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本編

4話 ツキシロ

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「また寝ちゃってた…」

リリゼットが泣き疲れてまた眠りにつき目覚めた時には外は薄暗くなっていた。

ギルヴェルトは側にいないが馬車の外から食事の準備をしているような音がするので彼は馬車のすぐ近くにいるかもしれない。

ー凄く体が重い…。

ギルヴェルトを手伝おうと思いリリゼットは上半身を起こすと仮死状態になった時の副作用で彼女の体から生命の源である魔力が全て放出され魔力が回復しきっておらず酷い倦怠感があり体を動かすのが辛かった。

ーそういえば私が独房で自害してから何日経ったんだろう…?というかシロちゃんは…?

仮死状態になったあと何日眠っていたのか、契約している精霊獣のシロちゃんことツキシロの安否が気になっていた。

『(オレならここにいるよ!)』

彼女の頭の中でわんぱく坊主のようなツキシロの声が聞こえた。

ーシロちゃん!?良かった!無事だったのね!!

リリゼットは念話でツキシロと会話をし始めた。

精霊獣は契約者が死んだからといって死ぬわけではない。

契約者が死んでしまった精霊獣は無理やり契約を迫ると怒りを買ってしまうので新たな契約者探しは精霊獣の意思が最優先される。

どうやらリリゼットが薬で仮死状態になった後に彼女との契約が切れたと判断されツキシロは精霊獣を閉じ込める特殊な檻から出され外へ逃がされたらしい。

そして今のリリゼットは魔力が回復しきっていないので負担を減らす為にツキシロは彼女の中に入っているようだ。

『(リリィ…なんで捕まったときオレをとめたの?オレならあんな奴らあっという間にたおせたのに…)』

リリゼットが暗殺未遂の罪で拘束された時、ツキシロは怒りのあまり兵に襲いかかりそうになっていたのを彼女は相手を襲ってはいけないと制止していた。

ーシロちゃんには人を傷つけて欲しくなかったの…。

ツキシロが暴走し他者を傷つければリリゼットの状況が更に悪くなるからという理由ではなく彼女は純粋に大事な友人であるツキシロに誰かを傷つけて欲しくなかったのだ。

『(でもさあいつらリリィはなにも悪いことしてないのにリリィを殺そうとしたんだよ!?オレあいつらを絶対ゆるさない!!)』

"あいつら"とは主にエドワードとアリシア、アルガリータ公などリリゼットを罪人に仕立て上げた者たちを指しているのだろう。

ツキシロの声が直接リリゼットの頭の中に話しかけている状態なので姿は見えないが綿菓子のような姿をしたツキシロがプンスカと怒りながら言っているだろうと想像するとその姿が可愛らしくリリゼットの為に怒っているツキシロには悪いが彼女は少し笑ってしまった。

ーそうね…。私もまさかエドワード達がここまでするとは思わなかったわよ…。でも私は死んだことになってるんだしもうあの国に帰る必要がなくなったから清々したわ。

そうギルヴェルトに助けられ国を出た今、もうエドワードとアリシア、両親に会うことも王妃になる為の花嫁修行をする必要もなくなりリリゼットは念願の平民となった。

あの国にまだ幼いリリゼットの腹違いの弟グレンとアルガリータ家の使用人達、今世でできた大事な友人達を残してきたのが気掛かりだが今はギルヴェルトについて行くしかない。

ー国王夫妻が帰国したらエドワードにカミナリが落ちるんだろうなー…。

卒業パーティー前日から国王夫妻は行き先は極秘だが国外視察へ出ている。

エドワードの婚約破棄、アリシア暗殺未遂による裁判、リリゼットの処刑判決を国王夫妻は知らないだろう。

婚約破棄はともかくとしてリリゼットの拘束から処刑判決までの流れがいくらなんでも早すぎる気がした。

エドワード、アリシアどちらの思惑か分からないが全ては国王夫妻に知られる前にリリゼットを亡き者にする気でいたのではないかと彼女は考えていた。

国王夫妻はリリゼットのことをアルガリータ夫妻よりも何かと気にかけ、とても気に入っていたのでエドワードが心変わりしたからといって簡単にこの2人はエドワードの婚約破棄を認めないだろう。

国王夫妻がリリゼットをエドワードと婚約させたのは彼女が持つ"素質"が理由だった。

リリゼットはまだ"素質"が何なのかを国王夫妻から教わってはいないが"素質"を持つ者を国王もしくは王妃にしなければならないという決まりがあると国王夫妻に聞いた覚えがあった。

その"素質"をアリシアが持っていなければエドワードがアリシアとの正式な婚約を国王夫妻に認められるのは難しいだろう…。

ーとりあえず、もうガルヴァンのことは知ったことじゃないしグレン達のことはクリスティアに行ってから考えよう。

確かギルヴェルトはクリスティアの諜報員と言っていたのでこれからリリゼットはクリスティアに行き、そこで生活することになるはずだ。

リリゼットはクリスティアへ行き生活基盤を整えてから密かにグレンや友人達に連絡を取る方法を考えることにした。

『(そろそろリリィがつくったお菓子が食べたい!クリスティアについたらつくってよ!!)』 

ー私も丁度お菓子を作りまくって食べたい気分だったの。それにギルヴェルトさんは甘い物が好きか分からないけど助けてくれたお礼もしたいしね。

先程まで怒っていたツキシロはコロリと興味が移り変わり今度はリリゼットが作った菓子が食べたいと催促をしたのでクリスティアについてから一緒にお菓子を食べようと彼女は約束をした。

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