Rem-リム- 呪いと再生

雨木良

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第2節 畑 賢太郎

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13時55分

畑は自席でパソコンと格闘していたが、足立との距離が縮まったことで気持ちが浮わついており、実際仕事は余り進んでいなかった。

「おはようございます。」

正人が出社してきた。畑は自分の席の前を通る正人に話しかけた。

「おはようございます、村上さん。あ、そうか今日と明日はフレックス出勤でしたね。」

「あぁ、取材先の都合でね。昼間が忙しくて夜間しか連絡とれないって言われたからさ。校正のやり取りなんだけど、もう時間がないから直接話しながらやりたいんだよ。」

「今残業に関しては五月蠅いっすからね。健康面に関しても。」

「そゆこと。フレックスより残業代貰った方が有り難いんだけどな。畑は仕事順調か?」

「さっき班長に呼ばれて、次号の企画ページの主担当に任命されました。」

「スゲェじゃん。企画は決まったの?」

「いやぁ、まだです、方向性だけ。明日に判決がでる例の裁判の特集ページなんですよ。今日の朝一に会議して、上からは有罪側の意見を全面に押し出した内容にしたいんだ、って言われまして困ってます。」

二人の会話に外回りから帰ってきたばかりの生駒が割って入った。

「おっす、正人。いやぁ、畑ちゃん、世間は明日の判決に大分注目が集まってるみたいだよ。裁判の傍聴席も多くの人が押し寄せるんじゃないかってさ。」

「生駒さん、何か企画のいいアイデアありません?」

「うーん、被害者遺族のインタビューとか?」

「遺族かぁ、俺に出来るかな。」

困った顔をしている畑に痛烈な言葉が飛んだ。

「礼節に欠けてるお前には荷が重いからやめとけ。」

その低い声の正体は、担当者の中で一番最年長の荒木だった。

「遺族に対しての折衝は、一番気をつかうことだ。悪いこと言わないからお前はやめとけ。」

悔しいが荒木の言う通りだと畑は思った。こんな前例のない事件で、そもそも遺族に何をインタビューしたらいいのかも思い付かない。

畑は荒木には何も言わず苦笑いで返し、直ぐに生駒に振り返った。

「もう少し考えてみます。生駒さん、ありがとうございました。」

「初の主担当頑張れよ。」

荒木の言葉を苦笑いで聞いていた正人はそう言うと自席に鞄を置き、生駒を連れて執務室の奥の打ち合わせスペースへと消えていった。

17時10分

ブッブッブッ

畑のスマホのバイブレーションが鳴った。スマホを確認すると足立からのメッセージだった。

<今日はありがとう、楽しかったよ。先に上がります。無理しないで早く帰りなね。>

畑は、自分の二つ隣の席にいるのに、態々スマホにメッセージを送ってきた足立にドキっとしてしまった。

畑はすぐに足立の席を見て微笑みかけた。足立は笑顔でじゃあねのジェスチャーをして席を立つと、皆に挨拶して執務室を出ていった。

畑はとりあえずメッセージに返信した。

<お疲れ様でした。今日はありがとうございました。ご飯もご馳走になってしまって。気をつけて帰ってください。>

するとすぐにメッセージは既読になり、一分後には返信がきた。

<仕事終わったら教えて。畑くんが暇ならメッセージで少しオカルト話したいなって思って。>

<いいですよ。もう片付けますから、会社出たらまたメッセージ送ります。>

<ありがとう、待ってます。>

畑は急いで片付けを済ませ、皆に挨拶をし執務室を出ようとしたが、帰ろうとする畑の姿を見て、山本が声をかけた。

「あ、畑くん、お疲れさん。何かいい企画のアイデア思い付いたか?」

畑は山本の席に振り返った。

「あ、編集長お疲れ様です。明日の会議には間に合わせます。」

「そうか、期待してるぞ。」

畑は一礼して執務室を出た。

畑は執務室を出ると、直ぐにスマホを取り出し足立にメッセージを送った。

<今会社出ました。>

<早かったね。ねぇ、じゃあ少し会う時間あるかな?>

畑は自然と顔がニヤけてしまった。

足立に指定された場所は昼にランチを食べたあの店だった。

ー 居酒屋 ー

店の扉を開けると昼間の店主がいた。

「お、兄ちゃん、お疲れさん。お連れさん待ってるよ!」

店主に会釈に、小上がりを見ると足立だけじゃなく、その隣にもう一人女性が座っていた。

「お待たせしました。」

畑は靴を脱いで小上がりに上がり、足立と誰だかわからない女性の対面に腰を下ろした。

「ううん、こっちこそ急にごめんね。」

「いえ、全然。あの、こちらの方は。」

足立と同い年くらいの女性は、中々の美人だったが、足立が自分と二人っきりで会いたがってると勝手に妄想していた畑はガッカリした。勿論態度には出さないように努めたが。

「彼女は同じサークルのサブリーダーをしてる霞ちゃんです。」

「はじめまして、粟田霞(あわたかすみ)です。かぐらちゃんと同い年で、一応サブリーダーやってます。今日は急にごめんなさいね。」

そのとてもしおらしい声に、畑は改めて粟田に目を向けた。良く見るとショートヘアの足立とは違い、長めの綺麗な黒髪の粟田は、足立とはまた違った可愛さがあり、畑はこの状況を嬉しく思ってきた。

「元々二人で呑むつもりだったんだけど、畑くんもどうかな?って思って。何かこのあと予定があったら途中で帰っちゃってもいいからさ。」

「いえ、予定は特に。あ、ただ例の企画ページ考えないとなぁって。」

「雑誌の企画ですか?」

粟田が畑に聞いた。

「あ、そうそう、霞ちゃんに相談すると良いかも。サークルの広報誌作ってくれてるもんね。」

「売り物の雑誌とサークルの広報誌を一緒にしちゃいかんでしょ。」

小さくチョップする可愛いアクションで足立にツッコミを入れる粟田。その姿を見てニヤついてしまった畑が話し出した。

「いや、そんなことは。何か良いアイデアがあれば頂戴したいです。今話題の呪殺事件の特集ページなんですよ。何か良い企画ありませんか?」

「彼、初めて企画ものの主担当任せられててさ、何かアドバイスあったらしてあげてよ。」

足立の言葉に、手を顎に添えながら考える粟田。古典的な考えるポーズをしながら粟田は答えた。

「アドバイスなんて恐れ多いですけど、例えば呪い経験者にインタビューする…とか?」

足立と畑は目を合わせた。

「霞ちゃん、いいじゃんそれ!ね、畑くん。」

「はい!何で思い付かなかったんだろ。で、誰か知り合いいます?」

「いや、私の知り合いには。かぐらちゃんは?」

「いやぁ私にも流石に丑の刻参りみたいな知り合いはいないなぁ。」

畑はまた行き詰まったかと、ちょっとガッカリした。

「あ、ならネット掲示板とかでコンタクトとってみるのはどうかな?そういうサイトいっぱいあるでしょ?」

粟田の提案に、畑もそれに賭けることにした。

「それいいですね。帰ったらやってみます。」

その後は、心霊スポットでの出来事やUFO映像の話などで盛り上がった。オカルト云々じゃなく、この二人との会話がなんか楽しくて心地よいことに気付いた畑だった。
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