21 / 34
ストーカーじゃないのっ!
しおりを挟む
公園の中心の噴水の所で愛の告白を受けたわたし。
その返事をキスで返し、
ワルターを泣かせてしまった。
ワルターが泣くのを初めて見たわ。
こんなに静かに涙を流して泣くのね。
ぽろぽろ、ぽろぽろと、
キレイな涙がとめどなく溢れる。
わたしはハンカチで押さえて拭いてあげるけど、
ちょっ……キリがないわね、
「ワルター、泣きすぎっ」
「だって……嬉しくて……」
「もう……しょうがない人ね……って、あっ!」
わたしがいきなり大声を上げたものだから
ワルターは驚いて、
その拍子に涙が止まったようだった。
「ワルター、大変だわ」
「な、なに!?」
「まさかこんな事になるなんて思わなかったから、
わたし、半年後に長期出張を受けて、しばらく王都を離れる事になってるの」
「半年後に?なんでまた……」
「だって、ワルターもこの再婚約をある程度したら辞退するつもりなんだろうなぁと思っていたから」
「そ、そんな事を思ってたんだね……」
「だって王命だから仕方ないみたいな言い方したから」
「ご、ごめん……、出張の期間は?」
「4ヶ月から半年の間かなぁ。仕事の進捗状況によると思うけど」
「もちろん待つよ」
「待つの?」
「当たり前だよ、
半年でも一年でも、俺はいつまでも待つよ」
「……ワルター……」
あ、甘い……甘いわ。
今日は塩味シリスで通したけど、
だめだ、もはや砂糖漬けシリスになってしまった……。
恥ずかしいやら嬉しいやら
だけどやっぱり恥ずかしいやらで、
わたしの頭の中はもう大変な事になったけど、
それでもちゃんとお腹は空くようで
わたし達は当初の目的のお店に食べに行く事にした。
ここは以前ワルターと行ったお店とは別の、
わたしのもう一つの行きつけのお店だ。
ここのマスターの作るオムレツがもう絶品で、
仕事が大変だった日には必ずここのオムレツを
自分へのご褒美として食べていた。
マスターに挨拶して、空いてる席に座る。
……わたしは少し気になっていた事があったので、
それを確かめてみる事にした。
「ワルター、わたしちょっとトイレに行きたいから、いつもの料理を注文しといてくれる?」
わたしのそのお願いにワルターは快く頷いてくれた。
「わかった、注文しとくよ」
「……お願いね」
トイレから戻ると丁度食前酒が来た。
「………」
そして料理が次々と届く。
どれもわたしがこの店に来たら必ず注文する
メニューばかりだ。
「……ワルター」
「なに?」
わたしは笑顔を貼り付けて尋ねた。
「この店には初めて一緒に来たのに、どうしてわたしの定番メニューを知ってるの?」
「えっ」
ワルターがあからさまにしまった、
という顔をする。
「ねぇ?どうして?」
「…………」
「ワルター……?」
「ごめんなさい」
両手をテーブルに付けて頭を下げながら
ワルターが謝ってきた。
そこからはもう、ワルターの独白フェスティバル。
再会するまでの己の行動を全て白状した。
婚約破棄になり、
もうわたしとの関係は断たれたと知ったワルターは
それでも忘れられなかったらしく、わたしの朝の出勤時の道すがら、そして仕事を終えて玄関を入って鍵を閉めるまでの全てを見守っていたというのだ。
わたしが仕事をしている間は自分も騎士として働き、わたしの帰宅時間になると夜番の時でも夕食休憩と称して抜け出して必ず見守っていたらしい。
「……ワルター……」
「な、何?」
「あなた、どこに住んでいるの?」
「うっ……」
うっ?うって何?
やっぱり、わたしの頭を過った事は
当たっているというの?
とりあえず食事を終え、
わたしはワルターの家へと連れて行って貰った。
「……………………………ここ?」
「うん………」
「このアパートに間違いはないのね?」
「はい……」
「何階?」
「2階、です……」
「何号室?」
「………」
黙り込むワルターにわたしは
極上のスマイルを向ける。
「ワルター?」
「………です」
「なに?聞こえない」
「208号室です」
「わたしの真下の部屋じゃないのっ!!」
わたしは淑女にあるまじき、
ワルターの胸ぐらを掴んで捻りあげた。
「ご、ごめんっ……!でも真下だったらリスに何かあっても物音ですぐにわかると思って……!」
「これはホントに呆れたわっ!
これってもはやストーカーじゃないのっ!
あなたじゃなかったら自警団に通報ものだからねっ!!」
「ごめんなさいっ!ホントにごめんなさいっ!」
まさか再会する前から
こんなに近くに居たとは……。
しかもずっと見張られ…見守られてたなんて……。
でもこれが惚れた弱みというものなのね……
呆れはしても怒りはない……。
逆にそうまでしてもわたしの事を
想ってくれたと少しだけ喜びまで感じてしまう
有り様……。
いけない、こんな腑抜けた状態は断じていけない。
今日はどっぷり砂糖に浸かってしまったわたしは、
明日の朝のカフェオレには砂糖は
入れないでおこうと心に決めたのであった……。
そんな大変な1日が明けた次の日の事だ。
その日、わたしは休みで
有言実行といわんばかりに砂糖抜きのカフェオレを
飲んでいたその時、玄関のチャイムが鳴った。
「はーい……い?」
誰が来たのかドアの覗き窓から確認すると、
そこにはボリスを連れ立った
ブライズ子爵家の家令、アーチーの姿があった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
紆余曲折を経てやっと想いが通じあった
二人ですが、
次回から物理的な
