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第2節 命の条件
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研究所から署に戻る車中。
池畑は佐倉の事件調書を読み返していた。それは、池畑ではなく後任が作成したものだった。
「秋吉(あきよし)刑事が纏めた調書の概要、もう一回話してもらってもいいですか?」
溝口が運転しながら聞いた。
「あぁ。事件当日は、研究室には佐倉と助手の瀬古と府川の三人がいた。志澤は出張で一日不在。瀬古と府川に別々に聞きとり調査をしたが、二人とも佐倉は所長室に行ってくると行って、部屋を出たのが最後だと。時間もほぼ一緒、二人の証言に怪しい部分はなかった。」
「監視カメラは確か朝から電源が入ってなかったんですよね?」
「あぁ、監視室に主電源がある。当時は、五人の警備員が監視室にいたが、誰も主電源には触っていない。カメラも館内全てのものが切れたわけじゃなく、ケーブルが同じ系統のカメラのみで、監視室内部のカメラは生きていた。そのカメラ映像からは確かに誰も触れてはいなかったようだな。」
池畑の話に溝口は顔を強張せた。
「…謎ですね。」
「あぁ、同じ系統ならケーブルに不具合があると踏んだんだが、カメラのケーブルはお前が業者に立ち会って検査したんだろ?」
「えぇ、まだ我々が担当外される前に私が。確かに異常はないと業者の人も言ってましたし、報告書もその内容でした。」
「…とにかく、監視カメラの謎さえ掴めればなぁ。主電源に触れずにカメラの電源を落とす方法…。」
何も思い浮かばなかった池畑は、調書を広げたまま顔の上に載せた。
「あぁー!何にもわからん!!」
子どものように大声で愚痴を言った池畑の声で、溝口はビクッと驚いた。だが、溝口はまたビビりと馬鹿にされるのが嫌なので、何事もなかったように冷静さを装った。
「…正直、佐倉先生の件は、時間が経つにつれ捜査員の数は減ってきましたし、また南雲由実さんの件で、そっちに人員割くでしょうしね。我々もそっちがメインで動かないといけないですし。
佐倉先生の件はあの時、自分たちが呪いの恐怖で意気消沈しちゃって、直接の担当外されちゃいましたからね。…でも、自分は池畑さんに付いていきますから。我々も合間を見ながら捜査していきましょう。」
「溝口、俺は正直まだ…佐倉は生きていると信じている。あいつが自分から失踪する理由はない。だから誰かによって連れ去られた…そう考えてる。……ダメか?」
池畑が急に弱々しい口調になったので、溝口は少し驚いて、運転しながら池畑の表情をチラ見した。池畑は、珍しく参っているような表情で、溝口はどんな言葉を掛けたら良いのか分からなかった。
「…ダメなんて、そんなこと…。自分だって、そう考えたいですよ。」
池畑、溝口が気を遣って、自分に合わせてくれていると直ぐにわかったが、何も言わなかった。
「由香里…生きててくれよな…。」
池畑は調書を顔から取り、窓ガラスに向かってボソッと言った。溝口にはしっかり聞こえていたが、聞こえなかったふりをして何も言わなかった。
ー 村上宅 ー
プルルルルル、プルルルルル。
「はい、もしもし。眞鍋です。」
眞鍋は昼に会った時と同じ声のトーンだった。正人は正直、怪しい組織にでも繋がるのではと考えていたが、眞鍋の変わらぬ声に安堵した。
「あ、あの、昼に火葬場でお会いした村上という者ですが。」
「…あぁ、その節はどうも!あっ、お電話いただいたということは、奥さんを生き返らせることにご興味持っていただけたということですか!?」
眞鍋の声は喜びに満ちているように明るかった。
「…え、えぇ。色々お話をお伺いしたくて。」
「ありがとうございます!では、明日の…午前中ご都合いかがですか?」
正人は凄い急展開だなと思いつつも、早く会って話が聞きたい気持ちが強かった。それに、予定なんて何もないことも分かっていた。
「はい、大丈夫です。」
「では、11時に横浜駅の南口でいかがでしょうか?それから喫茶店にでも移動しましょう。」
「はい、わかりました、よろしくお願いいたします。では…。」
「あ、ちょっと待って。村上さんパソコンお持ちですか?お持ちでしたら、パソコンに今回の資料をお送りします。少し量が多いですが、一読してから明日お越しいただけると助かります。」
「そうですか。私も内容が気になって、今日は眠れなそうな予感がしていたんで助かります。」
正人はパソコンのメールアドレスを教え、電話を切った。
眞鍋からは5分以内にメールを送ると言われたので、余裕を見て10分後にメールボックスを開いた。
゛村上様 死者を蘇らせるためのマニュアル 眞鍋より゛というタイトルのメールがあり、クリックしてメールを開いた。
そのメールには゛マニュアル及び要綱゛というタイトルのPDFファイルが添付されており、正人は添付ファイルをダウンロードし開いた。
開くと、゛Revive machine ゛という表紙から始まり、全部で284ページにも及ぶ説明書みたいな内容だった。冒頭と目次の内容をさらっと読むと、死者を蘇らせる機械『Revive machine』通称゛Remーリムー゛と呼ばれる機械を開発したということ、それを利用する場合の条件、注意事項が山程記載してあるようだ。
正人はとりあえず、全てのページを印刷した。
「やっぱり…今日は眠れなそうだな。」
