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さわこさんと、新しい名物

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 トルキ族の女の子、ミュウを保護して数日が経ちました。
 まだ赤ちゃんなミュウは、一日の大半を寝て過ごしています。
 幸いなことに、食事は普通になんでも食べてくれる感じなので、そっちに関してはとても助かっているんです。

 これに関しては、エミリアから借りた魔女魔法出版のトルキに関する書物がとっても助かっています。

「……しかし、この魔女魔法出版の書籍ってホントにすごいですねぇ……」

 居酒屋さわこさんの厨房で、本のページをめくりながら私は思わずそんな声をあげてしまいました。

「自動で常に最新状態に保たれているなんて……すごいです」
「まぁ、そういう魔法がかけられているってことなんだけどね。でも、あくまでも重版にともなう内容の更新に対応しているだけであって、改訂版が発行されたりした場合には新たに書籍を購入する必要があるんだけど……どうやらこの本は改訂版はでていないみたいだから、今のところはこれで事足りそうね」

 バテアさんはそう言いながらカウンター席から私の手元の書物を見つめておられました。

 この本によりますと、トルキは結構何でも食べるみたいなのですが、赤ちゃん時代は辛い物は避けた方がいいみたいです。
 あと、これはこの本には書かれていないのですが、なるべく消化によいもの・栄養価の高いものをつくってあげることを心がけています。

 必然的におかゆを選択することが多いのですが、豆乳を使ったりオートミールを使用したりと、あれこれ趣向を凝らしながら日々作成し続けているのですが……

「へぇ……これ、結構いけるじゃない。いっそのことお店でも提供してみたらどう?」

 試作した豆乳おかゆを食べながらバテアさんがそんなことをおっしゃっています。
 
「うんうん、私もそう思うよ」

 って、相づちを打っているのは……お馴染みのツカーサさんでして……えぇ、試作品を作成しているともれなくこられるツカーサさんですので『きっと今回も……』そう思って多めに作成していたのですが……案の定だった次第でございます。
 
 そんなお2人の意見を受けまして……

◇◇

 その夜、居酒屋さわこさんの壁には

『お粥あります』

 の看板を掲載いたしました。
 文字は私が筆と墨で書きました。
 特に習ったわけではないのですが、以前経営していました居酒屋酒話の頃からお品書きはこうしてすべて手書きしていたものですから、それなりに慣れているんです。

 すると……

 最初は、
「へぇ、おかゆねぇ……」
 といった感じで、興味こそ示してくださるものの、
「でもまぁ、とりあえずクッカドウゥドルの焼き鳥と、あと酒かな」
 そんな感じで注文をなさる方が大半だったのですが……


「……みゅう……みゅう……」

 カウンターの端っこに置いてあるクッションの方からミュウの鳴き声が聞こえてきました。
 先ほどまで鳥の姿で寝ていたミュウですけど、どうやら目を覚ましたようですね。

 本当でしたら、部屋でゆっくりさせてあげたいのですが……ミュウは、目を覚ました時に近くに私がいないと
『……まま……まま……うぇ~ん』
 って泣き出してしまうものですから……とりあえず、私の姿がすぐに見える位置で眠ってもらっているんです。

 ちなみに、その位置って、以前はベルが丸くなって寝ていた場所なんです。
 その後は、まだ人型に変化することが出来なくて、天使のオーナメント姿だったエンジェさんが、本体である小さなクリスマスツリーと一緒に座っていた場所でもあるんです。
 なんでしょう……その場所に、今はミュウがいるというのが、とっても感慨深いなぁ、って思えてなりません。

