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第4章 父親と黒色
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夏音は、一階に下りるとリビングの様子を伺った。電気が付いてない廊下に、扉のガラス部分を通じて、ぼんやりとリビングの明かりが漏れていた。
「母さん、まだ起きてるんだ。」
明日は仕事があるので、てっきり早寝していると思っていた夏音は、ゆっくりとリビングの扉を開けた。
「…母さん?」
パっと見、茜の姿が目に入らずに、小さい声で呼んでみたが、反応がなく、ソファの向こうで、付けっぱなしのテレビの小さい音が聞こえてるだけだった。
夏音は、なんだか恐くなって、テレビの音量を上げにソファまで早足で向かった。テレビのリモコンを取ろうと、テーブルに手を伸ばした時、視界に茜の顔が入ってきた。
ふと、ソファに目を向けると、茜はソファの上で丸まって眠っていた。
「なぁんだ…良かったぁ。」
夏音は安堵し、何だか恐がっていた自分が滑稽に思えて、一人でクスクスと笑ってしまった。すると、その声に反応したのか、茜が目を擦りながら、ムクッと起き上がった。
「あれぇ、夏音。どしたの?…あ!私寝ちゃってた?」
どうやら、テレビを見ながら眠ってしまったようだった。茜は、ソファから立ち上がり、水を飲むためにキッチンへと向かった。
夏音は、ソファに座り、何気なくテレビのチャンネルをカチャカチャと替えてると、タイミングよくニュース番組で、環奈の事件を取り上げていた。
「学校のニュース、いろんな局の夜のニュース番組でやってたわよ。はい。」
茜はそう言いながら、夏音にグラスに注いだアイスティーを渡し、ソファに座った。
「ありがと。明日仕事でしょ?寝なくていいの?」
「なぁんか、なかなか眠れなくて、しょうがないからテレビでも見てたんだけど、そしたら知らぬ間に寝ちゃってたわ!」
茜は笑いながら言った。
「あんたも寝なくて大丈夫なの?大変な1日で疲れたんじゃない?」
「…うん、そうだね。もう寝るよ。…あ、あと明日は奏と会ってるからさ。夕飯はちゃんと家で食べるから。」
夏音は嘘を付いた。
「分かったわ。…ねぇ、夏音。」
少しトーンが違う茜の声に、立ち上がろうとした夏音は動きを止めて、茜の顔を見つめた。
「あゆちゃんとか父さんから連絡きた?」
「ふぇ!?」
夏音は、茜のタイムリーな質問に、思わず声にならない声をあげてしまった。
「その反応はあったのね。ニュースで結構取り上げられてるから、心配して連絡してきたんじゃないかと思ってさ。それに、あゆちゃんは仕事上話を聞きたがってたりして。…どっちから連絡あったの?」
茜は、微笑みながら夏音に聞いた。
ここは、彰からだと言って大丈夫なのかと夏音は悩んだが、勇気が出なかった。
「お姉ちゃんだよ。母さんの言うとおり、仕事の話も少しあってさ。」
「そう。あゆちゃんも仕事頑張ってるようで安心したわ。ほら、もう寝なさい。おやすみ。」
「う、うん。…おやすみ。」
夏音はそう言うと、リビングを出て階段をゆっくり上りはじめた。夏音は、最後に何気なく見た茜のイロカゲが気になった。
「深緑…確か、『疑念』だったような…。」
多分、茜には自分が嘘を付いていることがお見通しなんだろうと思った。そして、それを追及したり、責めたりしない茜に感謝をした。
夏音は部屋に着くなり、倒れるようにベッドに横になり天井を見た。
「はぁぁぁ。」
自然と今日一番の溜息が出た。漸く長い長い一日が終わると実感して、魂が抜いていくような気分だった。
「…こんな一日、二度とないだろうな。」
不謹慎かもしれないが、環奈の死がかなり前の事のような錯覚がした。
イロカゲ…この能力のお陰で、いや、“せいで”濃密な一日になった気がした。 イロカゲが見えなければ、朝倉先生に疑念を抱くことも、片倉先生が妊娠していることも分からなかったのに…。
「…あ、でも…。」
夏音は無意識に呟いた。それは、イロカゲの“お陰で”神楽の命を救えたことを思い出したからだ。
「神楽さん…あれから大丈夫かな…。」
暗い天井に、豆電球のオレンジ色が優しく重なっている。そのキャンパスに神楽の顔を思い浮かべていた。それから夏音は、彰の顔も思い浮かべたが、数年前から記憶の中での彰は更新されてなく、少し明日が不安になった。
ふと気が付くと、豆電球のオレンジ色を潰すように、陽の光が射し込んでいた。夏音は、日差しの暑さで、不快な気分で目覚めた。
起きあがろうとすると、太股に違和感を感じた。
「…やばっ、筋肉痛??」
夏音は、寝起きでまだ脳みそが準備中だったが、昨日の記憶を呼び起こした。
「…神楽さん、助ける時か…。」
ビルの階段を一気に駆け上がったり、駅のホームの一番端まで全力疾走した事は、普段から全く運動をしない夏音にとって、筋肉痛になるには十分すぎる原因だった。
夏音は、ゆっくりと太股を押さえながら起き上がり、時間を掛けて一階へと下りていった。
漸くリビングに辿り着くと、もう茜の姿は無く、ふと時計を見ると、茜がいつも仕事に出ていく時間を優に過ぎていた。
夏音は、とりあえずテレビを見ようと、リモコンが置いてあるテーブルに向かった。
「あれ?」
すると、リモコンの横にメモ書きが置いてあった。
