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クマさんの考えたこと その4

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 シャルロッタのおかげで、いい意味でリフレッシュ出来た僕は、改めて今日の出来事を思い出していました。

 試食の配布と、その宣伝はシャルロッタの協力のおかげでなんとか出来ました。
 これで、流血狼のビーフシチューの名前がみんなに伝わったはずです。

 ……しかし、よく考えたらビーフはないよな……狼の肉なんだから、せめてウルフシチュー?
 咄嗟だったから仕方が無いとはいえ……知ってる人が聞いたら微妙な名前だよなぁ…… 

 そんな事を考えていたら、またネガティブになりそうになってしまった。
 僕は、慌てて顔を左右に振ると、再び両頬を張りました。

「ととととにかく……このままじゃ駄目なんだ、このままじゃ」

 僕がそう呟いたのには当然理由があるわけです。

 今日宣伝したこの缶詰をこの街で販売しようとした場合、2つの問題に直面することは間違いありません。

 まず1つは輸送の問題。
 村からこの街まで、片道3日かかります。
 その際に使用する荷馬車を村で準備しようとした場合、その商品を無事に届けなければならないため、荷馬車とその荷馬車を操馬する人、さらに荷馬車を護衛する人まで準備しなければいけません。
 強大な魔獣である流血狼が跋扈している森を抜けないといけないことを考慮すると、流血狼を倒せるだけの実力を持った人を護衛につけないといけないわけなんだけど、今、ニアノ村に住んでいる人の中で、そこまでの実力を持っている人間となると、僕しかいないわけで……
 とはいえ、往復で1週間近くかかる業務に僕がつきっきりになるのはあまり得策とは言えないというか……えっと、そ、その……本音としては、シャルロッタと1週間も離ればなれになってしまうのは、ちょっと嫌だといいますか、寂しいというか、それだけは避けたいというか……

 で、も、もう1つが、販売場所の問題です。
 今回の販売は、中央広場での露天販売だったわけです。
 今日はたまたま好天だったけど、もしこれが雨だったりしたら……1週間近くかけて往復しても、天気が悪かったら無駄足になってしまいかねません。
 ならば、思い切って店舗を購入して、そこでニアノ村のアンテナショップみたいなものを経営すれば……とも、思いはするのですが、取り扱い出来る商品が今のところ缶詰しかない状態でそこまで冒険は出来ないわけで……
 それに、店を構えてしまえば、そこで働く人を確保しなければならないし、建物の維持費も発生していくことになるわけだし……

 小規模で貧乏なニアノ村ですから、なるべくリスクは小さく、経費もかからず、それでいて少しでもリターンを大きくしたいと考えるのは当然なのですが……それはみんなが思うことであって、それが簡単に解決するのであれば、誰も悩みはしないわけです。

 ……実は、この2つの問題を解決出来る方法を思いついてはいるものの……これは、相手が動いてくれないことにはどうしようもないという、待ちの方法なんだよな……

 今日、広場で行った試食の噂が、僕が狙っている人達の耳に入って、その人達が缶詰に興味を持ってくれて、その上で僕の元を訪ねてくれれば……

「……そんなにうまくいくかどうかはわからないけど、まぁ、出来る手はうったわけだし……うん、とにかく出来ることを頑張らないと」

* * *

 事態が動いたのは翌朝のことでした。

「昨日、広場でビーフシチューなるものの試食を配布していたニアノ村の方々がこちらにお泊まりと聞いてきたのですが……」

 そう言いながら宿にやってきたのは、この村で商売をしているミミー商会の会長でミミーさんという兔人(ラビットピープル)の女性でした。
 
 年齢でいえば30代後半といった感じだろうか。
 青いショートヘアで、黒縁眼鏡がよく似合っている女性なんだけど……若干眼鏡萌えで、加えておもいっきり兎娘萌えな性癖を持ち合わせている僕は、そんなミミーさんを前にして、その姿を思わずガン見してしまっていた。

