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その瞳に……ノ巻《師の教えと狼少年外伝録・手帳残記01》
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語り
鴇間 一騎(ときはざま かずき)二十七歳
序
……坐禅を終え、半眼を開こうとした時、無くした片目の暗い手探り的な視界を切り裂き裂くかの様な一閃の光が見えた後に耳鳴りがし、白黒のノイズ混じりな過去映像が浮かび上がった……
ガーピーガッガーピー……
ドゥードゥー……
見えるのは担任である女教師が立たずむ後ろ姿……
俺はウザんざりし。
「帰るわ、やってらんねー、こんなのただのいじめだ」
俺のその言葉に先生は振り向き一言、言い放った。
「ひとり逃げるの」
「な、なんだとー」
そこはグラウンド、列から外れ、クラス全員を背に立つ俺と、対峙している先生はキリッと俺を睨み付けてきた。
モノクロな映像に色見がかかる……
俺は青眼に構えた……
先生も構えた『ほう』
その構えは、少し奇ながら、どこの流派が知らんが、隙が無くさまになっていた。
だが空手部の俺には絶対的自信があった。
それは望む所だった。
ヒューと風が吹いた……
* * *
ミーンミーン
と夏休み初日、学校に忘れたイヤホンを取り行くと、校門は開いていた。
ついでにシーンとした廊下から職員室を覗くと、夏の風に大きく煽られ、少し妖しく揺れる白いカーテンの前に担任の先生がひとり座っていた、そして目が合った。
先生を俺に手招きをした。
俺は職席に座る先生の前に立ち、先生を見下ろす形になった。
「どうしたの、かずき君? 忘れ物」
「はい、先生を」
「私を?」
「はい、先生のオッパイを」
ドスー⭐︎
「グッエ」
俺の脇に結構マジな先生の肘打ちが入った。
俺は、たまらず脇に手を当てその場に、しゃがみ込んだ。
「いってて」
「そこは、ねー 心とか言うのよ普通は、昨日カリオストロ見たでしょ」
「最初から冗談ですから、先生は、ほんと冗談がわかってないな」
* * *
……そんな高校の時の出来事を、最近帝都の仕事と言うか、しのぎと言うか、そんな事から足を洗い……と言いたいところだが実は、帝都の警察権が及ばない治外法権国家であり、故郷でもある、この島国の実家に逃げ帰って来たのだ。
そんなお尋ね者の俺は、テレビと布団しかない、実家の自室で夕暮れ時、ひとりそんな昔の事を断片的に思い出していた……
カラカラカラ……
と、ひぐらしが鳴く。
ピンポンと部屋のインタホーンも鳴る。
いわゆる、かぁちゃんからのメシができた知らせだ。
のっそりと階段を降りると台所のテーブルの上に、皿の隅に伏せたレンゲがそっとした感じに添えられたチャーハンが用意されていた。
俺は利き手の人差し指を無くしてしまったので箸は使えない、なにか母の心使いを感じながらそのチャーハンを口に運ぶ。
だが、懐かしいその味も昔程、美味く感じなかった、原因はすぐに解った、それは俺が都会の汚れ仕事の汚れ金で、毎晩豪遊した帰りに締めで通っていた高級中華飯店で食べていたチャーハン。その贅沢なプロの味付けが、慣れ親しんだ母の味を単調に感じるように俺の舌を変えてしまったのだ。
ただ間違えても『味がイマイチ』なんて事は母に向かって言えない、母も、もう若くない、炒めきれてない白い飯粒の塊が増えた様に、頭髪にも白髪が目立つ歳だ、この目の前のチャーハンをあと何回食べれるのかと考えると切なくなる。
俺は指以外に色々な物を無くしてしまった様に思えた。そしてこれからも……。
唯、一の救いもあった、それは父親が者心が付いた時から白黒写真だった事だ、それが今となっては救いだった、何故なら、今も写真の中の親父は、変わった俺をそもそも最初から知らないだから。
俺はチャーハンを食べ終えると。
「ご馳走様、うまかったよ」
左前方に座っている、母ちゃんはニコリとし。
