勇者と七つの涙

雨木良

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『勇者の剣』奪還編

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ロイも向こう側を向いて伏せているため、グルトにはロイの表情が確認できなかった。

だが、ふと視線を下に落とすと、ロイの背中に木材が刺さっていることに気が付いた。

「ロ、ロイ!!」

グルトは思わず大声を出し、起き上がってしまった。

「…しまった!」

グルトが気が付いた時には、事態はすでに遅かった。グルトがデストリュたちに視線を向けると、目と鼻の先に二人は立ち、グルトを睨み付けていた。

「…おい、テヒニク。処刑から逃げたガキは、ここで死んでるガキか?」

「そのようね。あんたの一撃が強力すぎたのよ。あんたが吹き飛ばした木材が刺さって死んじゃってるじゃない。…ま、ガキの命なんてどうでもいいわ。パープルティアーが無事ならね。」

テヒニクはそう言うと、うつ伏せで倒れているロイから刺さっている木材を引き抜き、蹴飛ばして転がし仰向けにさせた。

「デストリュ。パープルティアーは首元にあるはずよ。捜して。」

「ちょっと待て!!」 

グルトが、ロイの前に立ち塞がった。

「何で俺を無視する!?相手にする必要がないって意味か?」

グルトは強気なことを言いつつも、足元は分かりやすいほど震えていた。その様子を見て、デストリュは鼻で笑った。

「プハッ。よぉくわかってんじゃねーか!弱い犬ほどよく吠えるっつってな!まだガキだ、逃がしてやろうかと思ったが、邪魔するなら話は別だ!…死ねや!!」

デストリュは、右の拳でグルトに殴りかかった。デストリュの横でテヒニクはニヤリと笑みを浮かべた。

「デストリュのパワーに勝るモノはないわ。惨めな肉塊になるわね、可哀想に。…プッ、ハハハハハハ!」

ドスッ!ブシャアァァァァ!!

デストリュの殴りかかる風圧で一瞬凄まじい風が吹き、テヒニクは視界を閉じたが、グルトが肉塊となって息絶えていることを確信し、目をゆっくり開けた。しかし、テヒニクの視界には、理解できない光景が映っていた。

「…う、嘘でしょ。」

目の前には、短刀を手に、血だらけで立っているグルトに対し、割けた拳から大量の血を流し、荒い呼吸で地面に伏せているデストリュがいた。つまり、グルトに掛かっている血液は、デストリュのそれであった。

「…クゾォォォ。何がどうなってやがる!」

グルトは、ニヤリと笑みを浮かべると、短刀を指でクルクルと回し、器用に鞘に戻した。

「オッサン。弱い犬ほどよく吠えるだっけ?その言葉、あんたに返すぜ!」

(今のセリフ、決まったな!)

グルトがしてやったりの表情でデストリュに言い放った瞬間、急に背後から殺気を感じた。

カキーンッ!

何とか短刀で一撃を防いだグルト。振り向くと凄まじい形相のテヒニクが剣を握って立っていた。

「…おいおい、いつの間に。てか、女が相手か。あまりやる気が起きねぇな。」

グルトはそう言いながらも、実は始めからデストリュよりもテヒニクを注視していた。

(この女、べらぼうに強いな。…さて、策を考えないとな。)

グルトは、余裕そうな表情を作ったが、冷や汗まではコントロールできず、全身に嫌な汗をかいていた。
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