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王子の誕生日 (デビュタント当日)
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デビュタント前日、リリシャは自邸に帰ることが叶わなかった。
いつものように王宮が手配してくれた馬車に乗り込もうとしたところを、王妃付きの侍女たちに拉致られたのだ。
なんでも王妃が明日のデビュタントの用意のために王宮に泊まるようにと仰せなのだとか。
既に父親にも了承済みだそうで、それならばとリリシャはそれに従った。
確かに王妃様には「リリちゃんのドレスはわたくしに任せてちょうだい♡」と言われていたが、まさかその用意のために前日から王宮に泊まり込みになるなんて思ってもみなかったのだ。
そして迎えた夜会当日の朝。
リリシャはいつもより早くに起こされて、まずは良い香りのするオイルの入ったバスタブに放り込まれた。
そして馴染みの侍女たちに全身を磨きあげられ、これまたいい香りがする乳液を塗りたくられる。
その段階でハロルドの母である王妃が支度部屋を訪れた。
「おはようリリちゃん。よく眠れた?」
リリシャはバスローブに身を包み、顔にレモンを貼り付けられた状態でアデリオールの国母を出迎える。
「おはようございます王妃様。このような姿で失礼いたします」
「いいの。支度中だとわかっていて来ているのだから。今日はリリちゃんのデビュタントの日でもあるのよ、自分が今日の主役だと思って気合いをいれてお支度をしなくちゃ」
王妃はそう言って可愛らしく小さなガッツポーズをとった。
今年御歳五十五歳になるとは信じられないくらいチャーミングな王妃様である。
「王妃様。デビュタント用の素敵なドレスをありがとうございました」
リリシャは既に支度部屋に用意されているドレスに視線を巡らせてから王妃に礼を言った。
「気に入ってくれた?」
「ええとっても!こんなに素敵なドレス、初めて見ました」
「良かったわ~!アンネット(王太子アルスライドの正妃)と選びに選び抜いたドレスなの。気に入って貰えて嬉しいわ」
センスの良い二人が選んでくれたドレスだ。
最高に素敵で可愛くて、気に入らないわけがない。
だけどそれよりもリリシャにとって、王妃とアンネットが自分のために一生懸命選んでくれたことが何よりも嬉しいのだ。
「あの、ハロルド様は……?」
もう起きているのだろうか、逃げ出してはいないだろうかと心配になったリリシャが王妃に訊ねる。
「あの子のことは心配いらないわ。今日は筆頭魔術師が付きっきりで見張っていますからね。リリちゃんは今日、自分のことだけを考えるのよ?素敵なデビュタントを迎えて」
「ふふふ。はい、わかりました。ありがとうございます」
王妃はそれから、リリシャの支度を担当する侍女たちにあれこれと指示をしてから退室して行った。
その後も軽食を摂りながらリリシャは侍女たちによって、王宮で開催される夜会で社交界デビューするのに相応しい令嬢へと磨きあげられたのである。
温かみのあるパールホワイトのシルクとシフォン、それに繊細なレースで仕立てられた清楚かつ華やかなドレスには、所々に真珠とダイヤがドレスに散りばめられている。
トレーンの丈はデビュタントらしくミディ丈。
そしてアクセサリーはドレスに合わせて真珠のネックレスにイヤリングだ。
『これ……総額お幾ら万エーンなのかしら……』
今、自分は一体札束をいくつ重ねたものを身につけているのか、リリシャは少し恐ろしくなった。
『絶対に転けたり引っ掛けたりして破かないように気をつけなくては……』
「お美しいですわリリシャ様っ!」
「ホント完璧っ!!」
「今宵デビュタントの令嬢の中で一番美しいのは間違いないです」
侍女たちが口々にそう褒めそやす。
侍女たちのおかげで一番ではないにしろ、それなりには見れる感じに仕上がっているのではないかとリリシャは安堵した。
「ハロルド様のお支度はもうできましたの?」
リリシャが気になって訊ねると侍女の一人が教えてくれた。
「はい。早めにお支度が整い、既に王太子殿下とご一緒に王族の控えの間に監禁…こほん、待機しておられますわ」
『今、監禁と言ったわね?』
ハロルドはまだ出たくないと駄々を捏ねているのか。
まったく困った王子様だ。
リリシャはドレスと共布で作られたポーチに忍ばせた小さな箱に思いを巡らせた。
ハロルドの瞳の色のリボンが掛けられた、ささやかな誕生日プレゼントだ。
毎年何かしらの贈りものをしているのだが、今年は十五歳の節目の年なので迷いに迷って万年筆にした。
