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15歳

春風 

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『この前のお礼にご馳走するよ。何が食べたい?』

『ピンキーリング貰ったから、いいです。ありがとうございました』

『僕の気が済まないよ。お礼をさせてほしい』

『結構です』

『桜に言っちゃうよ 笑』

『それだけはダメ!』

『じゃあ決定だね。お洒落なカフェに行こうよ。パンケーキ食べよ』

 こんな具合にメッセージをやり取りして、私は半強制的に柏倉と会うようになった。柏倉からの誘いを断れない関係性が出来上がってしまった。そして彼からの誘いを待つようになり、それを喜びとして感じていることを否めなかった。

 中等部から高等部に上がるだけの私たちにとって春休みは長いものだった。もう何回会っているのだろう。出かける時は陸上部の自主練として制服を着て家を出て、公衆トイレで私服に着替えているので、桜には気付かれていないと思う。

 どんどん彼に惹かれていく。中等部ではサッカー部のキャプテンであり生徒会副会長、文武両道で非の打ち所がない桜の彼氏。少し前まではそれ以上でもそれ以下でもなかった。ただ今の彼の印象はまるで違う。

「舞ちゃんと居ると本当の自分でいられる気がする」

 彼が言った言葉を私は聞き流した振りをしたが、心底嬉しくて胸が震えた。だって桜より私と居る方が居心地良いということでしょ? 本当にそうであって欲しい。私は切実にそう願う。

 そよ風が風下に居る私を彼の香りが包む。春の匂いがする。

「あれに乗ろう!」

 彼が指差したのはボートだ。公園のベンチでサンドイッチを食べた後、アスレチックで遊んだ後だった。彼は足漕ぎの方ではなく手漕ぎボートを選んだ。ぎごちなくボートを漕ぐ彼にさらに親近感が湧く。一生懸命漕いで池の中央まで漕いできた。ボートの発着場からかなり離れているので、まるで貸切状態だ。

 鳥がさえずるこの世界に二人だけでゆらゆらと浮かび、まるでここは異世界にある深い森のエメラルドグリーンの湖面のよう。眩しい。とても眩しい。水面にキラキラ乱反射する陽光は彼を余計に輝かせる。

 不安定な小舟の上で不用意に動くことは許されない。そんななか春一番のような突風が吹いた。いや……風ではなかった。ボートが激しく揺れたのは彼が身を乗り出したせいだ。そして私の心を激しく動揺させた。

 春の香りは私の鼻腔を通り抜け脳を介さず胸の真ん中に充満した。

「ごめん」

 そっと私から離れた彼は私にキスをしたことを謝った。
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