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さわこさんと、他の酒場 その1
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閉店して間もない居酒屋さわこさんの店内で、私は6人の女性の方とお会いしていました。
お店の客席に座りまして、向かい側に6人の皆さん。
こちら側に、私とバテアさん、リンシンさん、エミリアの4人が座っています。
そんな中、6人を見回していたバテアさんが、
「なんだいなんだい? ジュチをはじめとしたこの界隈の酒場の店主達がそろいもそろってさぁ」
そう言いながら大きなため息をつかれました。
「あ、この方々酒場を経営なさっておられる皆様なのですか?」
「そうだよ。以前はアタシもよくお邪魔してたねぇ。ほら、このジュチの店はさ、さわこをはじめて酒場につれてった、あそこだよ」
「あぁ! あのパサ……」
バテアさんの言葉を聞いて、「あのパサパサの料理のお店」と言いかけてしまった私は慌てて口を閉じました。
これは、どう考えても褒め言葉ではありませんものね。
……事実ではあるのですが……
私が両手で口を押さえていると、癖のある赤い長髪のジュチさんは
「……へぇ、ウチの店にも来てくれてたのかい、そりゃどうも」
少し笑みを浮かべながらそう言われました。
で、そのまま改めて私に視線を向けたジュチさんは、
「……ま、その話はおいとくとして……今日ここに来たのはさ、話があったからなんだ」
そう言うと、ジュチさんは机の上に一枚の紙を置かれました。
私は、その紙を手に取り、目を通していったのですが……
「「中級酒場組合加入申請書」……ですか?」
その紙にはそう書かれていました。
そういえば、以前にバテアさんにお聞きしたことがありました。
この界隈には上流酒場組合と中級酒場組合の2つの酒場組合があるのだ、と。
私がその紙を読んでいると、ジュチさんは
「……あのさ……この店が上流酒場なみの料理や酒をお客に提供してるのは知ってるんだ……実際、アタシの店の常連もずいぶんこの店に流れてるしさ……」
「あ、あの……それはどうも申し訳ありません」
ジュチさんの言葉を聞いた私は、思わずしゅんとなりながら頭を下げました。
同業の方から「ウチの店の客をとられた」と、面と向かって言われてしまいますとやはりちょっとショックです……
私がそんな感じで肩を落としていると、バテアさんが席から立ち上がりました。
「ちょっとジュチ! なんてことを言うのよ! 酒場を選ぶのは客でしょう? そんな恨み辛みをさわこに言いに来たのならとっとと帰ってよね!」
バテアさんがそう言うと、続いてエミリアが立ち上がりました。
「そうです! さわこは正々堂々と料理で勝負しているのです。文句を言われる筋合いはナッシングです」
続いて、リンシンさんも立ち上がり、何か言おうとなさったのですが、それよりも早くジュチさんが右手をあげました。
「……ごめん、恨み節が出ちまった……でも、バテアやそっちのお嬢ちゃんの言うとおりだよ……だからごめん、そこの言葉はなかったことにしてくれないか?」
ジュチさんはそう言うと苦笑なさりました。
私達の横では、そのジュチさんに言葉を制止されてしまい、口をパクパクなさっているリンシンさんのお姿が……
で、私はですね、そんなジュチさんに私は少し困惑しながらも、
「あ、いえ……はい、わかりました」
そうお答えすると、少し落ち込んでいた表情を引き締めました。
◇◇
「……ごめんね、最近さ、商店街にある飲み屋の売り上げがどこも軒並み下がっててさ……ジュチだけじゃなくて、商店街で酒場をやってるみんながちょっと気が立ってんのよね」
ジュチさんの横に立っていた女性がそう言われました。
すると、バテアさんが
「繰り返すけどさ、それをさわこのせいにするのはお門違いだよ? さわこはろくに宣伝もしないで、誠実に料理とお酒でお客さんを増やしているんだからさ……まぁ、マウンドボアの解体ショーみたいなのはやったけどさ」
そう言いながら、再びジュチさん達を見回していきました。
それに対して、ジュチさんは、苦笑なさると
「わかってるわかってるって……さっきは悪かったってば。アタシらが本気でむかついてるのは上級酒場組合のやつらだからさ」
そう言い、肩をすくめられました。
「……で、よ。その話は、今は置いておくとして……どうかな、さわこ? あたし達の中級酒場組合に加わってはもらえないかしら?」
ジュチさんはそう言いながら、身を乗り出されました。
その周囲の皆様も、身を乗り出されています。
……で、ですね……そう言われた私は……正直、とても悩んでいます。
私の居酒屋さわこさんは、すでに商店街組合には加盟しております。
これは、ここで商売をするためには必要なことでしたので、これは別にいいのです。
