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第4節 神という存在
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10月23日
ー 神奈川県警署内 ー
9時30分
「池畑さぁん、お客さんです。」
執務室の入口で千代田が手を振りながら呼んだ。
「了解!今行くから廊下のベンチで待っててもらってくれ。」
池畑は返事をしながら、手帳やら一応千里の自殺の件をまとめた資料などを用意した。
「村上さんと同僚の人か?確かこの前の無理心中の件で話があるって。」
杉崎が自席から立ちあがり池畑に近づきながら聞いた。
「えぇ、中身はわからないですけど話したいことがあるとかで。管轄外だから出来ることは限られてしまうことは伝えたんですけど、とりあえず話を聞いて、群馬県警の知り合いに提供しようかと。」
「そうだな。それと、村上さんの同僚っていうとやっぱり雑誌記者だろ?あんまり警察の真似事みたいなことはしないように忠告はしといてくれよ。北条出版といえば…。」
杉崎の言葉に池畑はふと考え、ハッと思い出した。
「あぁ!そうか!10年前の雑誌記者殺人事件、北条出版の記者でしたよね。」
「あぁ、高遠くんだ。私は彼とは何回か記事の取材で面識があったが、まさか彼があんなことになるとは思っても見なかった。…雑誌記者ってのは、被害者とか遺族に取材をする時は感情移入しちゃいけないんだろうな。根が優しければ優しい人ほど、弱者を救いたくなる。今回の村上さんの同僚ってのが、高遠くんみたいなタイプじゃなきゃいいんだがな。」
そう言うと杉崎は自席へと戻ろうと振り返った。
「肝に命じておきます。また詳細は後程報告しますんで。」
杉崎はゆっくり歩きながら、右手でグッドラックと返事をした。
池畑は溝口を連れ、廊下のベンチで座って待っている正人と畑の元に向かった。池畑は正人たちに挨拶をすると予め用意していた小さめの会議室に案内し、長机を二本向かい合わせにくっ付け、椅子を二脚ずつセットしたコンパクトな会議デスクに二人を並べて座らせ、向かい側に池畑と溝口が座った。
全員が座ると、正人が口を開いた。
「千里の件では色々ありがとうございました。溝口さんも葬儀にまでお越しいただいて。今日は後輩の畑が是非、池畑さんにお伝えしたいことがあると言うのでこのような機会をいただきました。じゃあ畑あとは頼む。」
畑は頷くと、立ち上がって一礼した。
「北条出版の畑です。週刊誌の企画ページの担当をしています。」
畑はそう言うと椅子に座り話を続けた。
「早速ですが本題に入らせていただきます。先日の呪い裁判で世間は呪いの話題で持ち切りです。当然週刊誌業界もそのネタは外せないので、我々も呪いのネタの企画を考えました。それで…。」
畑は鞄から週刊誌を取り出しページを開いて机に置いた。
「明後日発売の週刊誌です。それでこのページが、私が担当した呪いの企画ページです。」
「…これって。この前の母親に殺された女性ですよ、池畑さん。」
ページの写真を見た溝口が直ぐに気付いて池畑に伝えた。池畑は予め、村上から概要を聞いていたので特に驚きはしなかったが、溝口に下話をし忘れたことを思い出し後悔していた。とりあえず溝口の言葉は流すこととし、冷静に質問をした。
「この取材はいつ頃ですか?」
「16日、亡くなる前日です。彼女は私がネットの掲示板で見つけてメールでコンタクトをとり、取材まで辿り着いたんです。それで16日に初めて会いました。」
正人は、何か取り調べみたいだなと感じていたが、畑は緊張することなく、淡々と話した。
「お一人ですか?」
「いえ、同じ係の女性と一緒に。…それで、この事件、最近あんまりメディアにも取り上げられていませんが、実際どんな感じなんですか?無理心中って結論…ですか?」
畑の質問に池畑は予め用意していた資料を溝口に渡した。すると、池畑は思い出したように席を立ち、会議室の隅にあるコーヒーメーカーへと向かった。
溝口は、池畑の意図を理解すると、渡された資料を読みながら答えた。
「えーと、今のところ、母親が起こした無理心中っていう報告になってますね。ただ、動機だとか経緯はあまり分かってないようで。」
池畑は、予め淹れてあったコーヒーを紙コップに注ぐと、二人の前に置き、椅子に座りながら質問をした。
「畑さん、あなたは何か気になることがあって私に会いに来られたんですよね?それは何ですか?」
「…はい。…その、亡くなった長尾智美さんは…自分が桐生朱美の生き別れの妹だと言ってたんです。」
