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クマ様と森の魔獣 その3

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「わっとっと……」

 僕が着地したのは、魔獣達が集まっているど真ん中だった。
 いきなり空中から出現した僕に、最初こそびっくりしていた魔獣達なんだけど、すぐに周囲を取り囲みながら、うなり声をあげはじめた。

「み、みたところ、犬……というよりも狼みたいな感じなのかな? 映画の中でしか見たことがないけど……と、とにかく頑張らないと……」

 僕は、近くに生えていた、割と大きな木に抱きついた。

 僕の作戦はこうだった。

 なるべく魔獣の声の少ない場所……つまり、魔獣の数が少ない場所を聞き分けてそこへジャンプして、近くの木を引っこ抜いて、その木を振り回して魔獣をぶん殴る。

 狩りなんて、ゲームの中でちょっとしかしたことがない僕……そうなんだよね、なんか狩りのゲームが楽しく思えなくて、すぐに辞めちゃったんだ。
 そんな僕に、魔獣と駆け引きをしたりとか、細かい作戦をたてることなんて出来るわけがない。

「ん~……」

 必死に、木を持ち上げる僕なんだけど……も、もしも、あの異常なパワーが一時的な物だったりしたら、僕はここで死んでしまうかもしれないんだな。
 その事に、今更のように気がついた僕は、

「ふぎぎぎぎぃ」

 必死になって踏ん張った。

 メキ……メキメキメキ!

 程なくして、割と大きな木を根元から引っこ抜く事に成功した。
 すると、僕にジリジリと接近していた魔獣達が、一斉に距離を取った。

……はは……僕なんかを警戒しているのかな? 

 そう考えると、なんだか笑えてしまう。
 でもまぁ、今の僕は引っこ抜いたばかりの木を、軽々と振り回しているわけだし……警戒するなという方が難しいのかもしれないな。

「さて……上手くいくかどうかわからないけど、とにかく頑張ってみよう!」

 僕は、大きく息を吸い込むと、思いっきり木を振り回していった。

 1回目は不発。
 2回目も不発。

 狼に似ているだけあって、僕が振り回している木を俊敏な動きで回避している魔獣達。

「こうなったら、根比べだな」

 思いっきり木を振り回していく僕。
 相変わらず、魔獣達は軽快な動きでそれを交わしていく。
 
 そんな時間が、

 10分……

 20分……

 1時間……

 と、延々続いていく。
 僕は、ぜぇぜぇ息をきらしているものの……実はそんなに疲れていなかった。
 やっぱり、身体能力が強化されているみたいだ。

 いつまで経っても、僕が木を振り回し続けているもんだから、いつの間にか魔獣達の方が焦りはじめていた。
 最初の頃は、僕が木をフルスイングした隙をついて、襲いかかろうとしたりしていたんだけど……今では、僕が振り回す木を交わすのに必死になっている感じになっている。

 まぁ、木を振り回しまくったおかげで、僕もコツを掴んできたのもあると思う。

 おかげで、さっきまでの間に魔獣を3匹倒すことが出来ていた。

「……この魔獣達を持って帰ったら……シャルロッタも喜んでくれるかな」

 そんな事を考えると、俄然やる気が倍増してしまう僕。
 
「よぉし! まだまだ頑張るぞぉ!」

 気合いを入れて、木をフルスイングしていく僕。
 最初の頃は、ブゥン……ブゥン……といった感じで、一回振り回す度に隙が出来ていたんだけど、今は、ブンブンブン! と、連続で振り回せるようになっている。
 
 木を振り回しながら魔獣達に駆け寄っていく僕。
 そんな僕を前にして、後方に飛び退いていく魔獣達。
 
* * *

「あ……あれ?」

 息を切らしながら、木を振り回し続けていた僕は、いつの間にか夜が明けていたことに気がついた。

「ここに来た時って、まだ夜中前だったから……結構な時間、頑張ってたんだな」

 息をきらしながら木を足元に置いた僕。
 よく見たら、もう周囲に魔獣達は残っていなかった。

 僕の周囲には、夜の間に倒した魔獣達が転がっていた。

 それを集めると、30匹近い魔獣を狩ることが出来ていた事がわかった。
 どの魔獣もそんなに大きくはなかったけど、はじめての狩りでこれだけ狩れたらなかなかすごいんじゃないかな……って、思っている反面、シャルロッタや村のみんなが見たら、

「なんじゃ、こんな小物を、これっぽっちしか狩れなかったのかの?」

 なんて言われるかもなぁ……なんて事も考えてみたり。
 まぁ、基準がわからないんだから、しょうがないよね。

 最初は、空腹を満たせればいいやくらいに思っていたんだけど、小さい魔獣をたくさん狩れたもんだから、つい
『よ~しシャルロッタのために、もっと頑張っちゃうぞ!」
 とか独り言を言いながらすっごく頑張っちゃって……その結果、こんな時間まで夢中で狩りを続けていたわけなんだけど……

