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15歳
悩み
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熱が出るほど悩み続けている。私の思考はおとぎ話のような世界で起こった出来事を回想していた。ぐるぐる廻り続ける頭の中のディスクの回転は止まることを知らず、この熱がこもった頭からUFOのように一瞬で飛んで消え去ってしまいそうだ。
あのキスは……?
どうして謝ったの……?
私は彼にとって何……?
この堂々巡りは永遠よりも永く続いた。寝ても覚めてもあの数秒間の出来事に支配され、桜の気配に怯えては気が狂いそうで仕方ない。
今日、桜が出掛けたのは彼に会うに違いない。服装や髪のセットにかける時間がいつもより長い。桜が家を出ると私は二階からその後ろ姿を見下ろした。スカートを履いている。その生脚は何のために出している? 私の鍛えられた日に焼けたそれとは違う、その白くて華奢な太腿を彼に見せつけるためだろうか。
走っても走っても巡る思考の渦、疲れることも忘れロボットのようにトラックを周り続けた。自習練を終え、とぼとぼ歩いていると肩を強く小突かれた。
「おつかれー! 今日は珍しく練習に身が入ってなかったねー!」
「あ、由美」
由美は私の親友だ。陸上部に入ってから切磋琢磨してきたライバルでもある。走り幅跳びが彼女の種目で、びゅーんと走って、ばーんと跳ぶ。彼女を表現するにはぴったりだ。元気はつらつで曲がったことが大嫌い。髪を後ろ一本に束ね。健康的に焼けた肌はお好み焼き屋に貼ってあったビールジョッキ片手に白い歯を見せて笑うグラビアポスターの女性を思わせる。
「何よ? 悩み事?」
「悩んでるように見える?」
「あたしにはそうにしかみえないけど」
「由美には敵わないね」
「男でもできた?」
「え! 違う違う! そんなんじゃない」
「図星かい!」
「だから違うってば!」
「そうやって慌ててムキになったら、そうだ、って言ってるようなもんでしょ。舞は嘘つくの下手なんだよ」
私は観念して、事の経緯を話した。無論、由美は親友であるし、誰よりも信頼していて、口が硬いのも知っている。
「はあああああっ! あの柏倉とキスウウウウ⁈」
「由美! 声が大きいってば!」
「だって桜さんの彼氏じゃないの?」
「だから悩んでるんじゃない」
「あのイケメン王子は同じ顔の双子両方に手ェ出してるの?」
「ねえ、私どうしたらいいの?」
「何言ってんの! やめときなさいよ! もう会っちゃダメ!」
私は俯いて目を閉じた。
「……あ、ダメだ。惚れてんな」
そう言って由美は私をの肩を抱き寄せた。仕方ないよね、と囁いた由美の胸を借りて少しの間、私は泣いた。
由美にアドバイスをもらい、この関係をはっきりさせることに決めた私は、後日、彼に問いただした。単刀直入に。
「私と桜、どっちが好きなの?」
この質問に彼は押し黙ってしまった。長く続いた沈黙は太陽を沈め辺りを暗くした。
「……君が好きだ」
どうすればいい……喜んでいいのか……何故か素直に喜べない……。
桜が咲いている。こんなにも綺麗に満開に咲き誇っているのに、今の今までどうでもよかったというか。目に入っていなかった。桜の花弁がはらりと宙を舞い私の足下に落ちた。
私は唾を飲み込んだ。
「……じゃあ桜と別れて……」
強い風が吹いて桜の花弁が散った。
「それはできないんだ」
「どうして?」
「それは今は言えないんだ」
「どうして? そんなの納得できないよ!」
彼は俯いて街灯が照らす桜の雨を浴びていた。
「もういい! あなたとはもう二度と会わない!」
私はベンチから立ち上がり踵を返した。すかさず彼の腕が私の背後から絡みつく。
「待って、行かないで」
彼は私を正面に向け、目を見て言った。
「必ず桜とは別れる。だけど今は無理なんだ」
「どうして?」
「今度、僕の家に来てくれないか? その理由を見せる」
「何を見せるの? 口で言ってよ」
「それができないから、僕の家に来てほしいんだ……」
「いずれ別れてくれるのね? 約束してよ」
ピンキーリングを嵌めた私の小指を、彼の小指が絡め取り、そのまま二度目のキスをした。
あのキスは……?
