40 / 140
ミニ番外編
執務室での会話
しおりを挟む
今回は山も谷もない、でもオチはあるか?ん?という幼馴染二人の会話のお話です、どうぞ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
フェリックス=ワイズは理解出来なかった。
それは近頃、陰で呼ばれている彼の二つ名の事だ。
“クレバスの騎士”
普段の彼の行動を揶揄して名付けられたその二つ名、聞けば王太子クリフォードが名付け親というではないか。
冷たく狭量な性質がクレバスのようだと……
解せぬ。
自分のどこが冷たくて狭量だというのだ。
フェリックスは非難も込めて、クリフォードに尋ねてみた。
他に誰も居ない、執務室で二人だけの時に。
「クリフ、どうして俺をクレバスに喩えたんだ?」
「なんだ?藪から棒に」
決裁する書類に目を落としながらクリフォードが逆に返してきた。
「俺のどこが冷たくて狭量なんだ」
「……ホントか?自覚ナシか?ある意味凄いな」
「どういう意味だよ」
「そのまんまだよ。家族以外の女性には氷のように冷たく接し、妻が少しでも異性と接するような事は許さない。これを“冷たく狭量”と評して何が悪い」
「既婚者に言い寄って来るような女に紳士的に振る舞う必要はないだろう」
「じゃあ奥方に対しての心の狭さはどうなんだ?確か結婚する時は魔法薬剤師の復職も認めるとか寛大な夫を演出していなかったか?」
クリフォードの指摘に、フェリックスは押し黙る。
どうやら自覚はあるようだ。
言い訳がましくフェリックスは答えた。
「ハノンは子育てで忙しかっただろう。伯爵夫人としての務めもある。その上で更に仕事を増やす必要はないと思っているだけだ」
「ポレたんが五歳を過ぎたくらいからなら、復職も可能だったんじゃないか?」
「……………」
「だんまりか」
「ハノンは年々美しさが増しているんだぞ……?外に一歩でも出れば、その美しさに惹かれて有象無象の輩が集って来る。そんな危険な目に遭わせられるか」
「要するに他の男の目に触れさせたくないだけだろ」
「悪いか、その通りだ」
「うわっ開き直った」
クリフォードは呆れて幼馴染の顔を見た。
その時、王太子付きの侍女がお茶を運んで来た。
クリフォードの執務室にあるティーテーブルにお茶の用意をし始める。
その様子をさして気にもせず、クリフォードはフェリックスをまじまじと見つめて思った。
同性から見ても、この男は惚れ惚れするほど美しい顔立ちをしている。
他国の高位貴族の間でも評判のフェリックス=ワイズの美貌。
更に名門侯爵家の次男であり現ワイズ伯爵でもある出自の良さ。
加えて王太子付き、ゆくゆくは国王専属の近衛騎士という肩書きもある。
事実、妻のハノンと懇意になってあのフェリックス=ワイズの鼻を明かしてやりたいと目論む男も多いだろう。
それを抜きにしても奥方はなかなかの美人だ。
しかし実際にはフェリックス=ワイズと競い合ったとしても勝ち目はないと、無駄な勝負はしないと考えている者がほとんどだ。
だからそこまで心配し警戒して狭量になる必要はないのだ。
それなのにこの完璧な男は何故こうも、妻一人に対して余裕がないのか。
まぁそのくらい惚れ込んで、大切な存在なのだろう。
ーーしかしなんだ……ホントに腹が立つほど美形だな、この男は……
クリフォードは素直な気持ちでそれを幼馴染に告げた。
「フェリックス、お前は本当に美しい男だな、
(俺が女性なら)思わず求婚したくなるくらいだよな」
瞬間、ガチャリと茶器が派手な音を立てた。
ティータイムのセッティングをしていた侍女の手元が一瞬だけ狂った様子だった。
「……失礼しました」
