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最終章 先生と透明
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「…私も日下部先生に脅されました。多分、私や神楽以外にも何人かいると思います。」
齋藤は、日下部に脅された場面をフラッシュバックしているのか、表情を曇らせながら、話を続けた。
「見られちゃったんです。私と神楽とあと数人の友達と一緒に…その…万引きするところを。…万引きした翌日、廊下で急に小声で話しかけられて…。その…黙ってる替わりに身体の関係を求められて…。」
段々と涙声になっていく齋藤に、内藤は優しく抱き寄せ、頭を撫でた。
「万引きは確かにいけないことだけど、それをネタに少女を脅すなんて…最悪な教師ね。」
「…本当に。…でも、久保寺神楽が由比環奈をいじめていたことと、どう繋がりが…。」
曽我が、後部座席に振り向きながら聞いた。すると、齋藤は涙を拭いながら答えた。
「…神楽から聞いた話なんですけど、神楽が環奈をいじめ始めたのは、日下部先生の命令なんです。」
内藤と曽我は首を傾げた。
「何で日下部がそんな命令を…。」
齋藤は、また下を向いて黙り込み、大粒の涙を流した。その様子は後悔しているようにも見え、内藤が優しく問い掛けた。
「齋藤さん。その先、言える?」
齋藤は、コクンと頷いてゆっくりと答えた。
「…その、私…日下部先生と寝たんです。…親に…ばらされたくなかったんで…うぅ。」
言葉に詰まる齋藤に、曽我は日下部への怒りが止まらない様子で、ハンドルに拳を振り下ろした。齋藤が涙を拭いながら話を続けた。
「…それで、その後に…日下部がニヤニヤしながら言ったんです。…“お前らの仲間の一人は、教頭の命令で友達をいじめる罰が与えられてる”って。“お前よりツラい罰のやつがいる。身体で解決できるなら簡単だろ?”って。それが、神楽が言ってた話と繋がって…うぅ。」
「もういいわ。もういい。ありがとう。」
内藤は、齋藤を抱き締めながらそう言うと、背中を優しく擦った。
「万引きは褒められた行為じゃ決してないわ。今度、一緒にお店に謝りに行きましょう。勇気を出してくれてありがとう。あなたは今、自分を犠牲にして神楽ちゃんを救ったのよ。本当にありがとう。」
齋藤は、内藤の胸の中で涙を流しながら頷いた。
内藤と曽我は、齋藤を家の近くまで送ると、教頭の白井の自宅へと車を走らせた。
車中。
「でも、教頭が日下部に命令する経緯とか、何で由比環奈をいじめに合わせる必要があったのか、色々謎がありますね。」
曽我がハンドルを握りながら、助手席の内藤に聞いた。内藤は、頭の中で推理しながら自分の考えを述べた。
「…日下部は、万引きした齋藤さん以外の生徒にも手を出してたとすると、教頭にその場を見られたら、その生徒から相談があったか…いずれにしろ、教頭が日下部の弱味を握ったのよ。…ただ、何で教頭が由比環奈にそんな仕打ちを仕掛けたかは、全く想像がつかないわ。」
「なるほど。まぁ、後は教頭本人に聞きましょう。…でも、何も証拠がないんですよね。さっきの生徒の証言だけで。しかも伝聞した話ですし。」
曽我が不安そうに言った。
白井の自宅に付くと、内藤がインターホンを押した。すると、間もなく玄関が開き、白井の妻と思われる人物が出てきた。
「はい?どちら様で。」
「急にこんな時間にすみません。こういうものです。中に入ってよろしいですか?」
内藤は、警察手帳を見せながら、近所の目を気にして玄関の中に入り扉を閉めた。白井の妻は、何事なのか全く状況がつかめていない様子だった。
「あ、あのぅ…先日の生徒の自殺の件でしょうか?」
「えぇ、まぁ関連してることです。で、教頭先生は今どちらに?」
