上 下
17 / 25

アユリカの心情

しおりを挟む
「アユ、買い出しか?荷物持ちに着いて行くよ」

「ハイゼル、今日はお休みなの?」

「ああ。俺は副司教様付きだからな。副司教様が私用でたまに休まれる日は漏れなく非番になるんだ」

「そう。でも悪いわ。せっかくのお休みなんだから家でゆっくりするか、やりたい事をすればいいのに」

「アユを手伝う事が俺のやりたい事だ」

「……」


懺悔と告白された日から、
ハイゼルはぐいぐいアユリカに構うようになった。
毎日惣菜を買いにくるのはもちろん、休みの日にはこうやって開店前からポミエに来ては、あれこれアユリカの手伝いをしようとする。

ハイゼルが予科練学校に入学する前のような関係に戻れて、嬉しいような戸惑うような。
片想い(ではなかったが)期間が長かった上に失恋したと思っていただけに、アユリカは複雑な気持ちになってしまう。

(私は……どうしたいのかしら。自分でもよくわからないわ……)

今の状況が嫌なわけではない。
ハイゼルに好きだと言われて嬉しくないわけがない。

だけど独り立ちをして、精神的にも自立してからというもの、以前の自分が如何いかに子どもじみていたのかがよくわかる。

ある意味恋に恋していたところもあると、冷静に自分を客観視できるようになっていた。

(まぁそれでも彼の顔を見たら、やっぱりまだ好きなんだと気付かされたんだけどね)

以前のような盲目的に恋心を募らせるようなことはないが、それでもやっぱりハイゼルが好きなんだとアユリカは思う。

それなのに素直になれない自分がいる。

諦めた恋が今さら追いかけてきた事への戸惑いが隠せない自分がいる。

あんなに一緒だったのに。
それがある日ハイゼルは突然離れていき、そしてアユリカを遠避けた。

その事を悲しみ、涙したかつてのアユリカがヘソを曲げているのだ。

そんなアユリカの心情がハイゼルにも伝わっているのか、彼は決してそれ以上踏み込もうとはしなかった。

外側から真綿で包むように。直接アユリカには触れずに、付かず離れず側に居るといった感じである。


そんなアユリカとハイゼルを、イリナもセィラも生暖かく見守っているようだ。

ポミエに頻繁に現れるようになった新人聖騎士の存在は瞬く間にご町内の知るところとなった。
そして当然、興味を示したイリナとセィラに根掘り葉掘り訊かれたわけなのだが。

アユリカが単身この街に来た詳しい理由もそれで理解した上で、イリナとセィラはアユリカの思うままに行動したらいいと、今の複雑な気持ちを肯定してくれた。

セィラの夫ラペルも聖騎士であるので、ハイゼルの国教会支部での仕事ぶりの話も聞かせてもらったりする。

ハイゼルはまだ年若い新人騎士でありながら、古いしきたりや習わしなどを重んじる。
そこが副司教にとても気に入られ、重用されているのだという。

(私もハイゼルも、育ての親は古の魔女の孫だもの。そういったものを蔑ろにはしてはいけないと教えられて育ったんだものね)

騎士としての腕っぷしだけでなく副司教のお気に入りともなると、やはり支部の中でも注目度は高いらしい。

そのため将来有望な結婚相手として、支部に勤めるメイドや女性事務員たちからの熱烈なアプローチを受け始めているそうだ。

「気が済むまでとことん振り回してやるのもいいと思うけどね。でも意固地になって機を逃して、それで一生後悔するようなことにだけはならないように気をつけるのよ」

と心配したイリナにそう言われたものの、まだ当分は素直になれそうにないとアユリカは思うのだった。

しおりを挟む
感想 383

あなたにおすすめの小説

(完結)貴女は私の親友だったのに・・・・・・

青空一夏
恋愛
私、リネータ・エヴァーツはエヴァーツ伯爵家の長女だ。私には幼い頃から一緒に遊んできた親友マージ・ドゥルイット伯爵令嬢がいる。 彼女と私が親友になったのは領地が隣同志で、お母様達が仲良しだったこともあるけれど、本とバターたっぷりの甘いお菓子が大好きという共通点があったからよ。 大好きな親友とはずっと仲良くしていけると思っていた。けれど私に好きな男の子ができると・・・・・・ ゆるふわ設定、ご都合主義です。異世界で、現代的表現があります。タグの追加・変更の可能性あります。ショートショートの予定。

(完結)婚約者の勇者に忘れられた王女様――行方不明になった勇者は妻と子供を伴い戻って来た

青空一夏
恋愛
私はジョージア王国の王女でレイラ・ジョージア。護衛騎士のアルフィーは私の憧れの男性だった。彼はローガンナ男爵家の三男で到底私とは結婚できる身分ではない。 それでも私は彼にお嫁さんにしてほしいと告白し勇者になってくれるようにお願いした。勇者は望めば王女とも婚姻できるからだ。 彼は私の為に勇者になり私と婚約。その後、魔物討伐に向かった。 ところが彼は行方不明となりおよそ2年後やっと戻って来た。しかし、彼の横には子供を抱いた見知らぬ女性が立っており・・・・・・ ハッピーエンドではない悲恋になるかもしれません。もやもやエンドの追記あり。ちょっとしたざまぁになっています。

(完結)お姉様、私を捨てるの?