そんな高価な品ではないけれどハロルドならきっと喜んでくれる、リリシャはそう思い思わず顔を綻ばせる。
「今日はこの後ハロルド様にはお会いできるのかしら?」
その言葉を聞き、侍女たちは首を傾げながら答える。
「私どもにはわかりかねますが、デビュタントの王族は挨拶まわりに終始大忙しだそうですので、もしかしたら難しいかもしれないですね……」
「そう……」
そうか。そんなものなのか。
じゃあ今日はプレゼントを渡せないのかもしれない。
『……誕生日に顔を合わせないなんて、初めてのことではないかしら……』
いつだってリリシャはハロルドと共に、ハロルドの側で一緒に誕生日を祝ってきた。
それはもちろんリリシャの誕生日もそうだ。
リリシャの胸の内にほんの少し寂しさが訪れる。
その時、歳若い侍女がリリシャに告げた。
「お父上のブラウン騎士団長がリリシャ様をエスコートするためにお越しだそうです」
婚約者のいないデビュタントの令嬢は、父兄にエスコートされるのが慣習だ。
リリシャは当然、今夜は父のプゥサンにエスコートされることになっている。
父はこの日のために王国騎士団の礼服を新調していた。
侍女につき従われて、リリシャは父が待つという夜会会場の入り口へと向かった。
「リリシャッ……!!なんて綺麗なんだ!!一瞬天使が舞い降りたのかと思ったぞっ……!!」
「お父様やめてください。どう考えても天使が舞い降りたわけではないのですから、私…居た堪れませんわっ……」
ただでさえ声が大きい上に騎士団長という肩書きでさらに周囲の目を引く父が、親の贔屓目という節穴を発動させるものだからリリシャはたまったものではない。
だが娘の成長を目の当たりにし、感極まった父は止まらない。
「何を言うっ!!こんなにも美しいリリシャが天使でないなどありえんっ!!」
「お父様、夜会が始まる前に私を逃走させたいのですか」
「リリシャは天s「お黙り」
会場には爵位の低い家から入場する。
リリシャは父の腕を引き、その場から逃げるように会場入りをするべく扉の所へと向かった。
これではどちらがエスコートされているのかわからない。
父が王宮侍従に訪いを告げると共に招待状を提示する。
侍従はリリシャを見て小さく微笑み、そして先に会場入りをしている者たちに向け声高らかに名を読み上げた。
「アデリオール王国騎士団団長、プゥサン=ブラウン男爵、並びにご息女リリシャ孃ご入場っ!!」
リリシャとハロルド。
二人にとって初めての夜会が始まろうとしていた。
いつものように王宮が手配してくれた馬車に乗り込もうとしたところを、王妃付きの侍女たちに拉致られたのだ。
なんでも王妃が明日のデビュタントの用意のために王宮に泊まるようにと仰せなのだとか。
既に父親にも了承済みだそうで、それならばとリリシャはそれに従った。
確かに王妃様には「リリちゃんのドレスはわたくしに任せてちょうだい♡」と言われていたが、まさかその用意のために前日から王宮に泊まり込みになるなんて思ってもみなかったのだ。
そして迎えた夜会当日の朝。
リリシャはいつもより早くに起こされて、まずは良い香りのするオイルの入ったバスタブに放り込まれた。
そして馴染みの侍女たちに全身を磨きあげられ、これまたいい香りがする乳液を塗りたくられる。
その段階でハロルドの母である王妃が支度部屋を訪れた。
「おはようリリちゃん。よく眠れた?」
リリシャはバスローブに身を包み、顔にレモンを貼り付けられた状態でアデリオールの国母を出迎える。
「おはようございます王妃様。このような姿で失礼いたします」
「いいの。支度中だとわかっていて来ているのだから。今日はリリちゃんのデビュタントの日でもあるのよ、自分が今日の主役だと思って気合いをいれてお支度をしなくちゃ」
王妃はそう言って可愛らしく小さなガッツポーズをとった。
今年御歳五十五歳になるとは信じられないくらいチャーミングな王妃様である。
「王妃様。デビュタント用の素敵なドレスをありがとうございました」
リリシャは既に支度部屋に用意されているドレスに視線を巡らせてから王妃に礼を言った。
「気に入ってくれた?」
「ええとっても!こんなに素敵なドレス、初めて見ました」
「良かったわ~!アンネット(王太子アルスライドの正妃)と選びに選び抜いたドレスなの。気に入って貰えて嬉しいわ」
センスの良い二人が選んでくれたドレスだ。
最高に素敵で可愛くて、気に入らないわけがない。
だけどそれよりもリリシャにとって、王妃とアンネットが自分のために一生懸命選んでくれたことが何よりも嬉しいのだ。
「あの、ハロルド様は……?」
もう起きているのだろうか、逃げ出してはいないだろうかと心配になったリリシャが王妃に訊ねる。