内藤の質問に、妻は表情を曇らせた。
「それが、二階の自室にいるとは思うんですが、昼過ぎから姿を見ていなくて。部屋には鍵が掛かってまして、仕事の関係でよく籠ることがあるんですが、自分から出てくるまでは声を掛けないようにといつも言われてまして…。」
「夕飯時も過ぎてますが、こんなに長時間籠ることは、良くあるんですか?」
曽我の質問に、妻は首を横に振って答えた。
「初めてです。どんなに籠っていても、必ず夕飯前にはリビングに下りてきてましたから。…ただ、今回の自殺で色々疲れているのかと思って。もう少ししたら声を掛けてみるつもりでしたが…。」
内藤と曽我は顔を見合せ、靴を脱いで玄関を上がった。
「失礼します。」
「ちょ、ちょっと。後で怒られるのは私で。」
無理矢理二階へ上がる内藤たちを、妻は追いかけて制止しようとした。
「怒られることがあれば良かったと思いますよ。」
「…それって、どういう…。」
曽我の言葉の意味が理解出来なかった妻は、尚も二階の廊下にたどり着いた二人を止めようとした。その物音を不振に思ったのか、一番手前の扉が開いて、少女が顔を覗かせた。
「お母さん?」
「彩未。あなたは部屋に入ってなさい!この人たちのことは、母さんが何とかするから!」
すると、内藤が一番奥の部屋の前で立ち止まった。
「ここですね?」
「ですから、本当に怒られますから!」
「奥さん。こんだけ騒いでるのに娘さんみたいに様子を伺いに来ないのは、不思議に思いませんか?」
曽我の言葉に、妻は黙り込み、内藤を掴んでいた手をゆっくりと離した。
「鍵…あります?」
内藤がそう言って手を差し出すと、妻は彩未の隣の自室に行き、鍵を持って戻ってきた。
「私が開けます。」
妻はそう言うと鍵を開け、扉をゆっくりと開けた。妻は、そのまま開く扉の隙間から、一番に部屋の中を覗き込んだ。
「キャアアアア!!」
妻の叫び声に、内藤と曽我が慌てて妻を退けて部屋に入ると、重厚な造りのコート掛けにロープを巻き、首を吊って息絶えている白井の姿が視界に飛び込んできた。
齋藤は、日下部に脅された場面をフラッシュバックしているのか、表情を曇らせながら、話を続けた。
「見られちゃったんです。私と神楽とあと数人の友達と一緒に…その…万引きするところを。…万引きした翌日、廊下で急に小声で話しかけられて…。その…黙ってる替わりに身体の関係を求められて…。」
段々と涙声になっていく齋藤に、内藤は優しく抱き寄せ、頭を撫でた。
「万引きは確かにいけないことだけど、それをネタに少女を脅すなんて…最悪な教師ね。」
「…本当に。…でも、久保寺神楽が由比環奈をいじめていたことと、どう繋がりが…。」
曽我が、後部座席に振り向きながら聞いた。すると、齋藤は涙を拭いながら答えた。
「…神楽から聞いた話なんですけど、神楽が環奈をいじめ始めたのは、日下部先生の命令なんです。」
内藤と曽我は首を傾げた。
「何で日下部がそんな命令を…。」
齋藤は、また下を向いて黙り込み、大粒の涙を流した。その様子は後悔しているようにも見え、内藤が優しく問い掛けた。
「齋藤さん。その先、言える?」
齋藤は、コクンと頷いてゆっくりと答えた。
「…その、私…日下部先生と寝たんです。…親に…ばらされたくなかったんで…うぅ。」
言葉に詰まる齋藤に、曽我は日下部への怒りが止まらない様子で、ハンドルに拳を振り下ろした。齋藤が涙を拭いながら話を続けた。
「…それで、その後に…日下部がニヤニヤしながら言ったんです。…“お前らの仲間の一人は、教頭の命令で友達をいじめる罰が与えられてる”って。“お前よりツラい罰のやつがいる。身体で解決できるなら簡単だろ?”って。それが、神楽が言ってた話と繋がって…うぅ。」
「もういいわ。もういい。ありがとう。」
内藤は、齋藤を抱き締めながらそう言うと、背中を優しく擦った。
