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快適過ぎると困るんです
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ウェンディとシュシュがデニスの家で暮らし始めて二週間が経った。
近所の男に厭らしい視線を向けられる事もなく下着も盗まれない安全安心な暮らし。
習慣付いているので入浴後に洗濯するにしても便利な洗濯魔道具がありあっという間に終わるのだ。
しかも干した洗濯物は夕方前にはドゥーサが取り込んでくれている。
そして終業後シュシュを託児所に迎えに行ってそのまま帰ると温かな食事が用意され、「お疲れ様」と一日の労を労って貰える。
重い荷物を運ぶのも、
踏み台を登って高い所にある物を取るのも、
魔力灯の球を交換するのも害虫の駆除も自分でやらなくてもいいというのだ。
ーーこれは……困るわ。快適すぎる……。
十代後半で両親を亡くしてからずっと自分一人の力で生きて来た。
デニスの恋人時代は頼るべきところは頼って守られる安心感に包まれていたが、生活はまた別のものだった。
そしてデニスと別れシュシュを産んでからは殊更ガムシャラに生きてきたのだ。
それを……こんな……
「ウェンディさん、どうせデニス坊ちゃんとクルト坊ちゃんのシャツにアイロンを掛けるんです。この際もう一枚増えたって大して変わりませんよ、さぁさぁ遠慮しないでそのブラウスを渡してくださいな」
「ウェンディ。重い物を運ぶ時は呼んでくれと言っただろう?高い所の物を取るのもそうだ。ゴキ○リ退治?そんなものは男の仕事だ」
困る、困るのだ。
ゴ○ブリ退治が男の仕事かどうかは別として、こんなに甘やかされては困るのだ。
新しい部屋が決まり次第ここを出て行くというのに、これでは再び母子二人だけの世帯に戻った時に辛くなるのは目に見えている。
何もかも自分一人の肩にのし掛かる生活に戻れなくなってしまう前に、早くデニス邸から出なくては……。
ウェンディは進捗状況をデニスに訊ねてみた。
「デニス、新しい部屋はまだ見つからないの?」
「一つ条件に当てはまる部屋があったんだが、隣家が女の出入りが激しい住人らしく、ほぼ毎日夜に女性の嬌声が聞こえるとかで却下したんだ」
「……それは……嫌ね……シュシュには絶対に聞かせたくないわ」
「すまない、もう少し待ってくれ。必ず良い部屋を探すから」
「ええ。ありがとう、よろしくね」
なるべく早く見つかるよう祈るしかない。
費用はデニス持ちなのだ。
自分で勝手に無理矢理選んで金だけ出してくれなんて言えないし、それでまたハズレの物件を引き当てて引っ越しとなれば目も当てられない。
だけどやっぱり出来るだけ早くここを出て行きたい。
デニスに守られ大切にされたかつての日々を彷彿とさせるこの生活が、気付きたくなかった真実を突きつけてくる。
本当はまだ彼の事が好きなのだと。
何年経とうと捨てられない想いが、まだ自分の中にあるのだと。
そして別れを告げられた時の傷の痛みが今こうやって再び接するようになった事により、他ならぬ彼自身によって癒されていう事を。
悔しいけどウェンディの想いは変わらない。
だけどデニスはどうなのだろう。
自分の娘であるシュシュに対し父親として愛情を抱いてくれたのは分かった。
でも自分は?
自分に対しての愛情は?
