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ミニ番外編
ポレットの婚礼 ④ 挙式二日前
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デイビッドとの婚礼まであと二日。
ポレットはその日、従姉妹であるミシェルを自室に招いていた。
ワイズ侯爵一門の威信をかけて国内外の一級品ばかりを集めた花嫁道具は既にデイビッドと暮らす王子宮に運びこまれている。
あとはどうしても持参したい私物の整理と仕分けを、ミシェルに手伝ってもらっているのだった。
「ポレット、この手鏡はどうするの?持っていくの?」
ミシェルが錫製の古い手鏡を手にしてポレットに尋ねた。
鈴蘭の花の彫金が意匠の美しい手鏡だ。
「それは亡くなったルーセルのお祖母様が娘時代に使っていたものらしくて、ずっと以前にお母様におねだりして譲ってもらったの。大切な思い出の品だから持っていくわ」
「素敵ね。ルーセル家の女性に引き継がれる手鏡なのね」
「ルーセル家の……そうね」
ミシェルのその言葉を受けてポレットは少し思案する様子を見せ、それから言った。
「やっぱりその手鏡は持っていかないわ」
「え?どうして?大切なものなのでしょう?」
ポレットの突然の心変わりの理由がわからずミシェルが目を瞬かせる。
「ええ。ルーセル家にとって大切な品よ。だから手鏡はミシェル、あなたが次に受け取ってくれる?」
「え?私が……?」
「あなただってルーセルの血を引く娘だもの。お祖母様にお母様に私、みんな未婚の娘時代にその手鏡を受け取った。だから今度はミシェル、あなたに持っていてほしいの。そしていつか、あなたに娘が生まれたらその子にこの手鏡を受け継いで欲しいわ」
従姉妹同士のポレットとミシェル。
二人の体には等しくルーセル子爵家の血が流れている。
ミシェルの父親であるファビアンは男子だったために手鏡ではなく爵位を受け継ぎ、この手鏡はポレットの母であるハノンが受け継いだ。
それがポレットの手に渡り、そしてポレットは王家へと嫁いでいく。
それならばこのルーセルの手鏡はミシェルが受け取るべきだとポレットは考えたのであった。
ミシェルはポレットが差し出した手鏡を手にする。
銀に似た錫と金に似た錫が併せ持つ奥ゆかしい光を放つ手鏡をミシェルはじっと見つめた。
「私が……持っていてもいいのかしら」
「もちろん良いに決まっているじゃない。ルーセルのお祖母様も、ミシェルが持ってくれることを喜ぶと思うわ」
「そう、そうね……」
ミシェルは手鏡を胸に抱き、ゆっくりと頷いた。
「もしかしてその手鏡には魔法が掛かっているのかもしれないわ」
ポレットがそう言うとミシェルが小さく首を傾げる。
「どうしてそう思うの?」
「お祖母様は大恋愛の末にお祖父様と結婚したと聞くわ。そして私のお母様もお父様と運命的な恋をして結ばれた。私も初恋を実らせてデイ様の元へ嫁ぐのだもの。だからきっと、この手鏡の持ち主は必ず想いを寄せる殿方と結ばれるのよ。なんだか不思議な力を感じない?」
「想いを寄せる……」
その言葉がミシェルの口から自然に零れる。
その時脳裏に浮かんだ優しい笑顔にミシェルの胸がドキリとする。
「そ、そんなっ……わ、私なんてっ……!」
「なぜそんなことを言うの?ミシェルはとっても素敵な女の子よ。私の自慢の大切な従姉妹」
「でも、私はチビだし少しも令嬢らしくないし……」
「それがミシェルの魅力なのに。きっとミシェルの運命の人は、あなたのそんな魅力をわかってくれる人ね」
「……私の……魅力……」
本当にそんなものが自分にあるのだろうか。
今まで剣にしか興味がなかったミシェルには到底、見当もつかない。
ただ、ポレットのことは無条件に信じられる。
優しくて賢くて美しいポレット。
自慢で大切な従姉妹である気持ちはミシェルも同じであった。
従姉妹同士であり姉妹のように育ったポレット。
そんな彼女がとうとう王家に嫁いでいく。
「ポレット」
ミシェルは大切な従姉妹の名を、心をこめて口にした。
「なぁに?」
柔らかな笑顔がミシェルに向けられる。
ミシェルはまた、心を込めてポレットに告げる。
「幸せになってね。どうか、どうか幸せに……」
「ミシェル……ありがとう……」
二人はどちらからともなく抱き合った。
幼い頃から幾度となく無邪気に身を寄せあった二人。
これが最後というわけではないけれど、どうしても一抹の寂しさを感じてしまう。
どうしても離れ難くて、そうやっていまでも抱きしめ合う二人だったが、
「オヤツですよ~♪あ!おねぇさまたちなかよし!ノエルもノエルもー!」
といって三時のお茶の時間を告げに来たノエルが抱きついてきて仲間入りしたことで、寂しくも賑やかで楽しい場となったのであった。
─────────────────────
次回はハノンが母として閨教育の復習を……?