「良かったね、お風呂も沸いてるよ」と言ってくれた。
「おう」
と俺は、ササっと皿を洗い、水切りカゴに置いたら脱衣場に向かった。
湯船に浸かると身体中の傷や骨の折った箇所が微妙にきしむ様に痛むが、医者には、時期に痛みには慣れていくとサジを投げた様な言葉を頂戴したので、せっかくなので黙って耐える。
目の前に立ち昇る湯の煙を観つつボーとしながら、また担任の先生の事を思いだした。
その先生は女性だった……
厳しい先生だった、ただ優しい所もあったとは……お世話でも言えない! だがこう振り返ってみても何か恨み的な心情は湧かざ、何かスッキリとしたものだけが心に残っている。
よくよく思えば、あの頃は、人との関係に変な腹の探り合いの様なやり取りも無く、またその必要も無く、自分も今から比べれば、そんなに擦れてなく、それなりに楽しかったかの様に思える……。
* * *
ミーンミーン
蝉の鳴き声がウザヤカマシイ体育の授業のさなか、俺は些細な言葉のやり取りで先生と喧嘩になり対峙していた。
本音を言うとその頃、裏でクラスを仕切っていた俺は先生が気に食わなかった。
そんな緊張空間の狭間に風がひと吹きした。
その風の影響で顔にかかった髪を先生が掻き上げた瞬間。
「もらったー!」
俺は、そう叫び、先生に向かって飛ぶ様に走り寄り、先生の頬に拳を突き出した、が、その拳先の先生の急に豹変した目、その視線に思ってもいない悪寒が走り、『罠』の字が頭に浮かび、すぐさま突き放った拳を引き戻すと同時に後ろにのけぞった、その鼻先を先生の弧を描いた内回しの蹴りである脚先が掠めていった……
「あら、よく避けれたわね、関心関心」
と髪が少し乱れ、目の縁を太く鋭く変えた先生は言った。
俺はその先生の視線に射抜かれた様な感じを受けて拳を思わず引き戻した、それは正解だった、それをしなければ、あの先生の蹴りを側頭に間違い無く、喰らっていた。
鼻先を掠めたそれは、打撃属性では、無く、風を切る、いや、たまたま吹いた向かい風を足首の動作で捉え練り返し、その空間に恐ろしい斬撃を作り出し、それは、足にまとわせた刃の様に感じた。
そして先生は本気でヤレる人だと思った、それが生徒でさえも……
「ごめんね、先生少し本気だっしゃった、大人げないよねー」
「……」
「でも上手く避けてくれてよかったよ」
「……」
「で、まだ続きやる?」
俺は今まで見た事のない、その野性を感じる先生にビビった、それに何か……もうやる気も失せてしまった。
「今日は、このくらいにしてやるよ」
「そう、ありがとう、じゃ列に戻って、なんなら今日は早退してもいいわよ」
と先生は何かを拾い上げ振った。
その時、先生が片靴を脱いでいる事に気づいた、その先生が振る靴は鞘の様な気がし、砂を降り落とすそのさまは、刃の血糊を拭っている様に思えた……
それが先生にツカカッタ最後の時でもあり、その後、卒業までの半年間、不思議と憑き物が落ちた様に俺は落ち着き、先生との仲は良くなっていた様に思える……。
* * *
そんな事を考えていると、
『そうだ、先生に会いに行こう』と言う考えが俺の中に芽生えて来た。
数日後、俺は先生の家を少し遠くから観ていた、何かドキドキした……何故だろか? よくわからなかった、よくわからないまま、俺は先生の家の玄関先に向かおうと足を一歩踏み出した時。
「ほらー トロいなー 行くよ」
と聞き覚えのある先生の声が聞こえ玄関の引き戸がスライドした
、俺は反射的に茂みに伏せる……
そこで見た光景は、紛れもなく先生だった……ただその後ろから出て来た奴は……確か一馬と言う学級委員長をやってだ何処かパッとしない同級生だった。
最初はどう言う事だと思ったが、すぐに自分の年齢から推測し意味がわかった……
『そうか、先生よ……そう言う事かよ……』と思った……
先生は、そのまま、ベルトをガチャガチャいじりながらフラフラと歩いている一馬の手を引っ張りながら、どこかに出かけてしまった。
