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さわこさんと、春のかき揚げうどんのお昼

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 お昼過ぎの居酒屋さわこさんの中に、私とバテアさん、その後に続いて吟遊詩人のミリーネアさんが続いて魔法陣の中から姿を現しました。

 いつもの、私の世界へと買い出しから戻って来たところでございます。

 居酒屋さわこさんでの売り上げで、バテアさんが魔法道具のお店で販売なさっている魔石を購入いたしまして、それを私の世界でパワーストーンのお店を経営している、学生時代からの友人みはるのお店で委託販売をさせてもらっております。
 その売り上げで、私の世界のお金を入手いたしまして、そのお金であれこれ仕入をしている次第でございます。

 以前経営していた居酒屋酒話を整理した際のお金に、ほとんど手をつけずに済んでいるのもこの仕組みが上手く機能しているからに他なりません。

「向こうの世界、すごい……歌の題材いっぱい」
 ミリーネアさんは、そう言いながらご自分のメモ帳を見返しては目を輝かせておいでです。

 吟遊詩人のミリーネアさんにとって、私の世界は歌の題材の宝庫のようでして、今回もあれこれ様々なものに興味を示しては、

「さわこ、これは何?」
「さわこ、あれは何?」

 と、何度も足を止めては、私に質問してこられた次第でございます。
 その度に私も、

「はい、これはですね……」
「はい、あれはですね……」

 と、その都度、ミリーネアさんが納得されるまでお付き合いさせて頂きました。

 私達三人が居酒屋さわこさんの店内で一息ついておりますと、

「さーちゃん、お帰りニャ!」
「さわこ、お帰り!」
 2階のリビングから、ベルとエンジェさんが笑顔で駆け下りてまいりました。

 今日は、リンシンさんが白銀狐さん達と一緒に狩りに出かけておいでですので、2人がお留守番をしてくれていたんです。

 とはいいましても、バテアさんの防壁魔法で巨木の家そのものをしっかりとガードしてから出かけておりますので、2人には
『誰か来ても、出なくていいですからね』
 そう、言い聞かせておいた次第でございます。
 
「ただいま、ベル、エンジェさん。何もありませんでしたか?」
「大丈夫ニャ! 2階のお掃除してたニャ」
「私もベルと一緒に頑張ったのよ」
 私の言葉に笑顔で返答しながら、2人は私に抱きついてきました。
 小柄な2人に抱きつかれますと、なんだかお母さんになった感じがしてしまいます。

「さ、今何か暖かい物でも準備しますから、2人はカウンター席に座っていてくださいな」
「はいニャ!」
「わかったわさわこ!」
 私の言葉を受けまして、2人はそそくさとカウンター席へと移動していきました。

 その隣には、先ほどからメモ帳とにらめっこなさっているミリーネアさんのお姿がございます。

 そんな3人がカウンター席で横並びになっている中、バテアさんがだるまストーブに火をつけてくださいました。
 店内は、室温調整魔石のおかげで常に一定以上の温度に保たれてはいるのですが、お店の周囲は一面の銀世界でございます。それだけではどうにも肌寒さを感じてしまうんです。

 そんな中、このだるまストーブが大活躍してくれるわけでございます。

 私の世界で商店街の会長をなさっている善治郎さんから譲っていただいたこのだるまストーブなのですが、昔ながらの製品だけありまして、一度火がつくと周囲をとってもあったかくしてくれます。
 その分、本体の周囲が高温になっていて大変危険なのですが、その周囲に結界魔石を常においておりますので、周囲に誰かが倒れこんできたとしても、だるまストーブに直に触れることはありません。

 そんなだるまストーブが徐々に熱を発散させはじめますと、

「はわ~……」
「暖かいわ……」

 カウンター席に座っているベルとエンジェさんが、揃ってだるまストーブの方へ向いて両手をかざしていました。
 背格好が似通っている2人が、同時に同じ姿勢をしているものですから、まるで姉妹のように見えてしまいます。