すれ違いになってしまうそうな……。
その返事をキスで返し、
ワルターを泣かせてしまった。
ワルターが泣くのを初めて見たわ。
こんなに静かに涙を流して泣くのね。
ぽろぽろ、ぽろぽろと、
キレイな涙がとめどなく溢れる。
わたしはハンカチで押さえて拭いてあげるけど、
ちょっ……キリがないわね、
「ワルター、泣きすぎっ」
「だって……嬉しくて……」
「もう……しょうがない人ね……って、あっ!」
わたしがいきなり大声を上げたものだから
ワルターは驚いて、
その拍子に涙が止まったようだった。
「ワルター、大変だわ」
「な、なに!?」
「まさかこんな事になるなんて思わなかったから、
わたし、半年後に長期出張を受けて、しばらく王都を離れる事になってるの」
「半年後に?なんでまた……」
「だって、ワルターもこの再婚約をある程度したら辞退するつもりなんだろうなぁと思っていたから」
「そ、そんな事を思ってたんだね……」
「だって王命だから仕方ないみたいな言い方したから」
「ご、ごめん……、出張の期間は?」
「4ヶ月から半年の間かなぁ。仕事の進捗状況によると思うけど」
「もちろん待つよ」
「待つの?」
「当たり前だよ、
半年でも一年でも、俺はいつまでも待つよ」
「……ワルター……」
あ、甘い……甘いわ。
今日は塩味シリスで通したけど、
だめだ、もはや砂糖漬けシリスになってしまった……。
恥ずかしいやら嬉しいやら
だけどやっぱり恥ずかしいやらで、
わたしの頭の中はもう大変な事になったけど、
それでもちゃんとお腹は空くようで
わたし達は当初の目的のお店に食べに行く事にした。
ここは以前ワルターと行ったお店とは別の、
わたしのもう一つの行きつけのお店だ。
ここのマスターの作るオムレツがもう絶品で、
仕事が大変だった日には必ずここのオムレツを
自分へのご褒美として食べていた。
マスターに挨拶して、空いてる席に座る。
……わたしは少し気になっていた事があったので、
それを確かめてみる事にした。
「ワルター、わたしちょっとトイレに行きたいから、いつもの料理を注文しといてくれる?」
わたしのそのお願いにワルターは快く頷いてくれた。
「わかった、注文しとくよ」
「……お願いね」
トイレから戻ると丁度食前酒が来た。
「………」
そして料理が次々と届く。
どれもわたしがこの店に来たら必ず注文する
メニューばかりだ。
「……ワルター」
「なに?」
わたしは笑顔を貼り付けて尋ねた。
「この店には初めて一緒に来たのに、どうしてわたしの定番メニューを知ってるの?」
「えっ」
ワルターがあからさまにしまった、
という顔をする。
「ねぇ?どうして?」
「…………」
「ワルター……?」
「ごめんなさい」
両手をテーブルに付けて頭を下げながら
ワルターが謝ってきた。
そこからはもう、ワルターの独白フェスティバル。
再会するまでの己の行動を全て白状した。
婚約破棄になり、
もうわたしとの関係は断たれたと知ったワルターは
それでも忘れられなかったらしく、わたしの朝の出勤時の道すがら、そして仕事を終えて玄関を入って鍵を閉めるまでの全てを見守っていたというのだ。
わたしが仕事をしている間は自分も騎士として働き、わたしの帰宅時間になると夜番の時でも夕食休憩と称して抜け出して必ず見守っていたらしい。
「……ワルター……」
「な、何?」
「あなた、どこに住んでいるの?」
「うっ……」
うっ?うって何?
やっぱり、わたしの頭を過った事は
当たっているというの?
とりあえず食事を終え、
わたしはワルターの家へと連れて行って貰った。
「……………………………ここ?」
「うん………」
「このアパートに間違いはないのね?」
「はい……」
「何階?」
「2階、です……」
「何号室?」
「………」
黙り込むワルターにわたしは
極上のスマイルを向ける。
「ワルター?」
「………です」
「なに?聞こえない」
「208号室です」
「わたしの真下の部屋じゃないのっ!!」
わたしは淑女にあるまじき、
ワルターの胸ぐらを掴んで捻りあげた。
「ご、ごめんっ……!でも真下だったらリスに何かあっても物音ですぐにわかると思って……!」
「これはホントに呆れたわっ!
これってもはやストーカーじゃないのっ!
あなたじゃなかったら自警団に通報ものだからねっ!!」
「ごめんなさいっ!ホントにごめんなさいっ!」
まさか再会する前から
こんなに近くに居たとは……。
しかもずっと見張られ…見守られてたなんて……。
でもこれが惚れた弱みというものなのね……
呆れはしても怒りはない……。
逆にそうまでしてもわたしの事を
想ってくれたと少しだけ喜びまで感じてしまう
有り様……。
いけない、こんな腑抜けた状態は断じていけない。
今日はどっぷり砂糖に浸かってしまったわたしは、
明日の朝のカフェオレには砂糖は
入れないでおこうと心に決めたのであった……。
そんな大変な1日が明けた次の日の事だ。
その日、わたしは休みで
有言実行といわんばかりに砂糖抜きのカフェオレを
飲んでいたその時、玄関のチャイムが鳴った。
「はーい……い?」
誰が来たのかドアの覗き窓から確認すると、
そこにはボリスを連れ立った
ブライズ子爵家の家令、アーチーの姿があった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
紆余曲折を経てやっと想いが通じあった
二人ですが、
次回から物理的な
すれ違いになってしまうそうな……。
169
お気に入りに追加
5,302
あなたにおすすめの小説

