colors -イロカゲ -

雨木良

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第1章 少女と紫色

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生徒たちが騒ぎ立てている中、漸く騒ぎに気が付いた教師たちがやって来た。既に生徒の誰かが救急車を呼んでいることを知った教師たちは、生徒たちを教室に戻るように促した。

夏音は、脱力し続けている奏を肩で支えながら、ゆっくりと噴水の前まで戻り、ベンチに腰を下ろした。奏は夏音の支えを失うと、今にも頭から地面に落ちそうなくらい、項垂れた様子で、声を殺しながら泣き続けた。

「あ、三嶽と小林。今日はもう授業は中止だ。教室に戻って帰り支度をしてくれ。後は担任の指示に従ってくれよ。」

朝倉は、美術の授業のため校内に点在していた夏音のクラスの生徒たち、一人ひとりに事を伝えるため駆けずり回っていた。朝倉は、夏音たちにそう言うと、足早に別の生徒を探しに去っていった。

夏音たちが教室に戻る途中、環奈のクラスの前を通り掛かった。教室の中で生徒たちは、下を向き、嗚咽を漏らす者もいれば、小刻みに震えている者、涙を拭う者、まさに葬儀のような雰囲気を醸し出していた。

夏音は何気なく生徒たちのイロカゲを見てみた。

皆、悲しみに暮れていたり、後悔していたり、暗い青系のイロカゲが多いのだが、一人だけ青系だが真っ黒に近いイロカゲをした人物がいた。久保寺神楽(くぼてらかぐら)だ。

神楽は小刻みに震えながら何かに怯えているような様子だった。

「…どうしたの?夏音ちゃん。」

弱々しい声で聞く奏。夏音は神楽を凝視してしまっていた。

「…う、ううん、何でもない。…皆でイジメてたのかな…?」

夏音は環奈のクラスの生徒に聞こえないように小さな声で奏に呟き、自分の教室へとゆっくり歩き出した。

教室に着くと、担任の日下部が黒板に板書をしていた。

「おっ、お前たちが一番最後だぞ。早く座れ。」

夏音たちが席に急いで座ると、日下部は環奈の件を話し始めた。夏音たちと同じく、実際に変わり果てた環奈の姿を見た生徒たちは大きなショックを受けていた。

「……と、今分かってるのはそれだけだ。こんな事態になり、教師としてお詫びする。申し訳ない。…今俺が黒板に書いたのは、心のケアをしてくれる相談室の番号だ。プライバシーは絶対に守られるから、何かあったら俺たち教師か、この相談室に相談してくれ。」

日下部はショックを受けていた生徒たちに向けて、優しい口調で言った。無論、日下部自身もショックを受けており、涙を浮かべていた。夏音は、いつもとは違う担任の姿を見て、環奈が死んだことを漸く理解したような気がした。

溜まっていたであろう涙が一気に溢れだした。

日下部が明日一日休校になる旨を伝えると、今日の授業も中止となり、すぐに下校となった。

夏音は涙を拭いながら鞄を持ち奏の席まで行くと、顔を机に伏せて泣き続けている奏の頭を優しく撫でた。

「…奏。奏は頑張ったんだから。絶対に責任とか考えちゃダメだよ。」

奏のイロカゲが後悔を表す濃い紺色をしていたことに気付いた夏音は、優しく諭した。夏音は、奏を支えるように連れてひとつ下の階に降りて玄関に向かった。

「あ、三嶽さん!」

背後からした声に夏音が振り返ると来が手を振りながら走ってきた。

「呼び止めてごめん。知らぬ間に教室から居なくなってたから。伝えたいことがあってさ。

二人とも大丈夫?由比さんの酷い姿見ちゃったって聞いて。俺も昔、目の前で電車の人身事故を見ちゃったことがあるから、ショックな気持ちはよく分かる。精神的におかしくなりそうな時は、誰かに話を聞いてもらうことが一番だから。俺だったらいつでも相談にのるから。それが言いたくて。…じゃあ、気をつけて帰ってね。」

来はそう言うと、また教室に戻っていった。

「…いい人ね。」

ずっと夏音の肩を借りてうつ向いていた奏は、いつの間にか一人で力強く立っており、目を輝かせながら去っていく来を見つめていた。

「…奏。分かりやすいな。」

二人は校門を出ると駅に向かった。来のお陰で、少し心が回復した二人だが、話に夢中になっていた二人は、背後の校門の陰からじっと見つめる視線に気が付くことができなかった。

「…三嶽夏音。君も紫色に変化し始めたか…。」

ー第2章へ続く ー
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