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クマさんと、ドンタコスゥコスマイリング その2

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「シャルロッタ、ちょっといいかな?」
 そう言って、僕はシャルロッタを彼女の執務室へと誘いました。
 
 そこで僕は、思っていた事をシャルロッタに伝えていきました。

・ミミー商会のミミーにちょっと憧れてしまったこと
・そのせいもあって、ある意味盲目的にミミー商会を推してしまったこと

 その上で

・ドンタコスゥコ商会の方が良心的に見えること
・ミミー商会はピリの引き抜きをおおっぴらに行おうとしているし、完全に信用出来ない気がし始めていること

 緊張のせいで、過呼吸気味になりながらも、一生懸命言葉を続けていく僕。
 そんな僕の言葉を、シャルロッタは真剣な表情で聞いてくれていました。

 どうにか僕が話し終わると……そんな僕の話を受けて、シャルロッタはしばらくの間考えを巡らせていたのですが……一度小さく咳払いをすると、改めて僕をまっすぐ見つめてきました。

「ミミー商会に最終的に決めたのは妾なのじゃ。それに、あの時点ではミミー商会以外に選択肢がなかったのも事実なのじゃし、クマ殿がそこまで気に病むことはないのじゃ。
 ……での、ミミー商会の所業によろしくない印象を持っていたのは妾も同じじゃし、ドンタコスゥコ商会に好印象を持っておるのもクマ殿と同じなのじゃ」

 シャルロッタはそう言うと、ミミー商会との契約書を取り出し、その内容を改めて確認していきました。

「……うむ、とりあえずミミー商会とは半年間缶詰を販売する契約を結んでおるのじゃが、その数量までは規定してはおらぬ。双方の話し合いの上で決めることになっておるのじゃし、独占契約でもないのじゃ。じゃからの、ドンタコスゥコ商会とも契約をしてもよいかもしれぬ……ただ」
「……ただ?」
「その……ミミーに憧れたとか……い、いや、なんでもないのじゃ! と、とにかく、すぐに手をうつからの」
「う、うん、わかった」

 顔を真っ赤にしながら足早に部屋を出て行ったシャルロッタなんだけど……えっと、ひょっとして、僕がミミーに憧れたって言ったから、嫉妬したとか……い、いやいやいやいやいや、そ、そんなはずがあるわけがない……こんな泥臭くて太めで、おっさんな僕に、あのシャルロッタが嫉妬だなんて……

「あ、しゃ、シャルロッタ!」

 頭を左右に振りながら、僕は慌ててシャルロッタの後を追いかけていきました。

* * *
 
 ここからのシャルロッタの行動はすごく早かった。

 ちょうどシャルロッタの邸宅に薬を持ってきてくれていたドンタコスゥコを見つけると、
「これとは別に、缶詰の卸売り契約も結ばせてほしいのじゃ」
 そう申し出たんです。
 これを受けて、ドンタコスゥコは、

「それはとてもありがたいお話なのですがねぇ……先に契約なさっておられますミミー商会さんは大丈夫なんですかねぇ?」

 そう確認してきました。
 こういったところをしっかりと確認してくるあたりは、やっぱり誠実なんだろうな、ドンタコスゥコさんって。

 僕が元いた世界で努めていた会社なんて、
『契約してしまえばこっちのもの』
 とばかりに、他社の契約を出し抜く形で強引な契約を結ばせたり、時には同じ会社の社員である僕がとって来た契約を出し抜いたりすることも日常茶飯事であったりしましたので……

「うむ、契約はしておるのじゃが、独占販売契約は結んではおらぬし、販売数量も双方の話し合いで決める契約になっておるので、問題はなかろう」

 シャルロッタから手渡された契約書の内容を確認していたドンタコスゥコは、

「そうですねぇ、この内容の契約でしたら、ウチも契約させて頂いても問題なさそうですねぇ。では、このドンタコスゥコ商会の看板にかけて、ニアノ村様が契約してよかったと思える英ターンをお約束させて頂きますねぇ」

