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もう自由にしたっていいじゃないですか
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次の日から早速わたしは
覚えたての転移魔法と自分で開発した、
「転移魔法で使用した魔力の残滓を辿って転移先を追跡させない魔道具」を使って、侍女のサリィと街に出た。
サリィには生まれてからまだ数回しか街に行った事がないわたしの案内役と指南役と護衛も兼ねて一緒について来て貰っている。
(サリィは騎士団長の姪で、団長仕込みの武術の腕前があるのだ)
専属侍女のサリィは、
わたしがいつの間に城暮らしになっていた頃からの付き合い。
ミルクティー色の髪に黒曜石の瞳。
背が高く、無愛想なところがなぜかカッコいい、わたしより3つ年上の仕事の出来るオンナだ。
そのサリィに庶民の暮らしのアレコレを色々と教えて貰いながら街を歩く。
城を出た後に住む地区の下見や家の内覧。
そして生活費を得るために魔道具を売るギルドの下調べなど、忙しく過ごした。
そして
自警団が駐在している地区にある小さなアパートを借りる事にした。
南向きの2DKの小さな部屋。
古いけど手入れの行き届いた良い空気感の部屋だった。
前の住人が残したベッドやテーブルや食器棚が置いてあり、
綺麗に掃除されていたのでそのまま使う事にした。
わたしだけの小さなお城。
本当のお城で暮らしているわたしだが、
こちらのお城の方が何倍も好ましく感じた。
当たり前か。
城を出たからといって、
わたしは生家の侯爵家に戻るつもりはない。
殿下や陛下に連れ戻されるのは目に見えているし、10歳で家を出たわたしが今更戻っても家族を混乱させるだけだ。
もちろん家族は温かく迎え入れてくれるだろう。
でも長兄の妻である義姉やその子どもたちにとってわたしは知らない人も同然。
みんなに気を遣わせながら暮らすのはわたしの本意ではない。
それに侯爵家に戻れば貴族の娘として社交は免れない。
夜会やお茶会などで殿リリと遭遇する機会が多すぎる。
それに絶対、ある事ない事、ない事ない事を面白おかしく噂されるのは目に見えている。
そんな生活は絶対に嫌だ。
父や母はわたしが平民になる事は許してくれないだろう。
いずれはどこかの令息と結婚するにしても、せめて今だけ、殿下への気持ちが過去になるまでは一人で気ままに暮らしたいのだ。
生まれながらのお嬢様育ちのわたしは、もちろん家事なんてやった事がないけれど、元来凝り性で手先が器用だから教えてさえ貰えばなんとかなると思う。
一人暮らしを始めてしばらくはサリィが一緒に暮らしてくれるそうだから、
その間にビシバシ鍛えてもらうつもりだ。
わたしとサリィはそのまま新しい部屋に必要なリネンや食器、日用品や衣類などを買いに商店街へと足を伸ばした。
商店街に着くとすぐ、芳醇でなんともいえない芳しい香りがした。
これは何かとサリィに聞くと、赤ワインや香辛料で煮込んだ肉を串に刺して炭火で焼いたものだと教えてくれた。
……じゅるり。
なんとも美味しそうで目が釘付けになっていたら、
サリィが2本買い求め、そのうち1本を渡してくれた。
え?その場で食べるの?
庶民はみんなやっている?
もちろんそんな事は初体験のわたしは一瞬躊躇したが、
今ここにいるわたしは第二王子の婚約者でも侯爵令嬢でもない。
誰に遠慮がいるものか。
もう買い食いしたっていいじゃない。
自由にしたっていいじゃない。
わたしは意を決して肉を頬張った。
……美味しい!!
え?焼きたてだから?
凄い、今まで食べたことない味だ。
すっかり庶民の味に魅了され、
よし次はあれを食べるぞと意気込むわたしにサリィは温かな眼差しを向けてくれた。
商店街のお店でアレコレ購入していると、斜め向かいの店に並ぶ人達が目についた。
あれはなんの行列かと店主に尋ねたら、
5年前から人気のショコラティエだと教えてくれた。
なんでも遠方からわざわざ買いに来る人もいるのだとか。
いつも行列が絶えず、おかげで商店街が賑わって有り難いのだと店主は笑って話す。
丁度昨日買ったチョコレートがあるから食べるかい?と店主が言ってくれた。
わたしとサリィが沢山買ったからサービスだとか。
チョコレートがぎっしり詰まった箱の中から、店主はわたしとサリィにふた粒ずつ小皿にのせて渡してくれる。
そのチョコレートを見たわたしは
とても驚いた。
このチョコレートを、わたしは知っている。
まだ殿下が余剰魔力で体を壊す前の事だ。
その頃の殿下はよく、
側近のライアン様とお忍びで市井へ視察に出ていた。
あの日もお忍びで公共施設を見て回ったとかで、お土産にこのチョコレートを買って来てくれたのだ。
とても美味しいと評判だから、わたしに食べさせたかったと言って。
そう、それから少しして余剰魔力のせいで昏睡状態になったから、
チョコレートを買った時は既に少しずつ不調を感じていたのかもしれない。
それなのにきっと殿下は行列に並んでチョコレートを買ってくれたんだろう。
お忍びで出ているし
身分で優遇されようとは思わない人だから、きっと他の人と同じように並んだはず。
わたしはお皿の上の小さなチョコレートをじっと見つめた。
愛されていたんだなと
今更になって思う。
それは今も変わらないのかもしれないけど、
わたしが殿下を信じられなくなった。
今の殿下は口にする言葉と行動が合っていない。
なぜそうなってしまったのかはわからないけど、
リリナ様が来てからなのは間違いない。
口ではわたしの事が大切だと言いながら、
