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さわこさんと、赤丸の日

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「うわぁ……降ってますねぇ……」

 バテアさんのお宅の二階。
 リビングの窓から外へ視線を向けると、どんよりとした雲と大粒の雨のしずくが見えています。

 窓辺に集まっているベル・エンジェさん・シロ・ロッサさん。

「ニャあ……これじゃあ今日の猫集会はお休みニャあ……」
「そうね、この天気では無理ね」
「……残念……」
「樹木の精霊の妾としては、たまには降ってもらわねば困るとはいえ集会中止は寂しいのじゃ」

 揃って肩を落としています。
 そんなみんなの様子に思わず笑顔を浮かべてしまう私。

 種族も産まれも、何もかも違う四人のおチビさんですけど、まるで姉妹のようにいつも仲良しです。
 いつも一緒の4人……あ、でも、シロは大好きなリンシンさんと一緒に狩りに行くことがありますので、時折このメンバーからはずれているんですけど、それでも4人はとっても仲良しさんなんです。

「あらあら、雨のせいで猫集会が中止になったのかしら?」

 あくびをしながら部屋に入ってきたバテアさん。
 いつものように、スケスケのネグリジェを着ているバテアさんは、それを特に気にする様子もありません。

「そうニャ、バーちゃん。今日の集会はとっても楽しみにしてたのニャ」
「あらそうだったの?」
「そうニャ、今日は新しくこの街にやってきた猫人の女の子が参加する予定だったニャ。新しいお友達を作るチャンスだったニャ」
「あらあら、それは残念ねぇ」

 少しあくびをしながら、おチビさん達を後方から抱きしめていくバテアさん。

「まぁ、雨じゃ仕方ないんだし、今日は家の中で別のことをして遊ぶしかないわねぇ……なんならその女の子も呼んでみたらどうかしら?」
「ニャ!? いいのニャ!?」
「えぇ、アタシは別にかまわないわよ」

 バテアさんの言葉に、一斉に笑顔を浮かべる4人。
 早速合羽と傘を準備しはじめました。

 バテアさんはいつもこんな感じです。

 困っている人がいたら手を差し伸べてくださいます。
 いつも気をつかってくださり、みんなのためにあれこれ骨をおってくださるんです。

「ん? さわこ、どうかした?」

 そんなことを考えながらバテアさんを見つめていると、私の視線に気がついたバテアさんが怪訝そうな表情を浮かべながら首をひねられました。

「いえ、なんでもないんです……ただ……」
「ただ?」
「……はい、バテアさんはいつも本当に優しいなぁ、って思って」
「あはは、気まぐれかもよぉ。アタシは別に人格者じゃないし、かなりめんどくさい性格してると自覚してるからさぁ」

 その顔に笑顔を浮かべるバテアさん。
 そんなバテアさんに、私も笑顔を返していきました。

「……ところで、さわこ……こないだから気になってたんだけど……暦のここ……」

 バテアさんが指さされたのは、私がチキュウ世界から持って来た今年のカレンダーでした。
 こちらの世界の暦とは月の呼び方などは違うのですが、一ヶ月の日数、一週間のサイクルなどが同じなものですから問題なく使用することが出来るんです。