ですが、この酒場組合はあくまでも任意の団体とお聞きしています。
……私の世界で商売をしていた頃のお話です。
お店を継いだばかりの頃の私の元にたくさんの方がいらっしゃいました。
その中には、
「**組合ですので加盟お願いします」
「++組合です、こちらにも加盟を……」
そんな感じですね……たくさんの、様々な飲食店組合を名乗る方々がおられました。
当時、世間的に疎いといいますか、先代店主であった父からもこのような事はあまり聞いていなかったものですから、私は
「業界団体なら加盟しないといけないのでしょうね……」
的に考えてしまい、相当数の団体に加盟していったのですが……その大半は、活動実績も何もない名ばかりの団体でした。
加盟料と、会費を徴収したら、そのまま行方をくらましてしまう……そんな方々が大半だったのです。
幸い、法律関係に詳しかった親友のみはるが
「ちょっとさわこ、何してるのよ!」
と、間に入ってくれたことで、どうにかこれ以上の団体に加盟する愚を犯すこともなくなり、また、いままで加盟してしまった問題のある団体と、加盟の取り消し手続きを手伝ってくれたことで、少し時間はかかりましたけど、全ての問題のある組合との契約を破棄することが出来ました。
……なんといいますか……この頃から私って、騙されやすかったと言いますか……
で、その時のトラウマでしょうか……組合という言葉に過剰反応しやすくなっている私は、どうしてもジュチさんのお話をお受けする気になれなかったのです。
私が困惑した表情を浮かべながら
「あの……私、どうも組合というものが苦手なものでして……」
そう言うと、ジュチさんは
「あぁ、確かにそんな人もいるよね……うん、無理強いはしないから」
そう言いながら苦笑なさいました。
すると、その周囲にいた皆様がですね、
「どうすんのよジュチ……」
「さわこに組合に加盟してもらって、料理の仕方を教えてもらうんじゃなかったのかい?」
そんな会話をジュチさんと交わされていました。
で、そのお話を聞いた私は、おずおずと右手をあげました。
「あの……料理をお教えすることでしたら、組合に加盟しなくてもやぶさかではないのですが……」
私がそう言うと、ジュチさん達はさっき以上にその身を乗り出されまして
「「「ほ、ホント!?」」」
皆さん、一斉ににそうおっしゃいました。
そんな皆さんに、私はにっこり微笑みまして
「えぇ、私の料理ごときでよろしければ」
そう、皆さんへお話させて頂いた次第です。
ーつづく
お店の客席に座りまして、向かい側に6人の皆さん。
こちら側に、私とバテアさん、リンシンさん、エミリアの4人が座っています。
そんな中、6人を見回していたバテアさんが、
「なんだいなんだい? ジュチをはじめとしたこの界隈の酒場の店主達がそろいもそろってさぁ」
そう言いながら大きなため息をつかれました。
「あ、この方々酒場を経営なさっておられる皆様なのですか?」
「そうだよ。以前はアタシもよくお邪魔してたねぇ。ほら、このジュチの店はさ、さわこをはじめて酒場につれてった、あそこだよ」
「あぁ! あのパサ……」
バテアさんの言葉を聞いて、「あのパサパサの料理のお店」と言いかけてしまった私は慌てて口を閉じました。
これは、どう考えても褒め言葉ではありませんものね。
……事実ではあるのですが……
私が両手で口を押さえていると、癖のある赤い長髪のジュチさんは
「……へぇ、ウチの店にも来てくれてたのかい、そりゃどうも」
少し笑みを浮かべながらそう言われました。
で、そのまま改めて私に視線を向けたジュチさんは、
「……ま、その話はおいとくとして……今日ここに来たのはさ、話があったからなんだ」
そう言うと、ジュチさんは机の上に一枚の紙を置かれました。
私は、その紙を手に取り、目を通していったのですが……
「「中級酒場組合加入申請書」……ですか?」
その紙にはそう書かれていました。
そういえば、以前にバテアさんにお聞きしたことがありました。
この界隈には上流酒場組合と中級酒場組合の2つの酒場組合があるのだ、と。
私がその紙を読んでいると、ジュチさんは
「……あのさ……この店が上流酒場なみの料理や酒をお客に提供してるのは知ってるんだ……実際、アタシの店の常連もずいぶんこの店に流れてるしさ……」
「あ、あの……それはどうも申し訳ありません」
ジュチさんの言葉を聞いた私は、思わずしゅんとなりながら頭を下げました。
同業の方から「ウチの店の客をとられた」と、面と向かって言われてしまいますとやはりちょっとショックです……
私がそんな感じで肩を落としていると、バテアさんが席から立ち上がりました。
「ちょっとジュチ! なんてことを言うのよ! 酒場を選ぶのは客でしょう? そんな恨み辛みをさわこに言いに来たのならとっとと帰ってよね!」
