勇者と七つの涙

雨木良

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『勇者の剣』奪還編

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その頃、王室ではティグルが四剣士からの朗報を待っていた。しかし、子ども二人に対し、中々成果を上げてこないことに、段々と苛立ちが募ってきており、座りながらも足を震わせ、ひじ掛けに指を打ち付け、トントントンと音を響かせた。

「…失礼ですが、ティグル様。少し落ち着きなさっては…。」

その様子を見ていた執事のユングが頭を下げて言った。

「…ふん。ユング、お前は私に仕えて何年になる?」

「ちょうど20年目になります。」

「そうか、もうそんなになるか。ユング、ザーゲ王国は今、かつてないほどの脅威の真っ只中にいる。来るべきラマジ王国との戦争に備えなくてはならん。そのキーマンとして、私はヨシミツを連れてきたのだ。…ラマジ王国を罪人として追放された奴を…。ユング、お前はヨシミツを余り快く思ってないだろう?」

ティグルの言葉に、ユングは遠い目をしながら黙りこんだ。

「ハッハッハッハッ。相変わらず分かりやすいのぅ、ユングは。ヨシミツがラマジ王国を恨んでいるのは確かだ。…それに、奴がこのザーゲ王国を我が物にしようと考えていることもな。危険分子くらいが調度良いのだ。敵国を欺くにはな…。」

ユングは驚いた表情を見せ、再びティグルに頭を下げて話し始めた。

「失礼ながら申しさせていただきますが、私の役目はティグル様の命を守ること。ヨシミツが、あなたの命を狙うことが分かれば、私がヨシミツを葬りますので。」

「確かに…お前ならヨシミツに勝てるかもしれんな。」

ドンッ!ドンッ!ドーン!!

その時、王室の入口の扉が何者かに突如破壊された。ティグルの真横にいたユングは、急いで入口に駆け寄り腰に差していたサーベルを抜いた。

ユングの目の前、破壊された入口から姿を現したのはヨシミツだった。

「…ヨシミツ………それは!?」

ヨシミツの手には、血を滴らせたデストリュの首が握られていた。

「…ヨシミツ。そのデストリュの首は、子どもらに殺られたのか?」

ティグルは、冷静な態度のまま、ヨシミツに聞くと、ヨシミツはティグルを睨み付け、不敵な笑みを浮かべた。

「ティグル王殿。実験は失敗でした。」

ヨシミツは、砕けたブラックティアーの欠片をパラパラと床に落とした。

「この国のトップの剣士がこの程度とは…儂の計画上、この国は必要無くなりましたわ。」

シュッ!!

ユングが、凄まじいスピードでヨシミツに斬りかかった。

カキン!

ヨシミツが鞘から剣を真上に出し、ユングの一撃を受け止めた。

「ヨシミツ。お前、ティグル王を手に掛けに来たのか?」

「…この国はいずれ滅びる。それがラマジ王国に近い将来潰されるか、今、儂に落とされるかの違いじゃ。」

二人は一旦距離を取った。ヨシミツは、デストリュの首をティグルの足元に向かって放り投げ、もう一本の剣を抜き、二刀流の構えをした。

「ふん。一本では私に敵わぬと察したのか!」

シュッ!シュッ!シュッ! 

ユングは、サーベルを高速で振るが、ヨシミツは剣で受け止めることもなく、簡単に全てを躱した。

ユングは、攻撃を止めることなく、左の掌をヨシミツに向け、呪文を唱えた。

「イクスプロウシヴ!」

ドドドドドドドドドドドドッ!!

すると、ユングの掌から、こぶし大の光の塊がいくつも放たれた。

「グワァァ!」

油断していたヨシミツは、ユングの能力に気が付かずにまともに全ての塊を身に受け、その場に倒れた。

銃弾のように放たれた光の塊により、倒れたヨシミツの身体にはいくつもの穴が空き、周りは血の海と化した。

虫の息のヨシミツを見て、ユングはサーベルをクルリと回し鞘に納めた。

「流石は剣術のみでなく、魔術も取得しているユングだ。見事だった。」

座りながら傍観していたティグルは、ワインを一口飲み、ニヤリと笑みを浮かべた。
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