 そう言うとにっこり笑みを浮かべました。

「うむ、こちらこそよろしく頼むのじゃ」

 お互いに握手を交わすシャルロッタとドンタコスゥコ。
 その姿を横で見つめながら、僕も思わず笑みを浮かべていました。

 その後、ドンタコスゥコとシャルロッタは、細かな条件の打ち合わせを行っていきました。
 
 その結果、ドンタコスゥコ商会はミミー商会の買い取り価格よりも高めの値段でピリの缶詰を買い取ってくれることになりました。

「そ、そんな値段で、本当によろしいのかの?」

 これには、それまで冷静に対応していたシャルロッタの方が目を丸くしていたのですが、

「はいですねぇ、商品にはその価値に見合った値段をお付けするのが、私、ドンタコスゥコの信条なのですねぇ。この缶詰にはそれだけの価値があると、私思っておりますのでねぇ」

 ドンタコスゥコはニコニコ笑いながら、手に持っているピリの缶詰を見つめていました。

 これを伝え聞いたピリに至っては、

「もうね、アタシ、ドンタコスゥコのために目一杯頑張っちゃうんだから!」

 そう言いながら、すごい勢いで缶詰を作りはじめた次第なんです。

 あの崖の崩落現場から結構な数の缶詰の入れ物を持ち帰っていたのですが、早速それが役にたっていました。
 あの崖も、もうじき復旧するでしょうし、缶詰の増産体制にも問題なさそうです。

* * *

 ピリが缶詰を増産している間、ドンタコスゥコ商会のみんなは、村の通りの一角で荷馬車販売を行っていました。
 毎朝恒例の朝市の一角に、ドンタコスゥコ商会の荷馬車が並んでいて、
「さぁさぁ、ドンタコスゥコ商会ですよ!」
「良い物をお安く!」
「信用第一!」
 そんな元気な声が、毎朝村に響いているんです。
 その声を聞いているだけで、なんだか元気になる気がします。
 それは、村のみんなも同じみたいで、朝市の賑わいがいつも以上になっていました。
 そんなドンタコスゥコ商会には、村人達から、

「こんなものはないか?」
「こんなものが欲しいんだけど」

 そんな要望まで寄せられていて、それを受けたドンタコスゥコ商会のみんなは、

「あぁ、それならここにありますね」
「本店に在庫がありますから、次回もってきますよ」

 そんな感じで、気さくに笑顔で対応をしてくれていたんです。

 ミミー商会のことをあんまり悪く言いたくはないんだけど……

 彼女達が村にやってきている時には、こんな光景は一度もありませんでした。
 確かに村にお金を落としてくれてはいたど……朝市は規模が小さいせいか興味を示してくれなくて……そんなミミー商会のおかげで村のみんながこんなに笑顔になったことは一度もなかったといいますか……

 村のみんなと笑顔で話をしているドンタコスゥコ商会みんなを見つめながら、僕はそんなことを考えていました。

「あ!クマ!いた!」

 そこにアジョイが駆け寄って来ました。

「クマ、遊んでよ!アジョイ退屈!」

 そう言うと、アジョイは僕の腕を引っ張りました。
 足が治った途端に、子供らしさを全開にしはじめたアジョイなんです。
 
 幸いといいますか、アジョイはミリュウの言葉を理解することが出来ました。
 そのおかげで、ミリュウもアジョイの相手をしてくれているのですが、
『アジョイの相手をすることで、将来の子育ての練習をしろってことなのね、ダーリン』
 瞳をハート型にしながら僕を見つめてくるミリュウを前にして……瞳って本当にハート型になるんだなぁ、なんて事を思ってしまっていた僕でした。

 この日も、僕はミリュウとアジョイと一緒に、森の外へ散歩に出かけた。

 ミリュウは、子育て云々と言っていましたけど、楽しそうにじゃれ合っている2人の姿を見ていると、僕は2人の保護者になった気がしていました。

 ……僕に子供がいたら、こんな感じだったのかな

 ミリュウはともかく、アジョイは見た目年齢が10才かそこらな感じです。
 僕が30才前後くらいの時の子供なら計算が合うわけなんですけど……そもそも、彼女いない歴=年齢の僕なんだし、結婚どころか彼女すら出来たことがないっていうのに、ホント、僕ってば何を考えてるんでしょう……

 2人の姿を見つめながら、僕はどこか乾いた笑いを浮かべていました。
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