5 / 8
王太子ジュスタン
しおりを挟む
「なんだ?なんか元気がないな?さすがのお前も自分の使い魔(使役魔法生物)以外に魔力を喰われ続けるのは疲れるか?」
魔術学園の王太子専用ルームで、この国の王太子であるジュスタンがリュートに話しかけた。
書類仕事をしていたリュートが書類に目を落としたままそれに答える。
「……いや?思っていたより消耗は少ないな。ミリアの奴、好みの魔力を持つ者からつまみ食いしているようだし」
「他にも使い魔を用いてるのにその余裕……相変わらずハンパない魔力量だな。じゃあなんでそんなに凹んでるんだよ?」
「……凹んでいるように見えるか?」
「他の者なら分からないだろうけど、俺たちは従兄弟で幼馴染で同志だからな。それくらいは分かるさ」
「なるほどな……アリスに……嫌いだと言われた」
ボソリと呟いたリュートの言葉に、ジュスタンは驚いた。
「あのアリスがっ?三度の食事よりも、ケーキよりもお前が好きな、あのアリスがそう言ったのかっ?」
「……ミリアから情報を引き出す時を見られた……結界を張っていたのにだ」
「相変わらず無自覚に凄いなアリスは。状況説明は……出来ないよな。相手がミリアなら、誓約魔法に抵触する。でもアリスに誤解されたままでいいのか?」
「アリスはともかく、それが本来の目的の一つでもある。奴らにも学園の者にも、ミリアに注目が行く方が都合がいいからな」
「アリスがフリーになるんじゃないかと密かに期待されてるぞ?争奪戦が起きるやもと」
「全員潰す」
「怖……」
ジュスタンのその呟きにリュートは全く意に介す様子もなく、また書類に目を落として作業を始めた。
それを見ながら、ジュスタンはある事を考えていた。
◇◇◇◇◇
今日の放課後も、アリスはアラベラと二人で“スィーツをとことん堪能する会”の活動に勤しんでいた。
今日は学園近くにあるベーカリーカフェで、
焼きたてラズベリーパイに舌鼓を打っている。
バター香るサクサクのパイ生地の中に熱々トロっトロのラズベリーフィリングがたっぷり閉じ込められていて、
それをバニラアイスクリームと一緒に食べるのだ。
熱々のパイとアイスクリームの冷たさが相まって、これがまた堪らない。
「ん~~!美味しーー♡」
「これはヤバいわね。アリスじゃないけど幾らでも食べられそう♪」
「本当ね!リュートにも食べさせてあげたいな~」
「あら?婚約者の事は嫌いになったんでしょ?それでもこの最高のパイを一緒に食べたいの?」
アラベラに指摘され、アリスはハッとして慌てて否定した。
「ち、違うわ!この下手したら火傷しそうなラズベリーフィリングでアチチッとなったリュートを見たいだけよっ!」
「アリスにリュート様を嫌うなんて無理だと思うけどなー。もうやめとけばいいのに」
「無理じゃないわ!もう嫌いになったんだもの!今も絶賛大嫌い中なんだから!」
「はいはい」
何を言っても余計にムキになるアリスを見て、ため息を吐きながらアラベラは紅茶を口に含んだ。
その時、アリスとアラベラが座るテーブル席に近付く影があった。
アラベラがその影にいち早く気付く。
「えっ……?お、王太子殿下っ!?」
アラベラは王太子ジュスタンの姿を認め、そして慌てて立ち上がり、礼を執る。
アリスも立ち上がり、軽く膝を折って略式の礼を執りつつジュスタンに尋ねた。
「王太子殿下におかれましては、以下略……何故こちらに?」
アリスもリュートと同じ、彼と幼い頃からの付き合いである。
ジュスタンは爽やかな笑顔をアリスとアラベラに向けた。
「やぁ、ご令嬢方。楽しそうに歓談している時にお邪魔して申し訳ないね。……アリス、久しぶりだね。挨拶を端折るのも相変わらずだ」
「非公式な場ですもの。殿下もラズベリーパイを召し上がりに来たのですか?」
「いや、僕はアリスにちょっと用があってね」
「わたしに?」
きょとんとするアリスにジュスタンは微笑んだ。
「それはそうとアリス。そろそろ帰らないとまた門限に遅れるよ?」
ジュスタンに言われ、
アリスは顎を突き出して毅然として答える。
「いいんですっ。わたしはもうリュートが決めた門限は守らないと決めたんですから」