その言葉に三人は驚いた表情を隠せなかった。三人というのは、正人もそこまでの話を畑から聞いていなかったので、池畑たちと同じ気持ちだったからだ。
ー 神奈川県警署内 ー
9時30分
「池畑さぁん、お客さんです。」
執務室の入口で千代田が手を振りながら呼んだ。
「了解!今行くから廊下のベンチで待っててもらってくれ。」
池畑は返事をしながら、手帳やら一応千里の自殺の件をまとめた資料などを用意した。
「村上さんと同僚の人か?確かこの前の無理心中の件で話があるって。」
杉崎が自席から立ちあがり池畑に近づきながら聞いた。
「えぇ、中身はわからないですけど話したいことがあるとかで。管轄外だから出来ることは限られてしまうことは伝えたんですけど、とりあえず話を聞いて、群馬県警の知り合いに提供しようかと。」
「そうだな。それと、村上さんの同僚っていうとやっぱり雑誌記者だろ?あんまり警察の真似事みたいなことはしないように忠告はしといてくれよ。北条出版といえば…。」
杉崎の言葉に池畑はふと考え、ハッと思い出した。
「あぁ!そうか!10年前の雑誌記者殺人事件、北条出版の記者でしたよね。」
「あぁ、高遠くんだ。私は彼とは何回か記事の取材で面識があったが、まさか彼があんなことになるとは思っても見なかった。…雑誌記者ってのは、被害者とか遺族に取材をする時は感情移入しちゃいけないんだろうな。根が優しければ優しい人ほど、弱者を救いたくなる。今回の村上さんの同僚ってのが、高遠くんみたいなタイプじゃなきゃいいんだがな。」
そう言うと杉崎は自席へと戻ろうと振り返った。
「肝に命じておきます。また詳細は後程報告しますんで。」
杉崎はゆっくり歩きながら、右手でグッドラックと返事をした。
池畑は溝口を連れ、廊下のベンチで座って待っている正人と畑の元に向かった。池畑は正人たちに挨拶をすると予め用意していた小さめの会議室に案内し、長机を二本向かい合わせにくっ付け、椅子を二脚ずつセットしたコンパクトな会議デスクに二人を並べて座らせ、向かい側に池畑と溝口が座った。
全員が座ると、正人が口を開いた。
「千里の件では色々ありがとうございました。溝口さんも葬儀にまでお越しいただいて。今日は後輩の畑が是非、池畑さんにお伝えしたいことがあると言うのでこのような機会をいただきました。じゃあ畑あとは頼む。」
畑は頷くと、立ち上がって一礼した。
「北条出版の畑です。週刊誌の企画ページの担当をしています。」
畑はそう言うと椅子に座り話を続けた。
「早速ですが本題に入らせていただきます。先日の呪い裁判で世間は呪いの話題で持ち切りです。当然週刊誌業界もそのネタは外せないので、我々も呪いのネタの企画を考えました。それで…。」
畑は鞄から週刊誌を取り出しページを開いて机に置いた。
「明後日発売の週刊誌です。それでこのページが、私が担当した呪いの企画ページです。」
「…これって。この前の母親に殺された女性ですよ、池畑さん。」
ページの写真を見た溝口が直ぐに気付いて池畑に伝えた。池畑は予め、村上から概要を聞いていたので特に驚きはしなかったが、溝口に下話をし忘れたことを思い出し後悔していた。とりあえず溝口の言葉は流すこととし、冷静に質問をした。
「この取材はいつ頃ですか?」
「16日、亡くなる前日です。彼女は私がネットの掲示板で見つけてメールでコンタクトをとり、取材まで辿り着いたんです。それで16日に初めて会いました。」
正人は、何か取り調べみたいだなと感じていたが、畑は緊張することなく、淡々と話した。
「お一人ですか?」
「いえ、同じ係の女性と一緒に。…それで、この事件、最近あんまりメディアにも取り上げられていませんが、実際どんな感じなんですか?無理心中って結論…ですか?」
畑の質問に池畑は予め用意していた資料を溝口に渡した。すると、池畑は思い出したように席を立ち、会議室の隅にあるコーヒーメーカーへと向かった。
溝口は、池畑の意図を理解すると、渡された資料を読みながら答えた。
「えーと、今のところ、母親が起こした無理心中っていう報告になってますね。ただ、動機だとか経緯はあまり分かってないようで。」
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「畑さん、あなたは何か気になることがあって私に会いに来られたんですよね?それは何ですか?」
「…はい。…その、亡くなった長尾智美さんは…自分が桐生朱美の生き別れの妹だと言ってたんです。」
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