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第6節 畑 賢太郎 其の2
(6)
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ー 出版社 ー
16時02分
畑と足立が長尾への取材記事について編集長や班長を待つこと、今から14分前に編集長の山本が、5分前に班長の稗田が外から帰ってきた。
畑と足立は長尾への取材結果を二人に報告しようとしたが、山本が皆で共有し、アドバイスし合おうということで、荒木も入れた五人で会議を開くことになった。
直ぐに会議室に五人が集まると、畑が取材の報告を一通り事細かに話すと、先ず稗田が最初にリアクションをした。
「…取材相手が桐生朱美の実妹…それは本当だったら、大ニュースだな!ねぇ編集長。」
「あぁ、だが本人がそう言ってるだけで、例えば桐生朱美の写真を持ってたとか、なんか繋がりがわかるものはなかったのかい?」
「…すみません、特に。」
畑はもう少し深く聞くべきだったかと反省したが、あの時の長尾の様子を思い出し、本当に妹ですか?なんて聞ける雰囲気じゃなかったよなと自分を責めないことにした。
「そう言えば、その取材した相手の写真は撮ったのか?」
「あ!」
稗田の質問に畑はヒヤッとした。写真については全く頭になかった。今日の朝は足立の呪いの件で頭がいっぱいだったため、カメラを持っていくことすら忘れていた。責任持ってやりきると大見得切った自分が恥ずかしくなり、畑は下を向いてしまった。
「お前、まさか忘れてたのか!?」
荒木が責めるような口調で畑に聞いた。
「いや、私が任されてまして、私撮りましたから!ね、写真は私担当だったんだよね、畑くん。」
畑は、いつの間にという驚きと嬉しさで足立の顔を見た。感謝しかなかった。
「あんまり良いのは無いかもですが…」
そう言いながら、足立はスマホの画面に長尾の画像を表示させた。確かに本人は全然カメラ目線ではなく、またあえて横顔を撮ったような雰囲気もなく、むしろ盗撮画像のような微妙なアングルの画像をスライドで数枚見せた。
「ま、まぁ確かに内容が内容だけに、写真を許可もらって撮るのは、結構勇気がいるよな。」
珍しく荒木がフォローしたが、あることを思い出し、少し機嫌が悪そうな口調で続けた。
「てか、さっきこの子が可愛いだなんだのって話の時に出せよ、この画像。」
「あ、すみません。すっかり撮ったこと忘れてまして。」
「まぁ、写真はあるならいいだろう。今回の企画ページだが、そもそもこの呪い裁判の話題はまだまだ世間的にはしばらく続くと思う。今回はとりあえず、足立が経験した呪いの紙の話を全面的に持ってきて、後半部分に畑の取材内容を載せよう。桐生朱美の妹の件は、ビッグニュースだが、やはり裏付けが取れるまでは載せるのはやめとこうと思う。これでどうだろうか。」
山本は上手く話を纏めて、皆に聞いた。皆は迷うことなく頷いた。
「編集長、ありがとうございます。今回はそれでいきます。」
畑は決定事項をメモに取りながら答えた。
「無事に纏まって良かった。畑、頑張ったな!呪いの紙の話だけでも相当なニュースだ。問い合わせ電話など、かなりの反響が予測できるよ。妹の件は、裏付けが取れたらすぐに大きく取り上げよう。その本人も、是非載せて欲しいって言ってんだから、もう少し取材続ければ必ず裏付けは取れるはずさ。中身については、足立が協力してやってくれ。」
稗田が笑顔で畑に話した。始めは不安しかなかった畑は正直ホッとした。なんとか形に出来そうだと、自分でも確信が持てたからだ。
「また、ページ構成のゲラが出来ましたら、皆さんにお見せするので、アドバイスお願いします。」
畑は立ち上がり、皆に一礼した。
「まぁ、こっからが本番だ。面白い記事を頼むよ。」
荒木のこの言葉で会議はお開きとなり、皆で会議室を出た。
その後、畑はすぐにページ構成のゲラを作り上げ、荒木や稗田にダメ出しを食らいながらも、なんとか形にした。その日は、畑と足立で、終電時間まで記事の文章案を作り続けた。
10月17日
ー 出版社 ー
15時35分
畑は、この日も朝から全力で記事の作成に取り掛かっており、昼飯もほとんど食べずに今を迎えている。流石に疲れやら空腹やらが襲い始め、そろそろ一旦ちゃんとした休憩を取ろうと席を立とうと思った時、執務室の扉が開いた。
室内の皆の視線が一斉に扉に集中した。その視線の先には村上が立っていた。
「皆さん、この度はご迷惑をおかけしてすみません。」
皆に向かって、村上は一礼した。
急に現れた村上に皆驚いた。すぐに三戸が村上に駆け寄りった。
「村上!急に大変だったな。お前、大丈夫か?」
「班長、忙しいときにすみません。午前中に葬儀屋と話をしてきまして…」
山本も村上の元へ駆け寄り、村上は通夜が20日になったことを告げ、受付の手伝いのお願いをした。
「わざわざ来てくれてありがとうな。今一番つらい時だろうから無理せずに、身体も心もしっかり休めてくれ。」
山本が優しく言った。すると今度は生駒が席を立ち上がり、村上に駆け寄るといきなり強く抱き締めた。
「頑張れ!!なんかあったら、すぐに相談しろ!俺は独り身だから、何時だって暇だ。なんか寂しくなったり、話したいことがあったら、何時でも連絡してくれよ。」
生駒は、村上を抱き締めながら、知らぬ間に泣いていた。村上も、想像もしていなかった生駒の言動に感動し、「ありがとう。」と小さく呟き強く抱き締めた。