俺は少し呆然とその場に留まり、帰ろうかと思った時……先生だけが引き返して来た! そう先生だけ。
俺は、慌ててまた茂みに隠れる様にしゃがみ込む……そして先生は、俺の方に向かって来た。
そして目の前に立った。
「こら、何をコソコソしてるだ、君は」
「あ、どうも先生、あのー、俺さ最近、仕事辞めて戻ってきて」
先生は俺の指が欠けた手や顔の傷には触れなかった。
「そうなんだ、所で気配がバレバレ、隠れる時は聴覚だけを頼りに、息を細めて、視線も伏せるって教えたでしょ」
「……人は潜在的に遠くからの視線に気付く、でしたっけ」
「そうよ、君の視線、真っ直ぐ飛び過ぎ、すぐ感じたわ」
「ところでさ、先生なんで?」
「……一馬君の事、好きになったからそれだけよ」
「それだけ」
「そうそれだけ、先生の事、軽蔑した?」
俺はそう聞かれ、そうは思わなかった、何故なら俺は都会の汚れ仕事で知ったからだ、それは皆んなただやりたいだけの猿だと知ったからだ。
ただ、先生が手を伸ばせば、手が届く人だったかも知れない事に後悔した。
普通にそんな事をはありえない、それも一馬なんかと……そして俺は、先生と対峙した時、その視線で射抜かれたものを知った、
それは俺の心だった……
その時、気づかずに長く先生に惚れていた事に気づいた……。
どうりでいろんな女を抱いても満足せずにイラついていたわけだ、俺は……
その答えも出た、でもすぐに手遅れな現実に行き着いた。
『先生の全ては、もうあいつの物……』
俺は気を紛らわす様に胸のポケットからタバコを取り出すが指が足りないので上手く箱からタバコを取り出せないでいると。
「もう、しっかりしてよ」
と先生はタバコを一本抜いて手渡してくれた。
「火をつけれるの?」
「はい、なんとか」
と言ったものの何か焦ってしまい、オイルライターをいくら擦っても火花が散るが、なかなか火は付いてくれない。
それに観かねて先生はタバコを俺から取り、自ら咥え。
「ん、貸して」
と指先クイクイとさせた手を差し出して来た。
俺はライターその手の上に乗せた。
先生は吸ってその火を付けたタバコを俺の割れた前歯の隙間に差し込んで来た。
それは俺を『男としては見ていない』と先生の黙言である別れの間接キスの様に俺は最初は思えたが、後で、これは俺を引き戻す為の先生なりの俺が過去に帝都で交わしでしまった杯の上書き的な打ち消しの様な物だったのかもしれないと考えた……この事から、残念ながら、どの道俺は、先生とは生涯師弟関係である事を確信した。
その場でそこから俺は、せっかく先生から再会の手を差し伸べてくれたのに、俺は……俺は、先生の唇、首元、胸、股ぐら、足、そして瞳……それらの女性的な部分を切なくて見ていられなくなってしまい。
「少し顔を見ようと思っただけなんで、もう帰ります」
と冷たく切り出し、先生に背を向けて歩き出してしまった。
後ろから先生が言う。
「またねー」
俺は振り向かず手だけを振り、心の中で思った。
『もう来るかよ、先生は相変わらずなにもわかってねえな、タバコも香水口紅臭せいよ」
幕
淡い夢だった……
ただすぐにその結末も俺らしく相応しいと思えた、
何故なら……
俺が都会である、帝都で仕事と言う皮手袋を被せ、おこなってきた、人達に対する嘘や酷い仕打ちを考えたら、俺が幸せになれるわけなんかないと納得したからさ……。
それに、
師の教えさえも自分に都合の良い様に解釈を捻じ曲げ、歪ませ、顔向けのできない様な罪深い事に使用してしまった……。
そんな俺が、これから今に生きて、親孝行できるだけでも儲けもんさ……そう、おれなんか……。[終]
題材・師
基本その人は永遠に師のままである。故に異性を師に選ぶ、または持つ時は心持ちを慎重になるべきである。
何故なら、その実が成熟し、もぎ取る事が出来る事は大変なリスクをともなっても、ごくごく稀な事なのだから……。
後書き
