上 下
3 / 21

二人は同期でライバルでそして……? ①

しおりを挟む
今回からジュリアの過去のお話です。


───────────────────────




「ジュリアお前な、もう少し言い方ってもんがあるだろう」

「あの先輩にはあれくらいハッキリ言わないと伝わらないわよ。縁故採用で父親が幹部だからってそれを笠に着て、それでいい加減な仕事をされてみんな迷惑してるんだから」

「だからといって“ちゃんと仕事する気がないなら帰れ”って、直接過ぎるだろう」

「あら、“帰れ”なんて言ってないわ。“お帰りになられたらいかがです?”とちゃんと丁寧に言ったわよ」

「そーいう意味じゃねぇんだよ……」


ジュリア=ニールは魔法省の職員だ。

今年で入省五年目。
“鋼の第十五期”と呼ばれる、何故かその年だけ魔術学園卒業者ではなく民間の私立学校や魔法塾出身の平民が多く、そして試験に好成績で合格した。
ジュリアはその伝説の職員たちの一人である。

そのジュリアと会話をしているクリス=ライナルドもその“鋼の第十五期”の一人だ。
彼は平民で街の私塾の出身であるにも関わらず、入省試験ではアデリオール魔術学園やハイラント魔法学校を上位成績で卒業した貴族の子女たちを差し置いてトップの成績を収めた。

アデリオール国王クリフォード陛下が身分に関わらず魔力ある者が一丸となって国のため民のために魔法、魔術の仕事に携わる事を理念として設立された機関である魔法省だが、残念ながら設立から十五年経った今でも貴族が優勢だ。
そしてその貴族や魔術、魔法学校卒の者がキャリアとして取り立てられていく風潮は未だに根強く残っている。

そんな魔法省に新風を巻き起こしたのがジュリアやクリスをはじめとする“鋼の第十五期”たちである。
彼らはいわゆる平民で“ノンキャリア”でありながらも魔力の高さと明晰な頭脳と機敏な行動力でその実力を遺憾無く発揮し、キャリアと呼ばれる高官候補たちと肩を並べて仕事をしていた。

クリスが入省試験では首席合格でジュリアは次席。
そのため二人は同期の中でも良きライバル同士として、いつも軽口や漫罵を言い合いながらも互いにサポートしたりと、特に近しく行動を共にしていた。

そこに異性としての意識などない。
ただ相手を優秀で気の合う同期だと思う認識だけであった。

まぁ本当はジュリアはそれに当てはまらず、密かにクリスに想いを寄せていたのだが……。


───だって悔しいけど仕方ないわよね。魔力が高くて優秀で性格も悪くはない。少々高慢でワンマンな所もあるけれど、それも実力ゆえの事であると思うと羨望すら抱くし。その上背が高くてイケメンとキタ日にゃあ……女なら誰だって惹かれるわよ。ホントに悔しいけど!

ジュリアはそう思いながら、片想いの相手であるクリスをチラ見した。


「ジュリア、無駄に敵を作るな」

だがクリスのその居丈高なもの言いはジュリアには納得がいかない。

「言っておきますけど、私は敵を作る気なんてサラサラございません。向こうが勝手に私を敵視してくるのよ」

「逆恨みされたらどうするんだ」

「倍返しにしてやるわよ」

「はぁぁ………お前な……」

勝気なジュリアが負けるもんかとそう告げると、クリスが大きく嘆息する。
そして何か言いかけたその時、ジュリアよりもはるかに高いトーンの可愛らしい声が聞こえた。

「ライナルドさぁ~ん!」

ジュリアとクリスが同時に声がした方に視線を巡らせると、弾むような小走りでクリスの元へと駆け寄るキャピキャピの女性職員の姿があった。

彼女はクリスとジュリアの間に割って入り、鈴を転がすような愛らしい声でクリスに話しかける。
ジュリアの存在は完全にスルーである。

「ライナルドさぁん、今日こそはお食事ご一緒しましょうよ~」

小柄な女性職員は体を少ししならせて上目遣いでキュルンとクリスを見上げてそう言った。

───うわぁ、私には絶対出来ない仕草。
私が同じ事をしようものなら絶対にクリスに大笑いされた上に可愛くねぇと言われるだけだわ。

そんなジュリアの考えを他所にクリスは目の前にある女性職員に答える。

「何度も誘ってくれているのに悪いね。でも申し訳ないが今日も残業なんだ。片付けないといけない案件があって。だから落ち着いたら埋め合わせをするよ。その時はウチの課とキミの秘書課で合同の飲み会を企画するから」