畑も何か気の利いたことを言いたがったが、生駒の言動を越えるものが思い付かず、離れた場所から見ていることしかできなかった。
16時02分
畑と足立が長尾への取材記事について編集長や班長を待つこと、今から14分前に編集長の山本が、5分前に班長の稗田が外から帰ってきた。
畑と足立は長尾への取材結果を二人に報告しようとしたが、山本が皆で共有し、アドバイスし合おうということで、荒木も入れた五人で会議を開くことになった。
直ぐに会議室に五人が集まると、畑が取材の報告を一通り事細かに話すと、先ず稗田が最初にリアクションをした。
「…取材相手が桐生朱美の実妹…それは本当だったら、大ニュースだな!ねぇ編集長。」
「あぁ、だが本人がそう言ってるだけで、例えば桐生朱美の写真を持ってたとか、なんか繋がりがわかるものはなかったのかい?」
「…すみません、特に。」
畑はもう少し深く聞くべきだったかと反省したが、あの時の長尾の様子を思い出し、本当に妹ですか?なんて聞ける雰囲気じゃなかったよなと自分を責めないことにした。
「そう言えば、その取材した相手の写真は撮ったのか?」
「あ!」
稗田の質問に畑はヒヤッとした。写真については全く頭になかった。今日の朝は足立の呪いの件で頭がいっぱいだったため、カメラを持っていくことすら忘れていた。責任持ってやりきると大見得切った自分が恥ずかしくなり、畑は下を向いてしまった。
「お前、まさか忘れてたのか!?」
荒木が責めるような口調で畑に聞いた。
「いや、私が任されてまして、私撮りましたから!ね、写真は私担当だったんだよね、畑くん。」
畑は、いつの間にという驚きと嬉しさで足立の顔を見た。感謝しかなかった。
「あんまり良いのは無いかもですが…」
そう言いながら、足立はスマホの画面に長尾の画像を表示させた。確かに本人は全然カメラ目線ではなく、またあえて横顔を撮ったような雰囲気もなく、むしろ盗撮画像のような微妙なアングルの画像をスライドで数枚見せた。
「ま、まぁ確かに内容が内容だけに、写真を許可もらって撮るのは、結構勇気がいるよな。」
珍しく荒木がフォローしたが、あることを思い出し、少し機嫌が悪そうな口調で続けた。
「てか、さっきこの子が可愛いだなんだのって話の時に出せよ、この画像。」
「あ、すみません。すっかり撮ったこと忘れてまして。」
「まぁ、写真はあるならいいだろう。今回の企画ページだが、そもそもこの呪い裁判の話題はまだまだ世間的にはしばらく続くと思う。今回はとりあえず、足立が経験した呪いの紙の話を全面的に持ってきて、後半部分に畑の取材内容を載せよう。桐生朱美の妹の件は、ビッグニュースだが、やはり裏付けが取れるまでは載せるのはやめとこうと思う。これでどうだろうか。」
山本は上手く話を纏めて、皆に聞いた。皆は迷うことなく頷いた。
「編集長、ありがとうございます。今回はそれでいきます。」
畑は決定事項をメモに取りながら答えた。
「無事に纏まって良かった。畑、頑張ったな!呪いの紙の話だけでも相当なニュースだ。問い合わせ電話など、かなりの反響が予測できるよ。妹の件は、裏付けが取れたらすぐに大きく取り上げよう。その本人も、是非載せて欲しいって言ってんだから、もう少し取材続ければ必ず裏付けは取れるはずさ。中身については、足立が協力してやってくれ。」
稗田が笑顔で畑に話した。始めは不安しかなかった畑は正直ホッとした。なんとか形に出来そうだと、自分でも確信が持てたからだ。
「また、ページ構成のゲラが出来ましたら、皆さんにお見せするので、アドバイスお願いします。」
畑は立ち上がり、皆に一礼した。
「まぁ、こっからが本番だ。面白い記事を頼むよ。」
荒木のこの言葉で会議はお開きとなり、皆で会議室を出た。
その後、畑はすぐにページ構成のゲラを作り上げ、荒木や稗田にダメ出しを食らいながらも、なんとか形にした。その日は、畑と足立で、終電時間まで記事の文章案を作り続けた。
10月17日
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15時35分
畑は、この日も朝から全力で記事の作成に取り掛かっており、昼飯もほとんど食べずに今を迎えている。流石に疲れやら空腹やらが襲い始め、そろそろ一旦ちゃんとした休憩を取ろうと席を立とうと思った時、執務室の扉が開いた。
室内の皆の視線が一斉に扉に集中した。その視線の先には村上が立っていた。
「皆さん、この度はご迷惑をおかけしてすみません。」
皆に向かって、村上は一礼した。
急に現れた村上に皆驚いた。すぐに三戸が村上に駆け寄りった。
「村上!急に大変だったな。お前、大丈夫か?」
「班長、忙しいときにすみません。午前中に葬儀屋と話をしてきまして…」
山本も村上の元へ駆け寄り、村上は通夜が20日になったことを告げ、受付の手伝いのお願いをした。
「わざわざ来てくれてありがとうな。今一番つらい時だろうから無理せずに、身体も心もしっかり休めてくれ。」
山本が優しく言った。すると今度は生駒が席を立ち上がり、村上に駆け寄るといきなり強く抱き締めた。
「頑張れ!!なんかあったら、すぐに相談しろ!俺は独り身だから、何時だって暇だ。なんか寂しくなったり、話したいことがあったら、何時でも連絡してくれよ。」
生駒は、村上を抱き締めながら、知らぬ間に泣いていた。村上も、想像もしていなかった生駒の言動に感動し、「ありがとう。」と小さく呟き強く抱き締めた。
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