上 下
3 / 12

そして婚約者交代となった……①

しおりを挟む
「シャローン、一緒にランチしましょ~♪」

王宮で知り合った友人、第二王女ジョセフィーヌ殿下の侍女のナンシーがわたしに声をかけてきた。

「いいわよ。でもわたし、お弁当を作ってきてるの」

「わかってるって!だからホラ、わたしもパンを買ってきたわ」

「ふふ。さすがはナンシーね」


我がマーティン男爵家は貴族とは名ばかりの貧乏な家だ。

ギャンブル好きだった祖父が身代しんだいを食い潰した所為で、我が家は財産を失い借金だらけになった。

没落寸前まで家を追い込んだ祖父はとっととあの世に逝ってしまい、家族には多額の負債だけが残ったという訳だ。

東方画家としてそれなりに名を上げた父が絵を売る事により借金はかなり減ったが、それでも我が家の家計は火の車。

使用人を減らし、出来る事は自分達でする。
そうやってやりくりしてなんとか男爵位を手放さずに済んでいる。

名ばかりの爵位なんて売ってしまって清々したいところだけど、そうもいかない。

何が何でも、せめてわたしがエリオット様と結婚するまでは爵位だけは手放せない。

爵位を失い、平民となれば伯爵家であるエリオット様との婚姻が結べなくなるから。

それもこれも全て、祖父たちが交わした誓約魔法の所為だ。


誓約魔法は反故や破棄を一切認めない絶対的なもの。

誓約を破れば魔法により罰が下される。

守秘義務の誓約を破れば舌が灼かれ、腕が腐り落ち、
行動の誓約を破れば足が腐り落ちるか、神経を切られ二度と歩けない足になる。

そして貞淑貞操の誓約を破ると生殖機能を失うという……、

婚姻に纏わる誓約はこの貞淑貞操に抵触する。

そしてなんと理不尽な事かこの場合、誓約魔法に縛られるのは婚姻を結ぶ者同士。

誓約魔法を交わした祖父たちが亡くなっても、誓約を果たす婚姻が結ばれるまでは決して消える事はない。

なので、何がなんでもマーティン男爵家の娘は、エリオット様に嫁がねばならないのだ。

例え姉の代わりに婚約者がわたしに代わってしまったとしても………。



「キャッ!ねぇ!すごく素敵な人がこちらに向かってくるわ!」

ナンシーの声でわたしは現実に引き戻された。

つい理不尽な誓約魔法に思いを馳せてしまっていたわ。

ん?すごく素敵な人?エリオット様の事かしら……って、アレは……

ナンシーが言うその素敵な人とやらに視線をやり、
わたしはその人を見て驚いた。


「お、おn…お兄さまっ?」

「え?」

わたしがその人物をそう呼ぶと、ナンシーは一瞬驚いた顔をわたしに向けた。


「やぁシャロン。偶然だね、これからお昼かい?」

「ええ。……お兄さまはどうして王宮に?」

「来週からまた東方の国に行くからね、渡航の手続きと王太子殿下にご挨拶を」

「なるほど。そうなのね。あ、お兄さま、今夜のお兄さまの壮行会にエリオット様も来て下さるそうよ?だから絶対に早く帰ってきてね」

「エリオットも?なんだか悪いな。壮行会も、少ない食費を切り盛りしてる状態で……でもわかった。今日は早く戻るよ」

「お願いね」「ああ。それじゃ」

そう言ってお兄さまは立ち去った。

その瞬間、ナンシーがわたしに食らい付いてくる。

「ちょっ、ちょっとシャロン!今の超絶イケメンの事をお兄さまと呼んでいたわねっ?あなた、さっきの彼とどういう関係なのっ?」

「どういうって……家族よ?」

「え?でもだってシャロン…あなたって、お姉さまが一人いるだけでしょ?」

「まぁ色々あるのよ。さ、行きましょ。早くしないとランチタイムが終わってしまうわ」

「あ、そうね。って、でもシャロンどういう事なのよ」

「あ~お腹空いたぁ」

「待ってシャロン、待ってよ~」


わたしが今、お兄さまと呼んだ人の事の事情はまだ公にはしていない。

因習的な人間が多いこの国ではそれを明かしてよいものかと、まだ結論が出ていないからだ。



だけどきっと、分かる人には分かるのかもしれない。


今わたしが兄と呼んだその人が、戸籍上はわたしの姉のシャルル=マーティンであるという事を。


留学に行く前は確かに女性だったシャルルお姉さまが、

帰国した時には男性になっていたのは、

私達家族にとっては衝撃的な出来事であった。







ーーーーーーーーーーーーーーーーーー



時間がなくて短めでごめんなさーい!












しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ほっといて下さい 従魔とチートライフ楽しみたい!

三園 七詩
ファンタジー
美月は気がついたら森の中にいた。 どうも交通事故にあい、転生してしまったらしい。 現世に愛犬の銀を残してきたことが心残りの美月の前に傷ついたフェンリルが現れる。 傷を癒してやり従魔となるフェンリルに銀の面影をみる美月。 フェンリルや町の人達に溺愛されながら色々やらかしていく。 みんなに愛されるミヅキだが本人にその自覚は無し、まわりの人達もそれに振り回されるがミヅキの愛らしさに落ちていく。 途中いくつか閑話を挟んだり、相手視点の話が入ります。そんな作者の好きが詰まったご都合物語。 2020.8.5 書籍化、イラストはあめや様に描いて頂いてております。 書籍化に伴い第一章を取り下げ中です。 詳しくは近況報告をご覧下さい。 第一章レンタルになってます。 2020.11.13 二巻の書籍化のお話を頂いております。 それにともない第二章を引き上げ予定です 詳しくは近況報告をご覧下さい。 第二章レンタルになってます。 番外編投稿しました! 一章の下、二章の上の間に番外編の枠がありますのでそこからどうぞ(*^^*) 2021.2.23 3月2日よりコミカライズが連載開始します。 鳴希りお先生によりミヅキやシルバ達を可愛らしく描いて頂きました。 2021.3.2 コミカライズのコメントで「銀」のその後がどうなったのかとの意見が多かったので…前に投稿してカットになった部分を公開します。人物紹介の下に投稿されていると思うので気になる方は見てください。

傍若無人な姉の代わりに働かされていた妹、辺境領地に左遷されたと思ったら待っていたのは王子様でした!? ~無自覚天才錬金術師の辺境街づくり~

日之影ソラ
恋愛
【新作連載スタート!!】 https://ncode.syosetu.com/n1741iq/ https://www.alphapolis.co.jp/novel/516811515/430858199 【小説家になろうで先行公開中】 https://ncode.syosetu.com/n0091ip/ 働かずパーティーに参加したり、男と遊んでばかりいる姉の代わりに宮廷で錬金術師として働き続けていた妹のルミナ。両親も、姉も、婚約者すら頼れない。一人で孤独に耐えながら、日夜働いていた彼女に対して、婚約者から突然の婚約破棄と、辺境への転属を告げられる。 地位も婚約者も失ってさぞ悲しむと期待した彼らが見たのは、あっさりと受け入れて荷造りを始めるルミナの姿で……?

旦那様に離婚を突きつけられて身を引きましたが妊娠していました。

ゆらゆらぎ
恋愛
ある日、平民出身である侯爵夫人カトリーナは辺境へ行って二ヶ月間会っていない夫、ランドロフから執事を通して離縁届を突きつけられる。元の身分の差を考え気持ちを残しながらも大人しく身を引いたカトリーナ。 実家に戻り、兄の隣国行きについていくことになったが隣国アスファルタ王国に向かう旅の途中、急激に体調を崩したカトリーナは医師の診察を受けることに。

花屋のエルム〜触手と男の危険な香り〜

金盞花
BL
育てていた謎の植物の触手に犯された俺、エルム。 それ以降身体の疼きに耐え切れず、度々触手とのまぐわいに耽る。 やがて周囲の男達の様子も変わり始め、その身を求めるようになり—— ※触手姦、無理矢理、排泄(小スカ/大スカ)、尿道責め、結腸責め、♡喘ぎ、濁点喘ぎ等の描写が含まれます。