「でもそうなるとまた、ドアに仕込まれた使い魔がリュートの元に飛んで行かないといけなくなるよ?体の小さな使い魔なのに可哀想だなー」
ジュスタンの言葉を聞き、アリスは驚いた。
「えっ!?そうなの?体の小さな使い魔なのね…それは……大変な思いをさせちゃうわね……」
「そうだよ。だからその使い魔の為にもう帰ってあげて?」
「それなら仕方ないわ。アラベラ、悪いんだけどもう帰りましょう」
アリスがそう言うと、アラベラも頷いて立ち上がった。
「それがいいわね。帰りましょう」
アラベラがアリスを連れ立って歩こうとすると、ジュスタンがアラベラに告げた。
「アリスはボクが連れ帰るよ。大切な従兄弟の婚約者だからね、責任を持って邸に送り届けるから」
「……では私はこれにて御前を失礼致しますわ。アリス、また明日ね」
「ええ、アラベラ。ごきげんよう」
アラベラが自分の馬車の方へと向かう姿を見送る。
アリスにジュスタンが言った。
「さ、じゃあ行こうかアリス」
エスコートをし始めたジュスタンにアリスは訊ねた。
「わざわざわたしを連れ帰る為に来たの?」
「いや。リュートが話せない事を僕が代わりに話に来たのさ」
アリスはリュートと同じく長身のジュスタンを見上げる。
「リュートが話せない事?」
「そう。誓約魔法は交わさせた方は話せるからね」
「……やっぱりリュートに誓約魔法を結ばせたのはジュスタン様だったのね」
「まぁ正確に言うと僕とリュートと使い魔の間でかな」
「え?使い魔も?」
「使い魔の召喚内容による魔導契約さ。その他政治的な事は王太子としての僕とね」
「魔導誓約……」
「この続きは馬車の中で。さぁ、行こうアリス」
「う、うん……」
そうやってアリスは王家の馬車に乗せられて帰路に就いたのであった。
その馬車の中でとある事を聞きながら……。
魔術学園の王太子専用ルームで、この国の王太子であるジュスタンがリュートに話しかけた。
書類仕事をしていたリュートが書類に目を落としたままそれに答える。
「……いや?思っていたより消耗は少ないな。ミリアの奴、好みの魔力を持つ者からつまみ食いしているようだし」
「他にも使い魔を用いてるのにその余裕……相変わらずハンパない魔力量だな。じゃあなんでそんなに凹んでるんだよ?」
「……凹んでいるように見えるか?」
「他の者なら分からないだろうけど、俺たちは従兄弟で幼馴染で同志だからな。それくらいは分かるさ」
「なるほどな……アリスに……嫌いだと言われた」
ボソリと呟いたリュートの言葉に、ジュスタンは驚いた。
「あのアリスがっ?三度の食事よりも、ケーキよりもお前が好きな、あのアリスがそう言ったのかっ?」
「……ミリアから情報を引き出す時を見られた……結界を張っていたのにだ」
「相変わらず無自覚に凄いなアリスは。状況説明は……出来ないよな。相手がミリアなら、誓約魔法に抵触する。でもアリスに誤解されたままでいいのか?」
「アリスはともかく、それが本来の目的の一つでもある。奴らにも学園の者にも、ミリアに注目が行く方が都合がいいからな」
「アリスがフリーになるんじゃないかと密かに期待されてるぞ?争奪戦が起きるやもと」
「全員潰す」
「怖……」
ジュスタンのその呟きにリュートは全く意に介す様子もなく、また書類に目を落として作業を始めた。
それを見ながら、ジュスタンはある事を考えていた。
◇◇◇◇◇
今日の放課後も、アリスはアラベラと二人で“スィーツをとことん堪能する会”の活動に勤しんでいた。
今日は学園近くにあるベーカリーカフェで、
焼きたてラズベリーパイに舌鼓を打っている。
バター香るサクサクのパイ生地の中に熱々トロっトロのラズベリーフィリングがたっぷり閉じ込められていて、
それをバニラアイスクリームと一緒に食べるのだ。
熱々のパイとアイスクリームの冷たさが相まって、これがまた堪らない。
「ん~~!美味しーー♡」
「これはヤバいわね。アリスじゃないけど幾らでも食べられそう♪」
「本当ね!リュートにも食べさせてあげたいな~」
「あら?婚約者の事は嫌いになったんでしょ?それでもこの最高のパイを一緒に食べたいの?」
アラベラに指摘され、アリスはハッとして慌てて否定した。
