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第1章 猫になっちゃった
第6話 拾われて
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偶然でも奇跡に近い出会いに私は感極まる。
彼の姿を見た瞬間、心の底から安堵が込み上げた。会いたかった。会いたくて仕方なかった相手を見つけ、私は胸の風船が膨らむような感覚になる。
ジャージ姿と僅かに汗をかいている姿から、いつも日課にしているジョギングでもしていたのだと理解した。
陽太さんは私の体を抱き上げると、じっと私を見つめてきた。
「お前野良か? いや、飼い猫……迷子なのか?」
「にゃあ!」
私はジタジタ暴れて必死で訴える。
(私ですよ陽太さん! 陽菜子ですよ桜宮陽菜子! あなたと付き合ってる女です!)
しかし、喉からは勿論猫の言葉しか出てこない。
「ふにゃあ! にゃあ! みゃお!」
「そんな怖がるなって。何もしねーよ」
「にゃあー!」
違ーう! まったく相手に伝わらず、私は心の中で大きく叫ぶ。すると、陽太さんが着ていたジャージの上着を脱ぎ、私の体を包んだ。
「雨に濡れてびしょ濡れだな。寒かっただろ? 俺ん家に行くか」
大きな掌で優しく頭を撫でられた。頭を上げると、ニシシッと歯を見せて笑う陽太さんと目が合う。彼の匂いと温もりに包まれ、私の胸が鳴った。
整った顔立ちだから、普通にしていれば本当にカッコいいのだ。助平なとこさえ除けば誰もが惹かれるイケメンであることを改めて実感する。
それに泥水を被って汚れているにも関わらず、迷うことなく服に包んでくれる陽太さん。動物にも優しいのか……と私は感心した。
「にゃ……」
無意識に彼の体に顔を埋めれば、喜びと愛しさが込み上げて体が僅かに震える。陽太さんは私の体を抱っこしたまま歩き出し、公園を後にした。
*
「着いた着いた」
一人暮らしをしている陽太さんのマンションに到着し、私達は最上階にある部屋までエレベーターで上った。彼の部屋の扉を前にし、陽太さんは鍵を開けてガチャリとドアノブを捻る。
「ただいま~」
「バウッ!」
玄関に入った途端、愛犬の颯が出迎えた。猫のサイズで見るとシェパードの颯はかなり迫力を増して映る。颯はすぐに私に気づき、鼻を向けてふんふんと匂いを嗅いできた。ベロッとお尻を舐められ、変な声が出る。
「ふみゃあ!」
「おっと。怯えなくても平気だって。颯、怖がらせるなよ」
「ワフッ」
颯は尻尾を振って陽太さんに答えた。颯は私だって気づいてくれているだろうか。温厚である犬だが、この姿で大型犬の颯に万が一噛まれたら一溜まりもない。私は颯から逃げようと思わず陽太さんの肩に這い上がった。
「いてて。爪が痛いって。そうだ、体も濡れてるし、先に風呂でも入るか」
彼の提案に私の尻尾がピンッと反応した。
お風呂。そうだ、体もベタベタして気持ち悪い。一刻も早くこの汚れを落としたいと思っていたところだ。冷えた体も温まるだろう。多大な期待を抱いていると、陽太さんがボソッと呟いた。
「面倒くせえから俺も一緒に入ろ」
彼の言葉に私は一瞬思考が停止する。そこではたりとあることに気づいた。
今の私は、裸だ。一緒にお風呂に入るってことは、つまり陽太さんに体を洗われるということ。
「……!」
それを想像し、私はボンッと頭が沸騰した。
そのまま陽太さんは口笛を吹きながら浴室へと足を進める。確かにお風呂には入りたかったけど! でも一緒に入るとか無理! てか体洗われるの無理!
人間の姿でもまだ一緒に入ったことはない。何回か本気で誘われたけど羞恥に耐えられず私がいつも全力で断っていたのだ。猫の姿だからと言って素直に入れるほど図太い神経は持ち合わせていない。
一緒に入るのは私にとってハードルが高すぎる!
