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その日の事 ③ ヴィンセントside

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「……という次第により、当カロル家は殿下の
婚約者候補から外れる事と相成りました。
長い間、ヴィンセント殿下には良くしていただき、感謝の念に堪えません。本当にありがとうございました」

そう言ったのは俺の幼馴染であり
婚約者候補でもある、
ハグリット=カロル伯爵令嬢だ。



しかし………



相っっ変わらず
どちゃくそ可愛いな!俺のハグは!!

ベージュブロンドの艶っ々な髪!
その髪色より少しだけ暗くけぶるまつ毛と
その向こうにある淡い翡翠色の瞳!

透けるように白いきめ細やかな肌はいつ見ても
瑞々しいし、ふっくらとした赤い唇はまるで小動物のように愛らしい!(意味不明)

ホントにもう、どーしてこんなに可愛いんだ!
俺のハグはっ!!

しかし、気に入らないな。

今ハグは俺の事を何と呼んだ?

どうしてそんな他人行儀な呼び方をするんだ。 

以前みたいにヴィンスとは呼んでくれないのか?

しかし決して本当の感情を表に出してはならないと教育されてきた俺は素直に自分の
気持ちを伝える事が出来ない。

いや、長い時間をかけて刷り込まれるように
そうられて、出来なくなってしまったのだ。



「……殿
お前の口からそう呼ばれると、気持ち悪い」


結果、よくハグを怒らせてしまうのだが、
怒るハグも可愛いからそれはそれで良しっ!!

俺は感情を表に出せない分、
脳内で自分の思いや感情を爆発させているのだ。

頭の中で俺が何を考えようとも
どんな妄想しようとも
誰にも分からないし誰にも咎められない!

全て俺の自由だーーーーっ!!


……まぁ母上には俺の脳内が常に喧しい事に
なっているのがバレバレなのだが。

何故わかるのだ?母親だからか?

解せぬ。


長兄が身罷り、
第二王子となった俺の身辺は激変した。

今までそこそこでよかった勉学も鍛錬も
より履修の精度が求められ、
14歳から無理やり帝王学を叩き込まれた。

しかも己を律し、決して感情を表に晒す事なく
常に笑みを貼り付けろと強要される。

何もかもが激変してしまった俺の生活なのに、
その上さらに大切にしてきたハグまで
相応しくないと取り上げられそうになった。

俺の唯一。

俺の最愛。

俺の癒しを奪おうというのか。

しかも新たな婚約者候補まで押しつけて。

俺は許さなかった。
婚約者の語尾に“候補”と余計なものが
付けられているが、
ハグを妃に迎える事が俺の中では10歳の頃から
確定しているのだ!

出会うきっかけになったのは母上だが、
婚約者にと望んだのは俺自身だ。

一目惚れだった。

立場上、
候補者を数名立てなければならないと言われ、
ハグも候補者の一人として据え置くなら承諾するとゴネた。
ゴネゴネにゴネまくってやった!

まぁ何人候補者が名を連ねようが、
最終的に選ぶのはハグ一人だ。


それなのに事態は一変した。

ハグの父親のカロル伯爵が詐欺に引っかかり
多額の借金を背負ったのだ。

しかも借金のカタにハグを後妻に出さなければならないだとっ……?

そんな事、俺と、
実の息子の俺よりハグの事を溺愛している
母上が許すわけがなかろう!

その話はこんな時に使わずいつ使うだという
王家の権威を以て捻り潰してやったがな!

詐欺を含めたこの件にはかなり思う所がある。

なのでこちらで全て処理した。

借金はとりあえず返しといた。
マグロ漁船に乗り込む前のカロル伯爵を捕獲し、
片が付くまで身を隠してもらう事にした。

これは間違いなくハグを婚約者候補から
引きずり下ろすための謀略だろう。

これ以上ハグに手出しをさせないためにも
借金はそのままという体を装い、
身の安全を守るために母上の側付きにして
王宮に住み込ませる事にした。

本人はもう俺の婚約者候補でもなんでもないと
思っているが、もちろん候補者から名を消す
つもりはない!

ていうかお前が俺の妃だっつーーのっ!

他の女なんか要らないっつーーのっ!

……今だに多額の借金を背負っていると
思ってるハグ……

可哀想だが少しだけ耐えて欲しい。

正式に婚約者を発表する前に
ゴミは全て排除するからな。

しかし、父親のために、家のために奔走する
ハグも可愛いな!!