「あの子のことは心配いらないわ。今日は筆頭魔術師が付きっきりで見張っていますからね。リリちゃんは今日、自分のことだけを考えるのよ?素敵なデビュタントを迎えて」
「ふふふ。はい、わかりました。ありがとうございます」
王妃はそれから、リリシャの支度を担当する侍女たちにあれこれと指示をしてから退室して行った。
その後も軽食を摂りながらリリシャは侍女たちによって、王宮で開催される夜会で社交界デビューするのに相応しい令嬢へと磨きあげられたのである。
温かみのあるパールホワイトのシルクとシフォン、それに繊細なレースで仕立てられた清楚かつ華やかなドレスには、所々に真珠とダイヤがドレスに散りばめられている。
トレーンの丈はデビュタントらしくミディ丈。
そしてアクセサリーはドレスに合わせて真珠のネックレスにイヤリングだ。
『これ……総額お幾ら万エーンなのかしら……』
今、自分は一体札束をいくつ重ねたものを身につけているのか、リリシャは少し恐ろしくなった。
『絶対に転けたり引っ掛けたりして破かないように気をつけなくては……』
「お美しいですわリリシャ様っ!」
「ホント完璧っ!!」
「今宵デビュタントの令嬢の中で一番美しいのは間違いないです」
侍女たちが口々にそう褒めそやす。
侍女たちのおかげで一番ではないにしろ、それなりには見れる感じに仕上がっているのではないかとリリシャは安堵した。
「ハロルド様のお支度はもうできましたの?」
リリシャが気になって訊ねると侍女の一人が教えてくれた。
「はい。早めにお支度が整い、既に王太子殿下とご一緒に王族の控えの間に監禁…こほん、待機しておられますわ」
『今、監禁と言ったわね?』
ハロルドはまだ出たくないと駄々を捏ねているのか。
まったく困った王子様だ。
リリシャはドレスと共布で作られたポーチに忍ばせた小さな箱に思いを巡らせた。
ハロルドの瞳の色のリボンが掛けられた、ささやかな誕生日プレゼントだ。
毎年何かしらの贈りものをしているのだが、今年は十五歳の節目の年なので迷いに迷って万年筆にした。
そんな高価な品ではないけれどハロルドならきっと喜んでくれる、リリシャはそう思い思わず顔を綻ばせる。
「今日はこの後ハロルド様にはお会いできるのかしら?」
その言葉を聞き、侍女たちは首を傾げながら答える。
「私どもにはわかりかねますが、デビュタントの王族は挨拶まわりに終始大忙しだそうですので、もしかしたら難しいかもしれないですね……」
「そう……」
そうか。そんなものなのか。
じゃあ今日はプレゼントを渡せないのかもしれない。
『……誕生日に顔を合わせないなんて、初めてのことではないかしら……』
いつだってリリシャはハロルドと共に、ハロルドの側で一緒に誕生日を祝ってきた。
それはもちろんリリシャの誕生日もそうだ。
リリシャの胸の内にほんの少し寂しさが訪れる。
その時、歳若い侍女がリリシャに告げた。
「お父上のブラウン騎士団長がリリシャ様をエスコートするためにお越しだそうです」
婚約者のいないデビュタントの令嬢は、父兄にエスコートされるのが慣習だ。
リリシャは当然、今夜は父のプゥサンにエスコートされることになっている。
父はこの日のために王国騎士団の礼服を新調していた。
侍女につき従われて、リリシャは父が待つという夜会会場の入り口へと向かった。
「リリシャッ……!!なんて綺麗なんだ!!一瞬天使が舞い降りたのかと思ったぞっ……!!」
「お父様やめてください。どう考えても天使が舞い降りたわけではないのですから、私…居た堪れませんわっ……」
ただでさえ声が大きい上に騎士団長という肩書きでさらに周囲の目を引く父が、親の贔屓目という節穴を発動させるものだからリリシャはたまったものではない。
だが娘の成長を目の当たりにし、感極まった父は止まらない。
「何を言うっ!!こんなにも美しいリリシャが天使でないなどありえんっ!!」
「お父様、夜会が始まる前に私を逃走させたいのですか」
「リリシャは天s「お黙り」
会場には爵位の低い家から入場する。
リリシャは父の腕を引き、その場から逃げるように会場入りをするべく扉の所へと向かった。
これではどちらがエスコートされているのかわからない。
父が王宮侍従に訪いを告げると共に招待状を提示する。
侍従はリリシャを見て小さく微笑み、そして先に会場入りをしている者たちに向け声高らかに名を読み上げた。
「アデリオール王国騎士団団長、プゥサン=ブラウン男爵、並びにご息女リリシャ孃ご入場っ!!」
リリシャとハロルド。
二人にとって初めての夜会が始まろうとしていた。
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