行動ではリリナ様の方を大切にしている。
だからきっとそれが答えなのだろう。
覚えたての転移魔法と自分で開発した、
「転移魔法で使用した魔力の残滓を辿って転移先を追跡させない魔道具」を使って、侍女のサリィと街に出た。
サリィには生まれてからまだ数回しか街に行った事がないわたしの案内役と指南役と護衛も兼ねて一緒について来て貰っている。
(サリィは騎士団長の姪で、団長仕込みの武術の腕前があるのだ)
専属侍女のサリィは、
わたしがいつの間に城暮らしになっていた頃からの付き合い。
ミルクティー色の髪に黒曜石の瞳。
背が高く、無愛想なところがなぜかカッコいい、わたしより3つ年上の仕事の出来るオンナだ。
そのサリィに庶民の暮らしのアレコレを色々と教えて貰いながら街を歩く。
城を出た後に住む地区の下見や家の内覧。
そして生活費を得るために魔道具を売るギルドの下調べなど、忙しく過ごした。
そして
自警団が駐在している地区にある小さなアパートを借りる事にした。
南向きの2DKの小さな部屋。
古いけど手入れの行き届いた良い空気感の部屋だった。
前の住人が残したベッドやテーブルや食器棚が置いてあり、
綺麗に掃除されていたのでそのまま使う事にした。
わたしだけの小さなお城。
本当のお城で暮らしているわたしだが、
こちらのお城の方が何倍も好ましく感じた。
当たり前か。
城を出たからといって、
わたしは生家の侯爵家に戻るつもりはない。
殿下や陛下に連れ戻されるのは目に見えているし、10歳で家を出たわたしが今更戻っても家族を混乱させるだけだ。
もちろん家族は温かく迎え入れてくれるだろう。
でも長兄の妻である義姉やその子どもたちにとってわたしは知らない人も同然。
みんなに気を遣わせながら暮らすのはわたしの本意ではない。
それに侯爵家に戻れば貴族の娘として社交は免れない。
夜会やお茶会などで殿リリと遭遇する機会が多すぎる。
それに絶対、ある事ない事、ない事ない事を面白おかしく噂されるのは目に見えている。
そんな生活は絶対に嫌だ。
父や母はわたしが平民になる事は許してくれないだろう。
いずれはどこかの令息と結婚するにしても、せめて今だけ、殿下への気持ちが過去になるまでは一人で気ままに暮らしたいのだ。
生まれながらのお嬢様育ちのわたしは、もちろん家事なんてやった事がないけれど、元来凝り性で手先が器用だから教えてさえ貰えばなんとかなると思う。
一人暮らしを始めてしばらくはサリィが一緒に暮らしてくれるそうだから、
その間にビシバシ鍛えてもらうつもりだ。
わたしとサリィはそのまま新しい部屋に必要なリネンや食器、日用品や衣類などを買いに商店街へと足を伸ばした。
商店街に着くとすぐ、芳醇でなんともいえない芳しい香りがした。
これは何かとサリィに聞くと、赤ワインや香辛料で煮込んだ肉を串に刺して炭火で焼いたものだと教えてくれた。
……じゅるり。
なんとも美味しそうで目が釘付けになっていたら、
サリィが2本買い求め、そのうち1本を渡してくれた。
え?その場で食べるの?
庶民はみんなやっている?
もちろんそんな事は初体験のわたしは一瞬躊躇したが、
今ここにいるわたしは第二王子の婚約者でも侯爵令嬢でもない。
誰に遠慮がいるものか。
もう買い食いしたっていいじゃない。
自由にしたっていいじゃない。
わたしは意を決して肉を頬張った。
……美味しい!!
え?焼きたてだから?
凄い、今まで食べたことない味だ。
すっかり庶民の味に魅了され、
よし次はあれを食べるぞと意気込むわたしにサリィは温かな眼差しを向けてくれた。
商店街のお店でアレコレ購入していると、斜め向かいの店に並ぶ人達が目についた。
あれはなんの行列かと店主に尋ねたら、
5年前から人気のショコラティエだと教えてくれた。
なんでも遠方からわざわざ買いに来る人もいるのだとか。
いつも行列が絶えず、おかげで商店街が賑わって有り難いのだと店主は笑って話す。
丁度昨日買ったチョコレートがあるから食べるかい?と店主が言ってくれた。
わたしとサリィが沢山買ったからサービスだとか。
チョコレートがぎっしり詰まった箱の中から、店主はわたしとサリィにふた粒ずつ小皿にのせて渡してくれる。
そのチョコレートを見たわたしは
とても驚いた。
このチョコレートを、わたしは知っている。
まだ殿下が余剰魔力で体を壊す前の事だ。
その頃の殿下はよく、
側近のライアン様とお忍びで市井へ視察に出ていた。
あの日もお忍びで公共施設を見て回ったとかで、お土産にこのチョコレートを買って来てくれたのだ。
とても美味しいと評判だから、わたしに食べさせたかったと言って。
そう、それから少しして余剰魔力のせいで昏睡状態になったから、
チョコレートを買った時は既に少しずつ不調を感じていたのかもしれない。
それなのにきっと殿下は行列に並んでチョコレートを買ってくれたんだろう。
お忍びで出ているし
身分で優遇されようとは思わない人だから、きっと他の人と同じように並んだはず。
わたしはお皿の上の小さなチョコレートをじっと見つめた。
愛されていたんだなと
今更になって思う。
それは今も変わらないのかもしれないけど、
わたしが殿下を信じられなくなった。
今の殿下は口にする言葉と行動が合っていない。
なぜそうなってしまったのかはわからないけど、
リリナ様が来てからなのは間違いない。
口ではわたしの事が大切だと言いながら、
行動ではリリナ様の方を大切にしている。
だからきっとそれが答えなのだろう。
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