Rem-リム- 呪いと再生

雨木良

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第7節 解錠

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ー 科学研究所 ー

11時01分

「…つまり、話を整理すると、監視カメラの映像が切れた時は、誰もアリバイは無いってことだろ。ていうか、それはもうとっくに聞きこみもしてるし、調べられるもんは調べた。俺たちが行き詰まってるんだよ。」

秋吉は、鼻で笑いながら言った。

「でも、秋吉。あの時より今のほうが、呪いの研究は進んでるだろ。それと照らし合わせたら何か新事実がわかるかもしれんぞ。」

「…新事実?……あ!なるほどな。」

秋吉は、何かを思い付いたように、研究室を飛び出して行った。二人が話し込んでいる姿に、研究室内にいた志澤と府川も、知らぬ間に二人の側で聞き耳を立てていた。

秋吉が出ていくと、府川が池畑に質問した。

「池畑刑事、警察はやはりこの研究所の人間が怪しいとお思いですか?確かに我々に確実なアリバイはない。至る所に付いている監視カメラの電源が落ちてましたからね。でも、予備電源も作動しなかったなんて、最新の技術を駆使して造られた施設だってのに。」

池畑は首を横に振って答えた。

「捜査上仕方ないことですよ、私だって貴方たちを疑いたいわけじゃあない。確かに、予備電源も作動しなかったのだけは、ずっと気になっています。でも、配線ケーブルも断線はなかったですし、手動で主力電源を落とす以外は方法が無い。でも、主力電源がある監視室には、常に五人もの警備員がおり、誰も疑わしい様子はないです。むしろ、警備員のアリバイは完璧だった。」

「…完璧って?」

二人の話を聞いていた志澤が口を挟んだ。池畑は、秋吉が持参していた当時の捜査資料を手に取り、警備員の証言の部分を読み上げた。

「簡単に言うと、五人が各々室内にいた他の警備員の様子を証言しており、見事に各々の話が一致しました。主力電源があるのは鍵つきのボックスの中なんですが、誰一人としてキーケースには近づいてはいない。と言うのも、実は監視室にも監視カメラがあるんですが、そこは系統が違うらしくて、映像は生きていました。彼らの証言とカメラの映像は間違いなく一致しており、映像でも確かに誰もキーケースには近づいていなかった。」

「…てことは、ケーブル自体に問題があったとか?」

志澤が考えこみながらまた質問した。

「さっきも言いましたが、ケーブルには問題は無かった。刑事立ち会いの元、業者にも確認して貰ってますし。ただ結局、何もしていないのに、業者が確認してから約十分後に自動で復旧した。単なる機械トラブルという結論になってしまいました。」

「ふん、でもそのタイミングで佐倉先生に何かがあったわけだ。こりゃ偶然じゃない、誰かが起こした必然だ。」

志澤はそう言うと、トコトコと自分の持ち場に戻って行った。府川は、志澤の池畑に対する態度に苦笑いし、すみませんと小さく謝りながら、持ち場に戻った。 

「…それにしても秋吉…どこ行ったんだ。」

池畑は扉を見つめながら呟いた。

ー 北条出版 ー

11時20分

執務室内は、文字通り朝からお葬式のような雰囲気であり、無駄口を叩く奴もなく、正人は時の流れを遅く感じていた。

畑の机の上には、山本が用意した綺麗な花が花瓶に活けられていた。皆、この雰囲気に耐えられなくなっていたが、誰もが、誰かが何かを発したら自分も発しようと考えており、行き詰まっていた。

そんな中、畑の机の前を通り掛かった生駒が、よろけて机に身体が触れてしまい、その拍子で花瓶が倒れてしまった。

「うおぅ、やっちまった!縁起でもねえ、畑すまん。誰か雑巾雑巾。」

正人は、生駒の慌ててる様子を見て、足立ならサラッと突っ込みを入れているだろう、畑なら文句を言いながらも一緒に拭き掃除をしてただろう、と妄想していた。

少し涙を浮かべた正人は、平凡な日常を保つのは難しいことなんだと思った。だが、生駒のこの行動がお葬式のような空気をぶち破った。

「たくっ、歩きながら寝てたのかよ。」

荒木が鼻で笑ったように嫌味を言った。

「ほら、雑巾雑巾!」

「花瓶割れてねぇかな。」

「気を付けろよ、生駒。」

山本、稗田、三戸も自然と声を掛けた。普段の生駒なら、ムッとするか、極端に反省するかのどちらかなのだが、この時の生駒は微笑みを見せた。

その表情を見逃さなかった正人は、生駒が何故微笑んだか理解できていた。

「俺も手伝ってやるか!畑、ごめんな、間抜けな先輩でよ。」

正人も微笑みながら、雑巾を手にした。

「正人ちょっといいか?これ。」

生駒はタバコを吸うジェスチャーをし、正人を喫煙所に誘った。喫煙所に入ると、生駒は胸ポケットからタバコを取り出し、正人にも勧めたが、正人は首を横に振った。

「お前、まだ続いてるのか?禁煙。」

「あぁ、お前と違って意志が強いからな。」

正人がニヤリとしながら言った。

「フンッ。…なぁ、正人。畑が倒れた時に何を話してたんだ?」

生駒はタバコを口に咥え、ライターに火を点した。

「…それは…長尾智美を生き返らせてみないか、って聞いてみた。」

「は?」

生駒は口をあんぐり開けた為、咥えたタバコを落としてしまった。行き場を失ったライターの火は、そのままユラユラと揺れていた。

「おいおい、何だよそれ、ハハハ。あまりの衝撃に畑もびっくりこいて心臓麻痺か!?………って笑えないよな……ほんと。」

生駒は、落ちたタバコを拾い、火を付けて一服し、冷静に考えて今の冗談は無しだなと反省した。

「…最悪な冗談だな。」

正人は、生駒を冷ややかな目で見た。

「て、ていうか、お前の冗談だって…。」

「冗談じゃない!!」

正人は食い気味に反論した。

「…すまん、つい大声出しちゃって。本当なんだ。人間を生き返らせる機械を紹介されて。」

「マジか!?親父から聞いたことあるぞ。どっかの国の機関が秘密裏に造ってるって。…じ、じゃあ、まさか…お前の家には千里ちゃんがいるのか?」

正人は、生駒の思考回路の素早さに驚いた。

「あぁ。お前…順応性凄いな。」

「馬鹿、呪いが罷り通る世の中だ。何があっても、とりあえずは信じてみようと思うことにした。」

生駒は白い煙を吐き出しながら言った。正人は、生駒が自分を信じてくれた事が嬉しくて、ニコリと笑った。

「…何か…お前に話して良かったよ。色々悩みもあって。…あ、でも、この事は誰にも。」

「あぁ、秘密だろ?分かってるよ。」

生駒はそう言うと、タバコを灰皿に捨て、二人は喫煙所を出て執務室へと戻って行った。

喫煙所のすぐ外、二人からは死角となっている場所で、荒木がニヤリとしながら、玄関へと向かって行った。
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