どうして謝ったの……?
私は彼にとって何……?
この堂々巡りは永遠よりも永く続いた。寝ても覚めてもあの数秒間の出来事に支配され、桜の気配に怯えては気が狂いそうで仕方ない。
今日、桜が出掛けたのは彼に会うに違いない。服装や髪のセットにかける時間がいつもより長い。桜が家を出ると私は二階からその後ろ姿を見下ろした。スカートを履いている。その生脚は何のために出している? 私の鍛えられた日に焼けたそれとは違う、その白くて華奢な太腿を彼に見せつけるためだろうか。
走っても走っても巡る思考の渦、疲れることも忘れロボットのようにトラックを周り続けた。自習練を終え、とぼとぼ歩いていると肩を強く小突かれた。
「おつかれー! 今日は珍しく練習に身が入ってなかったねー!」
「あ、由美」
由美は私の親友だ。陸上部に入ってから切磋琢磨してきたライバルでもある。走り幅跳びが彼女の種目で、びゅーんと走って、ばーんと跳ぶ。彼女を表現するにはぴったりだ。元気はつらつで曲がったことが大嫌い。髪を後ろ一本に束ね。健康的に焼けた肌はお好み焼き屋に貼ってあったビールジョッキ片手に白い歯を見せて笑うグラビアポスターの女性を思わせる。
「何よ? 悩み事?」
「悩んでるように見える?」
「あたしにはそうにしかみえないけど」
「由美には敵わないね」
「男でもできた?」
「え! 違う違う! そんなんじゃない」
「図星かい!」
「だから違うってば!」
「そうやって慌ててムキになったら、そうだ、って言ってるようなもんでしょ。舞は嘘つくの下手なんだよ」
私は観念して、事の経緯を話した。無論、由美は親友であるし、誰よりも信頼していて、口が硬いのも知っている。
「はあああああっ! あの柏倉とキスウウウウ⁈」
「由美! 声が大きいってば!」
「だって桜さんの彼氏じゃないの?」
「だから悩んでるんじゃない」
「あのイケメン王子は同じ顔の双子両方に手ェ出してるの?」
「ねえ、私どうしたらいいの?」
「何言ってんの! やめときなさいよ! もう会っちゃダメ!」
私は俯いて目を閉じた。
「……あ、ダメだ。惚れてんな」
そう言って由美は私をの肩を抱き寄せた。仕方ないよね、と囁いた由美の胸を借りて少しの間、私は泣いた。
由美にアドバイスをもらい、この関係をはっきりさせることに決めた私は、後日、彼に問いただした。単刀直入に。
「私と桜、どっちが好きなの?」
この質問に彼は押し黙ってしまった。長く続いた沈黙は太陽を沈め辺りを暗くした。
「……君が好きだ」
どうすればいい……喜んでいいのか……何故か素直に喜べない……。
桜が咲いている。こんなにも綺麗に満開に咲き誇っているのに、今の今までどうでもよかったというか。目に入っていなかった。桜の花弁がはらりと宙を舞い私の足下に落ちた。
私は唾を飲み込んだ。
「……じゃあ桜と別れて……」
強い風が吹いて桜の花弁が散った。
「それはできないんだ」
「どうして?」
「それは今は言えないんだ」
「どうして? そんなの納得できないよ!」
彼は俯いて街灯が照らす桜の雨を浴びていた。
「もういい! あなたとはもう二度と会わない!」
私はベンチから立ち上がり踵を返した。すかさず彼の腕が私の背後から絡みつく。
「待って、行かないで」
彼は私を正面に向け、目を見て言った。
「必ず桜とは別れる。だけど今は無理なんだ」
「どうして?」
「今度、僕の家に来てくれないか? その理由を見せる」
「何を見せるの? 口で言ってよ」
「それができないから、僕の家に来てほしいんだ……」
「いずれ別れてくれるのね? 約束してよ」
ピンキーリングを嵌めた私の小指を、彼の小指が絡め取り、そのまま二度目のキスをした。
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