昔と同じ想いで、熱量で、ウェンディに対し愛情を抱いてくれているのだろうか。
ーーここに住む様に言われたのも思えばシュシュの為だものね……。
デニスが今のウェンディをどう思っているのか、それを知りたくなってしまう。
だけど知ってどうする……そんな考えも自分の中にはある。
知ったからとはいえ自分達はもう別れたのだ。
シュシュの親という事でのみ繋がっているだけの関係。
部屋が決まりここを出ればただの元恋人に戻るだけのそんな薄っぺらい関係だ。
デニスはきっと生涯シュシュの父親としての責務は果たしてくれるだろう。
だけど彼には今後幾らでも素敵な女性との新たな出会いがあり、
その女性と本当の家庭を築いていけるという未来があるのだ。
そしてその事実が形となって知らされる出来事が起きる。
デニスは次年度から第二王子側近の末席に迎えられる事が決まっている。
なので近頃はそちら関連での仕事が増え、ほぼ第二王子の執務室勤めとなっていた。
その執務室でデニスはとある女性と出会ったらしい。
社会勉強と称して第二王子の侍女として上がった王宮筆頭侍従長の末娘がデニス=ベイカー卿にぞっこんだと、
王宮中に吹き流れる風の噂としてウェンディの耳に届いたのであった。
近所の男に厭らしい視線を向けられる事もなく下着も盗まれない安全安心な暮らし。
習慣付いているので入浴後に洗濯するにしても便利な洗濯魔道具がありあっという間に終わるのだ。
しかも干した洗濯物は夕方前にはドゥーサが取り込んでくれている。
そして終業後シュシュを託児所に迎えに行ってそのまま帰ると温かな食事が用意され、「お疲れ様」と一日の労を労って貰える。
重い荷物を運ぶのも、
踏み台を登って高い所にある物を取るのも、
魔力灯の球を交換するのも害虫の駆除も自分でやらなくてもいいというのだ。
ーーこれは……困るわ。快適すぎる……。
十代後半で両親を亡くしてからずっと自分一人の力で生きて来た。
デニスの恋人時代は頼るべきところは頼って守られる安心感に包まれていたが、生活はまた別のものだった。
そしてデニスと別れシュシュを産んでからは殊更ガムシャラに生きてきたのだ。
それを……こんな……
「ウェンディさん、どうせデニス坊ちゃんとクルト坊ちゃんのシャツにアイロンを掛けるんです。この際もう一枚増えたって大して変わりませんよ、さぁさぁ遠慮しないでそのブラウスを渡してくださいな」
「ウェンディ。重い物を運ぶ時は呼んでくれと言っただろう?高い所の物を取るのもそうだ。ゴキ○リ退治?そんなものは男の仕事だ」
困る、困るのだ。
ゴ○ブリ退治が男の仕事かどうかは別として、こんなに甘やかされては困るのだ。
新しい部屋が決まり次第ここを出て行くというのに、これでは再び母子二人だけの世帯に戻った時に辛くなるのは目に見えている。
何もかも自分一人の肩にのし掛かる生活に戻れなくなってしまう前に、早くデニス邸から出なくては……。
ウェンディは進捗状況をデニスに訊ねてみた。
「デニス、新しい部屋はまだ見つからないの?」
「一つ条件に当てはまる部屋があったんだが、隣家が女の出入りが激しい住人らしく、ほぼ毎日夜に女性の嬌声が聞こえるとかで却下したんだ」
「……それは……嫌ね……シュシュには絶対に聞かせたくないわ」
「すまない、もう少し待ってくれ。必ず良い部屋を探すから」
「ええ。ありがとう、よろしくね」
なるべく早く見つかるよう祈るしかない。
費用はデニス持ちなのだ。
自分で勝手に無理矢理選んで金だけ出してくれなんて言えないし、それでまたハズレの物件を引き当てて引っ越しとなれば目も当てられない。
だけどやっぱり出来るだけ早くここを出て行きたい。
デニスに守られ大切にされたかつての日々を彷彿とさせるこの生活が、気付きたくなかった真実を突きつけてくる。
本当はまだ彼の事が好きなのだと。
何年経とうと捨てられない想いが、まだ自分の中にあるのだと。
そして別れを告げられた時の傷の痛みが今こうやって再び接するようになった事により、他ならぬ彼自身によって癒されていう事を。
悔しいけどウェンディの想いは変わらない。
だけどデニスはどうなのだろう。
自分の娘であるシュシュに対し父親として愛情を抱いてくれたのは分かった。
でも自分は?
自分に対しての愛情は?
昔と同じ想いで、熱量で、ウェンディに対し愛情を抱いてくれているのだろうか。
ーーここに住む様に言われたのも思えばシュシュの為だものね……。
デニスが今のウェンディをどう思っているのか、それを知りたくなってしまう。
だけど知ってどうする……そんな考えも自分の中にはある。
知ったからとはいえ自分達はもう別れたのだ。
シュシュの親という事でのみ繋がっているだけの関係。
部屋が決まりここを出ればただの元恋人に戻るだけのそんな薄っぺらい関係だ。
デニスはきっと生涯シュシュの父親としての責務は果たしてくれるだろう。
だけど彼には今後幾らでも素敵な女性との新たな出会いがあり、
その女性と本当の家庭を築いていけるという未来があるのだ。
そしてその事実が形となって知らされる出来事が起きる。
デニスは次年度から第二王子側近の末席に迎えられる事が決まっている。
なので近頃はそちら関連での仕事が増え、ほぼ第二王子の執務室勤めとなっていた。
その執務室でデニスはとある女性と出会ったらしい。
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