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セィラの義妹、サーニャという娘
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セィラが夫となるラペル・コルトと出会ったのは、彼が聖騎士資格試験を受験する少し前だった。
筆記試験の参考書を探しに、ラペルはセィラが勤める王立第二図書館を訪れた。
ラペルはお目当ての参考書が見当たらず、図書館司書に助けを求めた。
その対応をしたのがセィラだったのだ。
無事に参考書を借りることが出来たラペルは筆記、実技とも見事試験をクリアして聖騎士資格を得た。
そして聖騎士の称号を賜ったその日、ラペルは再び(いや参考書の返却も含めて三度)図書館を訪れ、セィラに交際を申し込んだのであった。
それがセィラとラペル、二人が十九歳の時のことだ。
この国では図書館司書の資格は十八歳から、聖騎士の称号は成績優秀者は最短で同じく十八歳で得られる。
ラペルはなかなか優秀な男で、同期の中では一番乗りで聖騎士となったのであった。
そうして交際を始めたセィラとラペル。
その後も順調な交際期間を経て、二人は二十二歳の時に結婚式を挙げた。
交際三年にしてようやく結ばれたのには訳がある。
それはラペルの実妹であるサーニャの病状の回復を待っていたからなのだ。
サーニャはラペルの三つ下で現在二十歳。
十五の年に突然、遺伝性の病に罹り不自由な生活を余儀なくされていた。
遺伝性の病。
コルト家の発祥の地となった地域に住む住人とその親族だけが罹患する奇病。
常に異常なまでに体温が高く、ちょっとした出来事で感情が昂り、そのせいで痙攣を起こしながら奇声を発するという奇妙奇天烈な病状である。
その病を発症した者の多くが十代前半頃に症状が出てくるという。
ラペルの妹サーニャも十五の年に発症し、長く病により苦しんだ。
発作の原因となる感情の起伏を少しも与えぬために、家族も周りの人間もそれはそれは気を遣い、彼女を真綿で包むように大切に看病を続けた。
ただ、幸いなことにこの奇病難病は、発作時に引き起こす合併症にさえ気を付ければ命を落とすこともなく、二十代を前にして突然完治するのだ。
体温も正常値に戻り、怒ったり悲しんだりして感情が揺れても痙攣等の発作が起きなくなる。
ラペルはそれを待っていたのだ。
病に苦しむ家族を他所に結婚して自分だけ幸せにはなれない。
病を乗り越えて、また普通の日常を取り戻した妹と両親に結婚を祝って欲しい、そう願って。
その意思をセィラは尊重した。
家族を大切にする、心根の優しいラペルらしい考えだと思ったからだ。
だから結婚を迫らず、そして焦らず、サーニャがある日突然病から解放されるその日を待った。
そしてとうとう、サーニャは病を克服し、ラペルとセィラは入籍の運びとなったのであった。
結婚する旨をサーニャに初めて告げた時、サーニャはかなり驚いたそうだ。
以前はその“驚く”といった感情も発作の要因となる可能性があったので、ラペルはセィラという恋人がいること自体を妹には話していなかったのだ。
サーニャは幼い頃から兄であるラペルにとてもよく懐いていたから。
寂しいという感情から精神の安寧が崩れるかもしれないと、ラペルも両親も懸念した。
だからもうその心配をする必要がないと判断したラペルが、これでようやくと嬉々として妹にセィラを紹介したのであった。
セィラという存在が兄の傍にいると知った時、サーニャからごっそり表情が抜け落ちた。
だけどすぐに驚いたと言って笑みを見せたので、ラペルも両親もそれに気が付かなかった。
サーニャはショックだったのだ。
ようやく健康な体を取り戻し、これまで病のせいで失った時間を家族と共に取り戻そうと思ったのに。
兄はすでに人生の伴侶を見つけていて、それを両親は快く受け入れている。
だがサーニャはセィラを異物と看做した。
家族の輪の中に勝手に入ってきた異物だと。
だけどサーニャがどう感じようと大好きな兄の結婚は止められなかった。
今まで待っていた分、ラペルとセィラの結婚の段取りはトントン拍子に進んでいく。
両家の親も、親族も、皆がこの結婚を祝福していると聞いて、ひとりだけ異を唱えることなどお利口さんなサーニャには出来ない。
だからサーニャは決めたのだ。
兄がこの世で最も大切にすべきは妹の自分であるということを、セィラに弁えさせることを。
たとえ結婚したとしても、兄と妹の絆に嫁如きが割り入ることなとできないのだとわからせると。
それが嫌なのならさっさと兄と離婚すればいいのだ。
そうしたらまた兄は家族だけの輪の中にもどってくる。
幸せだった頃に、また戻れるのだ……。
発作を起こさせないために、周囲に大切に扱われてきたサーニャ。
その弊害として、彼女の精神的な成長は止まっており実に自分本位な思考の持ち主となってしまったのであった。
そんな稚拙な思考を持って、結婚当初から度々ラペルとセィラの家に押しかけて新婚夫婦の邪魔をしているサーニャ。
セィラはそれをどう感じているのだろうか。
生来、他者に対し悪い感情を抱くことが少ないセィラ。
サーニャの振る舞いも、病により解放された反動だろうと考えていた。
だが先日、惣菜屋ポミエで偶然居合わせたイリナに「いい年して外でベタベタする兄と妹って、変じゃない?」
と言われた。
コルト家ではそれが当たり前であったがために感覚が麻痺していたが、言われてみればそうだと、その時初めてセィラは違和感を感じたのである。