(*´д`*)ドキドキ
ポレットはその日、従姉妹であるミシェルを自室に招いていた。
ワイズ侯爵一門の威信をかけて国内外の一級品ばかりを集めた花嫁道具は既にデイビッドと暮らす王子宮に運びこまれている。
あとはどうしても持参したい私物の整理と仕分けを、ミシェルに手伝ってもらっているのだった。
「ポレット、この手鏡はどうするの?持っていくの?」
ミシェルが錫製の古い手鏡を手にしてポレットに尋ねた。
鈴蘭の花の彫金が意匠の美しい手鏡だ。
「それは亡くなったルーセルのお祖母様が娘時代に使っていたものらしくて、ずっと以前にお母様におねだりして譲ってもらったの。大切な思い出の品だから持っていくわ」
「素敵ね。ルーセル家の女性に引き継がれる手鏡なのね」
「ルーセル家の……そうね」
ミシェルのその言葉を受けてポレットは少し思案する様子を見せ、それから言った。
「やっぱりその手鏡は持っていかないわ」
「え?どうして?大切なものなのでしょう?」
ポレットの突然の心変わりの理由がわからずミシェルが目を瞬かせる。
「ええ。ルーセル家にとって大切な品よ。だから手鏡はミシェル、あなたが次に受け取ってくれる?」
「え?私が……?」
「あなただってルーセルの血を引く娘だもの。お祖母様にお母様に私、みんな未婚の娘時代にその手鏡を受け取った。だから今度はミシェル、あなたに持っていてほしいの。そしていつか、あなたに娘が生まれたらその子にこの手鏡を受け継いで欲しいわ」
従姉妹同士のポレットとミシェル。
二人の体には等しくルーセル子爵家の血が流れている。
ミシェルの父親であるファビアンは男子だったために手鏡ではなく爵位を受け継ぎ、この手鏡はポレットの母であるハノンが受け継いだ。
それがポレットの手に渡り、そしてポレットは王家へと嫁いでいく。
それならばこのルーセルの手鏡はミシェルが受け取るべきだとポレットは考えたのであった。
ミシェルはポレットが差し出した手鏡を手にする。
銀に似た錫と金に似た錫が併せ持つ奥ゆかしい光を放つ手鏡をミシェルはじっと見つめた。
「私が……持っていてもいいのかしら」
「もちろん良いに決まっているじゃない。ルーセルのお祖母様も、ミシェルが持ってくれることを喜ぶと思うわ」
「そう、そうね……」
ミシェルは手鏡を胸に抱き、ゆっくりと頷いた。
「もしかしてその手鏡には魔法が掛かっているのかもしれないわ」
ポレットがそう言うとミシェルが小さく首を傾げる。
「どうしてそう思うの?」
「お祖母様は大恋愛の末にお祖父様と結婚したと聞くわ。そして私のお母様もお父様と運命的な恋をして結ばれた。私も初恋を実らせてデイ様の元へ嫁ぐのだもの。だからきっと、この手鏡の持ち主は必ず想いを寄せる殿方と結ばれるのよ。なんだか不思議な力を感じない?」
「想いを寄せる……」
その言葉がミシェルの口から自然に零れる。
その時脳裏に浮かんだ優しい笑顔にミシェルの胸がドキリとする。
「そ、そんなっ……わ、私なんてっ……!」
「なぜそんなことを言うの?ミシェルはとっても素敵な女の子よ。私の自慢の大切な従姉妹」
「でも、私はチビだし少しも令嬢らしくないし……」
「それがミシェルの魅力なのに。きっとミシェルの運命の人は、あなたのそんな魅力をわかってくれる人ね」
「……私の……魅力……」
本当にそんなものが自分にあるのだろうか。
今まで剣にしか興味がなかったミシェルには到底、見当もつかない。
ただ、ポレットのことは無条件に信じられる。
優しくて賢くて美しいポレット。
自慢で大切な従姉妹である気持ちはミシェルも同じであった。
従姉妹同士であり姉妹のように育ったポレット。
そんな彼女がとうとう王家に嫁いでいく。
「ポレット」
ミシェルは大切な従姉妹の名を、心をこめて口にした。
「なぁに?」
柔らかな笑顔がミシェルに向けられる。
ミシェルはまた、心を込めてポレットに告げる。
「幸せになってね。どうか、どうか幸せに……」
「ミシェル……ありがとう……」
二人はどちらからともなく抱き合った。
幼い頃から幾度となく無邪気に身を寄せあった二人。
これが最後というわけではないけれど、どうしても一抹の寂しさを感じてしまう。
どうしても離れ難くて、そうやっていまでも抱きしめ合う二人だったが、
「オヤツですよ~♪あ!おねぇさまたちなかよし!ノエルもノエルもー!」
といって三時のお茶の時間を告げに来たノエルが抱きついてきて仲間入りしたことで、寂しくも賑やかで楽しい場となったのであった。
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次回はハノンが母として閨教育の復習を……?
(*´д`*)ドキドキ
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