 ……眼鏡っ娘

 ……兎耳

 はぁ……はぁ……


「クマ殿……」
 
 そんな僕の異変に気がついたのか、僕の隣に立っていたシャルロッタが、ジト目で僕を見上げながら肘で脇腹を小突いてきました。
 
 ……な、なんだろう……最近、僕が他の女性にちょっとでも興味を示すと、すかさずシャルロッタから突っ込みが入ってくるような気が……

 と、とにかく、シャルロッタの突っ込みで我に返った僕は、一度咳払いをしてからミミーさんとの話を続けていきました。

「あ、あの……それで僕達に何か御用でしょうか?」
「えぇ、昨日、広場で配布されたというビーフシチューなる品物なのですが、もしよかったら私にも試食させていただけないかと思いまして」
 小首をかしげながらにっこり微笑むミミーさん。

 なんだろう……その仕草にまた興奮してしまいそうになった僕なんだけど、隣に立っているシャルロッタの存在を思い出して、どうにか堪えることが出来ました。
 
 僕は、ミミーとシャルロッタを、僕が宿泊している部屋へと案内し、そこでミミーさんにビーフシチューの缶詰を食べてもらいました。

 缶詰を開け、その中身をゆっくりと口に運んでいくミミーさん。
 その目は真剣そのものでした。
 ビーフシチューを口に含み、何度も噛みしめながら味を確かめています。

 ほどなくして、缶詰を食べ終えたミミーさんは、

「……シャルロッタさん、クマさん、この缶詰なのですが、我がミミー商会で買い取りさせていただくわけにはいかないでしょうか? 取り分についてはそちらの希望通りで構いません。その他の条件に関しても、なるべくそちらの条件を呑ませて頂こうと思っています。この条件でいかがでしょう?」

 そう言って、僕達に向かって頭をさげました。

 そんなミミーさんに、改めて言葉を発しようとした僕なんだけど……緊張のせいでしょうか、口があうあうするばかりで、言葉が出てきません。

 ……だめだ、これじゃあ昨日と……今までと同じじゃないか

 ここで僕は自らの頬を思い切り叩きました。
 その様子に、ミミーさんとシャルロッタがびっくりしているのがわかりました。

「……うん、そ、それではミミーさん、こちらからのお願いなのですが……」

 少しどもってはいるものの、どうにか言葉を続ける事が出来ました。
 そうなんだ、ここで僕が頑張らないと……

 ここで僕が出したお願いというのは……

・缶詰の買い取りは、ニアノ村で行いたい。
・ミミーさんの商会には、ニアノ村まで缶詰を買い取りに来てほしい。
・販売も、ミミー商会で行ってほしい。
 
 以上の3点なのですが、ミミーさんがしばらく腕組みをして考えた後に、

「……わかりました。それで問題ありませんわ」

 笑顔で、頷いてくれました。
 そんなミミーさんを見つめながら、僕は安堵のため息を漏らしていました。

 そうなんです……僕が考えていた作戦……それが、まさにこれなんです。

 この街の商店に僕達の缶詰を買い取ってもらって販売をしてもらう。
 その取引は村まで荷物を受け取りに来てもらい、そこで行うことにする。
 そうすれば、僕達は缶詰の輸送のことで悩まなくて済む。
 しかも商会に販売まで任せてしまえば、販売場所の確保やその維持の事も考えなくていい。

 村の取り分は減ってしまいますけど、輸送と店舗の問題が解決することを考えればこれでも十分ありがたいですからね


 最初は、いくつかの店や商会が申し出てくるのを待って、その店の代表を集めて入札をしようと思っていたのですが、

「シャルロッタ、条件としては申し分ない気がするし、ミミー商会さんのこの申し出を受けてもいいかな?」

 僕は、シャルロッタに尋ねました。

 い、いえね……べべべ、別にミミーが僕好みの属性をしていたからだなんて、そそそそんな事は加味はしてないんだよ……ちょっとしか……

 そんな僕の言葉を聞いたシャルロッタは、
「……ふむ……少々邪な気配を感じたような気がしないでもないのじゃが……クマ殿がそう思うのであれば、妾に異存はないぞ」

 少しジト目をしながらも、そう言って頷いてくれました。
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