それがきっかけとなり、セィラはこの先も義妹が我がもの顔で家に入ってくる生活に不安を抱きはじめたのであった。
筆記試験の参考書を探しに、ラペルはセィラが勤める王立第二図書館を訪れた。
ラペルはお目当ての参考書が見当たらず、図書館司書に助けを求めた。
その対応をしたのがセィラだったのだ。
無事に参考書を借りることが出来たラペルは筆記、実技とも見事試験をクリアして聖騎士資格を得た。
そして聖騎士の称号を賜ったその日、ラペルは再び(いや参考書の返却も含めて三度)図書館を訪れ、セィラに交際を申し込んだのであった。
それがセィラとラペル、二人が十九歳の時のことだ。
この国では図書館司書の資格は十八歳から、聖騎士の称号は成績優秀者は最短で同じく十八歳で得られる。
ラペルはなかなか優秀な男で、同期の中では一番乗りで聖騎士となったのであった。
そうして交際を始めたセィラとラペル。
その後も順調な交際期間を経て、二人は二十二歳の時に結婚式を挙げた。
交際三年にしてようやく結ばれたのには訳がある。
それはラペルの実妹であるサーニャの病状の回復を待っていたからなのだ。
サーニャはラペルの三つ下で現在二十歳。
十五の年に突然、遺伝性の病に罹り不自由な生活を余儀なくされていた。
遺伝性の病。
コルト家の発祥の地となった地域に住む住人とその親族だけが罹患する奇病。
常に異常なまでに体温が高く、ちょっとした出来事で感情が昂り、そのせいで痙攣を起こしながら奇声を発するという奇妙奇天烈な病状である。
その病を発症した者の多くが十代前半頃に症状が出てくるという。
ラペルの妹サーニャも十五の年に発症し、長く病により苦しんだ。
発作の原因となる感情の起伏を少しも与えぬために、家族も周りの人間もそれはそれは気を遣い、彼女を真綿で包むように大切に看病を続けた。
ただ、幸いなことにこの奇病難病は、発作時に引き起こす合併症にさえ気を付ければ命を落とすこともなく、二十代を前にして突然完治するのだ。
体温も正常値に戻り、怒ったり悲しんだりして感情が揺れても痙攣等の発作が起きなくなる。
ラペルはそれを待っていたのだ。
病に苦しむ家族を他所に結婚して自分だけ幸せにはなれない。
病を乗り越えて、また普通の日常を取り戻した妹と両親に結婚を祝って欲しい、そう願って。
その意思をセィラは尊重した。
家族を大切にする、心根の優しいラペルらしい考えだと思ったからだ。
だから結婚を迫らず、そして焦らず、サーニャがある日突然病から解放されるその日を待った。
そしてとうとう、サーニャは病を克服し、ラペルとセィラは入籍の運びとなったのであった。
結婚する旨をサーニャに初めて告げた時、サーニャはかなり驚いたそうだ。
以前はその“驚く”といった感情も発作の要因となる可能性があったので、ラペルはセィラという恋人がいること自体を妹には話していなかったのだ。
サーニャは幼い頃から兄であるラペルにとてもよく懐いていたから。
寂しいという感情から精神の安寧が崩れるかもしれないと、ラペルも両親も懸念した。
だからもうその心配をする必要がないと判断したラペルが、これでようやくと嬉々として妹にセィラを紹介したのであった。
セィラという存在が兄の傍にいると知った時、サーニャからごっそり表情が抜け落ちた。
だけどすぐに驚いたと言って笑みを見せたので、ラペルも両親もそれに気が付かなかった。
サーニャはショックだったのだ。
ようやく健康な体を取り戻し、これまで病のせいで失った時間を家族と共に取り戻そうと思ったのに。
兄はすでに人生の伴侶を見つけていて、それを両親は快く受け入れている。
だがサーニャはセィラを異物と看做した。
家族の輪の中に勝手に入ってきた異物だと。
だけどサーニャがどう感じようと大好きな兄の結婚は止められなかった。
今まで待っていた分、ラペルとセィラの結婚の段取りはトントン拍子に進んでいく。
両家の親も、親族も、皆がこの結婚を祝福していると聞いて、ひとりだけ異を唱えることなどお利口さんなサーニャには出来ない。
だからサーニャは決めたのだ。
兄がこの世で最も大切にすべきは妹の自分であるということを、セィラに弁えさせることを。
たとえ結婚したとしても、兄と妹の絆に嫁如きが割り入ることなとできないのだとわからせると。
それが嫌なのならさっさと兄と離婚すればいいのだ。
そうしたらまた兄は家族だけの輪の中にもどってくる。
幸せだった頃に、また戻れるのだ……。
発作を起こさせないために、周囲に大切に扱われてきたサーニャ。
その弊害として、彼女の精神的な成長は止まっており実に自分本位な思考の持ち主となってしまったのであった。
そんな稚拙な思考を持って、結婚当初から度々ラペルとセィラの家に押しかけて新婚夫婦の邪魔をしているサーニャ。
セィラはそれをどう感じているのだろうか。
生来、他者に対し悪い感情を抱くことが少ないセィラ。
サーニャの振る舞いも、病により解放された反動だろうと考えていた。
だが先日、惣菜屋ポミエで偶然居合わせたイリナに「いい年して外でベタベタする兄と妹って、変じゃない?」
と言われた。
コルト家ではそれが当たり前であったがために感覚が麻痺していたが、言われてみればそうだと、その時初めてセィラは違和感を感じたのである。
それがきっかけとなり、セィラはこの先も義妹が我がもの顔で家に入ってくる生活に不安を抱きはじめたのであった。
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