「えぇ~わたしぃ、ライナルドさんと二人っきりがいいんですぅ~他の人は要らない~」

女性職員が小首を傾げて甘える仕草でそう言いながらちらりとジュリアを見た。
“他の人は要らない”の下りでばっちりと。

「…………」

バカらしい。
付き合ってらんないわ。
ジュリアはそう思い、何も言わずに踵を返した。

「おいジュリアっ、まだ話は終わってないぞっ」

後ろからクリスの声が追いかけてくるがジュリアは構っていられないと無視をして歩き去る。

───なによ、鼻の下伸ばしてっ(※伸ばしていない)どうせ男はみんな、あんな砂糖菓子みたいにフワフワした可愛い女の子が好きなんでしょうよ!


どうせ自分はクリスにとっては女ではなくただの同期、気安く何でも話せる同僚でしかないのだ。

先ほどの女性職員に掛けたような紳士的な声がジュリアに向けられた事は一度もない。


「………アホクリス」

だけどジュリアにはわかっていた。
恋愛対象の異性としては見られてはなくとも、クリスはちゃんとジュリアを女性として労わってくれている事を。

難しい案件で帰宅が遅くなりそうな時でも、必ず一人で帰れる時間帯にジュリアを帰すし、もし仕方なく遅い時間になった時は必ずアパートまで送ってくれる。

それが男性同僚としての義務であったとしても、蔑ろにされているわけではないと思うだけでジュリアは嬉しかった。

だから別にこのままでいい。
もしジュリアがクリスに対して恋情を抱いていると知られたら、きっと一線を引かれるに決まっている。
今まで女として意識されて来なかったからこうやって気の置けない同期同士、楽しくやれているのだ。

クリスから避けられるくらいならずっとこのままの状態でいいと、その時のジュリアは本気でそう思っていた。


しおりを挟む
感想 321

あなたにおすすめの小説

永遠の誓いを立てましょう、あなたへの想いを思い出すことは決してないと……

矢野りと
恋愛
ある日突然、私はすべてを失った。 『もう君はいりません、アリスミ・カロック』 恋人は表情を変えることなく、別れの言葉を告げてきた。彼の隣にいた私の親友は、申し訳なさそうな顔を作ることすらせず笑っていた。 恋人も親友も一度に失った私に待っていたのは、さらなる残酷な仕打ちだった。 『八等級魔術師アリスミ・カロック。異動を命じる』 『えっ……』 任期途中での異動辞令は前例がない。最上位の魔術師である元恋人が裏で動いた結果なのは容易に察せられた。 私にそれを拒絶する力は勿論なく、一生懸命に築いてきた居場所さえも呆気なく奪われた。 それから二年が経った頃、立ち直った私の前に再び彼が現れる。 ――二度と交わらないはずだった運命の歯車が、また動き出した……。 ※このお話の設定は架空のものです。 ※お話があわない時はブラウザバックでお願いします(_ _)

ねえ、テレジア。君も愛人を囲って構わない。

夏目
恋愛
愛している王子が愛人を連れてきた。私も愛人をつくっていいと言われた。私は、あなたが好きなのに。 (小説家になろう様にも投稿しています)

拝啓 お顔もお名前も存じ上げない婚約者様

オケラ
恋愛
15歳のユアは上流貴族のお嬢様。自然とたわむれるのが大好きな女の子で、毎日山で植物を愛でている。しかし、こうして自由に過ごせるのもあと半年だけ。16歳になると正式に結婚することが決まっている。彼女には生まれた時から婚約者がいるが、まだ一度も会ったことがない。名前も知らないのは幼き日の彼女のわがままが原因で……。半年後に結婚を控える中、彼女は山の中でとある殿方と出会い……。

(完結)貴方から解放してくださいー私はもう疲れました(全4話)

