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連載
さわこさんと、ジャッケ その2
しおりを挟むイラスト:NOGI先生
数日後のことでございます。
バテアさんの魔法道具のお店が休日のこの日、私はバテアさんとリンシンさん、それに冒険者のジューイさんと一緒にトツノコンベの北方へ向かっておりました。
「ジュ、ここらはこの大陸の北方ジュ。その分気候が寒いジュから、ジャッケが早く遡上してくるジュ」
先頭を歩いているジューイさんは、そう言うと大きなため息をおつきになられました。
「ジュ……ホント、あいつらのせいで、秋の狩猟がまともに出来ないジュ……」
「……ホントそう……うるさすぎて魔獣が逃げちゃう……変なのを呼んじゃうし」
ジューイさんのお言葉に、リンシンさんもため息をおつきになられながら同意なさっておられます。
な、なんなのでしょう……そのジャッケというのは……
ジューイさんとリンシンさん、それに先日のバテアさんのお話で共通しているのは、
『うるさい』
とのことですが……ひょっとしてあれでしょうか?
遡上する際にバシャバシャ川の水を叩くようにして……
「ジュ……それくらいなら可愛いもんジュ」
私の意見をお聞きになったジューイさんは、首を左右に振りながら大きなため息をおつきになられました。
その様子に小首をかしげた私なのですが……
……♪ ♪ ♪
「……はい?」
……なんでしょう?
気のせいでしょうか……何やら向かっている先の方から妙な音楽が聞こえてくるような気が……
私がそんなことを考えておりますと、
「……いる」
リンシンさんが、背負っておられます武器を手になさいました。
ジューイさんも短剣を両手に持たれています。
「はい、さわこ、これ」
お2人の姿を見ている私に、バテアさんが何かを手渡してくださいました。
……はて?
どう見てもこれ、耳栓にしか見えないのですが……
「一応防音魔法はかけてあるけど、あいつらの騒音を全部は吸収出来ないと思うから覚悟しててね。それと、アタシ達の会話はまったく聞こえなくなるから、ここから先は身振り手振りで合図を送って」
「え? あ、はい」
バテアさんのお言葉に疑問を感じながらも、私はその耳栓を耳にはめていきました。
わぁ……すごいです。
森の草木の音やみなさんの会話が一瞬にしてすべて聞こえなくなってしまいました。
こんな耳栓、初体験です。
その効果に感動しながら、私はジューイさん達の後を歩いていたのですが……
……♪ ♪ ♪
……あれ?
気のせいでしょうか……先ほどの音楽が聞こえてきたような……
変ですね? バテアさんの耳栓をしておりますのに……それとも、入れ方がまずかったのでしょうか。
私は、小首をかしげながら耳栓を一度外したのですが……
パラリラパラリラ
パラリラパラリラ
パラリラパラリラ
パラリラパラリラ
パラリラパラリラ
パラリラパラリラ
パラリラパラリラ
パラリラパラリラ
パラリラパラリラ
「ひ、ひえ~~~~~~~~~~~!?」
そのすさまじい大音量を前にして、私は思わず悲鳴をあげてしまいました。
ですが、この大音量は、私の悲鳴など一瞬でかき消してしまう程猛烈に鳴り響いています。
なんでしょう……お腹にずんずん響いてくるような、脳みそを攪拌するような……なんかだかなりやばい雰囲気でございます。
耳を手で覆っている私。
そんな私の肩をバテアさんが慌てた様子で叩きました。
身振りで、耳栓をはめるように指示をしてくださっています。
私は、慌てて耳栓をはめ直しました。
そのおかげで、どうにか音量が耐えられる程度にまで抑えられた次第でございます。
そのまま進んで行きますと、私達の前に川が見えてまいりました。
そこで……私は目を丸くしてしましました。
目の前に出現した川は、かなり川幅が広いのですが……
その川幅一杯に広がって、魚が遡上しているのです。
その魚なのですが、川から頭部を突き出すようにして進んでいます。
その顔の形状は、確かに鮭に似ているのですが……1箇所、大きな違いがございます。
その鮭によく似た魚……おそらく、これがジャッケだと思うのですが、その魚の口の部分がですね、どうみてもトランペットの形状をしているのでございます。
そのトランペットみたいな口を前後させる度に、周囲に響きまくっています、あの『パラリラパラリラ』という甲高い音楽が響きまくっているようなのですが……あ、口らしき部分から発せられているということはこの音楽ってジャッケの鳴き声なのでしょうか? とにかく、その大音量を周囲に響かせながらどんどん川を遡っているのでございます。
『これがジャッケよ。ザッケとも言われてんだけどね、あの口から発する大音量で自分達が食われないように肉食の魔獣や人族を威嚇してんのよ』
私の脳内に、バテアさんの言葉が流れ込んでまいりました。
思念波通信という伝達方法ですね。
魔力を持ち合わせておりません私ではバテアさんへお返事をお送りすることが出来ませんので、私はバテアさんに向かって大きく頷いて、理解した旨を返信させていただきました。
この音楽といいますか、鳴き声が自衛のためのものなのは理解いたしました……
しかし……
川を見つめながら、私は目を丸くし続けておりました。
何しろ、その川を遡上してくるジャッケは、一群ではないのです。
後から後から、横一列に隊列を組んだジャッケの大群が押し寄せて来ているのです。
『そうね……だいたい10列くらいは来ると思うわよ、一度にね』
そ、そんなに……
バテアさんの思念派を確認した私は、思わず生唾を飲み込んでしまいました。
……しかし……この大量のジャッケを、バテアさん達はどうやって捕獲するおつもりなのでしょうか……
私が唖然としながら見つめておりますと……バテアさんが何やらブロックサインのような物をジューイさんとリンシンさんに向かって送っておられます。
それを確認なさったジューイさんとリンシンさんは、バテアさんの左右に並ぶようにして立たれました。
それを確認なさったバテアさんは、軽く頷いてから右手を川へとお向けになられたのですが……
その右手の先に魔法陣が展開したかと思うと、川を遡上していたジャッケの群れが宙に浮かび、そのままジューイさんとリンシンさんの前にドサドサと落下していったではありませんか。
すると、ジューイさんとリンシンさんは、すぐにジャッケに駆け寄っていき、そのトランペットのような口をジャッケから切り取りはじめたのでございます。
すると……先ほどまであれほどの大音量の鳴き声がピタッと止んだのでございます。
どうやら、あのトランペット部分を切り離してしまえば、大音量はなくなってしまうようですね。
そのことを理解した私は、魔法袋に入れて持って来ておりました調理バサミを右手に持ち、リンシンさんの横に立ちました。
そして、バテアさんに向かって頷きます。
私の意図を察してくださったバテアさんは、次のジャッケの大群を空中に浮かせると、ジューイさん・リンシンさん、そして私の前に三等分して落下させました。
私は、目の前に落下してきたジャッケに駆け寄ると、そのトランペット状の口を調理バサミで次々に切り落としていきました。
トランペット状の口を真正面に向けてしまうと、まるで超音波のような波動の直撃をくらってしまいますので、極力ジャッケを横向きにして作業をおこなってまいります。
そんな作業を4,5回繰り返しますと……ようやく川が少し静かになった気がいたします。
私達の周囲には、口を切り落とされたジャッケが山積みになっております。
もしこのジャッケが鮭のような味覚なのでしたら、お店でお出し出来るかもしれませんね。
私は、そんな事を考えながらジャッケを魔法袋へ詰め込み始めたのですが……
ズン……ズン……
な、なんでしょう……こ、今度は何やら地響きのような振動が……
ーつづく
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