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長い夢から覚めて

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マリー・ルゥはゆっくりと瞼を開けた。

不思議と身が軽く感じ、ベッドから出る。

一体今は何時なのだろう。
ベッドサイドに置いてある目覚まし時計(修理済み)を見ようとして、

「えっ……」

ベッドに横たわる自分に気付き、マリー・ルゥは驚いた。
今、自分は確かにベッドから出て立っている。
なのにベッドには未だ眠る自分がいるのだ。

「えっと……これは、どういうことかしら?」

まだ夢を見ているのだろうか。
それなら随分長い夢だ。
夢の中では一瞬で外へ出て、そしてアルキオが迎えに来た。
その後、彼と話している途中で意識がブラックアウトしたのだ。
夢の中なのに。
それから不思議な言語が聞こえてきて、でも何故かその言葉の意味が理解できて。
そして次に目が覚めてみればマリー・ルゥとマリー・ルゥがいる。
もう何が何だかわからない。

確かめてみると、ベッドの中の自分は規則的な安定した呼吸をしている。
つまり眠っているということで、死んでしまったわけではないらしい。

「……まだ夢を見ているのね」

一瞬で外に出たことといい、なんと面白体験ばかりする夢なのだろう。
今度は夢の中で幽体離脱の疑似体験だ。

あらためて時計を見直すと時刻は五時過ぎ。

「午前かしら?午後かしら?」

どちらの五時なのだろうと首を傾げながら窓の方に視線を向けると、分厚い遮光カーテンの隙間から薄らと光が漏れているのに気付いた。

(これは……もしかしたら朝の五時?ひょっとして久しぶりにお日様が見られるチャンスだということ?)

マリー・ルゥは期待に胸を膨らませて、ゆっくりと窓の方へと歩いて行く。

とくん、とくん。

逸る思いで鼓動も早くなる。

そうしてカーテンに手をかけ、開けようとしたその時……

「奥様、いけません」


「ハッ……!!」

エイダの制止する声が聞こえたと思った次の瞬間、マリー・ルゥはベッドの上で目を覚ました。

さっきとは比べものにならないくらいに心臓がドキドキしている。

「ま、まだ夢の中?それとも今度こそ本当に目が覚めたの……?」

身を起こしベッドの上ので座っていると側からエイダの声が聞こえた。

「本当にお目覚めになったのですよ、奥様」

「わぁびっくりした……!」

夢の中同様、突然声をかけられてマリー・ルゥの肩がビクリと跳ね上がる。
エイダは淡々とした口調で言った。

「よくお眠りになられましたね」

「い、今は一体何時なの?」

「午後六時過ぎにございます」

それを聞きマリー・ルゥは窓の方を見る。
遮光カーテンの隙間からは光ではなく星空が覗いていた。

「……やっぱり今日もそんな時間……もう日の入りの後よね……」

「左様でございますね」

「なんだか長い夢を見過ぎて疲れちゃったわ」

「今夜はゆっくりなさいませ。すぐにお食事をお召し上がりになられますか?」

マリー・ルゥは今度こそ本当にベッドから出ながら、エイダに答えた。

「ええお願い。もうお腹ぺこぺこだわ」




「……エイダ、今日のお肉は少し焼き過ぎではないかしら?」

夕食なのか朝食なのか、なんと呼べばよいのかわからない食事。
今夜のメインはアズマビーフのステーキだ。
そしてマリー・ルゥはそのステーキ肉をひと口食べて、エイダにそう言ったのであった。

エイダはマリー・ルゥがすでに食べ終えた前菜の食器を下げながら言う。

「奥様がお好きなミディアムレアに焼き上げたと料理長から聞いておりますので、それはないかと」

「そうなの?もう少しレアな焼き加減が良かったわ。変ね?急に好みが変わったみたい。それになんだかガーリックバターの香りが嫌だわ」

「アラ?奥様はですか」

ってなぁに?そちらってどちら?」

エイダの発した言葉の意味がわからずマリー・ルゥがそう尋ねるも、「あ、そうそうお伝えし忘れるところでした」と言い置いてから告げた、彼女の話の内容であやふやになってしまう。

「奥様。先ほど旦那様から連絡がございまして、ようやく外出の許可が下りましたよ。旦那様と共にパーティーへ出席するようにとの事でございます」

「え?外出していいの?パーティーに?」

「はい。奥様の体調が安定してきているようだし、夜であれば問題ないだろうと旦那様が」

「私を帯同してくださるということ?」

マリー・ルゥが確認するように問うと、エイダば頷いた。

「夜会のような大きなものではなく、旦那様が親しくされている中産階級のご友人の婚約披露パーティーです。なので奥様のリハビリに丁度良いと旦那様がおっしゃいまして」

「……パートナーは、私でいいのかしら?」

「旦那様が奥様にと申されているのですよ?良いに決まっているではないですか」

「そう……そうね、わかったわ。何にせよ久しぶりの外出だもの!楽しみだわ……!それでパーティーはいつなの?」

「来週でございます」

「随分急なのね」

(違う。急なのは帯同を許された私の方ね。パーティーは数ヶ月も前から開催が決まっているものだから……。本来であればアルキオ様は私とではなく、モニタと呼んでいたあの黒髪の女性と出席する予定だったはず)
とマリー・ルゥは思った。

絶世の美女と立ち並ぶアルキオを想像した後にちんちくりんの自分を連れ歩くアルキオを想像して、マリー・ルゥは身震いした。

「比較対象が月とミジンコだなんてあんまりだわ」

思わずつぶやいた言葉にエイダが訝しげな顔をする。

「何かおっしゃいましたか?」

「いいえ?それよりドレスはどうしようかしら?」

「それならご心配には及びません。旦那様が最高級のオートクチュールのドレスを贈ってくださるそうです」

「オートクチュールのドレスがそんなにすぐに仕立てられるものなの?無理よね?」

「オルタンシア伯爵家に無理、難題、不可能という文字はございません。旦那様が奥様に贈ると申されたのですから、期日内に最高級の物が届くでしょう」

そんなエイダの予言は見事に的中した。

ドレスの話をしたその数日後に、総額おいくら?と聞きたくなるような聞くのが恐ろしいような、それはそれは見事なドレスが届いたのであった。


そして……


「マリー、美しいよ。まるで月夜に咲く可憐な花のようだ」

「あ、ありがとう……(かぁぁ/////)アルキオ様もす、素敵よ……!」

パーティー当日。
別邸まで迎えに来たアルキオが開口一番の賛辞に頬を染めあげるマリー・ルゥであった。



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