青空一夏
恋愛
私はローワン伯爵家の一人娘クララ。私には大好きな男性がいるの。それはイーサン・ドミニク。侯爵家の子息である彼と私は相思相愛だと信じていた。 だって、私のお誕生日には私の瞳色のジャボ(今のネクタイのようなもの)をして参加してくれて、別れ際にキスまでしてくれたから。 けれど、翌日「僕の手紙を君の親友ダーシィに渡してくれないか?」と、唐突に言われた。意味がわからない。愛されていると信じていたからだ。 「なぜですか?」 「うん、実のところ私が本当に愛しているのはダーシィなんだ」 イーサン様は私の心をかき乱す。なぜ、私はこれほどにふりまわすの? これは大好きな男性に心をかき乱された女性が悩んで・・・・・・結果、幸せになったお話しです。(元さやではない) 因果応報的ざまぁ。主人公がなにかを仕掛けるわけではありません。中世ヨーロッパ風世界で、現代的表現や機器がでてくるかもしれない異世界のお話しです。ご都合主義です。タグ修正、追加の可能性あり。

彼が愛した王女はもういない

黒猫子猫(猫子猫)
恋愛
シュリは子供の頃からずっと、年上のカイゼルに片想いをしてきた。彼はいつも優しく、まるで宝物のように大切にしてくれた。ただ、シュリの想いには応えてくれず、「もう少し大きくなったらな」と、はぐらかした。月日は流れ、シュリは大人になった。ようやく彼と結ばれる身体になれたと喜んだのも束の間、騎士になっていた彼は護衛を務めていた王女に恋をしていた。シュリは胸を痛めたが、彼の幸せを優先しようと、何も言わずに去る事に決めた。 どちらも叶わない恋をした――はずだった。 ※関連作がありますが、これのみで読めます。 ※全11話です。

新しい人生を貴方と

緑谷めい
恋愛
 私は公爵家令嬢ジェンマ・アマート。17歳。  突然、マリウス王太子殿下との婚約が白紙になった。あちらから婚約解消の申し入れをされたのだ。理由は王太子殿下にリリアという想い人ができたこと。  2ヵ月後、父は私に縁談を持って来た。お相手は有能なイケメン財務大臣コルトー侯爵。ただし、私より13歳年上で婚姻歴があり8歳の息子もいるという。 * 主人公は寛容です。王太子殿下に仕返しを考えたりはしません。

彼の過ちと彼女の選択

浅海 景
恋愛
伯爵令嬢として育てられていたアンナだが、両親の死によって伯爵家を継いだ伯父家族に虐げられる日々を送っていた。義兄となったクロードはかつて優しい従兄だったが、アンナに対して冷淡な態度を取るようになる。 そんな中16歳の誕生日を迎えたアンナには縁談の話が持ち上がると、クロードは突然アンナとの婚約を宣言する。何を考えているか分からないクロードの言動に不安を募らせるアンナは、クロードのある一言をきっかけにパニックに陥りベランダから転落。 一方、トラックに衝突したはずの杏奈が目を覚ますと見知らぬ男性が傍にいた。同じ名前の少女と中身が入れ替わってしまったと悟る。正直に話せば追い出されるか病院行きだと考えた杏奈は記憶喪失の振りをするが……。

愛しき夫は、男装の姫君と恋仲らしい。

星空 金平糖
恋愛
シエラは、政略結婚で夫婦となった公爵──グレイのことを深く愛していた。 グレイは優しく、とても親しみやすい人柄でその甘いルックスから、結婚してからも数多の女性達と浮名を流していた。 それでもシエラは、グレイが囁いてくれる「私が愛しているのは、あなただけだよ」その言葉を信じ、彼と夫婦であれることに幸福を感じていた。 しかし。ある日。 シエラは、グレイが美貌の少年と親密な様子で、王宮の庭を散策している場面を目撃してしまう。当初はどこかの令息に王宮案内をしているだけだと考えていたシエラだったが、実はその少年が王女─ディアナであると判明する。 聞くところによるとディアナとグレイは昔から想い会っていた。 ディアナはグレイが結婚してからも、健気に男装までしてグレイに会いに来ては逢瀬を重ねているという。 ──……私は、ただの邪魔者だったの? 衝撃を受けるシエラは「これ以上、グレイとはいられない」と絶望する……。

処理中です...