しかし侍女は、直ぐに何事もなかったかように何食わない顔でセッティングを続けた。
が、よく見ると頬を赤らめ目がうるうるキラキラしている。
それに気付かず、フェリックスとクリフォードは会話を続けた。
「何を今更。それにお前だって(ハノンが見惚れないか)俺が心配になるくらい整った顔立ちじゃないか」
今度はゴト、というポットを置くにしては大きな音がした。
「し、失礼いたしましたっ……!」
お茶の用意をし終えた侍女は頬を上気させて、そそくさ執務室を出て行った。
「「?」」
なぜ侍女がそんな様子で慌てて部屋を出て行ったか分からなかったが、その後も二人は共にお茶を飲みながら、互いの容姿の話や家族の話などで盛り上がった。
先ほどの侍女が控え室で仲間達に、互いの美を讃えて好意を伝え合う王太子と専属騎士の間に流れる空気は、只事ではなかった……と話しているとも知らずに。
そしてその話しが尾ヒレをつけて瞬く間に王宮内に広がり、
王太子と専属騎士の禁断の愛が実しやかに囁かれる事になるのであった。
その噂は同じく王宮騎士であるキースの口から妻のイヴェットの耳にも入り、
彼女の BでLな妄想が捗ったのはここだけの話である。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
フェリックス=ワイズは理解出来なかった。
それは近頃、陰で呼ばれている彼の二つ名の事だ。
“クレバスの騎士”
普段の彼の行動を揶揄して名付けられたその二つ名、聞けば王太子クリフォードが名付け親というではないか。
冷たく狭量な性質がクレバスのようだと……
解せぬ。
自分のどこが冷たくて狭量だというのだ。
フェリックスは非難も込めて、クリフォードに尋ねてみた。
他に誰も居ない、執務室で二人だけの時に。
「クリフ、どうして俺をクレバスに喩えたんだ?」
「なんだ?藪から棒に」
決裁する書類に目を落としながらクリフォードが逆に返してきた。
「俺のどこが冷たくて狭量なんだ」
「……ホントか?自覚ナシか?ある意味凄いな」
「どういう意味だよ」
「そのまんまだよ。家族以外の女性には氷のように冷たく接し、妻が少しでも異性と接するような事は許さない。これを“冷たく狭量”と評して何が悪い」
「既婚者に言い寄って来るような女に紳士的に振る舞う必要はないだろう」
「じゃあ奥方に対しての心の狭さはどうなんだ?確か結婚する時は魔法薬剤師の復職も認めるとか寛大な夫を演出していなかったか?」
クリフォードの指摘に、フェリックスは押し黙る。
どうやら自覚はあるようだ。
言い訳がましくフェリックスは答えた。
「ハノンは子育てで忙しかっただろう。伯爵夫人としての務めもある。その上で更に仕事を増やす必要はないと思っているだけだ」
「ポレたんが五歳を過ぎたくらいからなら、復職も可能だったんじゃないか?」
「……………」
「だんまりか」
「ハノンは年々美しさが増しているんだぞ……?外に一歩でも出れば、その美しさに惹かれて有象無象の輩が集って来る。そんな危険な目に遭わせられるか」
「要するに他の男の目に触れさせたくないだけだろ」
「悪いか、その通りだ」
「うわっ開き直った」
クリフォードは呆れて幼馴染の顔を見た。
その時、王太子付きの侍女がお茶を運んで来た。
クリフォードの執務室にあるティーテーブルにお茶の用意をし始める。
その様子をさして気にもせず、クリフォードはフェリックスをまじまじと見つめて思った。
同性から見ても、この男は惚れ惚れするほど美しい顔立ちをしている。
他国の高位貴族の間でも評判のフェリックス=ワイズの美貌。
更に名門侯爵家の次男であり現ワイズ伯爵でもある出自の良さ。
加えて王太子付き、ゆくゆくは国王専属の近衛騎士という肩書きもある。