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
【完結】365日後の花言葉
Ringo
恋愛
許せなかった。
幼い頃からの婚約者でもあり、誰よりも大好きで愛していたあなただからこそ。
あなたの裏切りを知った翌朝、私の元に届いたのはゼラニウムの花束。
“ごめんなさい”
言い訳もせず、拒絶し続ける私の元に通い続けるあなたの愛情を、私はもう一度信じてもいいの?
※勢いよく本編完結しまして、番外編ではイチャイチャするふたりのその後をお届けします。

初恋の兄嫁を優先する私の旦那様へ。惨めな思いをあとどのくらい我慢したらいいですか。
梅雨の人
恋愛
ハーゲンシュタイン公爵の娘ローズは王命で第二王子サミュエルの婚約者となった。
王命でなければ誰もサミュエルの婚約者になろうとする高位貴族の令嬢が現れなかったからだ。
第一王子ウィリアムの婚約者となったブリアナに一目ぼれしてしまったサミュエルは、駄目だと分かっていても次第に互いの距離を近くしていったためだった。
常識のある周囲の冷ややかな視線にも気が付かない愚鈍なサミュエルと義姉ブリアナ。
ローズへの必要最低限の役目はかろうじて行っていたサミュエルだったが、常にその視線の先にはブリアナがいた。
みじめな婚約者時代を経てサミュエルと結婚し、さらに思いがけず王妃になってしまったローズはただひたすらその不遇の境遇を耐えた。
そんな中でもサミュエルが時折見せる優しさに、ローズは胸を高鳴らせてしまうのだった。
しかし、サミュエルとブリアナの愚かな言動がローズを深く傷つけ続け、遂にサミュエルは己の行動を深く後悔することになる―――。