続編なので細かい場面の内容は、あえて触れずに書きました。
この作品の数少ない読者さんの為に……
2024.5.23
※リンク作品
[師の教えと狼少年・本編]
鴇間 一騎(ときはざま かずき)二十七歳
序
……坐禅を終え、半眼を開こうとした時、無くした片目の暗い手探り的な視界を切り裂き裂くかの様な一閃の光が見えた後に耳鳴りがし、白黒のノイズ混じりな過去映像が浮かび上がった……
ガーピーガッガーピー……
ドゥードゥー……
見えるのは担任である女教師が立たずむ後ろ姿……
俺はウザんざりし。
「帰るわ、やってらんねー、こんなのただのいじめだ」
俺のその言葉に先生は振り向き一言、言い放った。
「ひとり逃げるの」
「な、なんだとー」
そこはグラウンド、列から外れ、クラス全員を背に立つ俺と、対峙している先生はキリッと俺を睨み付けてきた。
モノクロな映像に色見がかかる……
俺は青眼に構えた……
先生も構えた『ほう』
その構えは、少し奇ながら、どこの流派が知らんが、隙が無くさまになっていた。
だが空手部の俺には絶対的自信があった。
それは望む所だった。
ヒューと風が吹いた……
* * *
ミーンミーン
と夏休み初日、学校に忘れたイヤホンを取り行くと、校門は開いていた。
ついでにシーンとした廊下から職員室を覗くと、夏の風に大きく煽られ、少し妖しく揺れる白いカーテンの前に担任の先生がひとり座っていた、そして目が合った。
先生を俺に手招きをした。
俺は職席に座る先生の前に立ち、先生を見下ろす形になった。
「どうしたの、かずき君? 忘れ物」
「はい、先生を」
「私を?」
「はい、先生のオッパイを」
ドスー⭐︎
「グッエ」
俺の脇に結構マジな先生の肘打ちが入った。
俺は、たまらず脇に手を当てその場に、しゃがみ込んだ。
「いってて」
「そこは、ねー 心とか言うのよ普通は、昨日カリオストロ見たでしょ」
「最初から冗談ですから、先生は、ほんと冗談がわかってないな」
* * *
……そんな高校の時の出来事を、最近帝都の仕事と言うか、しのぎと言うか、そんな事から足を洗い……と言いたいところだが実は、帝都の警察権が及ばない治外法権国家であり、故郷でもある、この島国の実家に逃げ帰って来たのだ。
そんなお尋ね者の俺は、テレビと布団しかない、実家の自室で夕暮れ時、ひとりそんな昔の事を断片的に思い出していた……
カラカラカラ……
と、ひぐらしが鳴く。
ピンポンと部屋のインタホーンも鳴る。
いわゆる、かぁちゃんからのメシができた知らせだ。
のっそりと階段を降りると台所のテーブルの上に、皿の隅に伏せたレンゲがそっとした感じに添えられたチャーハンが用意されていた。
俺は利き手の人差し指を無くしてしまったので箸は使えない、なにか母の心使いを感じながらそのチャーハンを口に運ぶ。
だが、懐かしいその味も昔程、美味く感じなかった、原因はすぐに解った、それは俺が都会の汚れ仕事の汚れ金で、毎晩豪遊した帰りに締めで通っていた高級中華飯店で食べていたチャーハン。その贅沢なプロの味付けが、慣れ親しんだ母の味を単調に感じるように俺の舌を変えてしまったのだ。
ただ間違えても『味がイマイチ』なんて事は母に向かって言えない、母も、もう若くない、炒めきれてない白い飯粒の塊が増えた様に、頭髪にも白髪が目立つ歳だ、この目の前のチャーハンをあと何回食べれるのかと考えると切なくなる。
俺は指以外に色々な物を無くしてしまった様に思えた。そしてこれからも……。
唯、一の救いもあった、それは父親が者心が付いた時から白黒写真だった事だ、それが今となっては救いだった、何故なら、今も写真の中の親父は、変わった俺をそもそも最初から知らないだから。
俺はチャーハンを食べ終えると。
「ご馳走様、うまかったよ」
左前方に座っている、母ちゃんはニコリとし。
「良かったね、お風呂も沸いてるよ」と言ってくれた。
「おう」
と俺は、ササっと皿を洗い、水切りカゴに置いたら脱衣場に向かった。
