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私の婚約者はとても素敵な人
しおりを挟む「メグルカ。あなたの婚約者さま、また告白されていたわよ」
「あらそう」
「あらそう、ってあなた……」
「だってもう慣れっこだもの」
メグルカがそう答えると、
親友のフィリアは肩を竦めて笑っていた。
メグルカ・スミス(17)の婚約者、レイター・エルンスト(17歳もうすぐ18歳)はとてもモテる。
群を抜いて美形……とまではいかないがそれなりに美男子であるし、長身で均整の取れた体格と温かみのあるココアブラウンの髪に涼やかなブルーアイズ。
その相反する印象が彼の魅力をさらに引き立てている。
そしてレイターはハイラント魔法学校において常に成績上位者トップ3(順位変動)の中に名を刻む優秀な生徒だ。
それに加え魔法学校在学中にも関わらず一級魔術師資格認定試験に合格した。
すでに卒業後の輝かしい将来を約束された優良物件であることも、レイターがモテる要因となっている。
親友同士であるメグルカとレイターの父親二人の強い希望により幼い頃に結ばれた婚約だが、明らかにスミス家だけが得をする縁談だと暗に囁かれているのだ。
“棚からぼた餅婚約”
東方の国のことわざを準えて皆がそう言っていることを、メグルカは知っていた。
両家の親たちはそんなくだらないやっかみなど気にすることはないと笑い飛ばしていたが。
「棚からぼた餅だなんて。メグルカだって美人だしスタイルもいいし、なんたって卒業後は魔法力学の権威アドリフ教授の研究室にって誘われてるんでしょう?」
ふいにフィリアに言われたその言葉に、メグルカは少しだけ目を丸くする。
「あら、私ったら考え事が口に出ていた?」
「ポツリ、棚からぼた餅婚約ね……とつぶやいていたわよ。そんなの気にすることないわよ」
「べつに気にしているわけじゃないのよ。少し、思い出してただけで」
「それならいいけど……でもさっきの続きだけれど、卒業後は研究室に入るの?」
ハイラント魔法学校三年のメグルカのクラスメイトであり友人であるフィリア・バーニーがそう訊ねた。
メグルカは小さく首を横に振って答える。
「いいえ。レイがね、卒業後一年以内には入籍したいって。だからそのための準備でそれどころじゃないわ」
「ま~、エルンストさんったら。一日でも早くメグルカを自分のものにしたいのね。確かにそんなに愛されてりゃ、他の女子生徒が告白しようが何しようが余裕になれるわけだ」
「余裕でいるわけではないのよ。ただ、レイは優しい人だからみんなが好きになるのが理解できると思っているだけなの」
そう。婚約者のレイターの魅力は容姿や将来性だけではない。
彼の本当の魅力はその性格の良さであるとメグルカは思っている。
穏やかで優しく、思いやりがあって誰に対しても分け隔てなく誠実に接する。
間違ったことであれば毅然として上級生や大人にも意見を言うし、困った人間を見かけたら躊躇なく手を差し伸べることが出来る芯の強い人。
そんなレイターだからこそ老若男女問わず様々な人間から好かれるし、女性が彼に好意を抱くのも少なからず仕方ないと思っているのだ。
だってレイターは素敵な人だから。
幼い頃から共にあり、二人手を携えて家族のように成長してきたメグルカとレイターだが、メグルカはちゃんとレイターを異性として意識してきたし、初恋も現在に至るこの恋情を向ける相手も全てレイターだ。
「彼は本当に素敵な人だもの」
そう言ってメグルカは廊下から中庭に面した窓へと視線を巡らせた。
窓からは中庭が一望でき、ちょうどそこを歩いている婚約者を見つけた。
黒に近い深いチャコールグレーの詰襟の制服をきちんと着こなし、重そうな魔導書を片手に颯爽と歩くレイター。
すれ違う顔なじみの生徒たちから声を掛けられ、笑顔で挨拶を交わしている。
メグルカの居る校舎の二階からは何を言っているのかは聞こえないが、メグルカには聞き馴染んだ彼の声が鼓膜を震わすかのように感じた。
ふと、レイターとすれ違った下級生の女子生徒がハンカチを落とした。
女子生徒はそれに気付ずかずそのまま歩いて行く。
レイターは素早くそのハンカチを拾って女子生徒を追いかけた。
そして声を掛け、拾ったハンカチを女子生徒に渡した。
女子生徒はハンカチを受け取り礼を言っているようだ。
相手が上級生だとわかり、何度も頭も下げている。
そんな女子生徒に柔らかな笑みを向け、レイターは小さく片手をあげて立ち去って行く。
その後ろ姿をぽ~っと見送る女子生徒の頬が見る間に朱に染まっていくのを、メグルカとフィリアは見た。
フィリアが視線は窓の外に向けながら眉根を寄せてメグルカに言う。
「あなたの婚約者、また一人想われ人を作ったみたいよ?」
その言葉に対してメグルカは柳眉を下げて笑みを浮かべた。
「ふふ、その瞬間を目の当たりにしちゃったわね。きっと近々また告白を受けるのでしょう」
「……モテる婚約者を持つというのも考えものだわ。あなたも苦労するわね…」
「私はそんな深刻に考えていないのだけれど……」
「ハイハイ、愛される女の心の余裕が眩しいわ」
「もう、フィリアったら」
メグルカはジト目を向ける親友に笑いながらもう一度窓の外の婚約者に視線を巡らし、その場を去った。
─────────────────────
連載、はじめました。
え?そんな冷やし中華はじめました。的に言うなって?
(ΦωΦ)フフフ…とにもかくにも皆様、今作もよろしくお付き合いくださいませ。
例の如く感想の返信はままならないと思います。
ごめんなさい。°(°`ω´ °)°。ピー
明日の朝も更新ありマッスルᕙ( ˙꒳˙ )ᕗ
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