婚約者候補を外れるからと挨拶に来てくれた
のもこれまた健気で可愛い。

くそっ、オディール嬢との面会など了承
しなければ良かった。

約束の時間はそろそろか?
あとどのくらいハグと一緒にいられる?
俺はちらりと懐中時計を見た。

アレ?約束の時間は過ぎてるぞ。

いや、あのご令嬢はいつも支度に時間をかけ過ぎて5分10分の遅刻は当たり前なのだ。
(王族をなんだと思っていやがる)

まぁいい。
ギリギリまでハグと同じ空間の空気を
吸っててやる!

退室しようとしたハグを引き止めようとした時、
新入りの侍従がお茶を持ってきた。

ハグと二人だけの時間を邪魔されなくて
茶は無用だと伝えてあったのだが。

……この侍従見習い、ハグをオディール嬢と
間違えているのか?

俺が訝しんでいると案の定
侍従見習いは妙な事を口走り妙な動きを
し出した。

ハグに危害を加えられる前に侍従見習いの腕を
捻り上げた。

誰か呼ぼうとしたその時、
不意をついて侍従見習いが術式を詠唱した。
くそ、魔力持ちだったか。

いや、王宮には届け出のある魔力持ちしか
入れないはずだ。
そしてその者は他者にわかるように腕章、
もしくはピンバッチをつけているはずなのだ。
こいつにはそれがない。

しかし今更なにを思おうと時すでに遅し。
殺気がなかったのが油断を招いた。

このガキが俺たちに掛けた魔法は……

これは……


催淫魔法だ。

王族が毒や媚薬の類を口や皮膚から摂取するのに
耐性を付けられている事を知っているとしか
思えない。

誰の差金か。

……考えるまでもないな。

ハグを巻き込んでしまったのは俺のミスだ。

ハグも催淫魔法の所為でかなり苦しそうだ。



いやでもしかし、


しかしなんだ………………




色っぽいなっっハグリットっっ!!


上気した頬、潤んだ瞳、漏れる吐息。


今、例え魔法に身を冒されていなくても、
これに耐えられる男はいるのか!?

いや、いないだろうっ!!


こんな状態でハグに触れられたら
俺はナニをしでかすかわからない。

何も知らず巻き込まれただけのハグを傷付けるわけにはいかない。

頑張れ俺!!

頑張れ俺の鉄の理性!!

しかし人を呼ぼうにもこんな状態のハグを
男どもの視線に晒したくはない。

とりあえず母上の元に転移飛ぶか……。

俺は急ぎ、
気を遣って側を離れている側近のチャーリーに
体調が悪くなったのでオディール嬢との面会は
中止する旨と今日はこのまま休むので医師は
不用である旨を書いた紙を残す事にした。

書き終えて振り返り、
ハグを見ると肌が粟立った。

なんという切なげな目で俺を見るんだ。

そう思ったその時、
ハグが俺の胸に飛び込んできた。

「……っハグ……!」

俺が思わず愛称で呼ぶと、

ハグも昔のように俺をヴィンスと呼んだ。


こんなの我慢出来るはずがない。



もともと愛おしくて死にそうなくらいに
想っている女性だ。

そんな者を今この状態で胸に掻き抱いて、
誰が平気でいられるものか。


気がつけば俺はまるで貪るように
ハグに口付けをしていた。

そして誰にも邪魔されない場所へと
転移んだ。


ハグに催淫魔法に掛けられた事、

無理に解術すると精神と肉体に害を成す可能性が
ある事を告げた。

これがハグ以外の女とこうなったのであれば、
俺は迷う事なく王宮魔術師による解術を選択
しただろう。


だけど相手は妃にと望んでやまないハグだ。

遅かれ早かれいずれは床を共にすると決めている
ハグだ。

ハグさえ良いのであれば。

解術方法は交合を選びたい。

ハグはやはり嫌だろうか……。


しかしハグは俺に手を伸ばしてきた。

直接的な言葉を交わしたわけではないが、
俺にはそれで充分だった。

ハグを引き寄せ寝台に押し倒す。

ハグのベージュブロンドの髪が
寝台の海に揺蕩うように広がった。

あぁ……なんて綺麗なんだ……。

そしてどうしようもなく愛おしい……。

俺はこの世で一番大切な存在に再び口付けを
落とした。



幼い頃から共にあり、共に支え合い、
共に成長してきたおれ達はその夜
とうとう結ばれた。

きっかけは魔法に掛けられてだがそんな事は
もうどうでもいい。
むしろ感謝したいくらいだ。


こうなったからには直ぐにでも正式に婚約を
発表して準備が整い次第、式を挙げたい。

母上の側で間接的にではなく、
もう直接俺がハグを守る。

朝になったらその事をちゃんと二人で話し合おう。


そう思っていたのに。


目を覚ますと、


そこにハグは居なかった。


俺の隣で眠っていたはずの場所は既に

ひんやり冷たくなっていた。























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