<今日の夕飯は、カレーだからね!行ってきまぁす🖤あと父さんによろしくね!>
「…流石、母さんだ。」
夏音は、茜には敵わないなと思った。
「母さん、まだ起きてるんだ。」
明日は仕事があるので、てっきり早寝していると思っていた夏音は、ゆっくりとリビングの扉を開けた。
「…母さん?」
パっと見、茜の姿が目に入らずに、小さい声で呼んでみたが、反応がなく、ソファの向こうで、付けっぱなしのテレビの小さい音が聞こえてるだけだった。
夏音は、なんだか恐くなって、テレビの音量を上げにソファまで早足で向かった。テレビのリモコンを取ろうと、テーブルに手を伸ばした時、視界に茜の顔が入ってきた。
ふと、ソファに目を向けると、茜はソファの上で丸まって眠っていた。
「なぁんだ…良かったぁ。」
夏音は安堵し、何だか恐がっていた自分が滑稽に思えて、一人でクスクスと笑ってしまった。すると、その声に反応したのか、茜が目を擦りながら、ムクッと起き上がった。
「あれぇ、夏音。どしたの?…あ!私寝ちゃってた?」
どうやら、テレビを見ながら眠ってしまったようだった。茜は、ソファから立ち上がり、水を飲むためにキッチンへと向かった。
夏音は、ソファに座り、何気なくテレビのチャンネルをカチャカチャと替えてると、タイミングよくニュース番組で、環奈の事件を取り上げていた。
「学校のニュース、いろんな局の夜のニュース番組でやってたわよ。はい。」
茜はそう言いながら、夏音にグラスに注いだアイスティーを渡し、ソファに座った。
「ありがと。明日仕事でしょ?寝なくていいの?」
「なぁんか、なかなか眠れなくて、しょうがないからテレビでも見てたんだけど、そしたら知らぬ間に寝ちゃってたわ!」
茜は笑いながら言った。
「あんたも寝なくて大丈夫なの?大変な1日で疲れたんじゃない?」
「…うん、そうだね。もう寝るよ。…あ、あと明日は奏と会ってるからさ。夕飯はちゃんと家で食べるから。」
夏音は嘘を付いた。
「分かったわ。…ねぇ、夏音。」
少しトーンが違う茜の声に、立ち上がろうとした夏音は動きを止めて、茜の顔を見つめた。
「あゆちゃんとか父さんから連絡きた?」
「ふぇ!?」
夏音は、茜のタイムリーな質問に、思わず声にならない声をあげてしまった。
「その反応はあったのね。ニュースで結構取り上げられてるから、心配して連絡してきたんじゃないかと思ってさ。それに、あゆちゃんは仕事上話を聞きたがってたりして。…どっちから連絡あったの?」
茜は、微笑みながら夏音に聞いた。
ここは、彰からだと言って大丈夫なのかと夏音は悩んだが、勇気が出なかった。
「お姉ちゃんだよ。母さんの言うとおり、仕事の話も少しあってさ。」
「そう。あゆちゃんも仕事頑張ってるようで安心したわ。ほら、もう寝なさい。おやすみ。」
「う、うん。…おやすみ。」
夏音はそう言うと、リビングを出て階段をゆっくり上りはじめた。夏音は、最後に何気なく見た茜のイロカゲが気になった。
「深緑…確か、『疑念』だったような…。」
多分、茜には自分が嘘を付いていることがお見通しなんだろうと思った。そして、それを追及したり、責めたりしない茜に感謝をした。
夏音は部屋に着くなり、倒れるようにベッドに横になり天井を見た。
「はぁぁぁ。」
自然と今日一番の溜息が出た。漸く長い長い一日が終わると実感して、魂が抜いていくような気分だった。
「…こんな一日、二度とないだろうな。」
不謹慎かもしれないが、環奈の死がかなり前の事のような錯覚がした。
イロカゲ…この能力のお陰で、いや、“せいで”濃密な一日になった気がした。 イロカゲが見えなければ、朝倉先生に疑念を抱くことも、片倉先生が妊娠していることも分からなかったのに…。
「…あ、でも…。」
夏音は無意識に呟いた。それは、イロカゲの“お陰で”神楽の命を救えたことを思い出したからだ。
「神楽さん…あれから大丈夫かな…。」
暗い天井に、豆電球のオレンジ色が優しく重なっている。そのキャンパスに神楽の顔を思い浮かべていた。それから夏音は、彰の顔も思い浮かべたが、数年前から記憶の中での彰は更新されてなく、少し明日が不安になった。
ふと気が付くと、豆電球のオレンジ色を潰すように、陽の光が射し込んでいた。夏音は、日差しの暑さで、不快な気分で目覚めた。
起きあがろうとすると、太股に違和感を感じた。
「…やばっ、筋肉痛??」
夏音は、寝起きでまだ脳みそが準備中だったが、昨日の記憶を呼び起こした。
「…神楽さん、助ける時か…。」
ビルの階段を一気に駆け上がったり、駅のホームの一番端まで全力疾走した事は、普段から全く運動をしない夏音にとって、筋肉痛になるには十分すぎる原因だった。
夏音は、ゆっくりと太股を押さえながら起き上がり、時間を掛けて一階へと下りていった。
漸くリビングに辿り着くと、もう茜の姿は無く、ふと時計を見ると、茜がいつも仕事に出ていく時間を優に過ぎていた。
夏音は、とりあえずテレビを見ようと、リモコンが置いてあるテーブルに向かった。
「あれ?」
すると、リモコンの横にメモ書きが置いてあった。
<今日の夕飯は、カレーだからね!行ってきまぁす🖤あと父さんによろしくね!>
「…流石、母さんだ。」
夏音は、茜には敵わないなと思った。
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