 その光景に思わずぽややんとしながら、私は厨房で調理を行っておりました。

 先ほど私の世界で購入してまいりました

 ふきのとう
 菜の花

 それに、アミリアさんの農場から仕入れさせて頂いております

 にんじんによく似ているニルンジーン
 タマネギによく似ているタルマネギ
 ゴボウによく似ているゴルボウ
 椎茸によく似ているカゲタケ

 これらの食材を下ごしらえしてまいります。

 ニルンジーンとゴルボウは千切りにした後水にひたしてアクをとり、ふきのとうと菜の花は手でちぎって小分けにしていきます。

 タルマネギとカゲタケもスライスいたしまして、それらの食材をボウルにひとまとめにしてから、ここに水で溶いた天ぷら粉を加えて混ぜ合わせます。

「さて……油の方もよさそうですね」
 魔石コンロにかけていた天ぷら鍋の塩梅を確認した私は、その中に天ぷら粉で混ぜ合わせた具材を落とし込んでいきました。

 ジュワー……

 香ばしい香りが一斉に周囲に広がっていきます。

 その匂いのせいでしょう。
 だるまストーブに向かって手を伸ばしていたベルとエンジェさんが、あっという間に厨房の方へと向き直りまして私の手元を凝視しています。

「さーちゃん、いい匂いにゃあ……」
「さわこ、いい匂いね……」
 2人揃って鼻を鳴らしている姿は、なんとも言えない可愛さでございます。

 そうやってかき揚げを揚げていきながら、その横のお鍋ではお出汁の準備をしております。

 たっぷりのかつお節で出汁をとり、それを醤油とみりん、それにお塩を加えて味を調え、つゆを作ります。

 さらに、もう1つのお鍋でおうどんを茹でます。
 いつもベルとエンジェさんが
「わっせ、わっせ」
 と、かけ声を合わせながら踏み踏みしてくれているおうどんでございます。

 最近の居酒屋さわこさんでは、お鍋のしめとして欠かせない食材になっているこのおうどん。

 それを、ゆで上げたのち、一度冷水でしめておきます。

 さて、ここで入れ物を準備いたしまして、その中につゆとおうどんを加え、その上に油をきったかき揚げと、刻んだネギを添えまして……あ、ベルのおうどんにはネギはいれないんです。嗅覚が敏感なせいでしょうかネギが少々苦手なんですよね、ベルってば……

 そうやって、

 バテアさん
 ミリーネアさん
 ベル
 エンジェさん

 そして私のかき揚げうどんの準備をした私なのですが……

 そんな私がゆっくり顔をあげますと……ベルとエンジェさんの隣に、先ほどまではそこにいなかったはずの女性の姿が……

 ……えぇ、調理している最中から、そんな気はしていましたので、しっかりもう1人前準備しております。

「はい、出来ましたよ、バテアさん、ミリーネアさん、ベル、エンジェさん……そして、ツカーサさん」
「えへ、さわこってば、だから大好き」
 ツカーサさんは、そういいながら悪戯っぽく笑っておいでです。
 
 この居酒屋さわこさんの建物のすぐお隣に住んでおられますツカーサさん。

 そのためでしょう。
 お店でこうし新しい料理を試作したりしておりますと、いつの間にかこうしてお店にひょっこり姿を現されるのでございます。

「……結界……まだ解除してないんだけど……」
 ツカーサさんの姿に気がついたバテアさんが、思わず目を白黒なさっておられます。

 ですが

 そんなバテアさんのことなどお構いなしとばかりに、私からかき揚げうどんを受け取ったツカーサさんは、
「じゃあベルもエンジェさんもご一緒に」
 そう言って、手を合わせました。
 その声に合わせて、ベルとエンジェさんも手を合わせています。
「いただきます!」
「いただきますニャ!」
「いただくわ!」
 ツカーサさんの声に合わせて、2人も声をあげていきました。
 
 そして、おうどんを口に……

「うん! この天ぷらがすごく美味しい! おつゆに合うわぁ」
 そう言いながら、顔をぽややんとなさっておられるツカーサさん。
 その横では、ベルとエンジェさんが夢中になってうどんを口にかき込み続けています。

 そんな3人の姿を前にして、私も思わず笑顔を浮かべておりました。

 こうして、今日のお昼はみんなで春野菜のかき揚げうどんをいただいたのですが……そうですね、夜の営業でもお出ししてみるのもいいかもしれませんね。

ーつづく
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