colors -イロカゲ -

雨木良

文字の大きさ
上 下
30 / 55
第4章 父親と黒色

(3)

しおりを挟む
夏音は、一階に下りるとリビングの様子を伺った。電気が付いてない廊下に、扉のガラス部分を通じて、ぼんやりとリビングの明かりが漏れていた。 

「母さん、まだ起きてるんだ。」

明日は仕事があるので、てっきり早寝していると思っていた夏音は、ゆっくりとリビングの扉を開けた。

「…母さん?」

パっと見、茜の姿が目に入らずに、小さい声で呼んでみたが、反応がなく、ソファの向こうで、付けっぱなしのテレビの小さい音が聞こえてるだけだった。

夏音は、なんだか恐くなって、テレビの音量を上げにソファまで早足で向かった。テレビのリモコンを取ろうと、テーブルに手を伸ばした時、視界に茜の顔が入ってきた。

ふと、ソファに目を向けると、茜はソファの上で丸まって眠っていた。

「なぁんだ…良かったぁ。」

夏音は安堵し、何だか恐がっていた自分が滑稽に思えて、一人でクスクスと笑ってしまった。すると、その声に反応したのか、茜が目を擦りながら、ムクッと起き上がった。

「あれぇ、夏音。どしたの?…あ!私寝ちゃってた?」

どうやら、テレビを見ながら眠ってしまったようだった。茜は、ソファから立ち上がり、水を飲むためにキッチンへと向かった。

夏音は、ソファに座り、何気なくテレビのチャンネルをカチャカチャと替えてると、タイミングよくニュース番組で、環奈の事件を取り上げていた。

「学校のニュース、いろんな局の夜のニュース番組でやってたわよ。はい。」

茜はそう言いながら、夏音にグラスに注いだアイスティーを渡し、ソファに座った。

「ありがと。明日仕事でしょ?寝なくていいの?」

「なぁんか、なかなか眠れなくて、しょうがないからテレビでも見てたんだけど、そしたら知らぬ間に寝ちゃってたわ!」

茜は笑いながら言った。

「あんたも寝なくて大丈夫なの?大変な1日で疲れたんじゃない?」

「…うん、そうだね。もう寝るよ。…あ、あと明日は奏と会ってるからさ。夕飯はちゃんと家で食べるから。」

夏音は嘘を付いた。

「分かったわ。…ねぇ、夏音。」

少しトーンが違う茜の声に、立ち上がろうとした夏音は動きを止めて、茜の顔を見つめた。

「あゆちゃんとか父さんから連絡きた?」

「ふぇ!?」

夏音は、茜のタイムリーな質問に、思わず声にならない声をあげてしまった。

「その反応はあったのね。ニュースで結構取り上げられてるから、心配して連絡してきたんじゃないかと思ってさ。それに、あゆちゃんは仕事上話を聞きたがってたりして。…どっちから連絡あったの?」

茜は、微笑みながら夏音に聞いた。

ここは、彰からだと言って大丈夫なのかと夏音は悩んだが、勇気が出なかった。

「お姉ちゃんだよ。母さんの言うとおり、仕事の話も少しあってさ。」 

「そう。あゆちゃんも仕事頑張ってるようで安心したわ。ほら、もう寝なさい。おやすみ。」

「う、うん。…おやすみ。」

夏音はそう言うと、リビングを出て階段をゆっくり上りはじめた。夏音は、最後に何気なく見た茜のイロカゲが気になった。

「深緑…確か、『疑念』だったような…。」

多分、茜には自分が嘘を付いていることがお見通しなんだろうと思った。そして、それを追及したり、責めたりしない茜に感謝をした。

夏音は部屋に着くなり、倒れるようにベッドに横になり天井を見た。

「はぁぁぁ。」

自然と今日一番の溜息が出た。漸く長い長い一日が終わると実感して、魂が抜いていくような気分だった。

「…こんな一日、二度とないだろうな。」

不謹慎かもしれないが、環奈の死がかなり前の事のような錯覚がした。

イロカゲ…この能力のお陰で、いや、“せいで”濃密な一日になった気がした。 イロカゲが見えなければ、朝倉先生に疑念を抱くことも、片倉先生が妊娠していることも分からなかったのに…。

「…あ、でも…。」

夏音は無意識に呟いた。それは、イロカゲの“お陰で”神楽の命を救えたことを思い出したからだ。

「神楽さん…あれから大丈夫かな…。」

暗い天井に、豆電球のオレンジ色が優しく重なっている。そのキャンパスに神楽の顔を思い浮かべていた。それから夏音は、彰の顔も思い浮かべたが、数年前から記憶の中での彰は更新されてなく、少し明日が不安になった。


ふと気が付くと、豆電球のオレンジ色を潰すように、陽の光が射し込んでいた。夏音は、日差しの暑さで、不快な気分で目覚めた。

起きあがろうとすると、太股に違和感を感じた。

「…やばっ、筋肉痛??」

夏音は、寝起きでまだ脳みそが準備中だったが、昨日の記憶を呼び起こした。

「…神楽さん、助ける時か…。」

ビルの階段を一気に駆け上がったり、駅のホームの一番端まで全力疾走した事は、普段から全く運動をしない夏音にとって、筋肉痛になるには十分すぎる原因だった。 

夏音は、ゆっくりと太股を押さえながら起き上がり、時間を掛けて一階へと下りていった。

漸くリビングに辿り着くと、もう茜の姿は無く、ふと時計を見ると、茜がいつも仕事に出ていく時間を優に過ぎていた。

夏音は、とりあえずテレビを見ようと、リモコンが置いてあるテーブルに向かった。

「あれ?」

すると、リモコンの横にメモ書きが置いてあった。

<今日の夕飯は、カレーだからね!行ってきまぁす🖤あと父さんによろしくね!>

「…流石、母さんだ。」

夏音は、茜には敵わないなと思った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

【R18】もう一度セックスに溺れて

ちゅー
恋愛
-------------------------------------- 「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」 過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。 -------------------------------------- 結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれた女子高生たちが小さな公園のトイレをみんなで使う話

赤髪命
大衆娯楽
少し田舎の土地にある女子校、華水黄杏女学園の1年生のあるクラスの乗ったバスが校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれてしまい、急遽トイレ休憩のために立ち寄った小さな公園のトイレでクラスの女子がトイレを済ませる話です(分かりにくくてすみません。詳しくは本文を読んで下さい)

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

若妻の穴を堪能する夫の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

処理中です...