誰もいない部屋で咄嗟に呟いた言葉が、正人は虚しく感じた。
池畑は佐倉の事件調書を読み返していた。それは、池畑ではなく後任が作成したものだった。
「秋吉(あきよし)刑事が纏めた調書の概要、もう一回話してもらってもいいですか?」
溝口が運転しながら聞いた。
「あぁ。事件当日は、研究室には佐倉と助手の瀬古と府川の三人がいた。志澤は出張で一日不在。瀬古と府川に別々に聞きとり調査をしたが、二人とも佐倉は所長室に行ってくると行って、部屋を出たのが最後だと。時間もほぼ一緒、二人の証言に怪しい部分はなかった。」
「監視カメラは確か朝から電源が入ってなかったんですよね?」
「あぁ、監視室に主電源がある。当時は、五人の警備員が監視室にいたが、誰も主電源には触っていない。カメラも館内全てのものが切れたわけじゃなく、ケーブルが同じ系統のカメラのみで、監視室内部のカメラは生きていた。そのカメラ映像からは確かに誰も触れてはいなかったようだな。」
池畑の話に溝口は顔を強張せた。
「…謎ですね。」
「あぁ、同じ系統ならケーブルに不具合があると踏んだんだが、カメラのケーブルはお前が業者に立ち会って検査したんだろ?」
「えぇ、まだ我々が担当外される前に私が。確かに異常はないと業者の人も言ってましたし、報告書もその内容でした。」
「…とにかく、監視カメラの謎さえ掴めればなぁ。主電源に触れずにカメラの電源を落とす方法…。」
何も思い浮かばなかった池畑は、調書を広げたまま顔の上に載せた。
「あぁー!何にもわからん!!」
子どものように大声で愚痴を言った池畑の声で、溝口はビクッと驚いた。だが、溝口はまたビビりと馬鹿にされるのが嫌なので、何事もなかったように冷静さを装った。
「…正直、佐倉先生の件は、時間が経つにつれ捜査員の数は減ってきましたし、また南雲由実さんの件で、そっちに人員割くでしょうしね。我々もそっちがメインで動かないといけないですし。
佐倉先生の件はあの時、自分たちが呪いの恐怖で意気消沈しちゃって、直接の担当外されちゃいましたからね。…でも、自分は池畑さんに付いていきますから。我々も合間を見ながら捜査していきましょう。」
「溝口、俺は正直まだ…佐倉は生きていると信じている。あいつが自分から失踪する理由はない。だから誰かによって連れ去られた…そう考えてる。……ダメか?」
池畑が急に弱々しい口調になったので、溝口は少し驚いて、運転しながら池畑の表情をチラ見した。池畑は、珍しく参っているような表情で、溝口はどんな言葉を掛けたら良いのか分からなかった。
「…ダメなんて、そんなこと…。自分だって、そう考えたいですよ。」
池畑、溝口が気を遣って、自分に合わせてくれていると直ぐにわかったが、何も言わなかった。
「由香里…生きててくれよな…。」
池畑は調書を顔から取り、窓ガラスに向かってボソッと言った。溝口にはしっかり聞こえていたが、聞こえなかったふりをして何も言わなかった。
ー 村上宅 ー
プルルルルル、プルルルルル。
「はい、もしもし。眞鍋です。」
眞鍋は昼に会った時と同じ声のトーンだった。正人は正直、怪しい組織にでも繋がるのではと考えていたが、眞鍋の変わらぬ声に安堵した。
「あ、あの、昼に火葬場でお会いした村上という者ですが。」
「…あぁ、その節はどうも!あっ、お電話いただいたということは、奥さんを生き返らせることにご興味持っていただけたということですか!?」
眞鍋の声は喜びに満ちているように明るかった。
「…え、えぇ。色々お話をお伺いしたくて。」
「ありがとうございます!では、明日の…午前中ご都合いかがですか?」
正人は凄い急展開だなと思いつつも、早く会って話が聞きたい気持ちが強かった。それに、予定なんて何もないことも分かっていた。
「はい、大丈夫です。」
「では、11時に横浜駅の南口でいかがでしょうか?それから喫茶店にでも移動しましょう。」
「はい、わかりました、よろしくお願いいたします。では…。」
「あ、ちょっと待って。村上さんパソコンお持ちですか?お持ちでしたら、パソコンに今回の資料をお送りします。少し量が多いですが、一読してから明日お越しいただけると助かります。」
「そうですか。私も内容が気になって、今日は眠れなそうな予感がしていたんで助かります。」
正人はパソコンのメールアドレスを教え、電話を切った。
眞鍋からは5分以内にメールを送ると言われたので、余裕を見て10分後にメールボックスを開いた。
゛村上様 死者を蘇らせるためのマニュアル 眞鍋より゛というタイトルのメールがあり、クリックしてメールを開いた。
そのメールには゛マニュアル及び要綱゛というタイトルのPDFファイルが添付されており、正人は添付ファイルをダウンロードし開いた。
開くと、゛Revive machine ゛という表紙から始まり、全部で284ページにも及ぶ説明書みたいな内容だった。冒頭と目次の内容をさらっと読むと、死者を蘇らせる機械『Revive machine』通称゛Remーリムー゛と呼ばれる機械を開発したということ、それを利用する場合の条件、注意事項が山程記載してあるようだ。
正人はとりあえず、全てのページを印刷した。
「やっぱり…今日は眠れなそうだな。」
誰もいない部屋で咄嗟に呟いた言葉が、正人は虚しく感じた。
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