バテアさんがそう言うと、続いてエミリアが立ち上がりました。
「そうです! さわこは正々堂々と料理で勝負しているのです。文句を言われる筋合いはナッシングです」
続いて、リンシンさんも立ち上がり、何か言おうとなさったのですが、それよりも早くジュチさんが右手をあげました。
「……ごめん、恨み節が出ちまった……でも、バテアやそっちのお嬢ちゃんの言うとおりだよ……だからごめん、そこの言葉はなかったことにしてくれないか?」
ジュチさんはそう言うと苦笑なさりました。
私達の横では、そのジュチさんに言葉を制止されてしまい、口をパクパクなさっているリンシンさんのお姿が……
で、私はですね、そんなジュチさんに私は少し困惑しながらも、
「あ、いえ……はい、わかりました」
そうお答えすると、少し落ち込んでいた表情を引き締めました。
◇◇
「……ごめんね、最近さ、商店街にある飲み屋の売り上げがどこも軒並み下がっててさ……ジュチだけじゃなくて、商店街で酒場をやってるみんながちょっと気が立ってんのよね」
ジュチさんの横に立っていた女性がそう言われました。
すると、バテアさんが
「繰り返すけどさ、それをさわこのせいにするのはお門違いだよ? さわこはろくに宣伝もしないで、誠実に料理とお酒でお客さんを増やしているんだからさ……まぁ、マウンドボアの解体ショーみたいなのはやったけどさ」
そう言いながら、再びジュチさん達を見回していきました。
それに対して、ジュチさんは、苦笑なさると
「わかってるわかってるって……さっきは悪かったってば。アタシらが本気でむかついてるのは上級酒場組合のやつらだからさ」
そう言い、肩をすくめられました。
「……で、よ。その話は、今は置いておくとして……どうかな、さわこ? あたし達の中級酒場組合に加わってはもらえないかしら?」
ジュチさんはそう言いながら、身を乗り出されました。
その周囲の皆様も、身を乗り出されています。
……で、ですね……そう言われた私は……正直、とても悩んでいます。
私の居酒屋さわこさんは、すでに商店街組合には加盟しております。
これは、ここで商売をするためには必要なことでしたので、これは別にいいのです。
ですが、この酒場組合はあくまでも任意の団体とお聞きしています。
……私の世界で商売をしていた頃のお話です。
お店を継いだばかりの頃の私の元にたくさんの方がいらっしゃいました。
その中には、
「**組合ですので加盟お願いします」
「++組合です、こちらにも加盟を……」
そんな感じですね……たくさんの、様々な飲食店組合を名乗る方々がおられました。
当時、世間的に疎いといいますか、先代店主であった父からもこのような事はあまり聞いていなかったものですから、私は
「業界団体なら加盟しないといけないのでしょうね……」
的に考えてしまい、相当数の団体に加盟していったのですが……その大半は、活動実績も何もない名ばかりの団体でした。
加盟料と、会費を徴収したら、そのまま行方をくらましてしまう……そんな方々が大半だったのです。
幸い、法律関係に詳しかった親友のみはるが
「ちょっとさわこ、何してるのよ!」
と、間に入ってくれたことで、どうにかこれ以上の団体に加盟する愚を犯すこともなくなり、また、いままで加盟してしまった問題のある団体と、加盟の取り消し手続きを手伝ってくれたことで、少し時間はかかりましたけど、全ての問題のある組合との契約を破棄することが出来ました。
……なんといいますか……この頃から私って、騙されやすかったと言いますか……
で、その時のトラウマでしょうか……組合という言葉に過剰反応しやすくなっている私は、どうしてもジュチさんのお話をお受けする気になれなかったのです。
私が困惑した表情を浮かべながら
「あの……私、どうも組合というものが苦手なものでして……」
そう言うと、ジュチさんは
「あぁ、確かにそんな人もいるよね……うん、無理強いはしないから」
そう言いながら苦笑なさいました。
すると、その周囲にいた皆様がですね、
「どうすんのよジュチ……」
「さわこに組合に加盟してもらって、料理の仕方を教えてもらうんじゃなかったのかい?」
そんな会話をジュチさんと交わされていました。
で、そのお話を聞いた私は、おずおずと右手をあげました。
「あの……料理をお教えすることでしたら、組合に加盟しなくてもやぶさかではないのですが……」
私がそう言うと、ジュチさん達はさっき以上にその身を乗り出されまして
「「「ほ、ホント!?」」」
皆さん、一斉ににそうおっしゃいました。
そんな皆さんに、私はにっこり微笑みまして
「えぇ、私の料理ごときでよろしければ」
そう、皆さんへお話させて頂いた次第です。
ーつづく
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