転生幼女。神獣と王子と、最強のおじさん傭兵団の中で生きる。

餡子・ロ・モティ
ファンタジー
ご連絡!  4巻発売にともない、7/27~28に177話までがレンタル版に切り替え予定です。  無料のWEB版はそれまでにお読みいただければと思います。  日程に余裕なく申し訳ありませんm(__)m ※おかげさまで小説版4巻もまもなく発売(7月末ごろ)! ありがとうございますm(__)m ※コミカライズも絶賛連載中! よろしくどうぞ<(_ _)> ~~~ ~~ ~~~  織宮優乃は、目が覚めると異世界にいた。  なぜか身体は幼女になっているけれど、何気なく出会った神獣には溺愛され、保護してくれた筋肉紳士なおじさん達も親切で気の良い人々だった。  優乃は流れでおじさんたちの部隊で生活することになる。  しかしそのおじさん達、実は複数の国家から騎士爵を賜るような凄腕で。  それどころか、表向きはただの傭兵団の一部隊のはずなのに、実は裏で各国の王室とも直接繋がっているような最強の特殊傭兵部隊だった。  彼らの隊には大国の一級王子たちまでもが御忍びで参加している始末。  おじさん、王子、神獣たち、周囲の人々に溺愛されながらも、波乱万丈な冒険とちょっとおかしな日常を平常心で生きぬいてゆく女性の物語。

婚約破棄追追放 神与スキルが謎のブリーダーだったので、王女から婚約破棄され公爵家から追放されました

克全
ファンタジー
小国の公爵家長男で王女の婿になるはずだったが……

【完結】そんなに怖いなら近付かないで下さいませ! と口にした後、隣国の王子様に執着されまして

Rohdea
恋愛
────この自慢の髪が凶器のようで怖いですって!? それなら、近付かないで下さいませ!! 幼い頃から自分は王太子妃になるとばかり信じて生きてきた 凶器のような縦ロールが特徴の侯爵令嬢のミュゼット。 (別名ドリル令嬢) しかし、婚約者に選ばれたのは昔からライバル視していた別の令嬢! 悔しさにその令嬢に絡んでみるも空振りばかり…… 何故か自分と同じ様に王太子妃の座を狙うピンク頭の男爵令嬢といがみ合う毎日を経て分かった事は、 王太子殿下は婚約者を溺愛していて、自分の入る余地はどこにも無いという事だけだった。 そして、ピンク頭が何やら処分を受けて目の前から去った後、 自分に残ったのは、凶器と称されるこの縦ロール頭だけ。 そんな傷心のドリル令嬢、ミュゼットの前に現れたのはなんと…… 留学生の隣国の王子様!? でも、何故か構ってくるこの王子、どうも自国に“ゆるふわ頭”の婚約者がいる様子……? 今度はドリル令嬢 VS ゆるふわ令嬢の戦いが勃発──!? ※そんなに~シリーズ(勝手に命名)の3作目になります。 リクエストがありました、 『そんなに好きならもっと早く言って下さい! 今更、遅いです! と口にした後、婚約者から逃げてみまして』 に出てきて縦ロールを振り回していたドリル令嬢、ミュゼットの話です。 2022.3.3 タグ追加

婚約解消して次期辺境伯に嫁いでみた

cyaru
恋愛
一目惚れで婚約を申し込まれたキュレット伯爵家のソシャリー。 お相手はボラツク侯爵家の次期当主ケイン。眉目秀麗でこれまで数多くの縁談が女性側から持ち込まれてきたがケインは女性には興味がないようで18歳になっても婚約者は今までいなかった。 婚約をした時は良かったのだが、問題は1か月に起きた。 過去にボラツク侯爵家から放逐された侯爵の妹が亡くなった。放っておけばいいのに侯爵は簡素な葬儀も行ったのだが、亡くなった妹の娘が牧師と共にやってきた。若い頃の妹にそっくりな娘はロザリア。 ボラツク侯爵家はロザリアを引き取り面倒を見ることを決定した。 婚約の時にはなかったがロザリアが独り立ちできる状態までが期間。 明らかにソシャリーが嫁げば、ロザリアがもれなくついてくる。 「マジか…」ソシャリーは心から遠慮したいと願う。 そして婚約者同士の距離を縮め、お互いの考えを語り合う場が月に数回設けられるようになったが、全てにもれなくロザリアがついてくる。 茶会に観劇、誕生日の贈り物もロザリアに買ったものを譲ってあげると謎の善意を押し売り。夜会もケインがエスコートしダンスを踊るのはロザリア。 幾度となく抗議を受け、ケインは考えを改めると誓ってくれたが本当に考えを改めたのか。改めていれば婚約は継続、そうでなければ解消だがソシャリーも年齢的に次を決めておかないと家のお荷物になってしまう。 「こちらは嫁いでくれるならそれに越したことはない」と父が用意をしてくれたのは「自分の責任なので面倒を見ている子の数は35」という次期辺境伯だった?! ★↑例の如く恐ろしく省略してます。 ★9月14日投稿開始、完結は9月16日です。 ★コメントの返信は遅いです。 ★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません

処理中です...