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もう一緒じゃなくていいじゃないですか

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「シア!どういう事!?
なんで朝食を一人で食べたの!?」

朝食後、殿下は執務室に向かう前にわたしの自室へと押しかけて来た。

腕にはもちろんリリナ様を引っ提げて。

わたしは丁度
魔道具を弄ってる最中で、機械油で汚れた作業着姿だったが構わず対応した。

「朝食だけではありません、これからは昼食も夕食も自室で戴きます」

それを聞き、殿下の顔色は一気に青くなった。

「ど、どうして!?子どもの頃からずっと一緒に食べてきたじゃないか!シアが居ないと何を食べても美味しくないよ!」

「それなら余計にこれからはわたしが居なくても食事を楽しめるように慣れなければいけまんせね」

「なぜ慣れなければいけない?」

「わたしと殿下の婚約が解消されて、お別れするからです」

その言葉を聞いた殿下の顔色はもはや真っ白だった。

「ま、まだそんな事言ってるのっ…?僕は婚約解消なんて絶対にしないよっ、僕にはフェリシアが必要なんだっ…!」

「リリナ様も必要なんですよね?」

「それは、うん」「きゃっ♡」

「絶対婚約解消です、絶対です」

「なんで!?」

この男は……ホントに理解出来ないのか?

わたしはまたまた淑女らしからぬ悪態を心の中で毒吐いた。

「殿下、お仕事はいいんですか?
後ろでライアン様が待ってますよ」

わたしの自室の扉の所で待機する、
殿下の側近ライアン=ホープ(20)に視線を向けた。

常に沈着冷静、容姿端麗頭脳明晰とこれまたハイスペックなライアン様はわたしの視線に気付き、胸に手を当て臣下の礼を取る。


「……前みたいにウィルと呼んでくれたら執務を頑張る」

不貞腐れた顔で殿下が言う。

わたしはチクっとした胸の痛みを無視して殿下に告げた。

「王子殿下、わたしは殿下との訣別を望んでいる人間です。そんな者が何故、愛称で呼べましょうか」

「っ訣別…!」

その言葉に殿下は深く傷ついたようだ。

「アタシが呼んであげますよぅ、ウィルさ…「その呼び方を許しているのはフェリシアだけだ!気安く呼ぶな!!」

リリナ様の言葉に被せるように殿下が声を荒げた。

わたしはびっくりして二人を見つめる。

するとみるみるうちに、
リリナ様は得意のメソメソモードになった。

ウルウルと目に涙を溜めて殿下に縋り、訴える。

「そんなっ…アタシはただ、ウィリアム様と今以上に仲良くなりたいと思っただけなのにぃぃっ…!」

泣き出したリリナ様を見て、
途端に殿下は慌て出した。

「いやごめん、リリナ…声を荒げて…!でもその呼び方だけはやめて欲しいんだ。他はどんな呼び方でもいいから…」

あたふたとリリナ様を慰める殿下を
半目のジト目で見ながら、わたしはライアン様に声を掛けた。

「ライアン様、そろそろ執務が始まる時間じゃないですか?とっととこのバカップルを連れて行ってくださいませ」

不敬と思いつつも
もはや取り繕うのもバカらしい。

ライアン様も心得たもので、
何も言わずさっさと二人を連れ出してくれた。

それに殿下が抵抗する。

「待て、まだ大事な事を何もシアと話せていない!シア!ちゃんと二人で話をしよう!」

「……二人きりになれないじゃないですか」

「……っ!」

二人の将来についての大切な話をリリナ様の前でしたくはない。

でもそれは無理だとわかっているので、わたしはもう殿下と話し合うつもりはなかった。

何も言えなくなった殿下の肩をトンと押し、わたしは殿下と付属品を部屋から追い出した。

「シア!フェリシア!」

ドンドンと扉を叩く音がしたが、

わたしは応答しなかった。

殿下は悪くないのに
顔を合わせるとどうしても殿下を責める形になってしまう。

殿下を傷付け続けているこの状況を
一刻も早くなんとかしなければならない。

「サリィ、王妃様に会いにゆきます。先ぶれを」

わたしが一番信を置く侍女のサリィは
「承知しました」と頷くなり、直ぐに部屋を出て行った。


わたしは他の侍女と
王妃様に面会をするために作業着からドレスへと着替えた。









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