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さわこさんと、お鍋とお酒

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 ここしばらく、居酒屋さわこさんでは新メニューといたしまして一人鍋を導入しております。

 海鮮をメインにした寄せ鍋。

 これは、おもてなし商会ナカンコンベ店で仕入れた魚介類を使用しております。
 おもてなし商会ナカンコンベ店は内陸のお店なのですが、はるか南方にございますティーケー海岸から魚介類を仕入れているそうです。そんな遠方から食材を輸送しているとなると、塩漬けだったりするのかな、と思っていたのですが、どの魚介類もとれとれピチピチなんですよね。
 ひょっとしたら転移魔法を使用して仕入れているのかもしれませんけど、その仕入れ手法についてまではお聞きしないことにしています。
 こういった物は仕入れをなさっているお店の努力の賜物ですものね。

 クッカドウゥドルをメインにした鳥鍋。

 これは、いつも焼き鳥に使用しておりますクッカドウゥドルのお肉を使用した鍋でございます。
 焼き鳥にも使用しておりますけれども、胸肉はやはり鍋との相性がバッチリだと思っております。
 
 マウントボアをメインにした猪鍋。

 これは、リンシンさん達冒険者の皆様が狩ってきてくださったマウントボアのお肉を使用した鍋でございます。
 私の世界に棲息しております猪によく似ているマウントボアなのですが、お味噌ベースの鍋にとてもあうんですよね。

 基本としてお出ししておりますのはこの3種類でございます。

 あとは

 その日仕入れた食材
 お客様のご要望

 そういったものを私が加味いたしまして、その都度あれこれ創意工夫を凝らしております。

 例えば……

 今日は、リンシンさん達が、私の世界の鴨似よく似た鳥、カルモをたくさん仕留めてきてくださいましたので、これを使用した鴨鍋をメニューに追加いたしました。
 ネギを加えて試食してみたのですが……はい、大変合うといいますか、とても美味しかったです。


「鍋だけだと、もう少し食べ足りないなぁ」
 そんなお客様がおられましたら、おうどんを追加させていただくか、ご飯を加えて雑炊にさせていただいております。

 雑炊なのですが
「では、ちょっとお邪魔させていただきますね」
 材料一式をお盆にのせた私が、直接お客様のテーブルまで出向いていって、そこで調理をさせていただいております。
 どうも、それが好評のようでして、

「さわこさん、猪鍋と、食後に雑炊をよろしくね」

 と、最初から雑炊ありきで御注文くださるお客様も少なくありません。

 それもまた、嬉しい次第でございます。

◇◇

 鍋にあわせた日本酒もあれこれ準備しております。

 寄せ鍋には浦霞の辛口をお勧めいたします。
 すっきりじんわり、それでいてほのかな旨みが口の中に広がっていくお酒です。
 
 鳥鍋には沢の鶴の純米をお勧めいたします。
 鍋料理全般にあうお酒ですが、特に鳥鍋に良く合う逸品です。

 猪鍋には 而今の特別純米酒をお勧めさせていただきます。
 とてもどっしりとした味わいのお酒で、少々癖のあるマウントボアのお肉にとても合う逸品です。 
 人気のため少々入手しにくいのが玉に瑕ですが、それでもどうにかそれなりの量を準備出来た次第でございます。

 ほかにも、この時期の定番と言っても過言ではないと自負しております雪中寒梅や峰乃白梅といった新潟のお酒も取りそろえてございます。

 それらの一升瓶を確認なさっているバテアさんも
「これをお客のみんなに勧めるのが今から楽しみね」
 そう仰っておられました。

 そうお聞きすると、私まで楽しく思えてまいります。

 最近、夕方以降急速に冷え込んでおりますものですから、日本酒も温燗にしてお出ししております。
 この世界のお酒は、果実酒風の物が主流なものですから、こうした燗には適していないんですよね。
 それででしょうか、
「暖かいお酒っていいねぇ、すごく美味いし」
 そう言って喜んでくださる方がとても多いように感じております。

 ちなみにですが……
 中級酒場組合の皆様に、ワノンさんが販売なさっているパルマ酒は日本酒そのものでございますので、温燗しても大変美味しいお酒です。
 ジュチさん達、中級酒場組合に加盟なさっている酒場の皆様も、最近になってこのパルマ酒を温燗にしてお出ししているそうなのですが
「いやぁ、さわこに教えてもらったこの温燗のおかげでパルマ酒の売り上げがさらに上がったわ! ホント、さわこ様々よ!」
 ジュチさんはそう言って大層喜んでくださっておりました。

 ……ですが

「ジュチさん、それはワノンさんがお造りになっておられますパルマ酒がおいしいからに他なりませんよ。お礼ならぜひワノンさんへ言ってあげてくださいな」
 私は笑顔でそうお伝えさせて頂いた次第です。

 ……なのですが

「ワノンなんてどうでもいいの! アタシはさわこにお礼が言えたらそれでいいの!」
「はい!?」
 そんな事を言いながら、私に抱きついてこられたジュチさん。
 そんなジュチさんに困惑しきりの私だったのですが、ここに駆け寄って来てくださったバテアさんが
「あんたね、どさくさ紛れに、さわこに何してんのよ!」
 そう言いながら、ジュチさんを引き離してくださり、どうにか助かった次第でございます。

 気が付くと、座布団の上で寝ていたベルまもがジュチさんの頭に飛びかかっていてですね
「ふー!」
 と言いながら髪の毛を引っ張っていた次第でございます。

◇◇

 このパルマ酒の温燗は、居酒屋さわこさんでもお出ししております。
 日本酒とともに、このパルマ酒も大変人気のお酒になっておりまして、ワノンさんも日々酒造り工房を拡張しては増産なさっておいでです。

 これには、私の親友の1人、和音の助力もございます。
 ワノンさんと和音が二人三脚でワノン酒造工房を日々拡大させている、そんな感じでございます。

 女性だからという理由だけで、酒造りの現場から遠ざけられていた和音にとって、その酒造りの手腕だけで判断してくれるワノンさんは理想の上司と言えるのではないでしょうか。
 そんなワノンさんの元で、和音は毎日楽しそうにお酒造りを続けております。
「今度は鍋に合うお酒も開発しないとね」
 先日もそんなことを言っていた和音です。

 どんなお酒が出来てくるのか、私も今から楽しみにしております。

◇◇

 そんな感じで、新メニューの一人鍋の準備と、その鍋に合ったお酒の用意も準備万端でございます。

 今日も、もうじきバテア産の魔法道具のお店の閉店時間がまいります。
 それはつまり、居酒屋さわこさんの開店時間がやってきたことを意味してもおります。

「さ、今日も頑張りますよ」
 私は、着物をたすき掛けしながら一度気合いを入れていきました。

ーつづく

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