「万引きは褒められた行為じゃ決してないわ。今度、一緒にお店に謝りに行きましょう。勇気を出してくれてありがとう。あなたは今、自分を犠牲にして神楽ちゃんを救ったのよ。本当にありがとう。」
齋藤は、内藤の胸の中で涙を流しながら頷いた。
内藤と曽我は、齋藤を家の近くまで送ると、教頭の白井の自宅へと車を走らせた。
車中。
「でも、教頭が日下部に命令する経緯とか、何で由比環奈をいじめに合わせる必要があったのか、色々謎がありますね。」
曽我がハンドルを握りながら、助手席の内藤に聞いた。内藤は、頭の中で推理しながら自分の考えを述べた。
「…日下部は、万引きした齋藤さん以外の生徒にも手を出してたとすると、教頭にその場を見られたら、その生徒から相談があったか…いずれにしろ、教頭が日下部の弱味を握ったのよ。…ただ、何で教頭が由比環奈にそんな仕打ちを仕掛けたかは、全く想像がつかないわ。」
「なるほど。まぁ、後は教頭本人に聞きましょう。…でも、何も証拠がないんですよね。さっきの生徒の証言だけで。しかも伝聞した話ですし。」
曽我が不安そうに言った。
白井の自宅に付くと、内藤がインターホンを押した。すると、間もなく玄関が開き、白井の妻と思われる人物が出てきた。
「はい?どちら様で。」
「急にこんな時間にすみません。こういうものです。中に入ってよろしいですか?」
内藤は、警察手帳を見せながら、近所の目を気にして玄関の中に入り扉を閉めた。白井の妻は、何事なのか全く状況がつかめていない様子だった。
「あ、あのぅ…先日の生徒の自殺の件でしょうか?」
「えぇ、まぁ関連してることです。で、教頭先生は今どちらに?」
内藤の質問に、妻は表情を曇らせた。
「それが、二階の自室にいるとは思うんですが、昼過ぎから姿を見ていなくて。部屋には鍵が掛かってまして、仕事の関係でよく籠ることがあるんですが、自分から出てくるまでは声を掛けないようにといつも言われてまして…。」
「夕飯時も過ぎてますが、こんなに長時間籠ることは、良くあるんですか?」
曽我の質問に、妻は首を横に振って答えた。
「初めてです。どんなに籠っていても、必ず夕飯前にはリビングに下りてきてましたから。…ただ、今回の自殺で色々疲れているのかと思って。もう少ししたら声を掛けてみるつもりでしたが…。」
内藤と曽我は顔を見合せ、靴を脱いで玄関を上がった。
「失礼します。」
「ちょ、ちょっと。後で怒られるのは私で。」
無理矢理二階へ上がる内藤たちを、妻は追いかけて制止しようとした。
「怒られることがあれば良かったと思いますよ。」
「…それって、どういう…。」
曽我の言葉の意味が理解出来なかった妻は、尚も二階の廊下にたどり着いた二人を止めようとした。その物音を不振に思ったのか、一番手前の扉が開いて、少女が顔を覗かせた。
「お母さん?」
「彩未。あなたは部屋に入ってなさい!この人たちのことは、母さんが何とかするから!」
すると、内藤が一番奥の部屋の前で立ち止まった。
「ここですね?」
「ですから、本当に怒られますから!」
「奥さん。こんだけ騒いでるのに娘さんみたいに様子を伺いに来ないのは、不思議に思いませんか?」
曽我の言葉に、妻は黙り込み、内藤を掴んでいた手をゆっくりと離した。
「鍵…あります?」
内藤がそう言って手を差し出すと、妻は彩未の隣の自室に行き、鍵を持って戻ってきた。
「私が開けます。」
妻はそう言うと鍵を開け、扉をゆっくりと開けた。妻は、そのまま開く扉の隙間から、一番に部屋の中を覗き込んだ。
「キャアアアア!!」
妻の叫び声に、内藤と曽我が慌てて妻を退けて部屋に入ると、重厚な造りのコート掛けにロープを巻き、首を吊って息絶えている白井の姿が視界に飛び込んできた。
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