「ち、違うわ!この下手したら火傷しそうなラズベリーフィリングでアチチッとなったリュートを見たいだけよっ!」
「アリスにリュート様を嫌うなんて無理だと思うけどなー。もうやめとけばいいのに」
「無理じゃないわ!もう嫌いになったんだもの!今も絶賛大嫌い中なんだから!」
「はいはい」
何を言っても余計にムキになるアリスを見て、ため息を吐きながらアラベラは紅茶を口に含んだ。
その時、アリスとアラベラが座るテーブル席に近付く影があった。
アラベラがその影にいち早く気付く。
「えっ……?お、王太子殿下っ!?」
アラベラは王太子ジュスタンの姿を認め、そして慌てて立ち上がり、礼を執る。
アリスも立ち上がり、軽く膝を折って略式の礼を執りつつジュスタンに尋ねた。
「王太子殿下におかれましては、以下略……何故こちらに?」
アリスもリュートと同じ、彼と幼い頃からの付き合いである。
ジュスタンは爽やかな笑顔をアリスとアラベラに向けた。
「やぁ、ご令嬢方。楽しそうに歓談している時にお邪魔して申し訳ないね。……アリス、久しぶりだね。挨拶を端折るのも相変わらずだ」
「非公式な場ですもの。殿下もラズベリーパイを召し上がりに来たのですか?」
「いや、僕はアリスにちょっと用があってね」
「わたしに?」
きょとんとするアリスにジュスタンは微笑んだ。
「それはそうとアリス。そろそろ帰らないとまた門限に遅れるよ?」
ジュスタンに言われ、
アリスは顎を突き出して毅然として答える。
「いいんですっ。わたしはもうリュートが決めた門限は守らないと決めたんですから」
「でもそうなるとまた、ドアに仕込まれた使い魔がリュートの元に飛んで行かないといけなくなるよ?体の小さな使い魔なのに可哀想だなー」
ジュスタンの言葉を聞き、アリスは驚いた。
「えっ!?そうなの?体の小さな使い魔なのね…それは……大変な思いをさせちゃうわね……」
「そうだよ。だからその使い魔の為にもう帰ってあげて?」
「それなら仕方ないわ。アラベラ、悪いんだけどもう帰りましょう」
アリスがそう言うと、アラベラも頷いて立ち上がった。
「それがいいわね。帰りましょう」
アラベラがアリスを連れ立って歩こうとすると、ジュスタンがアラベラに告げた。
「アリスはボクが連れ帰るよ。大切な従兄弟の婚約者だからね、責任を持って邸に送り届けるから」
「……では私はこれにて御前を失礼致しますわ。アリス、また明日ね」
「ええ、アラベラ。ごきげんよう」
アラベラが自分の馬車の方へと向かう姿を見送る。
アリスにジュスタンが言った。
「さ、じゃあ行こうかアリス」
エスコートをし始めたジュスタンにアリスは訊ねた。
「わざわざわたしを連れ帰る為に来たの?」
「いや。リュートが話せない事を僕が代わりに話に来たのさ」
アリスはリュートと同じく長身のジュスタンを見上げる。
「リュートが話せない事?」
「そう。誓約魔法は交わさせた方は話せるからね」
「……やっぱりリュートに誓約魔法を結ばせたのはジュスタン様だったのね」
「まぁ正確に言うと僕とリュートと使い魔の間でかな」
「え?使い魔も?」
「使い魔の召喚内容による魔導契約さ。その他政治的な事は王太子としての僕とね」
「魔導誓約……」
「この続きは馬車の中で。さぁ、行こうアリス」
「う、うん……」
そうやってアリスは王家の馬車に乗せられて帰路に就いたのであった。
その馬車の中でとある事を聞きながら……。
78
お気に入りに追加
2,532
あなたにおすすめの小説
【完結】騎士団長の旦那様は小さくて年下な私がお好みではないようです
大森 樹
恋愛
貧乏令嬢のヴィヴィアンヌと公爵家の嫡男で騎士団長のランドルフは、お互いの親の思惑によって結婚が決まった。
「俺は子どもみたいな女は好きではない」
ヴィヴィアンヌは十八歳で、ランドルフは三十歳。
ヴィヴィアンヌは背が低く、ランドルフは背が高い。
ヴィヴィアンヌは貧乏で、ランドルフは金持ち。
何もかもが違う二人。彼の好みの女性とは真逆のヴィヴィアンヌだったが、お金の恩があるためなんとか彼の妻になろうと奮闘する。そんな中ランドルフはぶっきらぼうで冷たいが、とろこどころに優しさを見せてきて……!?