湯船に浸かると身体中の傷や骨の折った箇所が微妙にきしむ様に痛むが、医者には、時期に痛みには慣れていくとサジを投げた様な言葉を頂戴したので、せっかくなので黙って耐える。
目の前に立ち昇る湯の煙を観つつボーとしながら、また担任の先生の事を思いだした。
その先生は女性だった……
厳しい先生だった、ただ優しい所もあったとは……お世話でも言えない! だがこう振り返ってみても何か恨み的な心情は湧かざ、何かスッキリとしたものだけが心に残っている。
よくよく思えば、あの頃は、人との関係に変な腹の探り合いの様なやり取りも無く、またその必要も無く、自分も今から比べれば、そんなに擦れてなく、それなりに楽しかったかの様に思える……。
* * *
ミーンミーン
蝉の鳴き声がウザヤカマシイ体育の授業のさなか、俺は些細な言葉のやり取りで先生と喧嘩になり対峙していた。
本音を言うとその頃、裏でクラスを仕切っていた俺は先生が気に食わなかった。
そんな緊張空間の狭間に風がひと吹きした。
その風の影響で顔にかかった髪を先生が掻き上げた瞬間。
「もらったー!」
俺は、そう叫び、先生に向かって飛ぶ様に走り寄り、先生の頬に拳を突き出した、が、その拳先の先生の急に豹変した目、その視線に思ってもいない悪寒が走り、『罠』の字が頭に浮かび、すぐさま突き放った拳を引き戻すと同時に後ろにのけぞった、その鼻先を先生の弧を描いた内回しの蹴りである脚先が掠めていった……
「あら、よく避けれたわね、関心関心」
と髪が少し乱れ、目の縁を太く鋭く変えた先生は言った。
俺はその先生の視線に射抜かれた様な感じを受けて拳を思わず引き戻した、それは正解だった、それをしなければ、あの先生の蹴りを側頭に間違い無く、喰らっていた。
鼻先を掠めたそれは、打撃属性では、無く、風を切る、いや、たまたま吹いた向かい風を足首の動作で捉え練り返し、その空間に恐ろしい斬撃を作り出し、それは、足にまとわせた刃の様に感じた。
そして先生は本気でヤレる人だと思った、それが生徒でさえも……
「ごめんね、先生少し本気だっしゃった、大人げないよねー」
「……」
「でも上手く避けてくれてよかったよ」
「……」
「で、まだ続きやる?」
俺は今まで見た事のない、その野性を感じる先生にビビった、それに何か……もうやる気も失せてしまった。
「今日は、このくらいにしてやるよ」
「そう、ありがとう、じゃ列に戻って、なんなら今日は早退してもいいわよ」
と先生は何かを拾い上げ振った。
その時、先生が片靴を脱いでいる事に気づいた、その先生が振る靴は鞘の様な気がし、砂を降り落とすそのさまは、刃の血糊を拭っている様に思えた……
それが先生にツカカッタ最後の時でもあり、その後、卒業までの半年間、不思議と憑き物が落ちた様に俺は落ち着き、先生との仲は良くなっていた様に思える……。
* * *
そんな事を考えていると、
『そうだ、先生に会いに行こう』と言う考えが俺の中に芽生えて来た。
数日後、俺は先生の家を少し遠くから観ていた、何かドキドキした……何故だろか? よくわからなかった、よくわからないまま、俺は先生の家の玄関先に向かおうと足を一歩踏み出した時。
「ほらー トロいなー 行くよ」
と聞き覚えのある先生の声が聞こえ玄関の引き戸がスライドした
、俺は反射的に茂みに伏せる……
そこで見た光景は、紛れもなく先生だった……ただその後ろから出て来た奴は……確か一馬と言う学級委員長をやってだ何処かパッとしない同級生だった。
最初はどう言う事だと思ったが、すぐに自分の年齢から推測し意味がわかった……
『そうか、先生よ……そう言う事かよ……』と思った……
先生は、そのまま、ベルトをガチャガチャいじりながらフラフラと歩いている一馬の手を引っ張りながら、どこかに出かけてしまった。
俺は少し呆然とその場に留まり、帰ろうかと思った時……先生だけが引き返して来た! そう先生だけ。
