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本編

14話 転生者の正体

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貴族街を守る重厚な扉が開かれるとその先に見えたのはシンプルではあるが下町で見かけた住居よりも美しい貴族向けの住居、貴族向けの装飾品や洋菓子などを取り扱っている店、馬車を走らせるにしては綺麗に舗装された道、そして…自動車が走っていた…。

「じ、じじじっ自動車!?」

久しぶりどころか転生してから初めて自動車を目にしたリリゼットは思わず驚愕して叫んだ。

リリゼットが転生したこの世界は、中世ヨーロッパに近い時代設定なだけあって街中や長距離移動には馬車が主流である。

走っている自動車の形はリリゼットが知る前世の日本で見慣れていた車種のものと比べればかなり古い形式だが、確かに自動車だった。

「この自動車も"転生者"が考案して職人につくらせたものなんだ」

レオナルドによると、自動車は現在この王都の貴族街でしか使用許可が出されておらず、製造も必要な各パーツを職人街で製造して、貴族街で組み立てて完成させるという手順を踏んでいる。

パーツの製造方法は分かっても完成形はパーツを製造した職人にも分からないようにして他国に自動車の存在を漏らさないようにしていたのだという。

王都の"転生者"が前世で暮らした世界とこの世界の自動車の違いは走るのに消費する燃料だ。

"転生者"の世界にあった自動車の燃料がガソリンなのに対しこの世界で再現した自動車の燃料は運転手の魔力が消費される仕組みになっているらしい。

その理由はこの世界ではまだガソリンの原料となる原油が発見されておらず油田を見つけたとしても原油を採掘するのには莫大な予算が掛かる。

他には植物油や魔物から抽出した動物油脂も試したらしいが運転手の魔力を使用した方が手っ取り早かったのだという。

「それでもこの世界で自動車を再現するなんて凄いです…」

この世界の現在の技術では自動車の開発はまだまだ先だと思っていたというのにまさかリリゼットが生きているうちにまた自動車を見ることができるとは思いもしなかった。

そして今までクリスティアがこの自動車の存在を隠していたのは移動速度が馬車よりも速い為これが早いうちに他国に知られてしまえば技術を奪われ戦争などに転用されるのを恐れて今まで隠していたのだろうとリリゼットは考えた。

そして、そろそろリリゼットは彼らから"転生者"の名前を聞きたいと思った。

「あの…そろそろ"転生者"の名前を教えてはもらえないのでしょうか…?」

厳重に"転生者"の知識の結晶が守られている貴族街でなら重要な"転生者"の名前を教えてくれるかもしれないとリリゼットは2人に問う。

「"転生者"の今の名前は城に着くまでまだ開かせないけど前世の名前なら…彼女の前世は『ハシモト・ミカ』という名前だ」

『ハシモト・ミカ』という名前はリリゼットの前世、高城綾奈だった時代の親友と同じ名前だった。

確かにリリゼットが知る美香は女性にもかかわらず機械弄りが大好きで料理が得意ではなかったので今までのレオナルド達の説明からすればこの国にいる"転生者"が美香である可能性が高いが同姓同名かもしれない。

だがこの2人が『ハシモト・ミカ』と親しい仲で前世の交友関係の話を聞いていれば前世の親友であるということが分かる質問があった。

「その『ハシモト・ミカ』さんはもしかして友人と一緒に旅行していた際に事故で亡くなった方なのでしょうか…?」

リリゼットの前世、綾奈の人生最期に美香と会ったのは美香と一緒に高校卒業記念の二人旅で乗った旅行バスに飲酒運転のトラックがぶつかりバスが崖に転落して死んだその日でバスが転落する中、死ぬ前に恐怖で美香に抱きついていたのをリリゼットは昨日のことのように覚えている。

この事故で正直親友も命を落としたとは信じたくはなかったがリリゼットは『ハシモト・ミカ』の前世の死因を2人に話すと2人は無言で目を見開き驚いていた。

「ま、まさか君の前世は…彼女の親友だった『タカジョー・アヤナ』なのか…?」

レオナルドから『ハシモト・ミカ』から聞いていたらしいリリゼットの前世の名前が出た。

リリゼットの予想が確信に変わった瞬間だった。

クリスティアに現れた"転生者"の前世『ハシモト・ミカ』はリリゼットの高城綾奈時代の親友、橋下美香本人だったのだ。
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