貧乏令嬢×不器用な騎士の年の差ラブストーリーです。必ずハッピーエンドにします。
【完結】あなただけが特別ではない
仲村 嘉高
恋愛
お飾りの王妃が自室の窓から飛び降りた。
目覚めたら、死を選んだ原因の王子と初めて会ったお茶会の日だった。
王子との婚約を回避しようと頑張るが、なぜか周りの様子が前回と違い……?
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話
ラララキヲ
恋愛
長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。
しかし寝室に居た妻は……
希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──
一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……──
<【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました>
◇テンプレ浮気クソ男女。
◇軽い触れ合い表現があるのでR15に
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい…
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)
【完結】淑女の顔も二度目まで
凛蓮月
恋愛
カリバー公爵夫人リリミアが、執務室のバルコニーから身投げした。
彼女の夫マクルドは公爵邸の離れに愛人メイを囲い、彼には婚前からの子どもであるエクスもいた。
リリミアの友人は彼女を責め、夫の親は婚前子を庇った。
娘のマキナも異母兄を慕い、リリミアは孤立し、ーーとある事件から耐え切れなくなったリリミアは身投げした。
マクルドはリリミアを愛していた。
だから、友人の手を借りて時を戻す事にした。
再びリリミアと幸せになるために。
【ホットランキング上位ありがとうございます(゚Д゚;≡;゚Д゚)
恐縮しておりますm(_ _)m】
※最終的なタグを追加しました。
※作品傾向はダーク、シリアスです。
※読者様それぞれの受け取り方により変わるので「ざまぁ」タグは付けていません。
※作者比で一回目の人生は胸糞展開、矛盾行動してます。自分で書きながら鼻息荒くしてます。すみません。皆様は落ち着いてお読み下さい。
※甘い恋愛成分は薄めです。
※時戻りをしても、そんなにほいほいと上手く行くかな? というお話です。
※作者の脳内異世界のお話です。
※他サイト様でも公開しています。
「……あなた誰?」自殺を図った妻が目覚めた時、彼女は夫である僕を見てそう言った
Kouei
恋愛
大量の睡眠薬を飲んで自殺を図った妻。
侍女の発見が早かったため一命を取り留めたが、
4日間意識不明の状態が続いた。
5日目に意識を取り戻し、安心したのもつかの間。
「……あなた誰?」
目覚めた妻は僕と過ごした三年間の記憶を全て忘れていた。
僕との事だけを……
※この作品は、他投稿サイトにも公開しています。
【完結】記憶を失くした貴方には、わたし達家族は要らないようです
たろ
恋愛
騎士であった夫が突然川に落ちて死んだと聞かされたラフェ。
お腹には赤ちゃんがいることが分かったばかりなのに。
これからどうやって暮らしていけばいいのか……
子供と二人で何とか頑張って暮らし始めたのに……
そして………
貴方でなくても良いのです。
豆狸
恋愛
彼が初めて淹れてくれたお茶を口に含むと、舌を刺すような刺激がありました。古い茶葉でもお使いになったのでしょうか。青い瞳に私を映すアントニオ様を傷つけないように、このことは秘密にしておきましょう。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる