ると、自分の写真ばかりだった。
「…全部私。あ、これって小島先輩と片倉先輩と公園で話して時の。あ、これは神楽さんを駅で助けた時の。…一体いつから私のこと付けてたんですか?」
夏音の言葉に、周りの男性たちはストーカーだとざわめき始めた。
「ち、違う!ストーカーじゃない!仕事だよ、仕事!」
その人物はそう言うと、立ち上がり帽子、サングラス、マスクを取って、ポケットから名刺を取り出し夏音に渡した。
「北条出版?月刊誌担当記者森末(もりすえ)。…何で記者さんが私を?」
森末が黙り込むと、タイミングよく警察が到着し、近くの交番まで連れていかれることになった。
【交番】
「ふぅん。じゃああなたは痴漢でも盗撮魔でもストーカーでもなく、雑誌の誌面に載せる写真を撮っていたと。」
森末から事情を聞いた警官が話を纏めて質問した。
「そうです。…確かに盗撮に近い形になってしまいましたが、雑誌の記者ってそういう仕事もありまして。」
弁解する森末が、夏音には嘘を付いているようには見えなかった。
「その…私の何を記事にしようと?」
夏音が一番気になっている事を質問した。すると、森末は顔を夏音に近づけ小さな声で答えた。
「…君には特殊な能力があるだろ?」
夏音はドキッとして、特に否定もせずに下を向いた。そのリアクションを見て、森末はクスリと笑った。
「やっぱり本当だったのか。この数日君を見てきたが、何回か色について呟く場面も見てきた。やっぱり他人の感情や命の期限がわかるのか!?」
森末の言葉に、警官たちはポカンとした表情をしていたが、夏音は森末が何故そんなに詳しく知っているのか、恐怖を感じていた。
「あ、あの…何でそれを。」
夏音は森末の言葉の内容を認めたような返しをしてしまったが、何より何故森末がその事を知っているのかを、とにかく知りたかった。すると、森末はニヤリと笑みを浮かべながら答えた。
「聞いたんだよ。君のよく知る人物からね。…ねぇ、頼むから取材させてくれないか?悪いようにはしない。君も有名になって、テレビとか出たくないか?それに…。」
「いいです!!」
夏音は、森末の言葉を途中で遮るように大声を出して立ち上がり、警官たちに一礼して、交番を出ていった。
夏音は、森末の言っていた人物が、直ぐに誰だか分かった気がしていた。
「…お姉ちゃんの馬鹿。」
夏音は、何だか裏切られた気がして、悲しくなり涙を流しながら、早歩きでまた市立病院行きのバス停を目指した。
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