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王家の食卓、カロリーナ愛を添えて

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「母上、お願いですから今日は定刻より一時間早く勉強を終わらせてくださいよ?せっかくカロが頑張って早く登城してくれるんですから」

王家の朝の食卓。
どんなに忙しくても朝食だけは必ず家族揃って食事を摂るという約束事を大切に守っている王家の面々が揃う中で、ライオネルが母親である王妃に言った。

ベーコンをカトラリーで切り分けながら王妃が返事をする。

「そう何度も言われなくてもわかっているわよ。しつこいわねぇ」

心底うんざりした表情で言う母を見て笑いながら、モルトダーン国王である父親が言った。

「ライは本当にカロたんが好きだなぁ。でもわかるぞ息子よ。男子たるもの、生涯たった一人の女性を愛し、その女性に人生を捧げるべきである。あちらこちらに愛情と種をばら撒くのは恥ずべき行いだ。我が息子たちよ、それを肝に銘じておくように」

「はい父上」「もちろんです、父上」

王太子である兄とライオネルが頷くと父王は満足そう微笑んだ。

この国王さま、十三の年に園遊会で見初めた当時伯爵家の末娘であった王妃を我儘を貫いて婚約者にした挙げ句、結婚した後も王妃一人を妃とし、側妃も愛妾も持たずに来た。

結婚して二年が過ぎた頃、
なかなか子が授からない事から側妃を迎えるよう臣下に強く進言されるもそれを全て拒否した。
いざとなったら弟の息子を養子に迎えると明言までして。
その後ようやく今の王太子である息子を授かり無事に生まれた時、国王は王妃よりも大きな声でわんわん泣いたという。
もちろん嬉し泣きだ。

そんな深い愛情で結ばれた両親の元で育った二人の王子も自ら婚約者を選び、その婚約者たちだけに心を捧げてきた。
まぁ国力があり、情勢も安定しているから許される事なのだが。


焼きたてふわふわのパンを千切りながらライオネルが家族に言った。

「影を二人ばかり動かしたいのですがいいですか?」

その言葉に兄王子が反応する。

「暗部の者を?どうした、何か秘密裏に調べたい事でもあるのか?」

「はい前々から学園で面倒な奴らがおりまして。イコリス王家との関連もあるので迂闊には動けなかったのですが、カロリーナに影響を及ぼしてきたよう……

「なにっ!?カロたんにだとっ!?」

「それならば二人と言わず影をごっそり連れてゆけ!!カロたんにウチの護衛騎士を回してもよいぞっ!!」

ダンッと椅子を倒しそうなほどの勢いで立ち上がり声を荒げた父王と兄王子により、ライオネルは最後まで語らせて貰えなかった。

それを見て母が冷静な声で言う。

「お食事中ですわよ。なんです騒々しい、早くお座りなさい」

「「あ、はい……」」

叱られてしおらしく返事をする二人にすかさず侍従が椅子の背もたれを持ち、椅子を当てがう。
その様子を見ながらライオネルが言った。

「とりあえず影は二人で構いません。もしかしたらイコリス側からも影が入るかもしれませんしね」

「何やら学舎まなびやで起きているようね」

「影の報告を受けてまたご報告します」

「そうして頂戴。ちょっと面白そうね」

「……ややこしくなりそうだから母上の影は送り込まないで下さいよ?」

「ふふ」

「母上?」


「今日も良い天気になりそうだな!」


王家の食卓に、父王の呑気な声が色どりを添えた。





◇◇◇◇◇




「王妃様、カロリーナ様が」

「また?今日はどんな理由でどこで泣いているの?」

家族でのんびり朝食を食べた後、自室で妃教育の為にカロリーナが来るのを待っていた王妃に侍女長が告げてきた。

「昨夜の雨で命を落としたとみられる蝶の亡骸をご覧になられて」

「それで?そのままその場所で泣いてしまったの?」

「いえ。人の目も多くある中庭に面する回廊でしたのでなんとか堪えられました。側にいた侍女に墓を作ってやって欲しいと頼まれ、そしてその後ご不浄に行かれて……」

「トイレで泣いたのね。王族たるもの人前で安易に涙を見せるべからず、という教えをちゃんと守ったのね。偉いわ、カロリーナ」

「ふふ。はい」

なんやかんやとこの王家の面々は第二王子ライオネルの婚約者であるカロリーナには相当甘い。

ただ甘やかすだけの夫や息子たちと比べて同性として厳しく接する場面もある王妃だが、
将来の王太子妃だけでなく、将来の王子妃の妃教育も王妃手ずから指南するあたりカロリーナの事を相当気に入っているのだという事がわかる。