羞恥のあまり私は陽太さんの腕の中で暴れまくった。
「にゃあああ!」
「おい、暴れるなって!」
陽太さんの腕の力が一瞬弱まり、私は彼の腕から飛び降りるとリビングへとダッシュで逃げた。ソファの下に隠れて身を隠し、体を縮こませて息を潜める。
しかし、匂いを追ってきたのかすぐに颯がソファを覗き込んできた。
「バウッ!」
「にゃあ!」
静かにするよう颯に叱咤するも、背後に気配を感じた。振り返る前に逞しい腕が伸びて私はソファの下からずるずると引ずり出される。
「みゃああ!」
「見っけ。ほら逃げんなよ」
すでに上半身裸になっている陽太さん。彼の腕に戻され、体が熱くなった。久しぶりに彼の体温を直に感じて心が揺れる。トクトクと心臓が加速した。陽太さんの腕に抱かれることは、嫌いではないのだ。さらに陽太さんが困惑している私を落ち着かせようと顎を撫でてきた。その慣れた手つきにうっとりと私は目を細める。
ゴロゴロ……と喉が勝手に鳴った。
陽太さんの手は落ち着く。頭や頬を撫でられるのは、人間の頃から気持ちいいものだとずっと感じていた。警戒を解き、私は無意識に陽太さんの手に顔を摺り寄せる。
穏やかな心に戻ったその時だ。脇の下に両手を差し込まれ、体をぷら~んと持ち上げられた。
陽太さんが私の下半身に目を向けたかと思うと、口を開いた。
「あ。お前メスだったのか」
「!!!」
あらぬ場所を見て言葉を放った彼に体がビシッと硬直する。
(どこ見て判断してるの!?)
デリケートな場所に視線を向けられ体に熱を帯びた。
やっぱり前言撤回。イケメンじゃない! デリカシーが無さすぎる残念な男に私は怒りが込み上げた。
「にゃうう!」
体をくねらせて再び逃走を試みるも、陽太さんはガッシリ私の体を拘束して構わず脱衣所へと連行する。
陽太さんはズボンとパンツも脱ぎ、もうどこに目を向けていいかわからず私は視線を慌てて反らした。彼氏の裸なんて見慣れてはいるけど、状況が状況だけに平静を装えるものではない。
洗濯機と壁の隙間へ逃げ込もうとする前に、湯気に包まれた浴室に連れ込まれた。
彼の姿を見た瞬間、心の底から安堵が込み上げた。会いたかった。会いたくて仕方なかった相手を見つけ、私は胸の風船が膨らむような感覚になる。
ジャージ姿と僅かに汗をかいている姿から、いつも日課にしているジョギングでもしていたのだと理解した。
陽太さんは私の体を抱き上げると、じっと私を見つめてきた。
「お前野良か? いや、飼い猫……迷子なのか?」
「にゃあ!」
私はジタジタ暴れて必死で訴える。
(私ですよ陽太さん! 陽菜子ですよ桜宮陽菜子! あなたと付き合ってる女です!)
しかし、喉からは勿論猫の言葉しか出てこない。
「ふにゃあ! にゃあ! みゃお!」
「そんな怖がるなって。何もしねーよ」
「にゃあー!」
違ーう! まったく相手に伝わらず、私は心の中で大きく叫ぶ。すると、陽太さんが着ていたジャージの上着を脱ぎ、私の体を包んだ。
「雨に濡れてびしょ濡れだな。寒かっただろ? 俺ん家に行くか」
大きな掌で優しく頭を撫でられた。頭を上げると、ニシシッと歯を見せて笑う陽太さんと目が合う。彼の匂いと温もりに包まれ、私の胸が鳴った。
整った顔立ちだから、普通にしていれば本当にカッコいいのだ。助平なとこさえ除けば誰もが惹かれるイケメンであることを改めて実感する。
それに泥水を被って汚れているにも関わらず、迷うことなく服に包んでくれる陽太さん。動物にも優しいのか……と私は感心した。
「にゃ……」
無意識に彼の体に顔を埋めれば、喜びと愛しさが込み上げて体が僅かに震える。陽太さんは私の体を抱っこしたまま歩き出し、公園を後にした。
*
「着いた着いた」
一人暮らしをしている陽太さんのマンションに到着し、私達は最上階にある部屋までエレベーターで上った。彼の部屋の扉を前にし、陽太さんは鍵を開けてガチャリとドアノブを捻る。
