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第三王子ダニエル

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「よお、久しぶりだな。
いや違うな、昼間に温室であったよな?」


「………ダニエル殿下」


わたしの前に最低最悪の男が現れた。

第三王子ダニエル、ヴィンス様の実弟だ。

でも同じ兄弟とは思えないくらいに
正反対な二人。

わたしはもう、
とにかくコイツが大嫌いだ。

何が許せないかって、
ダニエル殿下の婚約者候補である
わたしの友達のデイジーを悲しませること!!

まだ16歳だというのに女遊びが激しく、
王族としての責任を少しも果たそうとしない。

その所為でデイジーがどれだけ
苦しい思いをしているか!

デイジーが候補者辞退を願い出ても
お父上である伯爵が許してくれない。

せめて自分が候補者であるうちはダニエルへの
風当たりが良くなるように、デイジーは真面目に
慈善活動などに精を出している。

それなのにこの男と来たら、
今日またどこかの女とあんな事をっ……!


わたしは無視を決め込み、
何も言わずに立ち去る事にした。

それをダニエル殿下はわざと壁に手を突き、
行く手を塞ぐ。


「おいおい、人の情事を出歯亀デバガメしといて無視はないんじゃないの?」

「っ出歯亀なんてしてませんっ!」

しまった、
カチンときてつい反応してしまった…!

こんな感じでいつもコイツのペースに
飲み込まれるのも癪なのだ。


「見てたじゃないかバッチリと。
 俺と人妻侍女の逢瀬を♪」

明らかにわたしを辱めたい魂胆が見え見えだったので、わたしは却って冷静になれた。

鉄壁の笑顔を貼り付ける。

「……殿下は一度滅びればいいかと」

「アレっ!?なにそのオトナな対応。
いつもなら顔を真っ赤にして色々と喚き散らしてくるのに」

「喚き散らしてなんておりません。
もう殿下に何を言っても無駄だと諦めただけです」

「ふーん……つまんないの。
でもホントにちょっと雰囲気変わった?
ガキっぽかったのになんか違う」

「ガキっぽいって!
二つも年下のあなたに言われたくないですよ!」

「あはは!
だって俺の方が早くオトナになったもん」

「っ関係ないでしょ!」

結局ムキになってしまうわたしを
ダニエル殿下はジロジロと見つめてきた。

「……な、なんですか?
そんなに見ないでくださいよっ」

ダニエロ殿下…違った、ダニエル殿下が
わたしの方へ顔を近づけてくる。
ゲ、離れてよっ

「いやぁ……なんか色っぽくなったよね。それってさ、やっぱ……「ダニエル」

何かを言おうとしたダニエル殿下の声に被さるように、聞き覚えのある声がした。

「ヴィンセント殿下!」

ヴィンス様がダニエル殿下の背後から現れた。

そしてわたしの手を引き、
ダニエル殿下から引き離す。


「不用意に俺の婚約者に近づくな」

「え~、まだ候補でしょ?」

「お前には関係ない」

「はいはいわかりましたよ、退散します。じゃあねハグリット、また出歯亀してね~!」

「だから出歯亀じゃないって!」

わたし達に背を向け、
手を振りながらダニエル殿下は去って行った。

ホントにもう、なんなのあの人はっ!

一人ぷりぷり怒ってるわたしに
殿下が不思議そうな顔をする。

「出歯亀?」

「してませんよ!見たくもないのに
たまたま居合わせちゃったんです」

「あぁ……」

それだけでヴィンス様は全てを察したようだ。


「ところでヴィンス様、どうして王妃宮こちらへ?王妃様にご用ですか?」

わたしが尋ねると殿下が答えてくれた。

「お前に渡したいものがあって、それで来たんだ」

「わたしに?」

よく見るとチャーリーが殿下の後ろで大きな箱を
持って立っていた。

「わ、なんですかそれ」

「とってもいいものですよ!ハグ様!」

チャーリーがニッコニコの笑顔で言う。

チャーリーを愛でる会、会員の皆さーん!
とびっきりの笑顔を頂きましたよ~!