「さて、じゃあ帰るとしようか」

 僕は、近くの木の幹に絡みついていた蔦を使って魔獣達を縛り上げた。
 その魔獣の山を、

「どっこいしょ、っと」

 担ぎ上げると、村に向かって歩き始めた。

* * *

 まだ門が開いていなかったので、僕は思いきりジャンプして柵を越えた。
 このジャンプも少しなれた気がする。
 魔獣を担いでいるのに、結構バランスよく木の柵を跳び越えて、村の中にある街道へ着地することが出来たんだ。

「……ん?」

 そんな僕の耳に、何やら賑やかな話し声が聞こえてきた。
 耳を澄ましてみると、それは僕が居候しているシャルロッタの邸宅の方から聞こえてきた。
「なんだろう……」
 そう思いながら、魔獣を担いだまま歩いていると……

「さぁさぁ安いよ安いよ」
「さっき畑でとれたばかりの野菜さ」

 そんな元気な声が、はっきりと聞こえてきた。

 あぁ……そう言えばシャルロッタが言ってたっけ、

『この街道での、毎朝、市を開いておる。食べ物などはそこで売買されておるのじゃ』

 って。 

 僕は、担いでいる魔獣の山を見上げた。

「……ひょっとして、この魔獣の肉も売れたりするのかな……」

 そんな事を考えながら、僕は街道の方へ向かって歩いていった。

 小型の魔獣ばかりとはいえ、数が結構あるわけだし……それに、昨日お酒を注いでもらった村人達も結構いたし、そんな人達に喜んでもらえたら、やっぱり嬉しいもんね。

 角を曲がると、その先に結構な数の人が集まっていた。
 どうやらここが朝市の会場のようだ。

 僕は、魔獣を担いだままその場所に向かって歩いていった。

「おや? クマ殿か?」

 そんな僕を最初に見つけたのは、他ならぬシャルロッタだった。

 朝市の見回りをしているらしいシャルロッタは、部下の騎士達と一緒に街道の中央を歩いていたんだけど、

「てっきりまだ眠っているのかと思っておったのじゃ……が……え?」

 その視線が徐々にあがっていくにつれて、その言葉が途切れ途切れになっていく。 
 そして、その視線が僕の頭の上……僕が担ぎ上げている魔獣の山へと注がれたところで、シャルロッタは目を丸くしたまま固まってしまった。
 それは、その後方に付き従っていた騎士達も同様で、
「え……」
「ま、魔獣?」
 そんな言葉を口にした後、あんぐりと口を開いたまま、僕が抱え上げている魔獣の束を見上げていたんだ。

 そんなシャルロッタに僕は、

「あの……夜ちょっとお腹が空いたもんで森に狩りに行ってたんですよ。このお肉、朝市で売れたりしますかね? なんちゃって、あはは」

 そんな感じで、少しおどけた感じで口を開いていった。

 何しろ、僕ごときで狩ることが出来た魔獣だしね。
 自分より小型の魔獣ばかり狩ったんだし……何より、僕なんかが狩ることが出来た魔獣だもん、村の人達だってきっと簡単に狩れるはず……

 そんなことを考えながら、苦笑を浮かべていた僕なんだけど……

「し、信じられないのじゃ……あ、あの、流血狼(ブラッドウルフ)どもをこんなに大量に狩るなんて……」
 シャルロッタは、僕の頭上を凝視しながら、そんな言葉を口にしていったんだ。

 え? 流血狼(ブラッドウルフ)?

 な、なんだか、すごく大層な名前なんだな、この魔獣って……

「あぁ、そんな名前なんですね、この魔獣って。あ、はい、なんか結構簡単に狩るこ
とが出来たもんですから調子にのってこんなに狩ったんですけど……」

 僕は乾いた笑いを浮かべながら言葉を続けていった。

 いつの間にか、僕の周囲には朝市に集まっていた皆さんまで集合してきていた。
 そんな皆さんまでもが、僕が抱え上げている魔獣……あ、流血狼(ブラッドウルフ)でしたね、その山を見つめながら、あんぐりと口をあけていた。

 そんな皆さんの前で、僕は居心地悪い感じのまま、愛想笑いを浮かべ続けていた。

 そんな中、
「……す、すごいのじゃクマ殿!」
 ようやく我にかえったシャルロッタが、満面の笑顔を浮かべながら僕に駆け寄ってきた。
「この狼共のせいで、村人達がどれほど苦しめられていたことか……」
 僕の眼前で、そう言いながら目を輝かせているシャルロッタ。
「え?」
 そんなシャルロッタを見つめながら、今度は僕が目を丸くする番だった。
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