「ただいま~」
「バウッ!」
玄関に入った途端、愛犬の颯が出迎えた。猫のサイズで見るとシェパードの颯はかなり迫力を増して映る。颯はすぐに私に気づき、鼻を向けてふんふんと匂いを嗅いできた。ベロッとお尻を舐められ、変な声が出る。
「ふみゃあ!」
「おっと。怯えなくても平気だって。颯、怖がらせるなよ」
「ワフッ」
颯は尻尾を振って陽太さんに答えた。颯は私だって気づいてくれているだろうか。温厚である犬だが、この姿で大型犬の颯に万が一噛まれたら一溜まりもない。私は颯から逃げようと思わず陽太さんの肩に這い上がった。
「いてて。爪が痛いって。そうだ、体も濡れてるし、先に風呂でも入るか」
彼の提案に私の尻尾がピンッと反応した。
お風呂。そうだ、体もベタベタして気持ち悪い。一刻も早くこの汚れを落としたいと思っていたところだ。冷えた体も温まるだろう。多大な期待を抱いていると、陽太さんがボソッと呟いた。
「面倒くせえから俺も一緒に入ろ」
彼の言葉に私は一瞬思考が停止する。そこではたりとあることに気づいた。
今の私は、裸だ。一緒にお風呂に入るってことは、つまり陽太さんに体を洗われるということ。
「……!」
それを想像し、私はボンッと頭が沸騰した。
そのまま陽太さんは口笛を吹きながら浴室へと足を進める。確かにお風呂には入りたかったけど! でも一緒に入るとか無理! てか体洗われるの無理!
人間の姿でもまだ一緒に入ったことはない。何回か本気で誘われたけど羞恥に耐えられず私がいつも全力で断っていたのだ。猫の姿だからと言って素直に入れるほど図太い神経は持ち合わせていない。
一緒に入るのは私にとってハードルが高すぎる!
羞恥のあまり私は陽太さんの腕の中で暴れまくった。
「にゃあああ!」
「おい、暴れるなって!」
陽太さんの腕の力が一瞬弱まり、私は彼の腕から飛び降りるとリビングへとダッシュで逃げた。ソファの下に隠れて身を隠し、体を縮こませて息を潜める。
しかし、匂いを追ってきたのかすぐに颯がソファを覗き込んできた。
「バウッ!」
「にゃあ!」
静かにするよう颯に叱咤するも、背後に気配を感じた。振り返る前に逞しい腕が伸びて私はソファの下からずるずると引ずり出される。
「みゃああ!」
「見っけ。ほら逃げんなよ」
すでに上半身裸になっている陽太さん。彼の腕に戻され、体が熱くなった。久しぶりに彼の体温を直に感じて心が揺れる。トクトクと心臓が加速した。陽太さんの腕に抱かれることは、嫌いではないのだ。さらに陽太さんが困惑している私を落ち着かせようと顎を撫でてきた。その慣れた手つきにうっとりと私は目を細める。
ゴロゴロ……と喉が勝手に鳴った。
陽太さんの手は落ち着く。頭や頬を撫でられるのは、人間の頃から気持ちいいものだとずっと感じていた。警戒を解き、私は無意識に陽太さんの手に顔を摺り寄せる。
穏やかな心に戻ったその時だ。脇の下に両手を差し込まれ、体をぷら~んと持ち上げられた。
陽太さんが私の下半身に目を向けたかと思うと、口を開いた。
「あ。お前メスだったのか」
「!!!」
あらぬ場所を見て言葉を放った彼に体がビシッと硬直する。
(どこ見て判断してるの!?)
デリケートな場所に視線を向けられ体に熱を帯びた。
やっぱり前言撤回。イケメンじゃない! デリカシーが無さすぎる残念な男に私は怒りが込み上げた。
「にゃうう!」
体をくねらせて再び逃走を試みるも、陽太さんはガッシリ私の体を拘束して構わず脱衣所へと連行する。
陽太さんはズボンとパンツも脱ぎ、もうどこに目を向けていいかわからず私は視線を慌てて反らした。彼氏の裸なんて見慣れてはいるけど、状況が状況だけに平静を装えるものではない。
洗濯機と壁の隙間へ逃げ込もうとする前に、湯気に包まれた浴室に連れ込まれた。
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