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クマ、出発する その2
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僕の部屋の前で、ピリに呼びとめられた僕。
昨夜、シャルロッタの部屋で出くわしたピリなのですが……シャルロッタと僕がキスしているシーンは見られていなかったみたいで、朝食の際にも、
「クマ様、さぁさぁいっぱい召し上がってくださいな! お好みがございましたら何でもお申し付けくださいね!」
って、満面の笑みで僕の背後に付き従ってくれていたんだ。
時折小声で、
「これも花嫁修業ですから……」
そんな事を僕の耳元でささやくピリ。
そんな僕の正面で朝食をとっていたシャルロッタが
「……どうも、ピリとクマ殿は仲が良すぎというか……」
って、ブツブツ言いながら、ジト目で僕とピリを見つめていたような気がしないでもなかったのですが、ピリはというと、そんなことお構いなしとばかりにかいがいしく僕の世話をやいてくれまくっていたんです。
「ピリ、どうかしたのかい?」
そんな朝の事を思い出していた僕は、半歩引き気味になりながらピリへ視線を向けていった。
そんな僕にピリが笑顔で近づいてくる。
「聞きましたよ、なんでも山賊退治に出向かれるとか」
そう言うと、ピリは僕にネックレスを差し出してきました。
「これ、アタシがばあちゃんからもらった魔石のお守りなの。クマさま、持って行ってよ」
「え? そんな大事な物を……」
「いいからいいから」
遠慮しようとする僕に、ピリはつま先立ちになりながらネックレスを僕の首に装着してくれた。
……あ、あれ?
その時、僕は妙な感覚に襲われた。
なんだろう……体に力がみなぎってきたような……
「アタシのばあちゃんってさ、結構有名な魔法使いだったらしいの。そのばあちゃんが目一杯の加護を込めた魔石のネックレスだからさ、きっとクマ様に何かあっても守ってくれるよ!」
「へぇ……じゃあひょっとしてピリも魔法を使えるのかい?」
「アハハ、残念ながら……アタシも母さんも、ばあちゃんの魔法の素質は引き継げなかったみたいでさぁ」
ピリは苦笑しながら僕を見つめていた。
「でもね、このネックレスを持っていたら、こうしてクマ様に出会えたわけだし。ね? 効果は抜群でしょ!」
そう言って笑うピリ。
僕はそんなピリに笑顔を返すと、
「ありがとう、お守りとして大事に身につけさせてもらうよ」
そう言ったんだけど……そんな僕の目の前で、ピリは目を閉じながら僕へ向かって気持ち頬を上げ気味にしていた。
……こ、これって……あ、あれですが……あの、で、伝説のキス待ち顔?
ちょ
ちょ
ちょ
ちょおっと待ってほしい……
こんなどうしようもない僕の前で、こんな顔をしてキスをねだってくる女性が現れるなんて……い、いや、確かにミリュウにも迫られたこともあったし、シャルロッタにはキスまでしてもらったわけだけど……
あたふたしながらも、ピリの唇から目が離せなくなっている僕。
思わず、その唇に引き寄せられそうに……
ガシッ
ここで僕はピリの両肩を掴んだ。
もったいない
死ぬほどもったいない
でも……僕にはこうすることしか出来ない。
そう……僕には、一生かけて守ると心に決めたシャルロッタがいるんだ。
「クマ様?」
怪訝そうな表情をその顔に浮かべながらそっと目をあけるピリ。
そんなピリを、僕は真剣な眼差しで見つめていった。
「ぴ……ピリ……そ、その……こ、こ、ここんな僕にそんなことを求めて頂けるなんて、本当に光栄なことこの上ないわけなんだけど……そ、そ、その、今の僕にはその行為にお答え出来るだけの資格がないといいますか……その、大変申し訳ないんだけど……」
僕が時折声を裏返らせながらそう言っていると、ピリはその表情をぱぁっと明るくしながら、胸の前で両手を組み合わせた。
「クマ様ってば、私のことをそんなに大事に思ってくださっているのですね!」
「……はい?」
「だって、キスとかそういう行為は結婚するまで待って欲しいって、そういうことでしょ? 純血のまま結ばれた夫婦は一生幸せに添い遂げられるって伝承を実践してくださろうとしてくださっているのでしょう?」
「え? あ、い、いや……」
「あぁ、アタシ達の幸せのために、体を求めるどころかキスまで我慢なさろうとしてくださるなんて……アタシってばなんて果報者なんでしょう」
そう言うと、ピリはその両頬を真っ赤にすると、
「……でも」
そう言いながら僕に飛びつき、僕の頬にキスをした。
「……これくらいは、ね」
悪戯っぽく笑いながら僕から離れたピリは、そのまま廊下を駆けていった。
恥ずかしかったのか、ややうつむきながら両手で顔を覆っているのがわかった。
っていうか……僕に抱きついてきた際のピリなんだけど……細身だとばかり思っていたピリ……結構胸が大きかったんだな……なんか腕のあたりにぽにょんとした感触が……
僕は、ピリがキスしてくれた頬を押さえながらその感触をずっと思い出し続けていた……
そんな事がありながらも……僕は部屋に入ると、出発の準備をしようとしたのですが……うん、無理……
なんかもう、いろんなことが頭の中をグルグルまわっちゃって、すぐには何も出来そうにないというか……
とりあえず一度ベッドに飛び込んだ僕は、枕に顔を埋めたまま、必死に気持ちを落ち着かせていきました。
事ここに至って、特に下半身が非常にやばい状態になっていたわけなんだけど……えぇい、静まれ!