本来なら王太子妃選出の為のお茶会でカロリーナを見初めたライオネル。

王太子妃の座よりも王城のスイーツと言って笑った可愛い笑顔にやられたのだという息子のために婚約を結ぶも、本来ならカロリーナのような娘は時には魑魅魍魎でひしめ宮廷コートで生きてゆくには不向きである。

いくら息子の為とはいえ、表はあっても裏はないような娘は王族の一員としては相応しくないと判断するべきなのだろう。

だけど王妃である自分も、夫である国王も、カロリーナ=ワトソンという純粋で綺麗な心の持ち主に惚れてしまったのだ。

加えてあんなぽやぽやしているくせに、かつて暗部にハンター=ワトソン在りと謳わせたほどの男をも唸らせる隠密スキルを持つというではないか。

王族の妻として足らないものがあるのなら補えばいい。
時に伏魔殿と化す宮廷コートで生き残れないというならば家族で守ればいい。

何よりあの心優しい娘が息子と生涯添い遂げてくれたなら、親としてこれほど嬉しい事はない。

そう思い、ワトソン伯爵家に婚約の打診をしたのであった。

まぁカロリーナの両親としては苦労するかもしれない王家に嫁に出すなど本当は不本意であっただろう。
しかし歴史ある家門とはいえ先方は伯爵家、王家からの申し入れを断れるはずもない。

泣く泣く縁談を受けてくれたであろうワトソン伯爵家の家族の為にもカロリーナは必ず大切にする、
初めての妃教育に王城へ来たカロリーナをこの部屋に迎え入れた日から変わらない王妃自身の気持ちだ。

そしてその日から数えて七年。

こうして週に一度、カロリーナは妃教育の為に王城へとやって来る。


「王妃様、カロリーナ様が参られました」

侍女長が可愛い将来の嫁の訪いを告げる。


「よく来たわねカロリーナ」

「王妃様!」

王妃の顔を見てぱっと花咲くように笑顔になったカロリーナだが、
しずしずと王妃の前に立ち、見事なカーテシーで礼を執った。

「ごきげんよう。王妃殿下にあらせられましてはご機嫌麗しく。本日も拝謁賜りましたこと、誠に祝着至極に存じます」

「そうよ、挨拶はとても大切よカロリーナ。たとえ臣下に対してであっても誠実さをもって挨拶する事を心掛けなさい」

「はい。王妃様」

「もう!二人だけの時はお義母様と呼んでと言ったでしょう?」

「でもそれはさすがに駄目だとお母さまが……」

「真面目なキャメロンらしいわね。じゃあそれは後々の楽しみに取っておくわ」

「ふふ。私もそう呼べるのを楽しみにしております」

「あーん可愛いわカロリーナ!ライオネルではなくわたくしのお嫁さんになりさい!」

そう言って王妃はカロリーナを抱きしめた。

それからいつも通りに教本を広げ、語学や王家のしきたりについて学んだ。

教本を手にしたカロリーナが言う。

「あら?王妃さま、この教本は真新しい物ではないですか?以前使っていた物はどうされたのです?」

「……ちょっとね、欲しいという者がいて」

顔に笑顔を貼り付けたまま王妃が答えた。

まさかライオネルの暴走を鎮める為にカロリーナの持ち物を与えているとは言えない。

「まぁこのペンもインクも新しいものだわ」

「おほほほほほ」

もはや笑って誤魔化せの王妃であった。


その頃、第二王子ライオネルはというと………


「まだ勉強は終わらんのかっ」

「……殿下、約束のお茶会の時間まであと二時間もありますよ……」


早くカロリーナに会いたくて堪らないライオネルと、
それを残念な目で見ながら宥めるマーティンの姿がお茶会の場所となるサンルームに既にあった。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



わーん!またお茶会までいかなかったぁぁ!

お茶会あるある詐欺になってごめんなさいーー!!

:;(∩´﹏`∩);:



続きましてはまたまたイラスト集があります。

またまた任意でご覧頂くようお願い申し上げます。




















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