俺は、慌ててまた茂みに隠れる様にしゃがみ込む……そして先生は、俺の方に向かって来た。
そして目の前に立った。
「こら、何をコソコソしてるだ、君は」
「あ、どうも先生、あのー、俺さ最近、仕事辞めて戻ってきて」
先生は俺の指が欠けた手や顔の傷には触れなかった。
「そうなんだ、所で気配がバレバレ、隠れる時は聴覚だけを頼りに、息を細めて、視線も伏せるって教えたでしょ」
「……人は潜在的に遠くからの視線に気付く、でしたっけ」
「そうよ、君の視線、真っ直ぐ飛び過ぎ、すぐ感じたわ」
「ところでさ、先生なんで?」
「……一馬君の事、好きになったからそれだけよ」
「それだけ」
「そうそれだけ、先生の事、軽蔑した?」
俺はそう聞かれ、そうは思わなかった、何故なら俺は都会の汚れ仕事で知ったからだ、それは皆んなただやりたいだけの猿だと知ったからだ。
ただ、先生が手を伸ばせば、手が届く人だったかも知れない事に後悔した。
普通にそんな事をはありえない、それも一馬なんかと……そして俺は、先生と対峙した時、その視線で射抜かれたものを知った、
それは俺の心だった……
その時、気づかずに長く先生に惚れていた事に気づいた……。
どうりでいろんな女を抱いても満足せずにイラついていたわけだ、俺は……
その答えも出た、でもすぐに手遅れな現実に行き着いた。
『先生の全ては、もうあいつの物……』
俺は気を紛らわす様に胸のポケットからタバコを取り出すが指が足りないので上手く箱からタバコを取り出せないでいると。
「もう、しっかりしてよ」
と先生はタバコを一本抜いて手渡してくれた。
「火をつけれるの?」
「はい、なんとか」
と言ったものの何か焦ってしまい、オイルライターをいくら擦っても火花が散るが、なかなか火は付いてくれない。
それに観かねて先生はタバコを俺から取り、自ら咥え。
「ん、貸して」
と指先クイクイとさせた手を差し出して来た。
俺はライターその手の上に乗せた。
先生は吸ってその火を付けたタバコを俺の割れた前歯の隙間に差し込んで来た。
それは俺を『男としては見ていない』と先生の黙言である別れの間接キスの様に俺は最初は思えたが、後で、これは俺を引き戻す為の先生なりの俺が過去に帝都で交わしでしまった杯の上書き的な打ち消しの様な物だったのかもしれないと考えた……この事から、残念ながら、どの道俺は、先生とは生涯師弟関係である事を確信した。
その場でそこから俺は、せっかく先生から再会の手を差し伸べてくれたのに、俺は……俺は、先生の唇、首元、胸、股ぐら、足、そして瞳……それらの女性的な部分を切なくて見ていられなくなってしまい。
「少し顔を見ようと思っただけなんで、もう帰ります」
と冷たく切り出し、先生に背を向けて歩き出してしまった。
後ろから先生が言う。
「またねー」
俺は振り向かず手だけを振り、心の中で思った。
『もう来るかよ、先生は相変わらずなにもわかってねえな、タバコも香水口紅臭せいよ」
幕
淡い夢だった……
ただすぐにその結末も俺らしく相応しいと思えた、
何故なら……
俺が都会である、帝都で仕事と言う皮手袋を被せ、おこなってきた、人達に対する嘘や酷い仕打ちを考えたら、俺が幸せになれるわけなんかないと納得したからさ……。
それに、
師の教えさえも自分に都合の良い様に解釈を捻じ曲げ、歪ませ、顔向けのできない様な罪深い事に使用してしまった……。
そんな俺が、これから今に生きて、親孝行できるだけでも儲けもんさ……そう、おれなんか……。[終]
題材・師
基本その人は永遠に師のままである。故に異性を師に選ぶ、または持つ時は心持ちを慎重になるべきである。
何故なら、その実が成熟し、もぎ取る事が出来る事は大変なリスクをともなっても、ごくごく稀な事なのだから……。
後書き
続編なので細かい場面の内容は、あえて触れずに書きました。
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