【R18】不滅館

仙 岳美

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【R18】不滅館

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注・【R18】

「だいぶ凝ってますね」
「最近何かと仕事でね、そこを強く」
「お仕事は、何をなさっているの?」
「ん、言ってなかったか、ワシは物書きだよ、でも最近なかなか面白い話が思いつかなくてね~、君なにか、ちまたで面白い話しのひとつでも聞いてないかね」
「……ではおひとつ、題名は……森の館……」
 
 今年二十二になる私は、駅から離れてると言う理由で賃貸が相場よりだいぶ安い、森の奥に建つレトロ風なアパートと言うよりも館と言った方がしっくり来る物件に三月程前に越して来ました。
その館は二階建ての六部屋で、外階段は無く二階には、唯一の出入り口でもある共通玄関から、すぐ横にある内階段から上がる感じでした。
 そんな感じで越して来て数日が経ったある日、私はその階段に、だらしなく黒のネクリジェ姿の上にべージュシルクが下地の薔薇柄のブラウスを肩がけに羽織り腰掛け、何も知らずに呑気に、そう呑気に……態々わざわざと象牙のパイプにタバコなんぞを差して鯉の様にプカプカと口をさせ、煙の輪などを浮かべては手で切り、時を空虚に垂れ流すように過ごしていました。
ちなみに、その館の入居者は私し以外に無く、その理由は今も存じません。と言うより、私はその時、仕事らしい仕事はしていなく、その心持から他の事柄に気を配る気もありませんでした。
でもこの館に居ると定期的になぜか、そうなぜか……様々な男性が二階奥の私の部屋を訪れ、気づくとベットの上にお金、お酒、煙草、食べ物、時には宝飾品なども置き土産の様に置いていってくれてました。いま咥えている象牙のパイプもそんな感じの貰い物で、そのパイプをくれたお方の話しだと人生を豊にするには、高価な象牙のパイプに、態々とタバコを差して吸う、その無駄な行為が大事な事だと私に教えてくれました。なんとなくおっしゃっている事は理解できました、それにパイプや煙草に限らずに普段から服も下着も貰い物で済ましている私にその事を否定する権利も無いと思いますし、その気も当然の如くに湧きませんでした。
それからは、従う様に頂いた象牙のパイプで花魁ぽっくタバコを吸う事にしました。
まあ、後の想像は、ご自由にお願いします……フー


「え、もう終わりかい?」
「あ、すみません、今のは、お話しの中の会話で、でも、もう終わりにしますか?」
「いやいや、これからと言うところではないか、もう少し頼むよ」
「あら嬉しい、では……ちょっとまってください、いま思い出しますので……」
「そう焦らなくてもいいよ、そうだ、買って来た駅弁でも食べて、休憩してから聞かせてくれ、まだまだ夜は長いしな」
「はい、今お茶入れますわね」

ガサガサ……

「ちょっと、味見」
「あ、先生、食べるか、それかどちらかで、お願、あ!」


 ……それから私は両手で自分の頭を押さえ、アーっとうめき、突如訪れる悩ましい持ち物である偏頭痛を起こし、そのまま階段で伏せってしまいましたが、数分後には嘘みたいに、ふと痛みは消えうせスッキリし、それと阿吽の呼吸の様に玄関扉が開き、見知らぬスーツ姿の男性が入って来て、私を見るなり目を丸くし、
「こんばんは、久しぶりに前を通ったら光が見えたもので……」
「こんばんは、部屋に行きましょうか、あなたも、私に何か用事があって来たのでしょ?」
「もし……椿さんですよね」
「……はい、つばきですよ」
「驚きました、二十年ぶりに来たのに容姿がまったく変わらなくて、いやはやそれどころか、あの頃より若返って見えますよ、ワシなんかもう年なりに下の毛にも白い物がチラチラな感じですよ」
「……二十年ぶりって」
その言葉に私はゆめうつつで話しを聞いてる事を認識し、目が覚め、その目の前に現れた男性に問いたのです。
「もう少し、詳しいお話を、お聞かせ頂けませんか?」
 私は知りました、今住んでいる館はひと昔前、特殊性癖的秘密倶楽部の半賭場も兼ねた売春宿で、私は借りている部屋の前の入居者は私と同姓同名だった事を……でもすぐにもうこの生活からは抜け出せないと思いました……。
そう思ってからは、憑き物が落ちた様に頭痛もしなくなり男性が訪ねて来てから帰るまでの曖昧だった記憶も不思議としっかりと甘美な記憶として残る様になりました。
今もその生活は楽しく続けております……。🥀

「と、こんな感じで憑き物に取り憑かれた女性の怪談でした、おしまい」

「……また~ うまいな~ 君は」

「ふふふ、でも少しまとまりが悪かった気もするわ、そこは流石に先生みたいには、いかないものね」

と前戯の様な床話しを終えると、私は喉の渇き感じ、食べ終えた駅弁の箱端に残っている杏子を指でつまみ、シャンパングラスに落とし込み、飲み干した後、カッチッと音がし「えっ!」っと、何処から持ちえたのか、先生に私は赤い首輪を取り付けられてしまいました。
「今日は物書きとして少し嫉妬したでな、ひさしぶりに下へ行くぞ」
「え、下とおっしゃりますと?」

 その夜、館には地下室がある事を初めて私は知りました……。

「枷下ろすぞ、そのまま動くでないぞ、挟むでな」
「はい」
キー ガッチャン! カッチリ!
「……」
「これでよし、ではゆくぞ」
「はい」
パッシン!
「あっ!」カッタン
パッパッシン!
「あっあー」カタカッタン

[完]✍🏻2024.01.11

まよいが[題材]
 迷って辿り着く無人家、そこから何か物を持ち出すと幸福が訪れると言う。※[遠野物語]参照
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