「はいはい、ご飯ですね。少し待ってくださいね」

 いつミュウが目を覚ましてもいいように、お粥は常に適温状態にして魔法袋に保存してあります。
 それを取り出した私は、それをれんげですくうと、

「はい、ミュウ。あ~ん」
「あ~……」

 私の声に会わせて、小さな口をめいっぱいあけるミュウ。
 
「あむ……あむあむあむ……」

 れんげに顔を寄せて、その中のお粥を口に含んでは、もしゃもしゃと食べていくのですが……その仕草と笑顔がたまらなく可愛いんです。
 私がミュウにご飯をあげていると、それに興味をもったお客様が周囲に集まってきます。

「はぁ……ミュウちゃん可愛いねぇ」
「こうしいてご飯を食べてる姿……たまらないなぁ」

 笑顔でそんな声をかけてくださるお客様。
 そんな中……

「そのお粥、美味しそうねぇ」
「せっかくだから、後で私ももらおうかな」

 そう言って、お粥を注文してくださるお客様が徐々に増加しはじめた次第なんです。

 お客様にお出しさせていただくお粥は、ミュウが食べているものよりも具だくさんで、ご飯も少し固めにしいあげています。
 ですが、

「ミュウちゃんと同じ物を食べてるって、なんかほんわかしてくるねぇ」
「ほんとほんと、なんか若返った気がするよ」

 皆様、嬉しそうにそんな言葉を口になさっているんです。
 もちろん、ミュウの物とは似てはいるものの異なるものであることは納得してくださっているんですよ。
 そんな声に囲まれながら、ご飯を食べてお腹いっぱいになったミュウは、

「おーおーああ」

 って言いながら両手を合わせます。
 これ、『ごちそうさま』って、私が教えてあげたのを真似しているんです。
 食べる前にも、ちゃんと『いただきます』って両手を合わせるようになっているんです。
 言うことをしっかり聞いてくれる、とってもお利口さんでいい子なんですよ。

 そんなミュウですが1つわかったことがあるんです。

 居酒屋さわこさんの店内では、吟遊詩人のミリーネアさんが店内の雰囲気を察しながら時折お店のBGM的に歌を歌ってくださっているのですが……

「みゅう?」

 ミリーネアさんの歌声に興味津々な様子のミュウ。
 ミリーネアさんを見つめながら、気のせいか楽しそうに首を振り始めていたんです。

 ミュウってば、将来は世界的な吟遊詩人になるのかも……って、これじゃあ末は博士か大臣かって感じですよね……

 そして、ミュウはミリーネアさんの歌を聴きながら、楽しそうに自分も歌を口にしはじめたのですが……

 ぎゅ~……ぎゃぎゃ~……ご~……

  ぎゅぎゅぎゅ……むぎゃ……


 って……えっと、なんでしょう……とっても雑音系な声で歌っているミュウでして……

 これは後で知ったのですが……魔女魔法出版の本によりますと、

『トルキ族は歌がとっても好きな種族なのだそうですが、その歌声はダミ声でお世辞にも上手いとはいえない』

 そう記載されていたんです。

「えっと……みゅ、ミュウ?」

 私は、苦笑しながらミュウに声をかけました。
 さすがにこれは……ちょっとストップした方がいいかな、と思ったわけなのですが……

 私へ視線を向けてきたミュウってば、嬉しそうににっこり頬園でいたんです。
 それはまるで、

『ママ、お歌楽しいね』

 って、私に話しかけているような……

 そんなミュウの歌を、誰が止めることが出来ると思いますか?
 そんなこと……私に出来るはずがありません。えぇ、出来るものですか!

◇◇

 結局……

 バテアさんがミュウに防音魔法をかけてくださいまして、とりあえずお客様にはミュウの歌声が小さくしか聞こえないように調整してもらいました。

 これで、とりあえずお客様への騒音……い、いえ、ご迷惑をおかけすることは亡くなった次第です。

 でも、厨房の中にいる私には、ミュウの歌声がしっかり聞こえるようにしてもらっています。
 少々あれですけど……でも、ミュウの歌声ですからね。

 そんなわけで

 お粥と、ミュウという、2つの新しい名物が加わった居酒屋さわこさんです。

ーつづく

 

 
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