事実、妻のハノンと懇意になってあのフェリックス=ワイズの鼻を明かしてやりたいと目論む男も多いだろう。
それを抜きにしても奥方はなかなかの美人だ。
しかし実際にはフェリックス=ワイズと競い合ったとしても勝ち目はないと、無駄な勝負はしないと考えている者がほとんどだ。
だからそこまで心配し警戒して狭量になる必要はないのだ。
それなのにこの完璧な男は何故こうも、妻一人に対して余裕がないのか。
まぁそのくらい惚れ込んで、大切な存在なのだろう。
ーーしかしなんだ……ホントに腹が立つほど美形だな、この男は……
クリフォードは素直な気持ちでそれを幼馴染に告げた。
「フェリックス、お前は本当に美しい男だな、
(俺が女性なら)思わず求婚したくなるくらいだよな」
瞬間、ガチャリと茶器が派手な音を立てた。
ティータイムのセッティングをしていた侍女の手元が一瞬だけ狂った様子だった。
「……失礼しました」
しかし侍女は、直ぐに何事もなかったかように何食わない顔でセッティングを続けた。
が、よく見ると頬を赤らめ目がうるうるキラキラしている。
それに気付かず、フェリックスとクリフォードは会話を続けた。
「何を今更。それにお前だって(ハノンが見惚れないか)俺が心配になるくらい整った顔立ちじゃないか」
今度はゴト、というポットを置くにしては大きな音がした。
「し、失礼いたしましたっ……!」
お茶の用意をし終えた侍女は頬を上気させて、そそくさ執務室を出て行った。
「「?」」
なぜ侍女がそんな様子で慌てて部屋を出て行ったか分からなかったが、その後も二人は共にお茶を飲みながら、互いの容姿の話や家族の話などで盛り上がった。
先ほどの侍女が控え室で仲間達に、互いの美を讃えて好意を伝え合う王太子と専属騎士の間に流れる空気は、只事ではなかった……と話しているとも知らずに。
そしてその話しが尾ヒレをつけて瞬く間に王宮内に広がり、
王太子と専属騎士の禁断の愛が実しやかに囁かれる事になるのであった。
その噂は同じく王宮騎士であるキースの口から妻のイヴェットの耳にも入り、
彼女の BでLな妄想が捗ったのはここだけの話である。
234
お気に入りに追加
9,693
あなたにおすすめの小説
妾の子だからといって、公爵家の令嬢を侮辱してただで済むと思っていたんですか?
木山楽斗
恋愛
公爵家の妾の子であるクラリアは、とある舞踏会にて二人の令嬢に詰められていた。
彼女達は、公爵家の汚点ともいえるクラリアのことを蔑み馬鹿にしていたのである。
公爵家の一員を侮辱するなど、本来であれば許されることではない。
しかし彼女達は、妾の子のことでムキになることはないと高を括っていた。
だが公爵家は彼女達に対して厳正なる抗議をしてきた。
二人が公爵家を侮辱したとして、糾弾したのである。
彼女達は何もわかっていなかったのだ。例え妾の子であろうとも、公爵家の一員であるクラリアを侮辱してただで済む訳がないということを。
※HOTランキング1位、小説、恋愛24hポイントランキング1位(2024/10/04) 皆さまの応援のおかげです。誠にありがとうございます。
諦めた恋が追いかけてくる
キムラましゅろう
恋愛
初恋の人は幼馴染。
幼い頃から一番近くにいた彼に、いつの間にか恋をしていた。
差し入れをしては何度も想いを伝えるも、関係を崩したくないとフラレてばかり。
そしてある日、私はとうとう初恋を諦めた。
心機一転。新しい土地でお仕事を頑張っている私の前になぜか彼が現れ、そしてなぜかやたらと絡んでくる。
なぜ?どうして今さら、諦めた恋が追いかけてくるの?
ヒロインアユリカと彼女のお店に訪れるお客の恋のお話です。
\_(・ω・`)ココ重要!
元サヤハピエン主義の作者が書くお話です。
ニューヒーロー?そんなものは登場しません。
くれぐれもご用心くださいませ。
いつも通りのご都合主義。
誤字脱字……(´>ω∂`)てへぺろ☆ゴメンヤン
小説家になろうさんにも時差投稿します。
白紙にする約束だった婚約を破棄されました
あお
恋愛
幼い頃に王族の婚約者となり、人生を捧げされていたアマーリエは、白紙にすると約束されていた婚約が、婚姻予定の半年前になっても白紙にならないことに焦りを覚えていた。
その矢先、学園の卒業パーティで婚約者である第一王子から婚約破棄を宣言される。
破棄だの解消だの白紙だのは後の話し合いでどうにでもなる。まずは婚約がなくなることが先だと婚約破棄を了承したら、王子の浮気相手を虐めた罪で捕まりそうになるところを華麗に躱すアマーリエ。
恩を仇で返した第一王子には、自分の立場をよおく分かって貰わないといけないわね。
どうぞ二人の愛を貫いてください。悪役令嬢の私は一抜けしますね。
kana
恋愛
私の目の前でブルブルと震えている、愛らく庇護欲をそそる令嬢の名前を呼んだ瞬間、頭の中でパチパチと火花が散ったかと思えば、突然前世の記憶が流れ込んできた。
前世で読んだ小説の登場人物に転生しちゃっていることに気付いたメイジェーン。
やばい!やばい!やばい!
確かに私の婚約者である王太子と親しすぎる男爵令嬢に物申したところで問題にはならないだろう。
だが!小説の中で悪役令嬢である私はここのままで行くと断罪されてしまう。
前世の記憶を思い出したことで冷静になると、私の努力も認めない、見向きもしない、笑顔も見せない、そして不貞を犯す⋯⋯そんな婚約者なら要らないよね!
うんうん!
要らない!要らない!
さっさと婚約解消して2人を応援するよ!
だから私に遠慮なく愛を貫いてくださいね。
※気を付けているのですが誤字脱字が多いです。長い目で見守ってください。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
【書籍化により作品引き上げ】わかっていますよ旦那さま。どうせ「愛する人ができた」と言うんでしょ?
キムラましゅろう
恋愛
サブタイトル
『ドアマットヒロイン、頭をぶつけた拍子に前世が大阪のオバチャンだった事を思い出す』
両親亡き後叔父家族に虐げられながら育ったジゼル。
厄介払いされるように嫁いだ家でも婚姻後直ぐに任地に赴いた夫が帰らない事から蔑まれ続けてきた。
しかし転倒時に頭部を強打した瞬間に、ジゼルに前世の記憶が蘇る。
「ちょい待ち?ここって、前世で読んだラノベの世界とちゃう?」
ドアマットヒロイン系の物語に出てきた夫に捨てられる超モブ妻に転生したと知るや否やジゼルは考えた。
どうせ「他に好きな人が出来たから別れてくれ」と言われるんだから、もうその前にさっさと出て行ってもいいんちゃう?ていうかドアマットヒロイン?ウチの方がドアマットやっちゅーねん!と。
いつもながらの完全ご都合主義、ノーリアリティ・
ノークオリティ・ノーリターンのお話です。
誤字脱字の宝庫と思われます。自己脳内変換機能をフルにしてお読み頂けますと助かります。
小説家になろうさんにも時差投稿します。
ご期待に沿えず、誠に申し訳ございません
野村にれ
恋愛
人としての限界に達していたヨルレアンは、
婚約者であるエルドール第二王子殿下に理不尽とも思える注意を受け、
話の流れから婚約を解消という話にまでなった。
ヨルレアンは自分の立場のために頑張っていたが、
絶対に婚約を解消しようと拳を上げる。
追放された悪役令嬢はシングルマザー
ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。
断罪回避に奮闘するも失敗。
国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。
この子は私の子よ!守ってみせるわ。
1人、子を育てる決心をする。
そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。
さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥
ーーーー
完結確約 9話完結です。
短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。