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ミニ番外編
のえるたんインパクト
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薬剤店の前に捨てられていた赤ん坊を抱いたメロディがワイズ伯爵家に突撃して来る前日、
ハノンとフェリックスの第三子ノエルが誕生した。
銀色の髪にアンバーの瞳。
上の兄と姉と同じく父と母の容姿を半分ずつ受け継いで生まれてきた小さなノエル。
ハノンの陣痛が始まったと聞くや否や隠居して別邸へ移り住んでいた前ワイズ侯爵アルドンとその妻アメリアがワイズ伯爵家へと急ぎやって来た。
ポレット以来十年ぶりとなる赤ん坊の誕生を、今か今かと待ち望んでいたのだ。
無事に出産を終え、まずは夫であり父であるフェリックスが産室に入り、母子と対面した。
入室の許可をそわそわと待ち侘びる祖父と祖母は期待感と共に上昇する血圧をなんとか下げようと水を飲んだり深呼吸をしたりしている。
やがてようやく息子のフェリックスから産室へ入る許可が出た。
「っそ、そうか……会えるのかっ……!」
逸る気持ちを抑えながら、前侯爵と侯爵夫人の威厳を保ちつつ二人は入室した。
産室として設た部屋に置かれたベッドに出産を終えたばかりの嫁のハノンと、その腕に抱かれる生まれたばかりの孫の姿があった。
アルドンとアメリアは赤ん坊を驚かせないようにゆっくりと歩み寄って行く。
ハノンが微笑んで二人に言った。
「お義父さま、お義母さま、ご覧ください。元気で可愛い女の子です。フェリックスがノエルと名付けてくれました」
「のえる……たん……」
そしてハノンが二人が見え易いように抱き方を変える。
アルドンとアメリアは老眼を酷使して生まれたての新しい家族の顔を覗き込んだ。
そして、その瞬間……
◇◇◇◇◇
その日ルシアンは王宮の騎士団の練習に参加させて貰っていた。
母親が産気付いたと知らせを受け、父であるフェリックスはどうしたのかとワイズ伯爵家の使いの者に尋ねると、制止も聞かず既に転移魔法で自宅に飛んで帰った(文字通り)との事。
その様子が容易に想像出来てルシアンは思わず吹き出すも、自身も早く帰宅する為に乗って来た馬を預けてある厩へと急いだ。
その途中で、妃教育の為に王宮へ来ていたポレットと出会す。
同じく知らせを受けて急いで帰るところだと言う妹に、ルシアンは言った。
「じゃあ兄さまの馬に乗って一緒に帰ろう。その方が早い」
ポレットはパッと表情を明るくして答えた。
「お兄さまのお馬に乗るのは久しぶりね、とってもうれしいわ。でもアンソニーが重くて大変じゃないかしら……」
兄の愛馬を気遣う優しい妹に、ルシアンは微笑む。
「ポゥは羽根の様に軽いから大丈夫だよ。それにアンソニーなら、大人二人を乗せても悠々と駆けるだろう」
「アンソニーはすごいのね!」
ポレットは破顔した。
こうして兄妹は急ぎ自邸へと戻る。
伯爵家の馬丁に馬を任せ、急ぎ執事が出迎える邸に入った。
ルシアンとポレット、二人がエントランスに足を踏み入れた途端、ふいに邸が揺れたような衝撃を感じた。
まるで邸の屋根に雷が落ちたような。
いや実際には落ちていないのだが、それくらい凄まじい衝撃…魔力の波動を感じた。
ルシアンは執事に問う。
「今の魔力は……お祖父様とお祖母様が来られているの?」
「はい。奥様の陣痛が始まって直ぐの頃よりお見えになられております」
「ははは。待ちきれないといった感じだったんだろう?」
ルシアンが笑いながら言うと執事は人差し指を口元に当て、内緒話と言わんばかりに小声で囁いた。
「はい。“天使が降臨するとなー!”とお言いになられ、鼻息を荒くされながら邸へ入って来られました」
「あははっ!」「まぁふふふ」
ルシアンとポレットは祖父母のその様子が手に取るように分かり、二人で笑い合った。
「さあ、坊ちゃまもお嬢様もお早く。小さなレディがお待ちかねであらせられますよ」
「!女の子かっ!」「嬉しいっ!」
執事から性別を知らされ、ルシアンとポレットは喜んだ。
特にポレットは妹が欲しいと思っていたのでその喜びようは尚更だ。
二人は急いで階段を上がり産室の扉をノックし、入室した。
まず目に飛び込んで来たのはソファーに力なく座り込む祖父と祖母の姿だった。
まるで雷に撃たれた後の様なぐったり具合である。
「可愛い……無理…もう可愛すぎて辛い……」
二人とも何やらぶつくさ呟いている。
どうやら血圧が上がりすぎて安静にしているらしい。
そしてルシアンとポレットは父に呼ばれた。
「ルシー、ポレットこちらにおいで」
父であるフェリックスはベビーベッドの横に立っていた。
母は産後の疲れが顔に色濃く出ているが元気そうだ。
ルシアンとポレットに優しく微笑みかけている。
母親の無事に安堵しながら、ルシアンとポレットはベビーベッドの側へ静かに歩いて行った。
そしてそっとベッドの中を覗き込む。
そこには……小さな小さな赤ん坊がいた。
銀色の髪は兄と同じ。
でも顔立ちはまだハッキリしていなくとも姉に面差しが似ている事が分かる。
「小さい……」「可愛いわ……」
ルシアンとポレットは囁くように言った。
自然と笑みが零れる。
小さくて可愛い自分たちの妹、新しい家族。
心の中が多幸感で満ち溢れた。
ルシアンはふと、ポレットが生まれた時の事を思い出した。
あの時はまだ四つと、ルシアンはかなり幼かったのだがそれでも覚えている。
あの時も自分は兄として小さな妹を守りたいと思った。
そして今もその時と同じ思いを抱いている。
可愛くて愛しくて仕方なかった。
フェリックスが二人に告げる。
「ノエル、と名付けたよ」
「「ノエル……」」
ルシアンとポレットが同時に呟いた。
それに応えるかのようにノエルが小さなあくびを一つする。
その様が本当に可愛らしくて、家族みんなで笑った。
ーー僕がまた兄になった日。
この日の幸せな気持ちを、きっと生涯忘れないのだろう……ルシアンはそう思った。
ハノンとフェリックスの第三子ノエルが誕生した。
銀色の髪にアンバーの瞳。
上の兄と姉と同じく父と母の容姿を半分ずつ受け継いで生まれてきた小さなノエル。
ハノンの陣痛が始まったと聞くや否や隠居して別邸へ移り住んでいた前ワイズ侯爵アルドンとその妻アメリアがワイズ伯爵家へと急ぎやって来た。
ポレット以来十年ぶりとなる赤ん坊の誕生を、今か今かと待ち望んでいたのだ。
無事に出産を終え、まずは夫であり父であるフェリックスが産室に入り、母子と対面した。
入室の許可をそわそわと待ち侘びる祖父と祖母は期待感と共に上昇する血圧をなんとか下げようと水を飲んだり深呼吸をしたりしている。
やがてようやく息子のフェリックスから産室へ入る許可が出た。
「っそ、そうか……会えるのかっ……!」
逸る気持ちを抑えながら、前侯爵と侯爵夫人の威厳を保ちつつ二人は入室した。
産室として設た部屋に置かれたベッドに出産を終えたばかりの嫁のハノンと、その腕に抱かれる生まれたばかりの孫の姿があった。
アルドンとアメリアは赤ん坊を驚かせないようにゆっくりと歩み寄って行く。
ハノンが微笑んで二人に言った。
「お義父さま、お義母さま、ご覧ください。元気で可愛い女の子です。フェリックスがノエルと名付けてくれました」
「のえる……たん……」
そしてハノンが二人が見え易いように抱き方を変える。
アルドンとアメリアは老眼を酷使して生まれたての新しい家族の顔を覗き込んだ。
そして、その瞬間……
◇◇◇◇◇
その日ルシアンは王宮の騎士団の練習に参加させて貰っていた。
母親が産気付いたと知らせを受け、父であるフェリックスはどうしたのかとワイズ伯爵家の使いの者に尋ねると、制止も聞かず既に転移魔法で自宅に飛んで帰った(文字通り)との事。
その様子が容易に想像出来てルシアンは思わず吹き出すも、自身も早く帰宅する為に乗って来た馬を預けてある厩へと急いだ。
その途中で、妃教育の為に王宮へ来ていたポレットと出会す。
同じく知らせを受けて急いで帰るところだと言う妹に、ルシアンは言った。
「じゃあ兄さまの馬に乗って一緒に帰ろう。その方が早い」
ポレットはパッと表情を明るくして答えた。
「お兄さまのお馬に乗るのは久しぶりね、とってもうれしいわ。でもアンソニーが重くて大変じゃないかしら……」
兄の愛馬を気遣う優しい妹に、ルシアンは微笑む。
「ポゥは羽根の様に軽いから大丈夫だよ。それにアンソニーなら、大人二人を乗せても悠々と駆けるだろう」
「アンソニーはすごいのね!」
ポレットは破顔した。
こうして兄妹は急ぎ自邸へと戻る。
伯爵家の馬丁に馬を任せ、急ぎ執事が出迎える邸に入った。
ルシアンとポレット、二人がエントランスに足を踏み入れた途端、ふいに邸が揺れたような衝撃を感じた。
まるで邸の屋根に雷が落ちたような。
いや実際には落ちていないのだが、それくらい凄まじい衝撃…魔力の波動を感じた。
ルシアンは執事に問う。
「今の魔力は……お祖父様とお祖母様が来られているの?」
「はい。奥様の陣痛が始まって直ぐの頃よりお見えになられております」
「ははは。待ちきれないといった感じだったんだろう?」
ルシアンが笑いながら言うと執事は人差し指を口元に当て、内緒話と言わんばかりに小声で囁いた。
「はい。“天使が降臨するとなー!”とお言いになられ、鼻息を荒くされながら邸へ入って来られました」
「あははっ!」「まぁふふふ」
ルシアンとポレットは祖父母のその様子が手に取るように分かり、二人で笑い合った。
「さあ、坊ちゃまもお嬢様もお早く。小さなレディがお待ちかねであらせられますよ」
「!女の子かっ!」「嬉しいっ!」
執事から性別を知らされ、ルシアンとポレットは喜んだ。
特にポレットは妹が欲しいと思っていたのでその喜びようは尚更だ。
二人は急いで階段を上がり産室の扉をノックし、入室した。
まず目に飛び込んで来たのはソファーに力なく座り込む祖父と祖母の姿だった。
まるで雷に撃たれた後の様なぐったり具合である。
「可愛い……無理…もう可愛すぎて辛い……」
二人とも何やらぶつくさ呟いている。
どうやら血圧が上がりすぎて安静にしているらしい。
そしてルシアンとポレットは父に呼ばれた。
「ルシー、ポレットこちらにおいで」
父であるフェリックスはベビーベッドの横に立っていた。
母は産後の疲れが顔に色濃く出ているが元気そうだ。
ルシアンとポレットに優しく微笑みかけている。
母親の無事に安堵しながら、ルシアンとポレットはベビーベッドの側へ静かに歩いて行った。
そしてそっとベッドの中を覗き込む。
そこには……小さな小さな赤ん坊がいた。
銀色の髪は兄と同じ。
でも顔立ちはまだハッキリしていなくとも姉に面差しが似ている事が分かる。
「小さい……」「可愛いわ……」
ルシアンとポレットは囁くように言った。
自然と笑みが零れる。
小さくて可愛い自分たちの妹、新しい家族。
心の中が多幸感で満ち溢れた。
ルシアンはふと、ポレットが生まれた時の事を思い出した。
あの時はまだ四つと、ルシアンはかなり幼かったのだがそれでも覚えている。
あの時も自分は兄として小さな妹を守りたいと思った。
そして今もその時と同じ思いを抱いている。
可愛くて愛しくて仕方なかった。
フェリックスが二人に告げる。
「ノエル、と名付けたよ」
「「ノエル……」」
ルシアンとポレットが同時に呟いた。
それに応えるかのようにノエルが小さなあくびを一つする。
その様が本当に可愛らしくて、家族みんなで笑った。
ーー僕がまた兄になった日。
この日の幸せな気持ちを、きっと生涯忘れないのだろう……ルシアンはそう思った。
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