わたしはとにかく自室へと
ヴィンス様とチャーリーを招いた。

チャーリーはわたしの部屋のテーブルの上に
箱を置くと、
「僕、厨房に行ってお茶をご用意して来ます」
と言って出て行ってしまった。

うふ、チャーリーったらスキップしそうな勢いね。

ほんと愛いやつ。

そんな事を思っていたら
ふいにヴィンス様に抱きしめられた。

「ヴィ、ヴィンス様っ!?」

「すまん、ちょっとだけ……ちょっとだけハグを
供給してくれ。ハァァァ癒される……」

「……お疲れですか?」

ヴィンス様はわたしの首に唇を押し当てる。

「っ……」

「凄いなハグは。こうしてるだけでも疲れが
吹き飛ぶようだ」

「大袈裟です」

「大袈裟なものか。ホントにどいつもコイツも
好き勝手ばっかりしやがって……」

ヴィンス様が今置かれている現状は
一体どういうものなんだろう。

パトリシア様が婚約者候補に名を連ねた事により
派閥同士の軋轢が生じて、板挟みになって大変なのではないだろうか。
お父さまが騙された詐欺の件も
調べてくれているようだし、
かなり無理をされているのでは……。


何かわたしに出来ることはないのかな。

わたしにだって、
何か役に立てる事があるはず。

「ヴィンス様、わたしにお手伝い出来る事は
ないですか?」

わたしがそう言った途端、
ヴィンス様はさらにわたしの首もとに顔を押し付けスーハーっと深呼吸をし出した。

「こうやって側にいてくれるだけでいい。
ハグの匂いを嗅いでるだけで、俺も犬も心が
満たされる」

「匂いを嗅ぐって……もう!」

ん?今、犬って言った?

「ハグリット」

「なんですか?」

「ごめんな、この頃。俺の周りが騒がしくなって」

「ふふ、前々からですよ」

「そうだな」

「リネン室で言った気持ちに変わりはないからな、全部スッキリ片付けるから待っててほしい」

「今一度確認してもいいですか?」

「なんだ?」

わたしは少しだけヴィンス様から体を離し、
距離を取る。そして彼の目を一心に見つめた。

「ハグ?」

「ヴィンス様、わたしに側妃は無理ですよ?
正妃様を立てて、他の側妃と上手くやって行けるような器用さはわたしには皆無ですから」

「っハグを側妃にはしない!妃はお前一人だけだ」

「でもヤスミン公爵家を蔑ろには
出来ないでしょう」

「公爵家がなんだ、こちらは王家だぞ」

「うわ、いつになく強気ですね」

「当たり前だ、そうでないとハグを失う」

ヴィンス様はそう言ってわたしの額に
キスを落とした。

「じゃあ……信じて待ってます」

「ハグ……」

そう言った殿下の影が落ちてくる。

わたしは
そっと目を閉じた……その時、ドンドン!
バーンッ!
ノックとほぼ同時に扉が開かれた。

「「!?」」

見るとお茶の用意を携えたメレ姉さんが
立っていた。

後ろでチャーリーが
オロオロしてウロウロしている。

「お茶をお持ちいたしましたぁぁ~」

メレ姉さん、もしかして足で扉を開けました?

「……メレイヤ、今日はもう仕事は上がりだろう」

「丁度そこでチャリ坊と会いまして。
殿下がハグリット様にエロい事しないか見張りに
来ました」

「「………」」




気を取り直してお茶を飲んだ後、
ヴィンス様は箱の中身を見せてくれた。

「うわぁ……ステキ……!」


箱の中にはオフホワイトの生地に濃いブルーの
細めのストライプ柄のティードレスが入っていた。
流行中のふくらはぎ丈だ。

「これをわたしに?」

わたしは隣に立つヴィンス様を見上げた。

「ああ。来週、母上主催のお茶会があるだろう?
その時でも着てくれ」

「嬉しい……ありがとうございます!」

「俺も少しだが顔を出すよ」

「そうなんですね。
わたしはホスト側ですがこんなステキな
ティードレスで働けるなんて嬉しいです」

「ハグ……」 

ヴィンス様がわたしの肩を抱いた。


その時、ヴィンス様とわたしの間に入って来た
メレ姉さんが言った。

「ふむ、殿下にしてはなかなか粋な
デザインじゃないですか」


「お前はどこから目線でものを言ってるんだ」




来週のお茶会では
久しぶりにデイジーと会える。

楽しみだけど、アイツもくるのかしら。

ダニエロのヤツ。


アイツが来たら絶対に碌な事にはならないもの。

わたしもホスト側に回る初めてのお茶会、
どうか何事もなく終わりますように!







































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