* * *
翌朝までには、あれこれ準備を整えた僕。
気のせいか、すごく体調がいい。
最近は、どこか虚脱感を感じていたんだけど、今朝はそれが嘘のように晴れやかというか、体に力が満ちあふれている感じでした。
ひょっとしたら、これもピリのお守りのおかげかもしれません。
「では、まいろうかの」
邸宅の前で、旅装のシャルロッタがそう言いました。
シャルロッタは、冒険者の服装の上に簡易式の鎧を身につけています。
その格好で、荷馬車の操馬台に座っています。
今回の山賊討伐は、シャルロッタと僕の2人で出向くことになっています。
向こうの街の依頼主も参加してくれるみたいだし、まぁ2人でも十分なんじゃないかな。
「クマ様、シャルロッタ様、お気をつけて」
僕たちをピリが笑顔で見送ってくれています。
その後方にはシャルロッタの部下の騎士達が並び、さらにその後方にはミリュウの姿がありました。
ミリュウは、思いっきり拗ねた表情をしています、はい。
「ミリュウも一緒にいきますの!」
って、すっごく主張してきたのですが、さすがにラミアのミリュウを連れていくと何かと問題が起きかねないものですから……いくら僕の使い魔とはいえ、向こうの村の人たちは事情を知らないわけですからね。
そんなわけで、3時間かけて説得して留守番を承諾してもらいました。
……で、今のミリュウは、駄々っ子のように口を尖らせたまま僕をジッと見つめ続けています。
「帰ってきたら遊んであげるから」
そう声をかけても、あまり嬉しそうな顔をしないミリュウ。
そんな一同に見送られながら、僕とシャルロッタをのせた荷馬車は、邸宅前を出発していきました。
昨夜、シャルロッタの部屋で出くわしたピリなのですが……シャルロッタと僕がキスしているシーンは見られていなかったみたいで、朝食の際にも、
「クマ様、さぁさぁいっぱい召し上がってくださいな! お好みがございましたら何でもお申し付けくださいね!」
って、満面の笑みで僕の背後に付き従ってくれていたんだ。
時折小声で、
「これも花嫁修業ですから……」
そんな事を僕の耳元でささやくピリ。
そんな僕の正面で朝食をとっていたシャルロッタが
「……どうも、ピリとクマ殿は仲が良すぎというか……」
って、ブツブツ言いながら、ジト目で僕とピリを見つめていたような気がしないでもなかったのですが、ピリはというと、そんなことお構いなしとばかりにかいがいしく僕の世話をやいてくれまくっていたんです。
「ピリ、どうかしたのかい?」
そんな朝の事を思い出していた僕は、半歩引き気味になりながらピリへ視線を向けていった。
そんな僕にピリが笑顔で近づいてくる。
「聞きましたよ、なんでも山賊退治に出向かれるとか」
そう言うと、ピリは僕にネックレスを差し出してきました。
「これ、アタシがばあちゃんからもらった魔石のお守りなの。クマさま、持って行ってよ」
「え? そんな大事な物を……」
「いいからいいから」
遠慮しようとする僕に、ピリはつま先立ちになりながらネックレスを僕の首に装着してくれた。
……あ、あれ?
その時、僕は妙な感覚に襲われた。
なんだろう……体に力がみなぎってきたような……
「アタシのばあちゃんってさ、結構有名な魔法使いだったらしいの。そのばあちゃんが目一杯の加護を込めた魔石のネックレスだからさ、きっとクマ様に何かあっても守ってくれるよ!」
「へぇ……じゃあひょっとしてピリも魔法を使えるのかい?」
「アハハ、残念ながら……アタシも母さんも、ばあちゃんの魔法の素質は引き継げなかったみたいでさぁ」
ピリは苦笑しながら僕を見つめていた。
「でもね、このネックレスを持っていたら、こうしてクマ様に出会えたわけだし。ね? 効果は抜群でしょ!」
そう言って笑うピリ。
僕はそんなピリに笑顔を返すと、
「ありがとう、お守りとして大事に身につけさせてもらうよ」
そう言ったんだけど……そんな僕の目の前で、ピリは目を閉じながら僕へ向かって気持ち頬を上げ気味にしていた。
……こ、これって……あ、あれですが……あの、で、伝説のキス待ち顔?
ちょ
ちょ
ちょ
ちょおっと待ってほしい……
こんなどうしようもない僕の前で、こんな顔をしてキスをねだってくる女性が現れるなんて……い、いや、確かにミリュウにも迫られたこともあったし、シャルロッタにはキスまでしてもらったわけだけど……
あたふたしながらも、ピリの唇から目が離せなくなっている僕。
思わず、その唇に引き寄せられそうに……
ガシッ
ここで僕はピリの両肩を掴んだ。
もったいない
死ぬほどもったいない
でも……僕にはこうすることしか出来ない。
そう……僕には、一生かけて守ると心に決めたシャルロッタがいるんだ。
「クマ様?」
怪訝そうな表情をその顔に浮かべながらそっと目をあけるピリ。
そんなピリを、僕は真剣な眼差しで見つめていった。
「ぴ……ピリ……そ、その……こ、こ、ここんな僕にそんなことを求めて頂けるなんて、本当に光栄なことこの上ないわけなんだけど……そ、そ、その、今の僕にはその行為にお答え出来るだけの資格がないといいますか……その、大変申し訳ないんだけど……」
僕が時折声を裏返らせながらそう言っていると、ピリはその表情をぱぁっと明るくしながら、胸の前で両手を組み合わせた。
「クマ様ってば、私のことをそんなに大事に思ってくださっているのですね!」
「……はい?」
「だって、キスとかそういう行為は結婚するまで待って欲しいって、そういうことでしょ? 純血のまま結ばれた夫婦は一生幸せに添い遂げられるって伝承を実践してくださろうとしてくださっているのでしょう?」
「え? あ、い、いや……」
「あぁ、アタシ達の幸せのために、体を求めるどころかキスまで我慢なさろうとしてくださるなんて……アタシってばなんて果報者なんでしょう」
そう言うと、ピリはその両頬を真っ赤にすると、
「……でも」
そう言いながら僕に飛びつき、僕の頬にキスをした。
「……これくらいは、ね」
悪戯っぽく笑いながら僕から離れたピリは、そのまま廊下を駆けていった。
恥ずかしかったのか、ややうつむきながら両手で顔を覆っているのがわかった。
っていうか……僕に抱きついてきた際のピリなんだけど……細身だとばかり思っていたピリ……結構胸が大きかったんだな……なんか腕のあたりにぽにょんとした感触が……
僕は、ピリがキスしてくれた頬を押さえながらその感触をずっと思い出し続けていた……
そんな事がありながらも……僕は部屋に入ると、出発の準備をしようとしたのですが……うん、無理……
なんかもう、いろんなことが頭の中をグルグルまわっちゃって、すぐには何も出来そうにないというか……
とりあえず一度ベッドに飛び込んだ僕は、枕に顔を埋めたまま、必死に気持ちを落ち着かせていきました。
事ここに至って、特に下半身が非常にやばい状態になっていたわけなんだけど……えぇい、静まれ!
* * *
翌朝までには、あれこれ準備を整えた僕。
気のせいか、すごく体調がいい。
最近は、どこか虚脱感を感じていたんだけど、今朝はそれが嘘のように晴れやかというか、体に力が満ちあふれている感じでした。
ひょっとしたら、これもピリのお守りのおかげかもしれません。
「では、まいろうかの」
邸宅の前で、旅装のシャルロッタがそう言いました。
シャルロッタは、冒険者の服装の上に簡易式の鎧を身につけています。
その格好で、荷馬車の操馬台に座っています。
今回の山賊討伐は、シャルロッタと僕の2人で出向くことになっています。
向こうの街の依頼主も参加してくれるみたいだし、まぁ2人でも十分なんじゃないかな。
「クマ様、シャルロッタ様、お気をつけて」
僕たちをピリが笑顔で見送ってくれています。
その後方にはシャルロッタの部下の騎士達が並び、さらにその後方にはミリュウの姿がありました。
ミリュウは、思いっきり拗ねた表情をしています、はい。
「ミリュウも一緒にいきますの!」
って、すっごく主張してきたのですが、さすがにラミアのミリュウを連れていくと何かと問題が起きかねないものですから……いくら僕の使い魔とはいえ、向こうの村の人たちは事情を知らないわけですからね。
そんなわけで、3時間かけて説得して留守番を承諾してもらいました。
……で、今のミリュウは、駄々っ子のように口を尖らせたまま僕をジッと見つめ続けています。
「帰ってきたら遊んであげるから」
そう声をかけても、あまり嬉しそうな顔をしないミリュウ。
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