青空一夏
恋愛
大好きなお姉様の為に貴族学園に行かず奉公に出た私。なのに、お姉様は・・・・・・ 中世ヨーロッパ風の異世界ですがここは貴族学園の上に上級学園があり、そこに行かなければ女官や文官になれない世界です。現代で言うところの大学のようなもので、文官や女官は○○省で働くキャリア官僚のようなものと考えてください。日本的な価値観も混ざった異世界の姉妹のお話。番の話も混じったショートショート。※獣人の貴族もいますがどちらかというと人間より下に見られている世界観です。

もうすぐ、お別れの時間です

夕立悠理
恋愛
──期限つきの恋だった。そんなの、わかってた、はずだったのに。  親友の代わりに、王太子の婚約者となった、レオーネ。けれど、親友の病は治り、婚約は解消される。その翌日、なぜか目覚めると、王太子が親友を見初めるパーティーの日まで、時間が巻き戻っていた。けれど、そのパーティーで、親友ではなくレオーネが見初められ──。王太子のことを信じたいけれど、信じられない。そんな想いにゆれるレオーネにずっと幼なじみだと思っていたアルロが告白し──!?

【完結】義妹と婚約者どちらを取るのですか?

里音
恋愛
私はどこにでもいる中堅の伯爵令嬢アリシア・モンマルタン。どこにでもあるような隣の領地の同じく伯爵家、といってもうちよりも少し格が上のトリスタン・ドクトールと幼い頃に婚約していた。 ドクトール伯爵は2年前に奥様を亡くし、連れ子と共に後妻がいる。 その連れ子はトリスタンの1つ下になるアマンダ。 トリスタンはなかなかの美貌でアマンダはトリスタンに執着している。そしてそれを隠そうともしない。 学園に入り1年は何も問題がなかったが、今年アマンダが学園に入学してきて事態は一変した。

【完結】好きでもない私とは婚約解消してください

里音
恋愛
騎士団にいる彼はとても一途で誠実な人物だ。初恋で恋人だった幼なじみが家のために他家へ嫁いで行ってもまだ彼女を思い新たな恋人を作ることをしないと有名だ。私も憧れていた1人だった。 そんな彼との婚約が成立した。それは彼の行動で私が傷を負ったからだ。傷は残らないのに責任感からの婚約ではあるが、彼はプロポーズをしてくれた。その瞬間憧れが好きになっていた。 婚約して6ヶ月、接点のほとんどない2人だが少しずつ距離も縮まり幸せな日々を送っていた。と思っていたのに、彼の元恋人が離婚をして帰ってくる話を聞いて彼が私との婚約を「最悪だ」と後悔しているのを聞いてしまった。

平凡令嬢の婚活事情〜あの人だけは、絶対ナイから!〜

本見りん
恋愛
「……だから、ミランダは無理だって!!」  王立学園に通う、ミランダ シュミット伯爵令嬢17歳。  偶然通りかかった学園の裏庭でミランダ本人がここにいるとも知らず噂しているのはこの学園の貴族令息たち。  ……彼らは、決して『高嶺の花ミランダ』として噂している訳ではない。  それは、ミランダが『平凡令嬢』だから。  いつからか『平凡令嬢』と噂されるようになっていたミランダ。『絶賛婚約者募集中』の彼女にはかなり不利な状況。  チラリと向こうを見てみれば、1人の女子生徒に3人の男子学生が。あちらも良くない噂の方々。  ……ミランダは、『あの人達だけはナイ!』と思っていだのだが……。 3万字少しの短編です。『完結保証』『ハッピーエンド』です!

恋心を封印したら、なぜか幼馴染みがヤンデレになりました?

夕立悠理
恋愛
 ずっと、幼馴染みのマカリのことが好きだったヴィオラ。  けれど、マカリはちっとも振り向いてくれない。  このまま勝手に好きで居続けるのも迷惑だろうと、ヴィオラは育った町をでる。  なんとか、王都での仕事も見つけ、新しい生活は順風満帆──かと思いきや。  なんと、王都だけは死んでもいかないといっていたマカリが、ヴィオラを追ってきて……。

処理中です...