 そのカレンダーの、明日のところの赤い丸印。

「この赤丸なんだけど……明日、何かあったかしら?」

 バテアさんの言葉に、笑顔を浮かべてします私。
 その赤丸をつけたのは私です。

 ……えぇ、明日は私にとってとっても大切な日なんです。

 でもそれは、バテアさんにしてみれば何でもない日なのかもしれません。

「いえ、ちょっと覚えにかき込んだだけですので」

 笑顔でお答えする私。
 ちょうどここで、ミュウが目を覚ましました。

 机の上に置いているクッションの上で、鳥の姿のまま丸くなって眠っていたミュウ。
 一度大きくあくびをすると、

「ミュウ、ミュ、ミュウ!」

 私に向かって笑顔で鳴き声をあげながら何度も頭をさげてきました。
 これ、ミュウが私に『おはようございます』って行ってくれているんです。

「ミュウ、おはようございます」

 私もそんなミュウに笑顔で返事を返しました。

「さ、すぐに朝ご飯を準備しますからね。バテアさんも少し待ってくださいね」
「えぇ、いつもありがとね、さわこ」

 私の言葉に、笑顔を浮かべながらリビングの椅子に腰掛けたバテアさん。

「そういえばさわこ、明日も居酒屋は営業するんでしょ?」
「はい、そのつもりですけど?」
「だったら、休日で居酒屋もお休みの今日、お祝いしとく?」
「え?」
「ほら……明日でしょう? さわこがこの家にやってきたのって」

 バテアさんの言葉に、思わず目を丸くした私。

 そうなんです。
 一年前の明日……私はバテアさんと出会ったんです。

 山奥にあるバス亭に、一人取り残されていた私。
 そこに、たまたま通りかかったバテアさん。
 あの日、あの時の出会いがあったからこそ、今、私はここにいるんです。

「覚えてくださっていたんですね?」
「ん~……さわこがどう思っているのかはわかんないけどさ、アタシにとっては、大切な同居人が増えた日だしね」

 苦笑しながら私を見つめているバテアさん。
 そんなバテアさんに笑顔を返す私。

「……そうですね。じゃあ、今夜お祝いしちゃいましょうか」
「今日なら、同居人のみんなもいるし、ちょうどいいかもね」
「はい、ぜひ」

 私とバテアさんがそんなお話をしていると、

「みゅう!ふみゅう!」

 ミュウが少し怒ったような鳴き声をあげてきました。

「あぁ、ごめんなさいねミュウ。すぐに朝ご飯作りますから」

 慌てて2階の厨房へ移動した私は、魔法袋から取り出した食材を並べていきました。
 さて、今日の朝ご飯は何にしましょうか……とりあえず、ご飯と味噌汁、それにお漬物はお出しするとして、やっぱり焼き魚は欠かせませんよね、あとは……

 そんな事を考えながら、私は同時に手を動かしていきました。

 ……あれから1年。

 これから先のことはわかりません。
 でも、私はこれからもバテアさんの家に居候させていただきながら、居酒屋さわこさんを頑張って営業していきたいと思っています。

「そういえば、最近暑くなってきたからかしらね、日本酒ソーダがすっごく出てるのよねぇ」

 お酒担当として居酒屋さわこさんを手伝ってくださっているバテアさん。
 今では、魔法道具のお店の店長としてよりも、居酒屋さわこさんの店員さんのイメージが強くなっている気がします。

 日中は、お店をエミリアとバイトのショコラに任せて、ご自分は転移魔法で薬草採取にいかれることが多いですしね。

 そんな事を考えながら料理の準備をしていると、雨具の用意が出来たベル達がリビングに駆け込んできたのですが、

「ニャ!? さーちゃんのご飯にゃ!?」
「さわこのご飯はとっても美味しいわ」
「……大好き」
「そうじゃの、せっかくじゃし、さわこの飯を妾達もいただいてからお出かけするとしようかの」

 4人はそんな会話を交わしながらバテアさんの横に座っていきました。
 自分の横に座ってベルを、ジッと見つめているバテアさん。

「あのさぁベル……いい加減、その『バーちゃん』は辞めてくんないかな? 地味にダメージ受けるのよ、その呼ばれかた」
「わかったニャ、バーちゃん!」
「……はいはい、そういうオチになると思っていたわよ」

 満面笑顔のベルに、苦笑しているバテアさん。
 そんなみんなを見回しながら、私は料理をはじめました。

 そうですね、今夜のお祝いの料理の仕込みと……明日の居酒屋さわこさんの仕込みもしておかないと……

ーつづく


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