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ラミアと料理番と領主 その6

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 そして、その目の前、門の前に……ミリュウの姿がありました。
 そんなミリュウは、僕の姿に気がつくと、

「ダーリン!会いたかったの!」

 胸の前で両手を合わせながら目をうるうるさせています。

 ……う

 これって、あれだよね……僕が元の世界でよく見ていた漫画のヒロインのラミアがしょっちゅうやっていたポーズと瓜二つなんだけど……い、いかんいかん、そんな仕草にくらっとなんかしてないんだから!

 そんな事を考えている僕に、ミリュウは一気ににじり寄ってこようとしました。

「まった!」

 そんなミリュウに、僕は右手で制止するよう合図を送った。

「ダーリン?」

 それを受けて、ミリュウはその場で停止して、首をひねっています。
 どうにか言うことを聞いてくれたミリュウを前にして、安堵のため息をついた僕は、改めてミリュウへ視線を向けました。

 ……服は着ていないけど、背中から胸のあたりにかけては鱗のようなもので覆われている……尻尾を覆っている鱗と背中のその部分の鱗はどうやら別物のような感じだ……とすると、上半身の鱗はひょっとしたら脱げたりするのかもしれない。
 ピンクの髪の毛をしているそのラミアの女の子……うん、ホントに、顔だけ見ていればすっごく可愛いんだよな……

 ミリュウの事を改めて観察した僕は、一度咳払いをすると、

「なぁ、ミリュウ。君は僕に恩返しをしたいっていったよね?」
「えぇ、そうだよダーリン」
「それは具体的にどういうことをしたいってことなのかな?」
「ダーリンのお側に使えてダーリンのお世話をしてダーリンの言うことを聞いてダーリンの……」
 
 ……なんだこれ

 なんか、ミリュウってばひたすら「ダーリンのために」を繰り返しているんだけど……

「……なぁミリュウ」
「はいですの?」
「……君が僕のためにあれこれしたいっていうのはわかったんだけど……君はラミアじゃないか」
「はいですの」
「そして僕は人間だ」
「はいですの」
「つまりだね、僕と君は一緒に暮らすとか、そういうのはちょっと……」
「大丈夫ですのダーリン、愛さえあれば種族の壁なんて軽く乗り越えて見せますの!」
「あ、愛って……あのさ、僕は君を救っただけであってだね、いきなり愛と言われても……」

 困惑しきりな僕なんだけど、そんな僕の前でミリュウは目をキラキラさせ続けています……気のせいでしょうか、その瞳がハート型になっている気がしないでもないといいますか……

「ミリュウはダーリンに助けられましたの。あのときのダーリン、ってもかっこよかったですの。流血狼を大きな木を振り回して殴っては殴り、殴っては殴り、また殴っては殴り……」
「……そ、それって殴ってしかいないよね?」
「その勇ましいお姿を拝見したミリュウは決めましたの! 一生かけて恩返しをさせていただきますの!って。 ミリュウの愛をこめまくってですの!」
「い、いや……だ、だからあれは、偶然というかたまたまというか……」
「そういう奥ゆかしいところも愛しておりますの、ダーリン」

 何を言っても、まっすぐ僕に向かってくるミリュウ。
 そんなミリュウに僕は困惑しきりでした。
 そんな僕に、ミリュウはさらにまっすぐな瞳を向けているのですが……やっぱりその瞳がハート型をしているように見えなくもないといいますか……

* * *

 ……その後、僕とミリュウの話し合いは1時間近く続いていきました。

 そして……

「……と、言うわけで……このラミアのミリュウは僕の使い魔として、村のお手伝いをしてくれることになりました」

 門を開けてもらい、ミリュウと一緒にその中へ入った僕は、そう言ってミリュウをみんなに紹介しました。
 そんな僕の横でミリュウは、

「というわけで、ダーリンの使い魔になりましたミリュウですの。よろしくお願いいたしますの!」

 満面の笑顔でそう言うと、ぺこりと頭を下げていった。
 ……もっとも、村のみんなには、ミリュウの言葉は相変わらずうなり声にしか聞こえていないみたいなのですが……

 いくら「恩返しなんていいから」と言っても、帰ろうとしなかったミリュウ。
 それどころか、

「家族はみんな流血狼に殺されてしまいましたの……ミリュウにはもう帰る場所がございませんの」

 と、目をうるうるさせながら言われてしまった日には、追い返す事も出来ないといいますか、もう、この辺りを落としどころにするしかないか、と、思ったわけなんです。

 ミリュウを紹介しながら苦笑している僕。
 そんな僕を見つめながら、村のみんなは一様に目を丸くしていたのですが、程なくしてシャルロッタが口を開きました。

「……く、クマ殿は、そのラミアを使い魔にしたというのかの? ……に、しては……そのラミアには契約の首輪がないように見受けるのじゃが」
「契約の首輪?」
「うむ、魔獣使いスキルの持ち主が魔獣と使い魔の契約を結ぶとじゃな、その魔獣の首に契約の首輪が出現するはずなのじゃが……」

 シャルロッタは、そう言いながらミリュウを見つめ続けていました。

 ……そ、そんなことを言われても……

 その言葉を受けて、今度は僕が困惑する番でした。

 確かにミリュウと話は出来ているのですが……そもそも僕が魔獣使いスキルの持ちかどうかも怪しいわけですし……だいたい、使い魔の契約の仕方なんて知ってるわけがありません。

 僕が困惑していると、そんな僕の側にミリュウがにじり寄ってきました。

「大丈夫よダーリン、ミリュウね、契約の仕方を知ってますの」
「え?」

 そう言うと、ミリュウは僕の手を取り、その手を自らの額にあてがいました。

「ラミア族のミリュウ、ここに宣言するの。ダーリンを主人とし、その使い魔となることを!」

 ミリュウがそう言い終えると同時に、僕の手が光りました。
 同時に、ミリュウの首にも光が発生していき、しばらくすると、その光は首輪に姿を変えていったのです。

「え? な、なんだなんだ!?」

 何が起こったのかさっぱりわからなくて、ひたすら困惑することしか出来ない僕。
 そんな僕の横で、シャルロッタが

「おぉ! まさに契約の首輪! クマ殿がこのラミアを使い魔にした証なのじゃ!」

 そう言いながら、歓喜の声をあげました。
 同時に、周囲に集まっていた村人達も歓声をあげていきました。

「クマ様すごい!」
「伝説の魔獣を使い魔にしちまうなんて!」
「クマ様!」
「クマ様!」

 その歓声のすごさに戸惑う僕。
 そんな僕の前で、ミリュウはというと、
「この首輪は、ミリュウとダーリンの愛の絆なの。末永くよろしくお願いいたしますの」

 そう言いながら、自分の首に巻き付いている頑強そうな首輪を愛おしそうに撫でていました。
 その頬は上気し、うっとりとした視線で僕を見つめています……その瞳は、確実にハート型になっていました。

 そんなミリュウと、周囲の歓声を前にして、僕はただただあたふたし続けていた。
 シャルロッタは、そんな僕の元に歩み寄ると、

「本当にクマ殿はすごいのじゃ……村を襲おうとしていたラミアを改心させてしまうとは……」
「あ、いや、そ、それは偶然といいますか、たまたまといいますか……」
「うむ、その奥ゆかしいところも、素敵なのじゃ」

 そう言って、にっこり微笑むシャルロッタ。

 元いた世界では、仕事で成果をあげても横取りされたり、難癖を付けられたりして
……いつも嫌な思いをしていた僕なのですが……不可抗力とはいえ、僕の成果を評価してもらえているのが、とっても嬉しかった。
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