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初めての登校

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モルトダーン王国とイコリス王国、両国との国境近くに学舎を構えるフィルジリア上級学園。

フィルジリア共和国が誇る、国内外の貴族や富裕層の子女が通う二年制(十六~十八歳)の学園である。
主に低魔力保持者や魔力のない者がこの学園を選択し、社会や社交界へ出る前の勉強に勤しむのだ。
(魔力のある者はアデリオール魔術学園かハイラント魔法学校を選択する)

カロリーナは自邸のあるモルトダーン王都の転移馬車ターミナル(転移魔法で移動する馬車が乗り入れるターミナル)から発着している上級学園の乗り合いのスクール馬車に乗って登下校することが決まっている。

入学のひと月前にライオネルから、

「本当はカロに王城まで来て貰って、王家専用の転移スポットで一緒に登下校したいのだが、執行部の仕事が不規則で予定が崩れやすい。カロに朝早くに来させたり、放課後遅くまで待たせるのは忍びないから登下校は別々にするしかないな」

と言われていた。
そのときは「ライオネル様とお手手を繋いで一緒に登下校したかったなぁ」と残念に思ったけど、今になってはそれで良かったと心から安堵している。

せめて学生時代はライオネルには自分の存在を気にしないで欲しいのだから、これでいいのだ。

寂しいとかお胸がちくちくするとか考えてはいけない。
全てはわがままボディしか維持出来ないカロリーナが悪いのだから……。

なんてぼんやり考えながら、ワトソン伯爵家の馬車でターミナルまで送って貰い、スクール馬車が到着するのを他の生徒たちと一緒に停車場で待っていた。
するとふいに聞き覚えのあるのんびりとした声に名を呼ばれた。

「カロリーナおはよう~」

「おはようジャスミン!」

カロリーナが笑顔で振り向きジャスミンと呼んだこの娘。
彼女はジャスミン=カーターといい、カーター子爵家の三女だ。
母親がライオネルの母である王妃殿下の側付きという役職であったために幼い頃から妃教育で王城へ通っていたカロリーナと知り合い、親友となった。 

のんびりおっとりしているその口調から吐き出される言葉はなかなかに辛辣で、しかも全て的を射た正論である事からライオネルやその側近のマーティン達にも一目を置かれているという令嬢だ。

だけど優しくて思いやりがあって、カロリーナは昔からジャスミンのことが大好きなのであった。

「今日から私たちも学生かぁ~」

ジャスミンがそう言うとカロリーナが彼女の姿を見てため息をひとつ吐いた。

「ジャスミン……制服がとても似合っているわ……♡とても私と同じ制服を着ているとは思えない」

制服とは着る者によってこんなにも印象違うのかとカロリーナは驚いた。

ジャスミンは華奢で小柄でふわふわしていて、庇護欲をそそるタイプの女の子だ。

細くて折れそうな足のジャスミンの隣に立つのは辛いものがある。
カロリーナのむっちりした足は簡単には折れそうにはないが心の方がポッキンポッキンに折れそうになる。
ウルウルまなこで見つめるカロリーナにジャスミンが言った。

「何言ってるのよ~。モルトダーンが誇る大輪の華と謳われたお母キャロライン様譲りの美少女のくせして~。それを棚に上げた胸くそ発言をしていたら、いつか他の令嬢に背中から刺されるわよ~」

「お母様と私は全然ちがうもの」

「ハイハイ。私の可愛いカロリーナはどうしてそんなに困ったちゃんなのかしらね~。それにしても、ライオネル殿下と一緒に登下校出来なくて残念だったわね」

カロリーナの扱いを熟知しているジャスミンが、入学式前にカロリーナが泣き出さないようにとそう話題を変えた。

カロリーナは小さく肩を竦めて言った。

「仕方ないわ。生徒会のお仕事だもの。ご公務でも忙しいライオネル様にわがままは言えないから別々の方が良かったの」

ライオネル大好きっ子のカロリーナから意外なほどに物分かりの良い言葉が返ってきて、ジャスミンは訝しむ。

「……どうしたのカロリーナ……そんなカロリーナらしくない答え方をして。何かあった……?」

「……えっと……」

さすがは長い付き合いの親友である。
たった今、これだけのやり取りでジャスミンはカロリーナの心境の変化を感じ取ったのだ。

学園でライオネルの前から姿を眩ますには、おそらくずっと共に行動するであろうこの友人の協力は不可欠だと思い、カロリーナはジャスミンに小声で耳打ちした。

「詳しくはまたゆっくり話すけど、私……学園ではなるべくライオネル様にはNO干渉NOコンタクトでいようと決めたの」

「……うん?」

「ライオネル様を自由にしてあげたくて」

「う~ん?意味がわからないのだけれども……」

「私なんかが婚約者面してお側に居続けてはダメだと気付いたの」

「婚約者面もなにも婚約者でしょう~?」

「とにかく。王族に対して礼を欠かない一日一度の挨拶以外は極力、いえ、徹底的に姿を見せないようにするから!」

「はい~~?」

カロリーナは決死の思いをジャスミンに伝えるも、彼女は心底理解できないという顔を隠しもせずにカロリーナを見る。

しかし今はあえて何も言うまい。
とにかくこういう状態のカロリーナには何を言っても無駄なのだ。

でも、ワトソン伯爵家の皆はもちろん、ライオネルを始め王家の面々にも甘やかされて育ち、なぁぁんにもわかってないこのぽやぽやにひと言告げておかねばとジャスミンは思った。

「でもぉ、とりあえず今日は絶対に早々に殿下に捕まると思うわ」

「え?どうして?」

「だって絶対に待ち構えていると思うもの~」

「まさか。執行部の役員さんは入学式は忙しいのでしょう?」

「でも今日はなにがなんでもなんとかすると思うわぁ」

「???」

ジャスミンの言葉の真意が分からずカロリーナが首を傾げていると、
転移スポットを通過したスクール馬車がいつの間にかフィルジリア上級学園へと到着していた。

「あ、着いたわジャスミン!いよいよね!」

ワクワクとドキドキで武者震いをしながら馬車を降りるために順番待ちをしていると、先に降りた生徒達が騒然とする声が聞こえてきた。

「どうしたのかしら?」

不思議に思っているカロリーナに、彼女の前に立つジャスミンが言った。

「ほら~やっぱりね~」

何がやっぱりなのだろうと思いながらジャスミンに続いて馬車を降りる。
と、馬車の目の前に立っていた人物を見てカロリーナは息を呑んだ。

「………!」


「カロ。来たね」

「まぁ、ライオネル様」


カロリーナの婚約者にしてモルトダーン王国第二王子モルトダーン=オ=リシル=ライオネルが、
スクール馬車の停車場で婚約者を出迎える為に待ち構えていたのであった。




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ようやくライオネル登場!









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