戻る場所がなくなったようなので別人として生きます
しゃーりん
恋愛
医療院で目が覚めて、新聞を見ると自分が死んだ記事が載っていた。
子爵令嬢だったリアンヌは公爵令息ジョーダンから猛アプローチを受け、結婚していた。
しかし、結婚生活は幸せではなかった。嫌がらせを受ける日々。子供に会えない日々。
そしてとうとう攫われ、襲われ、森に捨てられたらしい。
見つかったという遺体が自分に似ていて死んだと思われたのか、別人とわかっていて死んだことにされたのか。
でももう夫の元に戻る必要はない。そのことにホッとした。
リアンヌは別人として新しい人生を生きることにするというお話です。

【完結】長い眠りのその後で
maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。
でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。
いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう?
このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!!
どうして旦那様はずっと眠ってるの?
唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。
しょうがないアディル頑張りまーす!!
複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です
全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む)
※他サイトでも投稿しております
ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです

はずれのわたしで、ごめんなさい。
ふまさ
恋愛
姉のベティは、学園でも有名になるほど綺麗で聡明な当たりのマイヤー伯爵令嬢。妹のアリシアは、ガリで陰気なはずれのマイヤー伯爵令嬢。そう学園のみなが陰であだ名していることは、アリシアも承知していた。傷付きはするが、もう慣れた。いちいち泣いてもいられない。
婚約者のマイクも、アリシアのことを幽霊のようだの暗いだのと陰口をたたいている。マイクは伯爵家の令息だが、家は没落の危機だと聞く。嫁の貰い手がないと家の名に傷がつくという理由で、アリシアの父親は持参金を多めに出すという条件でマイクとの婚約を成立させた。いわば政略結婚だ。
こんなわたしと結婚なんて、気の毒に。と、逆にマイクに同情するアリシア。
そんな諦めにも似たアリシアの日常を壊し、救ってくれたのは──。

もう、愛はいりませんから
さくたろう
恋愛
ローザリア王国公爵令嬢ルクレティア・フォルセティに、ある日突然、未来の記憶が蘇った。
王子リーヴァイの愛する人を殺害しようとした罪により投獄され、兄に差し出された毒を煽り死んだ記憶だ。それが未来の出来事だと確信したルクレティアは、そんな未来に怯えるが、その記憶のおかしさに気がつき、謎を探ることにする。そうしてやがて、ある人のひたむきな愛を知ることになる。

私は既にフラれましたので。
椎茸
恋愛
子爵令嬢ルフェルニア・シラーは、国一番の美貌を持つ幼馴染の公爵令息ユリウス・ミネルウァへの想いを断ち切るため、告白をする。ルフェルニアは、予想どおりフラれると、元来の深く悩まない性格ゆえか、気持ちを切り替えて、仕事と婚活に邁進しようとする。一方、仕事一筋で自身の感情にも恋愛事情にも疎かったユリウスは、ずっと一緒に居てくれたルフェルニアに距離を置かれたことで、感情の蓋が外れてルフェルニアの言動に一喜一憂するように…?
※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる