14 / 83
15歳
ざわめき
しおりを挟む
いったい何をしてるのだろうか。今朝は何度鏡を見たかわからない。100円均一の化粧品をこっそり買い、ナチュラルメイクをネットで検索して施してみた。出来るだけお洒落をして、息を殺し、足音を忍ばせ家を出ると走って駅へ向かった。心拍数がいつもより高い気がする。電車に乗っていても心臓が早く動いている気がする。
本当にいいのだろうか。本当に大丈夫だろうか。柏倉に会うことは桜のためだ。これを正当化する理由になるのだろうか。
でも断り続けたとしても柏倉の土下座攻撃を何度も断り続けることは、きっと不可能だったはずだ。ほんの少しの正当性が少しだけ私を落ち着かせるが、スマホ画面に自分の顔を映し、前髪を何度も弄っている私は馬鹿なのか。少しでも風が吹けば崩れてしまう前髪をいくら整えても意味がないのに。
だいぶ早く待ち合わせ場所に着いてしまった。昨日のメッセージのやり取りを見直すと緊張感が高まった。絵文字を使うか迷ったが結局使わなかった。使わなくてよかった。私がメッセージをやり取りしていたのは、桜の彼氏。浮かれるな。何故浮かれなければならない。私は今日、桜似のマネキンだ。喧騒の中、眼を閉じ深呼吸をした。すると急に誰かに肩を叩かれる。
「おはよー!」
私の頬に指が突き刺さっている。無邪気に柏倉は笑った。私の唇が尖ってしまっている。
「ちょっと、やめてよ!」
私は頬を抑えて柏倉の手を振り払った。
「なんか私服だと、すごく感じ変わるね。めちゃくちゃイイよ!」
「え! ……ああ」
「顔を真っ赤だよ、大丈夫?」
私の顔を覗き込む柏倉。
「そんなに見ないでよ!」
そっぽ向く私をよそに彼は意気揚々と歩き出す。
「何やってんの? 早く行くよ!」
「え……あ、はい」
私は彼の後を一定の距離を保ちながら付いて行く。しばらくするとブランドアクセサリーショップへ何の迷いもなく入店する柏倉。
15歳が入っていい店なの? 私はあたふたしながら付いていった。
「誕生日プレゼントなんですが、彼女に似合う物を見繕ってください」
「美男美女のお似合いなカップルですね。彼女様、お誕生日おめでとうございます」
私は慌ててカップルではないと言おうとするが、彼は私に目配せをして遮るように言った。
「ありがとうございます。ペンダントとリングを見せてもらえますか?」
カップルのフリをしろということか。指輪を試着する時、柏倉は何の躊躇も私の手に触れる。私……何の心の準備もできてないのに、簡単に触られた……。とても睫毛が長くて鼻筋が通り整った顔だ。いい香りする。
「ねえ! ねえ! 聞いてる?」
「……ああ、ごめん、いい、いいと思うよ」
見惚れてしまっていた。
ネックレスをする時、彼の指が私のうなじに触れると、身体は硬直し一気に熱を帯びた。付け替える度にその指は私の首を撫でた。ヤバい、汗が出そうだ。
「大丈夫? 具合悪いなら椅子に座って休んでるといいよ、あとは僕が選んでおくからさ」
どうしたんだ、私……。おかしい。騒つく、胸の中が……。帰ろう。私は駅へ向かった。
「おーい! 舞さああああん! 待ってええええ!」
振り返ると柏倉が息を切らして走ってきた。
「ごめんなさい。体調悪くて早くお店から出たかったの。あとで連絡しようと思ってたんだけど」
「そうだったの。……そんな時に連れ回してごめんね」
申し訳なさそうにする彼の表情は、さらに私の胸をかき乱した。
「あのさ、これ」
彼はそう言ってグリーンのようなブルーの小さな紙袋を私に差し出した。
「え! いやよ! 桜には自分で渡してよ。それに誕生日、来週だし」
「違うよ、舞さんにだよ」
「え? 私に? いらないいらない、貰えるわけないじゃん!」
そう言うと彼は慌てて紙袋から小さな箱状の物を取り出し包装紙を破いた。そして私の手を取り小指にリングを通した。
「少し早いけど、誕生日おめでとう」
「え? 私に……?」
彼はにニコリと笑った。
「秘密のピンキーリング」
小指とリングに彩られた小指が絡む。
「ゆびきりげんまん……ってね」
絡まったままの小指を引っ張られる。
「さあ、帰ろう! 心配だから送って行くね」
もうダメだ。
これが私の少し遅めの初恋だった。
本当にいいのだろうか。本当に大丈夫だろうか。柏倉に会うことは桜のためだ。これを正当化する理由になるのだろうか。
でも断り続けたとしても柏倉の土下座攻撃を何度も断り続けることは、きっと不可能だったはずだ。ほんの少しの正当性が少しだけ私を落ち着かせるが、スマホ画面に自分の顔を映し、前髪を何度も弄っている私は馬鹿なのか。少しでも風が吹けば崩れてしまう前髪をいくら整えても意味がないのに。
だいぶ早く待ち合わせ場所に着いてしまった。昨日のメッセージのやり取りを見直すと緊張感が高まった。絵文字を使うか迷ったが結局使わなかった。使わなくてよかった。私がメッセージをやり取りしていたのは、桜の彼氏。浮かれるな。何故浮かれなければならない。私は今日、桜似のマネキンだ。喧騒の中、眼を閉じ深呼吸をした。すると急に誰かに肩を叩かれる。
「おはよー!」
私の頬に指が突き刺さっている。無邪気に柏倉は笑った。私の唇が尖ってしまっている。
「ちょっと、やめてよ!」
私は頬を抑えて柏倉の手を振り払った。
「なんか私服だと、すごく感じ変わるね。めちゃくちゃイイよ!」
「え! ……ああ」
「顔を真っ赤だよ、大丈夫?」
私の顔を覗き込む柏倉。
「そんなに見ないでよ!」
そっぽ向く私をよそに彼は意気揚々と歩き出す。
「何やってんの? 早く行くよ!」
「え……あ、はい」
私は彼の後を一定の距離を保ちながら付いて行く。しばらくするとブランドアクセサリーショップへ何の迷いもなく入店する柏倉。
15歳が入っていい店なの? 私はあたふたしながら付いていった。
「誕生日プレゼントなんですが、彼女に似合う物を見繕ってください」
「美男美女のお似合いなカップルですね。彼女様、お誕生日おめでとうございます」
私は慌ててカップルではないと言おうとするが、彼は私に目配せをして遮るように言った。
「ありがとうございます。ペンダントとリングを見せてもらえますか?」
カップルのフリをしろということか。指輪を試着する時、柏倉は何の躊躇も私の手に触れる。私……何の心の準備もできてないのに、簡単に触られた……。とても睫毛が長くて鼻筋が通り整った顔だ。いい香りする。
「ねえ! ねえ! 聞いてる?」
「……ああ、ごめん、いい、いいと思うよ」
見惚れてしまっていた。
ネックレスをする時、彼の指が私のうなじに触れると、身体は硬直し一気に熱を帯びた。付け替える度にその指は私の首を撫でた。ヤバい、汗が出そうだ。
「大丈夫? 具合悪いなら椅子に座って休んでるといいよ、あとは僕が選んでおくからさ」
どうしたんだ、私……。おかしい。騒つく、胸の中が……。帰ろう。私は駅へ向かった。
「おーい! 舞さああああん! 待ってええええ!」
振り返ると柏倉が息を切らして走ってきた。
「ごめんなさい。体調悪くて早くお店から出たかったの。あとで連絡しようと思ってたんだけど」
「そうだったの。……そんな時に連れ回してごめんね」
申し訳なさそうにする彼の表情は、さらに私の胸をかき乱した。
「あのさ、これ」
彼はそう言ってグリーンのようなブルーの小さな紙袋を私に差し出した。
「え! いやよ! 桜には自分で渡してよ。それに誕生日、来週だし」
「違うよ、舞さんにだよ」
「え? 私に? いらないいらない、貰えるわけないじゃん!」
そう言うと彼は慌てて紙袋から小さな箱状の物を取り出し包装紙を破いた。そして私の手を取り小指にリングを通した。
「少し早いけど、誕生日おめでとう」
「え? 私に……?」
彼はにニコリと笑った。
「秘密のピンキーリング」
小指とリングに彩られた小指が絡む。
「ゆびきりげんまん……ってね」
絡まったままの小指を引っ張られる。
「さあ、帰ろう! 心配だから送って行くね」
もうダメだ。
これが私の少し遅めの初恋だった。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜
なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」
静寂をかき消す、衛兵の報告。
瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。
コリウス王国の国王––レオン・コリウス。
彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。
「構わん」……と。
周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。
これは……彼が望んだ結末であるからだ。
しかし彼は知らない。
この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。
王妃セレリナ。
彼女に消えて欲しかったのは……
いったい誰か?
◇◇◇
序盤はシリアスです。
楽しんでいただけるとうれしいです。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
【R18】エリートビジネスマンの裏の顔
白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます───。
私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。
同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが……
この生活に果たして救いはあるのか。
※サムネにAI生成画像を使用しています
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
【完結】捨てられ正妃は思い出す。
なか
恋愛
「お前に食指が動くことはない、後はしみったれた余生でも過ごしてくれ」
そんな言葉を最後に婚約者のランドルフ・ファルムンド王子はデイジー・ルドウィンを捨ててしまう。
人生の全てをかけて愛してくれていた彼女をあっさりと。
正妃教育のため幼き頃より人生を捧げて生きていた彼女に味方はおらず、学園ではいじめられ、再び愛した男性にも「遊びだった」と同じように捨てられてしまう。
人生に楽しみも、生きる気力も失った彼女は自分の意志で…自死を選んだ。
再び意識を取り戻すと見知った光景と聞き覚えのある言葉の数々。
デイジーは確信をした、これは二度目の人生なのだと。
確信したと同時に再びあの酷い日々を過ごす事になる事に絶望した、そんなデイジーを変えたのは他でもなく、前世での彼女自身の願いであった。
––次の人生は後悔もない、幸福な日々を––
他でもない、自分自身の願いを叶えるために彼女は二度目の人生を立ち上がる。
前のような弱気な生き方を捨てて、怒りに滾って奮い立つ彼女はこのくそったれな人生を生きていく事を決めた。
彼女に起きた心境の変化、それによって起こる小さな波紋はやがて波となり…この王国でさえ変える大きな波となる。
風俗店全面禁止って……馬鹿なんですか!? そんなことをしたら国が滅びますよ!
ノ木瀬 優
恋愛
風俗嬢のナナは突然、店長から「店を閉める」と宣言されてしまう。その原因とは? そして、その原因となった聖女様の本心とは?
完全に思い付きで書いた作品です。頭を空っぽにして読んで頂けると嬉しいです。
全3話(1万5千字程度)です。本日中に完結予定ですので安心してお楽しみ下さい!
極上の一夜で懐妊したらエリートパイロットの溺愛新婚生活がはじまりました
白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
恋愛
早瀬 果歩はごく普通のOL。
あるとき、元カレに酷く振られて、1人でハワイへ傷心旅行をすることに。
そこで逢見 翔というパイロットと知り合った。
翔は果歩に素敵な時間をくれて、やがて2人は一夜を過ごす。
しかし翌朝、翔は果歩の前から消えてしまって……。
**********
●早瀬 果歩(はやせ かほ)
25歳、OL
元カレに酷く振られた傷心旅行先のハワイで、翔と運命的に出会う。
●逢見 翔(おうみ しょう)
28歳、パイロット
世界を飛び回るエリートパイロット。
ハワイへのフライト後、果歩と出会い、一夜を過ごすがその後、消えてしまう。
翌朝いなくなってしまったことには、なにか理由があるようで……?
●航(わたる)
1歳半
果歩と翔の息子。飛行機が好き。
※表記年齢は初登場です
**********
webコンテンツ大賞【恋愛小説大賞】にエントリー中です!
完結しました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる