上 下
22 / 136
ミニ番外編

ポレット、魔のイヤイヤ期

しおりを挟む
ハノンとフェリックスの愛娘、
ポレットは2歳3ヶ月になった。

只今絶賛イヤイヤ期の真っ只中である。

女の子はお喋りが早く、二語文なんてもうお手のものだ。

兄であるルシアンは言葉の発達がわりとゆっくりだったので、同じ兄妹でも違うものだなとハノンは感心していた。

しかもルシアンのイヤイヤ期は気分によって起こる程度の可愛いものだったのだが、
ポレットのイヤイヤ期はなかなかに凄まじい。

とにかく何をしても何を言っても何をどうしても、

「や!」「やよ!」「やーの!」である。

そして一貫しているのが、

「や!にーたま いい!」
(訳:いや!お兄さまがいいの!)

遊ぶのもごはんを食べるのも寝るのも、とにかく兄のルシアンと一緒がいいらしい。

しかし6歳になって家庭教師と勉強を始めたルシアンの授業中となると、側には居られない。

そうなると更にイヤイヤ攻撃が炸裂するのだった。

こうなったらもう、ルシアン以外は誰もダメで(母親のハノンは別だが)、父親であるフェリックスも拒否られる。

その時のフェリックスの哀愁漂う姿は、それはもう可哀想なものである。

この日もルシアンはワイズ侯爵家から派遣されて来た、語学の教師と大陸共用語のハイラント語を学んでいる。

そこへタイミング悪く遊びに来たワイズ侯爵家の双子、キースとバスターにイヤイヤの応酬をお見舞いしていた。


「ポー、バスター兄様と遊ぼう。ポーの好きな絵本を持って来たよ」

「ポーはキース兄様と庭で鬼ごっこする方がいいよな?ほら、我が愛しのお姫様、一緒に庭に行こう」

と、今年16歳になり、更にかつてのフェリックスの様に少女たちのハートを鷲掴みにしているキースとバスターが小さな幼女にかしずいている。

そんなハイスペ美少年たちに傅かれながらもポレットの答えはこう、

「や!にーたま!いい!」

(訳:お兄さまも一緒じゃなきゃ嫌よ!)

である。


母親であるハノンがお茶と焼きたてのマフィンをテーブルに用意する。

そして双子に申し訳なさそうに言った。

「キース、バスター、ごめんなさいね。せっかく学校の帰りに寄ってくれたのに。オヤツでも食べていってね」

ハノンの作るお菓子が好きな双子が嬉しそうにテーブルに付く。

そしてカップを手にしながらハノンに答えた。

「いいんだよハノンおばさん、気にしないで。イヤイヤ言ってるポーが見たくて来てるんだから」

「そうそう♪それにポーはイヤって言いながらも人形を見せてくれたり、一緒にお絵かきをさせてくれるんだよ」

「まぁ、ポレットったら……」

イヤと拒絶しながらもしっかり遊んで貰ってるなんて……こんな年からツンとデレを使い分けて、末恐ろしい小悪魔になりそうだとハノンは眉根を寄せた。

『ポレットはルシアンと違ってある意味厳しく躾ないといけないかもしれないわね』

と、ハノンは母親としてきゅっと気持ちを引き締めた。

その後もポレットはキースの膝の上に乗りながら
「きしゅや!にーたま いい!」とか、

バスターに抱っこされながら
「ばした や!にーたま!にーたま!」

と言いながらも肩車をして貰ったりお馬さんになって貰ったりしていた。

それにしても今日の授業は長引いてるなと、ハノンが思う頃に家庭教師とルシアンが勉強部屋から出て来た。

ハノンは教師に礼を言いながら玄関まで見送る。

キースとバスターが来ている事に気付いたルシアンが二人とポレットの元へと駆け寄った。

「あ、キース兄さんとバスター兄さんだ!いらっしゃい!」

6歳になり、すっかりカタコト言葉を卒業したルシアンが双子に声をかけた。

「よおルー。勉強だって?偉いな」

「ルー、剣術と体術の鍛錬もちゃんとやってるか?」

双子がルシアンの頭をくしゃくしゃに撫でながら言った。

「うん!どちらもちゃんとやってるよ。だって父さんみたいな立派な騎士になりたいもん」

「ルーならなれる。ていうかルーに不可能という文字はない」

「文武両道、さすがは俺たちのルーだ。わからない事があったら何でも聞いてくれ」

とにかく年の離れたイトコ達をを溺愛する双子であった。

そんな会話をしてる時、

ふいにルシアンの背中からポレットがしがみ付いて来た。

何も言わず静かに、ぎゅっと兄の体にくっ付いた。

それに気付いたルシアンが妹に声をかける。

「ポゥ?どうしたの?」

ポレットは何も言わずただ黙ってルシアンにしがみ付いていた。

「ポゥ?」

ルシアンがもう一度妹に呼びかける。

するとポレットは小さな声でこう言った。

「にーたま しゅき」

それを聞き、ルシアンも笑って妹と抱きしめる。

「ぼくもポゥが大好きだよ」

その兄と妹のやり取りをみていたキースとバスターが感極まった様子で叫んだ。

「俺もポーとルーが大好きだ!!」

「俺だって!」

そう言ってそれぞれルシアンとポレットを同時に抱き上げた。

「「可愛い可愛い俺たちのイトコだ」」


しかしポレットの無情のひと言が放たれた。


「や!きしゅ、ばした や!!」



ポレットがイヤイヤ期を抜けるまで、

双子の片想いは続きそうだ。













しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】「父に毒殺され母の葬儀までタイムリープしたので、親戚の集まる前で父にやり返してやった」

まほりろ
恋愛
十八歳の私は異母妹に婚約者を奪われ、父と継母に毒殺された。 気がついたら十歳まで時間が巻き戻っていて、母の葬儀の最中だった。 私に毒を飲ませた父と継母が、虫の息の私の耳元で得意げに母を毒殺した経緯を話していたことを思い出した。 母の葬儀が終われば私は屋敷に幽閉され、外部との連絡手段を失ってしまう。 父を断罪できるチャンスは今しかない。 「お父様は悪くないの!  お父様は愛する人と一緒になりたかっただけなの!  だからお父様はお母様に毒をもったの!  お願いお父様を捕まえないで!」 私は声の限りに叫んでいた。 心の奥にほんの少し芽生えた父への殺意とともに。 ※他サイトにも投稿しています。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 ※「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※タイトル変更しました。 旧タイトル「父に殺されタイムリープしたので『お父様は悪くないの!お父様は愛する人と一緒になりたくてお母様の食事に毒をもっただけなの!』と叫んでみた」

謝罪のあと

基本二度寝
恋愛
王太子の婚約破棄騒動は、男爵令嬢の魅了魔法の発覚で終わりを告げた。 王族は揃いも揃って魅了魔法に操られていた。 公にできる話ではない。 下手をすれば、国が乗っ取られていたかもしれない。 男爵令嬢が執着したのが、王族の地位でも、金でもなく王太子個人だったからまだよかった。 愚かな王太子の姿を目の当たりにしていた自国の貴族には、口外せぬように箝口令を敷いた。 他国には、魅了にかかった事実は知られていない。 大きな被害はなかった。 いや、大きな被害を受けた令嬢はいた。 王太子の元婚約者だった、公爵令嬢だ。

【完結】私は死んだ。だからわたしは笑うことにした。

彩華(あやはな)
恋愛
最後に見たのは恋人の手をとる婚約者の姿。私はそれを見ながら階段から落ちた。 目を覚ましたわたしは変わった。見舞いにも来ない両親にー。婚約者にもー。わたしは私の為に彼らをやり込める。わたしは・・・私の為に、笑う。

(完結)私の夫を奪う姉

青空一夏
恋愛
私(ポージ)は爵位はないが、王宮に勤める文官(セオドア)の妻だ。姉(メイヴ)は老男爵に嫁ぎ最近、未亡人になったばかりだ。暇な姉は度々、私を呼び出すが、私の夫を一人で寄越すように言ったことから不倫が始まる。私は・・・・・・ すっきり?ざまぁあり。短いゆるふわ設定なお話のつもりです。

婚約者の浮気相手が子を授かったので

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ファンヌはリヴァス王国王太子クラウスの婚約者である。 ある日、クラウスが想いを寄せている女性――アデラが子を授かったと言う。 アデラと一緒になりたいクラウスは、ファンヌに婚約解消を迫る。 ファンヌはそれを受け入れ、さっさと手続きを済ませてしまった。 自由になった彼女は学校へと戻り、大好きな薬草や茶葉の『研究』に没頭する予定だった。 しかし、師であるエルランドが学校を辞めて自国へ戻ると言い出す。 彼は自然豊かな国ベロテニア王国の出身であった。 ベロテニア王国は、薬草や茶葉の生育に力を入れているし、何よりも獣人の血を引く者も数多くいるという魅力的な国である。 まだまだエルランドと共に茶葉や薬草の『研究』を続けたいファンヌは、エルランドと共にベロテニア王国へと向かうのだが――。 ※表紙イラストはタイトルから「お絵描きばりぐっどくん」に作成してもらいました。 ※完結しました

【完】前世で種を疑われて処刑されたので、今世では全力で回避します。

112
恋愛
エリザベスは皇太子殿下の子を身籠った。産まれてくる我が子を待ち望んだ。だがある時、殿下に他の男と密通したと疑われ、弁解も虚しく即日処刑された。二十歳の春の事だった。 目覚めると、時を遡っていた。時を遡った以上、自分はやり直しの機会を与えられたのだと思った。皇太子殿下の妃に選ばれ、結ばれ、子を宿したのが運の尽きだった。  死にたくない。あんな最期になりたくない。  そんな未来に決してならないように、生きようと心に決めた。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈 
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

この度、双子の妹が私になりすまして旦那様と初夜を済ませてしまったので、私は妹として生きる事になりました

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
伯爵令嬢のアンネリーゼは侯爵令息のオスカーと結婚をした。籍を入れたその夜、初夜を迎える筈だったが急激な睡魔に襲われて意識を手放してしまった。そして、朝目を覚ますと双子の妹であるアンナマリーが自分になり代わり旦那のオスカーと初夜を済ませてしまっていた。しかも両親は「見た目は同じなんだし、済ませてしまったなら仕方ないわ。アンネリーゼ、貴女は今日からアンナマリーとして過ごしなさい」と告げた。 そして妹として過ごす事になったアンネリーゼは妹の代わりに学院に通う事となり……更にそこで最悪な事態に見舞われて……?

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。